脱炭素の潮流と日本企業にとっての脱炭素戦略策定の要諦

今や脱炭素戦略は業界を問わず重要な経営課題であるが、目標達成の難度の高さに頭を抱える企業も少なくない。本稿では、NZRIレポートのポイントを紐解きながら日本企業の置かれた位置づけを再確認するとともに、全社的な脱炭素戦略と、戦略実現のロードマップ作成のステップと、戦略を成功に導くカギについて概説する。

今や脱炭素戦略は業界を問わず重要な経営課題である。本稿では、全社的な脱炭素戦略と、戦略実現のロードマップ作成のステップと、戦略を成功に導くカギについて概説する。

※一般社団法人産業環境管理協会発行 月刊『環境管理』2022年5月号 vol.58 No.5』に掲載された記事を転載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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1.世界的な脱炭素化の潮流

2015年に合意されたパリ協定は、世界レベルで脱炭素化が推進される大きな分岐点となった。直近では2021年10〜11月に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、産業革命前からの気温上昇幅を1.5℃に抑える目標が、「グラスゴー気候合意」に盛り込まれるなど、脱炭素の流れが不可逆であることは論を待たない。各国単位でみても、脱炭素にむけた取り組みが加速している。

2.KPMG NZRIにおける日本の位置づけと課題

KPMGでは、世界初の試みとして、各国のネットゼロにむけた取り組みの評価を行い、上位25カ国および注視すべき7カ国を特定、2021年10月に対外発表を行った。欧州各国が上位を席巻する中、日本は第7位についた。日本国内における再エネポテンシャルは限定的であるが、グローバル市場で競争力を維持しつつ成長を続けるためには低・脱炭素に資する施策をスピード感をもって推進せざるを得ない。

3.脱炭素戦略検討の障壁

脱炭素化にむけた全社戦略の策定にむけての障壁は、細かいものをあげれば枚挙に暇がないものの、大きくカテゴライズすると三つといえよう。

3.1 “Moving Target”を意識したプランニング・戦略実行の必要性

将来の変化を先読みした戦略を策定し、さらに状況変化に応じ臨機応変に脱炭素戦略を修正していくためには、並々ならぬエネルギーが必要。

3.2 短期的なP/L重視による、一時的なコストアップへのアレルギー

コスト感度高い経営の中、短期的なコストアップの全社的な合意が得られないケースは多く、さらに得られる効果が金銭換算しづらい脱炭素化が目的の投資では、デジタルな意思決定が困難。

3.3 経営層の他社横並び意識

脱炭素戦略の検討は、社内の抵抗勢力と粘り強いコミュニケーション、一時的なコストアップについての合意形成が必要な一方、経営層が競合他社の出方を見つつ、政策・技術の不確実性が下がるのを待つケースも存在。

4.実効性ある脱炭素戦略策定にむけて

数ある障壁を乗り越え全社的な脱炭素戦略を策定し、かつ実効性高く推進するため、四つのステップを押さえることで実現可能な戦略を策定・推進できると考える。

ステップ1:“Moving Target”の構成要素の把握

主要各国の政策目標や、将来の自社の炭素排出量削減や新たな事業のタネとなりうる技術及び、脱炭素に対する投資家や消費者の意識の変化や、自社にとっての機会と脅威についての把握。

ステップ2:事業特性に応じた脱炭素優先領域の特定

炭素排出量は、GHGプロトコルに則り三つのスコープで算定、その中での優先順位を検討。この際、先に述べた「脱炭素戦略の意味合い」に関する共通認識の醸成が重要。

ステップ3:シナリオ・ロードマップへの落とし込み

政策や技術関連の変化を「トピック」単位でまとめ、その顕在化の可能性評価を実施。いくつかの「トピック」を組み合わせ、シナリオを構築、各シナリオ下における「目指す姿」と、それにむけたアクションを検討、ロードマップに落とし込み。

ステップ4:「変更ありき」での戦略実行

ロードマップ自体が「変更ありき」で策定されるため、実行フェーズにおいても時々の外部環境と内部環境の変化にあわせ、見直しや変更を行いながらマネジメント。

執筆者

KPMGジャパン エネルギー・インフラストラクチャーセクター
パワー&ユーティリティー セクターリーダー
KPMG FAS 執行役員 パートナー 鵜飼 成典

KPMG FAS
グローバルストラテジーグループ
シニアマネジャー 六田 康裕

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