本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

ESG投資における判断基準

ESG(環境・社会・企業統治)投資はいまや年金基金や保険会社など世界の機関投資家の主流の投資方法になっています。各国・地域の資産運用会社が加盟する世界持続的投資連合(GSIA)によると、2020年の世界のESG投資額は2018年比15%増の35兆3,000億ドル(約4,020兆円、執筆時のレートで換算、以下同)、日本は同期間で32%増の2兆9,000億ドル(約330兆円)となっており、世界的にESG投資の拡大が続いています。
ESGの目下の最大の課題が気候変動・脱炭素であり、機関投資家も大きな関心を寄せています。では、機関投資家は何を基準に脱炭素でのESG投資を判断しているのでしょうか。その1つが、企業がどのくらい温暖化ガス(GHG)を排出しているのか、その量の可視化(情報開示)です。企業にとっては脱炭素化の取組みの一歩と言えます。

温暖化ガスの可視化は「GHGプロトコル」という国際的な基準に沿って3つの区分で算出されています。スコープ1は報告企業による直接の排出、スコープ2は電力や蒸気、温熱、冷熱の使用による間接的な排出、スコープ3はスコープ1と2を除くサプライチェーン(供給網)の上流と下流での間接排出と定義されています。この区分からわかるとおり、自社の排出を可視化すれば済むわけではありません。近年ではより厳格になっており、特にスコープ3にあたる、サプライチェーン全体での可視化を求められるようになってきています。また、収集すべきデータおよび取得先の急拡大に伴い、人手・表計算を脱してデジタルによる可視化ツールへのニーズも高まっています。
次に機関投資家が注目しているのは温暖化ガス削減排出目標の策定です。目標設定の進め方としては競合企業の動向、各事業の削減施策の積上げなどが考えられます。ただ、単なる目標ではなく、パリ協定に沿って5~15年後の削減目標を客観的に定める「SBT(科学的根拠に基づいた目標)」への準拠など、国際標準との整合性も意識する必要があります。

目標達成に向けた具体的な温暖化ガス削減策の立案・実施も必要です。脱炭素の取組みが産業横断で加速するなかで、ESG投資家は企業に対し高い目標設定だけでなく、脱炭素社会への移行もより具体的な実行戦略・計画の策定を求めるようになってきています。
世界の機関投資家は「Climate Action 100+」や「Net-Zero Asset Owner Alliance」など気候変動への対応を企業に求める団体を設立。総額で数百兆円から数千兆円規模の運用資産を背景に企業と対話し、時には株主として権限を行使して脱炭素に向けた直接の圧力をかけています。
投融資を受ける企業は脱炭素社会に向けた具体的な移行戦略と根本的に解決する技術革新への道筋を描き、実行し、発信することこそ、このESG投資の潮流を味方につけることにほかなりません。

【温暖化ガス排出量の可視化3区分(例)】

スコープ1(直接の排出) 企業の車両、施設 など
スコープ2(間接の排出) 電力、蒸気、温熱、冷熱 など
スコープ3(サプライチェーンでの排出) 購入した製品、事業から出る廃棄物、資本財、出張、通勤、輸送・配送、リース資産、販売した製品の加工・使用・廃棄、フランチャイズ店、投資 など

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 三宅 恵満生

日経産業新聞 2021年11月8日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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