スマートシティは、多様な都市機能を集約しつつ、高度化していく必要があります。病院はその中核的な機能の一角を占めながら、スマート化や面的なまちづくりと一体的に語られることがあまりありませんでした。
現在、厚生労働省において、地域包括ケアシステムの構築が提唱され、公的病院の統廃合による医療機能の集約化・効率化の議論が進展しています。
本稿では、こうした取組みそのものをスマート化することにより持続可能な地域づくりを実現するための、病院とスマートシティのあり方について、考察します。

目次

1.病院を取り巻く環境と政策動向
2.病院の統合再編を進めていくうえでの課題
3.病院を核としたスマートシティ構築の可能性

1.病院を取り巻く環境と政策動向

病院を取り巻く環境は厳しい状況にあります。具体的には「地域人口の減少を受けて医療需要が長期的に縮小傾向にあること」「財務状況悪化を受けて資金調達機会が減少していること」「老朽化した施設の修繕・建替えを検討する際に建築単価高騰や耐震化要請による整備費上昇が懸念されていること」※1「医師偏在等により医師の確保が困難になりつつあること」※2等です。
こうした状況を踏まえ、国は、厚生労働省通知※3において、地域医療計画の策定にあわせた地域医療機関の再編を推奨しており、病院統合による機能再編・規模適正化を検討するべき公的病院について名指しのリストを作成公表し、現在はコロナ禍で中断しているものの、統合再編の議論が加速化しています。

2.病院の統合再編を進めていくうえでの課題

統合再編により、医療資源の集中・効率化による医療需要と供給体制のリバランス、医師不足の解消、経営の見直しによる財務状況の改善などが期待される一方で、病院が統合再編を進めていくにあたっては、上昇トレンドにある整備費単価を踏まえた「ライフサイクルコスト抑制や収益向上策の検討」が依然、課題として残り続けています。
また、移転元病院の近隣住民に対して十分な理解を得るために、地域全体での健康増進機能の向上や、ひいては地域の魅力度向上を検討していく「地域住民の意向・要望に沿う形での地域包括ケアの視点にたったヘルスケア機能の再編」が強く求められます。
こうした課題に対しては、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じた地域包括ケアシステムを構築する方針の提示と事例の紹介が行われているに留まり、有効なモデルを構築していく必要があります。

3.病院を核としたスマートシティ構築の可能性

病院の統合再編に向けた課題である「ライフサイクルコスト抑制や収益向上策の検討」や「地域住民の意向・要望に沿う形での地域包括ケアの視点にたったヘルスケア機能の再編」を実現していくためには、単なる病院の統合だけでは不十分であり、地域と一体となって面的なまちづくりを行うことにより、エリア全体のコスト効率性を高めつつ、医業収益を含めたレベニューシナジーを発現していくことが求められます。
そこで、以下のような機能をスマート化によって加速・強化させつつ盛り込んでいき、エリア全体での収支向上を図っていくことが必要です。

(1)生活・居住機能の追加とスマート化
病院としては、近隣住民からの集患は大きな魅力です。また、住民にとっては、近隣に病院があることは、一般的に居住に際しての検討条件の1つとして考えられます。さらには、近隣の病院と連携しつつ、住みながらにして健康維持管理も可能になれば、魅力度は一層高まります。
たとえば、近隣住民にヘルスケアデータが集約可能なモバイルデバイスを貸与しつつ、病院側の医師などによる健康状況モニタリング、疾患リスクが高まった際の早期アラートなどが期待できます。
また、居住者および来街者向けに生活用品・食料品等の購入需要が見込めるため、商業施設の整備も選択肢として検討できます。

(2)宿泊、健康増進機能の追加とスマート化
病院そのものに患者を宿泊=入院させる機能があるものの、在院日数の短縮化の要請による退院促進の受け皿や、遠方から検診受療してくる患者や患者家族の来院・滞在といった宿泊需要に対しては、対応することが困難です。そこで、エリア内に宿泊施設を整備することにより、こうした需要への対応が期待されます。
あわせて、病院側が監修したプログラムと連携したトレーニングサービスを提供するフィットネスのような健康増進施設を商業施設などに設置することも想定されます。

(3)交通結節点機能のスマート化
病院はバスや電車といった公共交通機関が集まる場である交通結節点の機能を有しており、これをAIオンデマンド運行バスに利活用することが期待されます。たとえば、AIオンデマンド運行バスと病院の電子カルテシステムとの連携により、病院予約の前日に患者にリマインド通知しながらAIオンデマンド運行バスの予約を促すことで、通院忘れを防止するような実証も行われ始めています。

(4)レジリエンス機能
病院はエネルギーの大口需要家であり、かつ災害時における拠点としての存続を強く求められる施設でもあります。そこで、病院を中心としたエリア全体での再生可能エネルギー電源の確保やVPP(バーチャルパワープラント:発電設備や蓄電池等をまとめて制御し、1つの発電所のように機能させる仕組み)も視野に入れつつ、病院を結び付けたエネルギーマネジメントシステムを構築するなど、エリア全体での高度なレジリエンス機能(持続可能な枠組み)を構築することが期待されます。

(5)地域包括ケアシステム構築とあわせた移転元病院の跡地活用
病院統合時においては、移転元となる地域住民に対するケアも求められます。ポイントとなるのは、移転元・移転先における住民へのヘルスケア機能の継続であり、また、役割分担を通じて地域全体でのヘルスケア機能が向上していく、地域包括ケアシステムの一端を担うことが求められます。
その点から移転元の整備に際しては、回復期や慢性期の病床を備えた病院や診療所、あるいは、介護施設のような地域包括ケアシステムの一端を担う施設を整備することが期待されます。
こうした施設はもともとの病院施設よりも規模が小さくなることが想定されるため、余剰床面積の活用策もあわせて検討する必要があります。たとえば、図書館等の文教施設の整備や、商業施設・フィットネスなどの健康増進施設等の整備などが想定され、複合的な利活用により、地域としての魅力度を高めつつ住民に高い満足度をもたらす施策が期待されます。

以上のような機能について、事業者を確保しつつ、病院を核としてエリアマネジメントを行う事業推進主体を構築していくことが肝要です。

※1:独立行政法人福祉医療機構「平成30年度 福祉・医療施設の建設費について」
※2:厚生労働省 「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」
※3:厚生労働省 令和2年1月17日 医政発0117第4号通知

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 黒澤 隆

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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