ポイント

  • 物価に最も大きな影響を及ぼしている状態は、パンデミックとその余波、需要の急増と供給上の制約である。
  • 消費者は近い将来の物価上昇を許容する姿勢を示しており、これは利益圧力を支えることになるだろう。
  • 人手不足や賃金上昇、サプライチェーンへの制約、物価インフレは予想以上に長引いているが、これは必ずしも、費用収益構造を積極的に管理して利益を確保しようとする企業の終焉を招くことにはならないだろう。

インフレーションは一時的な嵐か、急激な一定の路線か

現在の物価上昇は、ベース効果と需要の急増および供給上の制約が組み合わさって生じたものです。消費財企業や小売企業は、価格安定による顧客維持と利益確保との兼ね合いを検討する際に、売上原価のすべてについて価格上昇の性質を考慮しなければなりません。低コスト経営モデルへの投資、人材確保や原価増への対応に関する決定はいずれも、一時的なインフレの嵐を乗り切るだけでなく、発展していくために極めて重要な意味を持っています。新型コロナウイルスのさまざまな変異株やワクチン接種率の格差に世界が取り組むなか、経済成長のスピードと世界各国でのパンデミックによる供給不足の継続は、新型コロナウイルスの今後の動きと各国が有効な政策対応を打ち出せるかにかかっています。

サプライチェーンの分断は永遠には続かないが、期待するほど早くは収束しないだろう

サプライチェーンが相互に連結していることと、ジャスト・イン・タイム生産方式が普及していることが、世界の供給網の混乱を悪化させています。需要の急増と設備稼働率の低下が相まって、物価にはダブルパンチとなりましたが、流通網の交通渋滞が解消されれば、それも収束していくでしょう。しかし、パンデミックそのもののコントロールが難しいことが明らかになり、供給・労働面の打撃という観点では、一時的な分断の時期が長引いています。供給面の打撃は2022年には収まると予想されるものの、労働市場の摩擦の解消はこれより長くかかる可能性があります。さらに、労働市場の人手不足は構造的要素を伴うことがあり、それによって当面は対人業務の対価が高止まりすることになりそうです。

労働市場の摩擦は不均衡に起因

現在の労働市場の摩擦は、企業経営者にとってますます悩みの種になっています。組織の離職率は、店舗労働だけでなく、社内勤務でも増えています。感染状況が落ち着きを見せ、労働者は一層のワークライフバランスの確保を求めています。多くの熟練労働者が収入アップの機会を求めて転職や人材獲得競争に乗じており、企業には在籍労働者を維持するための賃上げ圧力が新たにかかっています。経済学でいう「失業ギャップ」(すなわち、現在の雇用者数とトレンド軌道とのギャップ)は依然存在するものの、多くの企業では賃金上昇がインフレを上回るスピードで進んでいます。

消費者のインフレ期待は物価上昇許容の合図

原価上昇によるインフレ圧力が近年小売業界で高まっていることは、必ずしも利益の縮小を意味するものではありません。今後1年間の消費者のインフレ期待は着実に上昇しており、レジで支払う価格の上昇を許容する姿勢が示されているのは、小売業者にとっても歓迎すべきことでしょう。消費財企業や小売業者が値引きに動く可能性は、過去の時期に比べてはるかに少ないと思われますが、それは今回のパンデミックがサプライチェーンにどう影響するかによって、在庫が逼迫することや補充できなくなることが懸念されるためです。

 

伊藤 勇次

KPMG FAS 執行役員 パートナー 消費財・小売セクターリーダー/KPMGジャパン 消費財・小売セクター統轄パートナー

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