VRFに聞いてみた!- IFRS財団に統合するVRFのこれからを知るための10の質問 -

IFRS財団と統合する意味、今あるSASB基準や統合報告<IR>フレームワークはどうなるのかなど、VRF(旧SASB)のディレクターであるKatie Schmitz Eulitt氏にインタビューを行いました。

VRF(旧SASB)のディレクターであるKatie Schmitz Eulitt氏にインタビューを行いました。

2018年に、当時まだ米国向けに活動する団体であるとの誤解があったサステナビリティ会計基準審議会(SASB)についての理解を深めるため、「SASBに聞いてみた!- SASBを知るための10の質問 -」を掲載しました。

その後、SASBは国際統合報告評議会(IIRC) と統合して価値報告財団(VRF)を設立し、さらに今年6月には、IFRS財団に統合され、よりグローバルなサステナビリティ基準設定において、今後、さらなる大きな役割を果たしていくことが期待されています。そこで、IFRS財団と統合する意味、今あるSASB基準や統合報告<IR>フレームワークはどうなるのかなど、新たな10の質問に、VRF(旧SASB)のディレクターであるKatie Schmitz Eulitt氏にお答えいただきました。

IFRS財団に統合するVRFのこれからを知るための10の質問

Q1 2018年のインタビューから4年経ちましたが、現在、SASB基準、そして統合報告<IR>フレームワークは世界でどのくらい使用されていますか。

SASB基準は、現在、世界の1,800を超える企業が採用しており、うち半数以上が米国以外の企業です。統合報告<IR>フレームワークについては、正確な数は把握していませんが、採用する企業は世界的に増加していると理解しており、現在、その数の把握を試みています。

Q2 VRFがIFRS財団との統合に至った背景を教えてください。

IFRS財団は、ISSB審議会の設立にあたり、既存のイニシアチブを基にしたサステナビリティ報告基準の構築を目指す意向を持っていました。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言やSASBなどの既存のフレームワークや基準を活用した投資家の意思決定に役立つサステナビリティ情報の包括的なグローバルベースラインを求める声が、投資家からも高まっていました。VRFが持つ専門性、コンテンツ、人員などのリソースをIFRS財団と統合させることで、投資家の情報ニーズを満たす高品質なサステナビリティ関連報告の基となる、包括的なグローバルベースラインの策定が可能になると考え、統合に至りました。個々に独立した団体がさまざまな基準を個別に策定するよりも、包括的で質の高いグローバルな基準を開発することが、社会的なコスト便益の獲得にもつながると考えています。

Q3 SASB基準や統合報告<IR>フレームワークは、IFRSサステナビリティ基準の構成要素のどこにフィットするのでしょうか。

SASB基準は、ISSB審議会が業界別の開示要求事項を策定する際の出発点となります。また、統合報告<IR>フレームワークは、組織のビジネスモデルや、時間の経過とともに価値がどのように生み出されるかを包括的に理解するために、財務情報とサステナビリティ開示を結び付ける報告の基盤を提供するものとして位置付けられます。つまり、ISSB審議会とIASB審議会の双方の基準をつなぐフレームワークともいえるでしょう。

Q4 IFRS財団との統合後、SASB基準、統合報告<IR>フレームワークや統合的思考に関する原則の開発はストップするのでしょうか。

そのようなことはありません。2022年7月1日に、VRFが持つリソースの所有権はIFRS財団に譲渡され、その後はISSB審議会がSASB基準の進化と強化の責任を引き継ぐことになります。また、IFRS財団は、統合報告<IR>フレームワークの原則と概念を使用して、IFRS会計基準とIFRSサステナビリティ開示基準のコネクティビティを推進することを約束しています。 統合的思考に関する原則も2022年7月1日以降は、IFRS財団が所有および維持していきます。

Q5 基準やフレームワークの策定プロセス(デュープロセス)は、VRFの時と変わりますか。

いいえ。ISSB審議会は、IFRS会計基準を策定するIASB審議会と同様の包括的で厳格かつ透明性のある手続きを採用しています。またSASB基準の開発プロセスは、IASB審議会などの会計基準設定主体のデュープロセスをモデルにしたものであるため、ISSB審議会の基準策定プロセスが、SASBのそれと大きく変わることはありません。 IFRS財団とISSB審議会は、統合報告<IR>カウンシルやSASB基準投資家アドバイザリーグループなど、VRFの既存の諮問機関も活用する予定です。

Q6 現在、VRFで進行中のプロジェクトは、どうなるのでしょうか。

SASBによる進行中のプロジェクトはISSB審議会に移行されます。また、統合報告<IR>フレームワークに関する責任はIASB審議会とISSB審議会の双方が負うことになっています。

Q7 IFRS会計基準を採用していない米国企業にとって、ISSB審議会が策定するIFRSサステナビリティ基準は考慮しなくてよいのでしょうか。

ISSB審議会は、SASB基準投資家アドバイザリーグループを含む、投資家からの強力なサポート基盤を有しています。 SASB基準投資家アドバイザリーグループは、2022年7月にISSB投資家アドバイザリーグループになります。ISSB審議会をサポートする投資家が、米国や他の市場でのISSB基準の利用・促進をサポートしてくれると考えています。

Q8 SASB基準の日本語版が公表されましたが、なぜ日本語訳を作成したのでしょうか。

日本の企業や投資家によるSASB基準への関心の高まりを受け、SASB基準をより利用しやすいものとするために、日本語版を作成しました。SASB基準は、2022年3月にISSB審議会が公表した2つの公開草案1でも頻繁に参照されていますので、ぜひご参考になさってください。

Q9 インダストリー別基準を、どのように発展させていきたいとお考えでしょうか。

現在のSASB基準は、適用する際に参照可能な既存の法令等に基づくガイダンス等を例示していますが、主に米国などの特定の国や地域に関するものが多いなど、必ずしも国際的な視点で適用しやすいものとなっていない可能性があることを認識しています。今後は、SASB基準を国際的な視点で適用しやすいものへと発展させることがISSB審議会の優先事項だと考えています。

Q10 日本企業にいま伝えたいメッセージはありますか。

今まさに、既存のフレームワークと基準を活用した、包括的かつグローバルな企業報告体系が構築されようとしています。投資家に有用なサステナビリティ関連財務報告のグローバルベースラインの確立は、国や地域の独自の報告要件も尊重するビルディングブロック・アプローチに不可欠なものです。またとない機会ですので、ぜひ、ISSB審議会が公表した公開草案に対してコメントをお寄せいただき、基準設定に関与していただくとともに、ISSB基準が最終化されるまでの移行期間においても、躊躇することなくSASB基準を使っていただきたいと考えています。

また、米国SECが提案する気候開示規則に関するパブリックコンサルテーション2に対するコメントの提出も検討をお勧めします。 SECは今回のパブリックコンサルテーションにおいて、「ISSB審議会等のグローバルなサステナビリティ基準設定団体が開発する基準を代替の報告基準として採用すべきか。採用すべき場合、適用は外国企業に限定されるべきか、それともすべての企業に拡大すべきか」等のISSB審議会に関連性のある問いかけを行っています。SECに登録する日本企業やグローバルな投資家にとっては、ISSB基準を使用してSEC規則に準拠できるオプションや比較可能性の観点でベネフィットを享受できると考えています。

執筆者

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
有限責任 あずさ監査法人

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