はじめに

2021年のASEAN M&A市場は、コロナ禍で低調であった2020年から大きく回復し、公表ベースで1,300億米ドルを超え、コロナ前の域内M&Aの規模をも上回る結果となりました。背景には、各国政府が進める金融緩和・経済刺激策が追い風となり、PEファンドや企業による買収・売却・SPACの活用が進んだことや、ESGへの意識の高まりに伴う事業ポートフォリオの再編等があるといえます。シンガポール証券取引所(SGX)が特定目的買収会社(SPAC)のシンガポール版を制度化したことをはじめ、周辺国においても続々と上場準備企業が登場しており、スタートアップ市場も活況です。金利上昇に伴う株価の割高感は懸念されているものの、2021年に盛り上がりを見せたテクノロジーセクターにおけるM&A動向には今後も注目が集まりそうです。

今回も、KPMGディールアドバイザリーの現地メンバーが、ASEAN M&A市場で現在起きている事象や各業界の動向、さらには各国の主要案件情報などを皆様にお届けします。

1.ASEAN M&Aマーケットの概況

2020年の下半期から見られたM&Aの回復トレンドは2021年も続き、特にTMTセクターでは、コロナ禍でその重要性が再認識されたことも手伝って、大型案件が多く見受けられました。金融緩和・経済刺激策の影響を受けて多くの投資資金が市場に集まる中、同セクターではSPACの活用も含めて多額の資金調達に成功し、案件化が進んだと言えます。その他、大手コングロマリットやPEファンド等によるESGや投資家リターンを意識した大型事業再編案件が目立ちました。

2021年1月から12月までのASEANにおけるM&Aは、公表ベースで436件、総額約1,350億米ドル(約15兆3,534億円)と、2020年に比べて金額ベースでは3倍近く、件数ベースでは約1.5倍となりました。四半期別では、特に大型案件が集中した第2四半期が626億米ドル(125案件)、第3四半期が406億米ドル(148案件)であったのに比して、第4四半期は160億米ドル(60案件)と減少しました。これは、金利上昇への懸念、コロナ再燃に起因する経済不安や米証券取引委員会(SEC)のSPACに対する監視強化が影響した可能性があります。

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M&A deal activity in ASEAN countries for 2021

M&A Transaction Volume

Source : Mergermarket and KPMG analysis

2H 2021 M&A Transaction Volume

国別では、2020年を牽引したシンガポールやタイに加え、インドネシア、マレーシア及びベトナムにおいても件数・金額ともにM&Aが増加しました。M&A件数全体の約4割、金額ベースで約6割を占めたシンガポールでは、配車大手企業Grab Holdingsと特別目的買収会社(SPAC)であるAltimeter Growth社との合併、Keppel Corporation、CapitaLand等のコングロマリットの再編、不動産開発事業間におけるM&A等を中心に、2021年のM&A総額は公表ベースで約781億米ドルとなりました。特に、TMTセクターにおけるM&Aが活発であったインドネシアとマレーシアでは、M&Aがそれぞれ金額ベースで139億米ドル、63億米ドルと、2020年の約5倍に増加しました。

セクター別では、TMT(114件、655億米ドル)と不動産・インフラ・建設(81件、334億米ドル)でM&A件数の約4割、金額ベースで約7割を占めています。TMTセクターにおいては、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシアにおけるM&A総額が50億米ドルを超え、特に域内の市場獲得や5Gへの移行を目的とした大型統合案件が目立ちます。特徴的な案件としては、NASDAQ上場を見据えたSPACによるGrabの取得・合併、GojekとTokopediaの合併、タイの通信事業者であるTrue Corp pclと移動通信事業会社Total Access Communicationの合併、マレーシアのCelcom AxiataとTelenorのDigi.Comの合併公表等があります。不動産・インフラ・建設セクターでも、投資家目線を意識したバランスシートの強化やESGへの配慮をうかがわせるポートフォリオの見直し、事業再編を中心とする大型案件等がシンガポールやタイを中心に活発化しているように見られます。

一方、2021年第4四半期における米国の金利上昇に伴い、コロナ禍による低金利環境下のM&A価額の割高感が指摘されるようになったうえに、オミクロン株による影響が予測不能なことも相まって、ASEAN各国の中央銀行は、難しい判断を迫られている状況と言えます。2022年のASEAN M&A市場は、引き続き金利動向にも注視する必要がありそうです。

2021 M&A Transaction Volume 
 2021 M&A Transaction by Value (USD in million)

Note : 一部、M&A件数には含まれるが、取引額が公表されていないため、金額が反映されていない案件が含まれている。また、2021年にラオスにおいてM&A案件の公表が1件あったものの、他国と比較し少額であることから上表には含めていない。
Source : Mergermarket and KPMG analysis

ASEAN企業による域外企業を対象としたM&Aの動向

昨今、シンガポール、タイを中心に、域外の企業に対する投資が目立つことから、ASEAN企業による域外企業を対象としたM&Aの趨勢についても触れておきたいと思います。

過去5年間の推移をみると、2018年は大型M&Aに牽引されるかたちで公表された件数・金額ともに増加したものの、以降2019年は、米中貿易摩擦を背景とする先行き不透明感により、また、2020年は新型コロナウイルスの蔓延により、域外へのOutboundのM&Aは停滞していましたが、2021年には2018年水準まで回復しました。特に、中進国から先進国に移行すべく高付加価値産業の育成や既存産業構造の転換を図るタイの動きは国内にとどまらず海外進出にも影響を及ぼしているとみられ、20億米ドル超の案件はタイ企業によるM&Aが占めました。中でも、タイの小売大手Central Groupと欧州のSigna Holdingによる英国の高級デパートチェーンSelfridgesグループの買収(53億米ドル)、タイのPTT Global Chemical Public Companyグループによる特殊化学品サプライヤーAllnexの買収(47億米ドル)、タイの技術開発会社iWebによるナイジェリアの携帯電話会社Tingo Mobileの買収(37億米ドル)等は、そうしたトレンドを表しているといえるでしょう。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って事業ポートフォリオの見直し機運が高まった結果、あらゆる国や企業で事業売却の検討・実行が進んでいますが、その波に乗り遅れないよう、ASEAN諸国の企業においても新市場の開拓やポートフォリオの多様化、あるいは大型案件実行のための資金調達等の動きが活発化しています。

Bidder ASEAN country M&A Transaction Volume 
Bidder ASEAN country M&A Transaction Value

Note : 一部、M&A件数には含まれるが、取引額が公表されていないため、金額が反映されていない案件が含まれている。
Source : Mergermarket and KPMG analysis

ASEANにおける主なM&A案件(域内企業による域外企業を対象としたM&Aを除く)

2021年は、20件以上の10億米ドルの案件が公表されました。その約半分をTMTセクター(9件)と不動産セクター(6件)が占めており、その主な内容は以下の通りです。

  • 上場を目的としたSPACとの合併等:シンガポールの配車大手企業Grab HoldingsとAltimeter Growth(SPAC)との合併、SES HoldingsとIvanhoe Capital Acquisition(SPAC)との合併、FinAccelとVPC Impact Acquisition Holdings II(SPAC)の合併公表
  • 大手コングロマリットによるバリューチェンの補完・強化:Keppel REITによるメディア事業分離後のSingapore Press Holdings株式の買収、Gulf EnergyによるIntouch及びAdvanced Info Serviceに対する買収
  • 市場獲得・シナジー創出等を目的としたグループ内の事業再編等:CapitaLandグループによる不動産投資事業の分離・新会社の設立を目的とした再編(CLA Real Estate HoldingsによるCapitaLand Limitedの持分取得)、合併を目的としたシンガポールのREITMapletree Commercial Trust Managementによる楓樹大中華商業信託の買収、Charoen Pokphandグループのリテール部門の再編を目的としたSiam MakroによるC.P.Retail Development Companyの持分取得
  • 域内市場における事業拡大を目的とした基盤強化:インドネシアの配車サービスGojekとオンラインマーケットプレイスのTokopediaとの合併、5G投資の負荷が重い携帯電話業界のTop TierであるTrue CorporationとTotal Access Communicationの合併や、マレーシアのCelcom AxiataとTelenorのDigi.Comの合併 等
ASEANにおける主なM&A案件

Source : Mergermarket and KPMG analysis

2. ASEAN各国のKPMGディールアドバイザリーリーダーによる見立て

ASEAN主要各国のKPMGディールアドバイザリーのプロフェッショナルによる各国M&Aマーケットのアップデートです。

シンガポール
Elaine Cheah
2021年におけるM&A市場の勢いを牽引したのは、世界で増加する待機資金、継続する低金利環境、コロナ第1波からの経済回復のほか、デジタルイノベーションやフィンテックプラットフォームの発展に起因する新興市場からのリターンへの注目でした。
M&A市場では、以下のようなトレンドが見られました。
金融サービス・TMT:Grab社等のfintechプラットフォームに多額の資金が流れました。デジタルサービスやeコマース、配車サービス、教育、銀行取引、保険等を目的としたプラットフォームの利用がコロナ禍を背景に加速しました。
プライベートエクイティ:市場に多額の資金が存在するということは、PEファンドが幅広い投資機会を求めていることを意味しています。長期的なマクロトレンドとしては、ヘルスケア、不動産、TMT、教育、ESG、金融サービスの各セクターに期待が寄せられています。
また、ESGが投資家に浸透してきており、多くのPEファンドが再生可能エネルギー等のESGに特化した特別なファンドを組成しています。特に、今後Singapore Venture Capital & Private Equity Association(SVCA)、政府系ファンドのTemasek、GIC等でESG活動のさらなる活発化が期待されます。
不動産:移動制限や在宅勤務の要請といった制限がある中で、高い市場価格が維持されている不動産業界においても、引き続きM&Aが実施されています。

マレーシア
Chan Siew Mei
投資家が様子見の姿勢であった2020年に対し、2021年のマレーシアにおけるM&Aは大きく回復し、公表案件数は82件、金額ベースで123億米ドルとなりました。
注目すべき案件は、マレーシア最大の携帯電話事業会社が誕生したDigiとCelcomの合併です。現在の想定では、取引額は42億米ドルを上回り、クロージングは2022年半ばとなる見込みです。この他、10億米ドル超の案件としては、Malayan Cement BhdによるYTL Cement Bhdからのセメント・コンクリート事業の買収(12億米ドル超)があります。
世界的なコロナ後の経済回復に加え、マレーシアの高いワクチン接種率を背景に、2022年のM&A市場は、特に金融サービス・インフラ・コンシューマービジネス業界等で活発化が期待されます。投資活動においてESGへの注目度も増しており、今後M&Aに先立って実施されるデューデリジェンスの際に検討が不可避な要素となるでしょう。

タイ
Ian Thornhill
新型コロナウイルスの感染が再拡大する中、2021年におけるタイのM&A市場は国内経済全体よりも好調で、縮小状況にあった2020年からの回復が見られます。2021年は、ロックダウンや様々な制約があったにもかかわらず、M&Aは年間を通じて活況でした。国境が概ね閉鎖されていたこともあり、国内企業が既存ビジネスからの多角化を図るためのパートナーや資金調達先の確保を目的とした案件が引き続き大半を占めました。
案件としては、TMTセクターにおいて、大手民間電力会社Gulf Energy Development PCLが通信コングロマリットIntouch Holdings PCL株式の42%を15億米ドルで取得したのが最大でした。その他注目すべき案件としては、民間の大手交通運営会社BTS Group Holdings PCLが、事業の多角化を目的として、Jay Mart PCL及びSinger Thailand PCLへの投資を発表したことが挙げられます。
2022年はクロスボーダー案件を中心に引き続きM&Aの増加が予想され、中でも金融サービス・ヘルスケア・通信セクターが注目されます。また、タイの大手企業の中では、既存事業ばかりでなくM&Aを検討する際に、ESGがテーマとなる場面が増えています。

フィリピン
Michael Arcatomy H. Guarin
2021年におけるフィリピンのM&Aは、エネルギー、不動産、テクノロジー、e-commerceセクターを中心に活況を呈しました。エネルギーセクターの最大案件は、JERAによるフィリピンの電力大手Aboitiz Power Corporationの持分取得です(27%を158億米ドルで取得) 。この案件によって、 フィリピンはクリーンで再生可能なエネルギー政策の推進に必要な知見をJERAから得ることが期待されています。その他、GIC Private LimitedによるAC Energyの持分17.5%の取得、再生可能エネルギー供給体制の強化のキャパシティーの増加を目的としたAC Energyによる風力発電所2拠点の取得等もあります。金融サービスセクターでは、Citibank Philippinesのリテール部門の譲渡先としてUnion Bank of the Philippinesが選定された(取引価額:90億米ドル)ことが公表されました。この他、2021年第4四半期には、Ayala Land, Inc.によるフィリピン発のREITであるAREIT, Inc.の持分取得が合意に至ったことが公表されました。
再生可能エネルギーの推進とエネルギーの需要の増加に伴い、エネルギーセクターでは、今後もM&Aが続くでしょう。フィリピンにおけるデジタルエコノミーの成長は未だ初期段階にあり、企業がそれぞれに事業を確立しようと構築する中で、テクノロジーセクターでは国内外問わずM&Aの増加が見込まれます。

インドネシア
David East
インドネシアでは、GDPがマイナス成長となった2020年から一転し、2021年はプラス成長へと回復しました。M&Aも58案件が発表され、取引総額は実に188億米ドルにのぼります。
2021年の主な案件としては、GojekとTokopediaの合併(76億米ドル)、ProtelindoによるSTP Towersの買収(17億米ドル)等が挙げられます。
コロナ禍からの回復基調にある点に加え、政府による協調的な金融・財政政策に支えられながら、国全体の経済も4.7%~5.5%へのGDP成長率の上昇が見込まれることから、2022年におけるインドネシアのM&Aもさらなる活性化が見込まれます。
現時点のインドネシアにおいては、ESGの検討がM&A案件の成否を大きく左右しているようには見られません。これは、典型的な新興市場におけるカントリーリスクが関係しているのでしょうが、この状況も徐々に変わっていくかもしれません。

ベトナム
Dinh The Anh
ベトナムでは、新型コロナウイルスの感染再拡大にもかかわらず、2021年のM&A市場は前年よりも活況でした。その主な牽引材料として、幾度もの感染の波を乗り越えるための現地企業による資金ニーズがあったことの他、多くの現地企業が、自社のエコシステムを構築してマーケットシェア拡大のためにM&Aを通じた拡大戦略を選択したことが挙げられます。ESGの観点は、これまで国内企業にとっては馴染みがありませんでしたが、昨今のインバウンドM&Aにかかわる海外投資家にとっては極めて重要な論点となっています。なお、2021年にM&Aが活況であった業界は、生活必需品・金融・IT・不動産セクターです。
主な案件は、三井住友フィナンシャルグループによるベトナムの消費者金融最大手FE Credit株式49%の取得(13.7億米ドル)、AlibabaとBaring Private Equity Asiaによるベトナムの消費財コングロマリット最大手Masan Groupへの出資(4億米ドル)、みずほ銀行を中心とする投資家によるeウォレット・決済プラットフォーム大手MomoのシリーズEラウンドの出資(2億米ドル)です。
2022年は、持続的な成長のために海外投資家からの資金調達を進める中で、テクノロジー分野やESGへの取り組みが関連するM&Aの増加が予想されます。

3. ASEANにおけるESGの潮流

ESGがバズ・ワードとなっている現在、ASEAN域内においてもESGの取り組みは加速しています。30兆ドルを超える世界のESG投資を資本市場を通じてASEAN域内に呼び込むべく、域内の上場企業を中心に様々な取り組みが進められています。また、シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナムをはじめ、ASEAN主要国の証券取引所は、上場企業にESG報告書の開示を義務付けており、各企業によるESGへの取り組みに拍車がかかっていると考えられます。

欧米からみたASEANの課題

一方で、欧米諸国のASEAN企業に対する見方はどうでしょうか。過去より欧米や東アジア企業のグローバルサプライチェーンに組み込まれるかたちで、多くのASEAN企業が製品供給拠点としての発展を遂げました。これまで高度成長を遂げてきた過程で支持されていた取り組みが、昨今の欧米を中心とする各国政府、機関、投資家などからの圧力の結果、域内の政府や企業を中心にESGの環境(E)と社会(S)について早急な対応が求められるようになりました。この流れに呼応して今後のASEANでは、株主・投資家との対話や各企業のビジネスにおいて環境保護や労働条件の向上といった指標を掲げた取り組みがさらに加速するでしょう。さらに、欧米諸国は、ESGのG(ガバナンス)に関してもASEAN企業を注目しています。ASEANでは、グループ内の複雑な資本関係を通じて少数の持分で取締役会が支配されるというイメージを抱く欧米の投資家は少なくありません。今後ESG投資をASEANに呼び込むに際しては、高度成長が続いている間は目立たなかったこうしたガバナンスのあり方についても対応が迫られる可能性があるでしょう。

ASEAN諸国企業の傾向

昨今、ASEANの各国政府や企業が重大なESG課題を抱えているとメディアにより取り上げられる機会が増えました。そうした課題は今に始まったわけではなく、むしろ、グローバルでESGの意識が高まるにつれて、過去から抱えていた重要課題が浮き彫りになったに過ぎないと言えるでしょう。ASEANでは、そのような環境下で育ったミレニアル世代を中心として、そうした重要課題に向き合う起業家が続々と生まれています。ユニコーン企業へと成長を遂げたGrabのように、スタートアップ企業の出現・成長は、今後もZ世代へと引き継がれながら、さらに加速していくことが期待されます。米国NASDAQ市場の特別目的買収会社(SPAC)を活用して、ASEAN発のスタートアップ企業による海外上場件数が増加しているのも事実です。こうした背景を受け、シンガポール証券取引所(SGX)は東アジア諸国に先駆けて、国内でのSPAC上場を2021年9月に解禁しました。自国や域内周辺国のスタートアップ企業の上場を促進する仕組みを整備したことは、各国メディアからも注目を集めました。2022年1月には、同国政府系投資会社テマセク・ホールディングス傘下のバーテックス・ベンチャー・ホールディングスがSGXにSPACを上場すると発表しましたが、今後、同様の動きはさらに加速することでしょう。さらに、周辺国のインドネシアでも、スタートアップ企業が続々と上場準備を進めています。今後、TMTセクターを中心に、域内での資金調達、M&A市場は活況を呈することになると見込まれます。

ASEAN M&Aへの影響

グローバルPEファンドの動向を捕捉することも重要です。投資先のIPOを目指したPEファンドの様々な施策として、既にESGに関する取り組みが始まっています。国によっては投資回収手段がIPOに偏ることもあり、スタートアップ企業がユニコーンへと育つ環境が整備されていないがゆえに未成熟な上場企業が量産される状況に陥っている国もありますが、M&Aによる投資回収がさかんな米国のような国ではユニコーンが育っています。ESGに対する意識が投資家のみならず企業にも浸透するにつれて、ASEANにおけるM&AやPMIでも要件として組み込まれていくことでしょう。

さらに、昨今、ESGリスクが高いと判断された事業や資産を売却するなどして将来を他社に託す動きが見受けられます。売却は、自社が抱える課題を解消する手段にはなり得るものの、世の中のESG問題を解消したことにはならないという見方もあります。ASEAN域内における一部の投資ファンドの間では、売却よりも持続可能性のある事業への転換の機会、可能性を模索することが重要であり、むしろ長期的視点で企業の脱炭素化をはじめとする改善施策の推進を後押しする動きがより重要とする動きもあります。