グループ通算制度への移行と税効果会計への影響

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3541号(2022年1月31日)に「グループ通算制度への移行と税効果会計への影響」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3541号(2022年1月31日)に「グループ通算制度への移行と税効果会計への影響」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「週刊経営財務3541号」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

1.はじめに

2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)において、連結納税制度が見直され、2022年4月1日以後開始する事業年度からグループ通算制度へ移行することとされた。これを受けて、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを明らかにすることを目的として、2021年8月に企業会計基準委員会(ASBJ)より、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「実務対応報告第42号」という。)が公表された。実務対応報告第42号は原則として、2022年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用される(ただし、税効果会計に関する会計処理及び開示については、2022年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の期末の連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用可。四半期会計期間からの早期適用は不可。)。なお、次の実務対応報告については、実務対応報告第42号の適用により、当該実務対応報告を適用する企業が存在しなくなった段階で廃止される。

  • 実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下「実務対応報告第5号」という。)
  • 実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下「実務対応報告第7号」という。)
  • 実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「実務対応報告第39号」という。)

本稿では、主に実務対応報告第42号に基づき、グループ通算制度を適用する企業等における税効果会計への影響について解説する。なお、本稿は基本的に2022年1月1日時点の法令に基づくものであり、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

2.グループ通算制度の基本的な仕組みと実務対応報告第42号の基本的な方針

(1)グループ通算制度の基本的な仕組み

グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、個別申告方式の枠組みの中で、損益通算等の調整を行う制度である。併せて、グループ通算制度の適用法人に、後発的に修更正事由が生じた場合には、原則として他の法人の税額計算に反映させない(遮断する)仕組みとされている。

連結納税制度が企業グループ全体を1つの納税単位とする制度であるのに対して、グループ通算制度は法人格を有する各法人を納税単位として、課税所得金額及び法人税額の計算並びに申告を各法人がそれぞれ行う制度である点で異なる。一方で、企業グループの一体性に着目し、課税所得金額及び法人税額の計算上、企業グループをあたかも1つの法人であるかのように捉えて、損益通算等の調整を行うという点はグループ通算制度でも維持されている。

(2)実務対応報告第42号の基本的な方針

連結納税制度とグループ通算制度とでは、全体で合算した所得を基に納税申告を親法人が行うか、各法人の所得を基にそれらを通算した上で納税申告を各法人が行うかなどの申告手続は異なるが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な仕組みは同じである。そのため、実務対応報告第42号では、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号及び実務対応報告第7号の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲することをその開発にあたっての基本的な方針としている(実務対応報告第42号第40項)。

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3.税制の改正による影響

(1)税効果会計に影響を与えるグループ通算制度における主な税務上の取扱い

実務対応報告第42号では、実務対応報告第42号に定めのあるものを除き、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」又は税効果会計基準等※1の定めに従うこととしている。そのため、実務対応報告第42号では、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみが示されている(実務対応報告第42号第41項)が、申告手続以外にも税務上の取扱いが連結納税制度から改正されている点があり、これらが税効果会計の適用に影響を与える可能性がある。連結納税制度からグループ通算制度への税務上の取扱いの改正により、税効果会計に与える主な影響は(図表1)税効果会計に影響を与えるグループ通算制度の主な税務上の取扱いのようになると考えられる。

図表1 税効果会計に影響を与えるグループ通算制度の主な税務上の取扱い

項目 税効果会計に影響を与えるグループ通算制度の主な税務上の取扱い
1.グループ通算制度の適用開始時・離脱時
適用開始時における(i)一定の資産に対する税務上の時価評価、(ii)適用開始前の税務上の繰越欠損金の切捨て、(iii)税務上の繰越欠損金の利用制限
  • 単体納税制度からグループ通算制度に移行する場合:
    極めて稀なケースと想定されるものの、いずれの通算子法人とも完全支配関係の継続が見込まれない通算親法人は、グループ通算制度適用開始時に一定の資産※2への時価評価を行わなければならない法人(以下「時価評価対象法人」という。)となる(連結納税制度の適用開始時において連結親法人は、一定の資産への時価評価が必要とされない)。また、通算親法人による完全支配関係の継続が見込まれない通算子法人は、時価評価対象法人となり、その保有する一定の資産への時価評価を行わなければならない。これらの場合は、税務上の時価評価により生じる会計上と税務上の帳簿価額の一時差異に税効果会計を適用する。
    • 時価評価対象法人に該当する場合、グループ通算制度適用開始前の繰越欠損金はすべて切り捨てられる。また、時価評価対象法人に該当しない法人(以下「時価評価対象外法人」という。)であっても、グループ通算制度の承認の効力が生じた日の5年前の日から支配関係が継続しておらず、かつ、共同事業性がない場合において、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合、一定の繰越欠損金は切り捨てられる。したがって、グループ通算制度の適用開始前に繰越欠損金に係る繰延税金資産を認識していた場合、切り捨てられる繰越欠損金に対応して計上していた繰延税金資産は取り崩すことになる。
    • 上記の結果、切り捨てられなかった繰越欠損金は特定欠損金※3に該当する。グループ通算制度では通算グループ内での損益通算後の所得から特定欠損金が控除されるため、繰延税金資産の回収可能性を見直す必要性の有無を検討することになる。
  • 連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合:
    • 通算法人に係る時価評価・欠損金の引継ぎ制限等について改めてグループ通算制度の開始に伴う取扱いが適用されないという経過措置がある。したがって、税効果会計への重要な影響は生じないと考えられる。影響がある場合としては、例えば、グループ通算制度では通算グループ内での損益通算後の所得(連結納税制度では損益通算前の所得)から特定欠損金が控除されるため、繰延税金資産の回収可能性を見直す必要性の有無を検討することになる。
特定資産譲渡等損失額の利用制限等
  • 単体納税制度からグループ通算制度に移行する場合:
    • 時価評価対象外法人は、グループ通算制度の承認の効力が生じた日の5年前の日から支配関係が継続しておらず、かつ、共同事業性がない場合において支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合、特定資産(通算法人が有する資産(棚卸資産等一定の資産を除く。)で支配関係発生日の属する事業年度開始日前から有していたもの)の譲渡等から生じる損失額(特定資産譲渡等損失額)は、一定の期間 ※4その通算法人の所得の計算上、損金算入できない。そのため、特定資産に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上していた場合であって、税務上、その特定資産の譲渡等により生じる損失の損金算入ができなくなる場合は、その繰延税金資産を取り崩すことになる。
    • 時価評価対象外法人は、上記以外の場合においても、欠損金額のうち一定の期間※5において生じる特定資産譲渡等損失額に達するまでの金額は損益通算の対象外とされる場合があるため、繰延税金資産の回収可能性の判定の際に考慮する必要がある。
  • 連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合:
    • 通算法人に係る特定資産譲渡等損失額の利用制限等が適用されないという経過措置がある。
離脱時における一定の資産への時価評価及び投資簿価修正
離脱する通算子法人(以下「離脱子法人」という)は、グループ通算制度から離脱する直前事業年度末(通算親法人との間にその通算完全支配関係を有しなくなった日の前日)において、その離脱前に行う主要な事業が引き続き行われることが見込まれていない場合又はその離脱子法人の株式等を有する他の通算法人においてその株式等の譲渡・評価換えによる損失の額が生ずることが見込まれる場合には一定の資産を時価評価しなければならない。この場合、離脱子法人は、税務上の時価評価により生じた会計上と税務上の帳簿価額の一時差異に税効果会計を適用することになる。また、投資簿価修正により、離脱子法人の株式を有する通算法人における離脱子法人株式の税務上の帳簿価額は、上記の一定の資産への時価評価後の離脱子法人の税務上の簿価純資産価額に修正される。この場合、離脱子法人の株式を有する通算法人は、この投資簿価の修正について税効果会計を適用することになる。(「(2)投資簿価修正の内容と2022年度税制改正案」を参照)
2.通算子法人株式関連
通算子法人株式の評価損 グループ通算制度では通算子法人株式の評価損について評価損の損金算入は認められない。したがって、この会計上の評価損相当額について会計上と税務上の帳簿価額の一時差異が生じ、税効果会計を適用する。
通算子法人株式を他の通算法人に譲渡した場合 通算グループ内で通算子法人株式を譲渡する場合、その譲渡損益は税務上認識されず、社外流出項目とされる。したがって、通算グループ内で発生した会計上の譲渡損益は、会計上と税務上の帳簿価額の一時差異には該当せず、この譲渡損益について税効果会計を適用しない。

(2)投資簿価修正の内容と2022年度税制改正案

1.投資簿価修正の内容(2020年度税制改正)
2020年度税制改正において創設されたグループ通算制度では、通算子法人が通算グループから離脱する場合、その離脱子法人の株式等を保有する通算法人がその離脱子法人株式の帳簿価額をその離脱子法人の税務上の簿価純資産価額に修正することとされた。この修正を投資簿価修正という。

そのため、例えば、通算法人が、過去に多額のプレミアムを付けて買収した通算子法人の株式を譲渡する場合、譲渡される通算子法人株式の譲渡直前の税務上の帳簿価額は、その譲渡される通算子法人の税務上の簿価純資産価額に修正されるため、買収プレミアム相当額を譲渡原価に算入することができない税務上のデメリットがある。

2.2022年度税制改正案
2021年12月24日に閣議決定された「令和4年度税制改正の大綱」によると、2022年度税制改正では、グループ通算制度に関する見直しが行われることとされている。具体的には、投資簿価修正の計算方法が見直され、一定の要件を満たす場合には、通算グループからの離脱時における通算子法人株式の帳簿価額への投資簿価修正について、その離脱子法人の税務上の簿価純資産価額に資産調整勘定等対応金額※6を加算することができる措置が講じられる予定である。※7

通算子法人株式の売却等により通算グループを離脱するまでは投資簿価修正により税務上の帳簿価額が修正されないため、投資簿価修正による影響は、会計上、売却等を行うまでは税効果適用指針第4項(3)における「一時差異」には該当しない。しかし、実務対応報告第42号第55項において、投資簿価修正による他の通算子法人株式等の帳簿価額の修正額は、売却等が行われる年度の課税所得を増額又は減額する効果を有することから、期末時点における他の通算子法人の株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額は一時差異と同様に取り扱うこととされている。そのため、2022年度税制改正案は、税効果会計の適用にも影響を与えることになると考えられる。

なお、「令和4年度税制改正の大綱」は改正案の概要を示しているものであり、上記投資簿価修正の見直しを含むグループ通算制度に関するその他の改正の詳細については、改正法案の公表及び政省令の公布で確認する必要がある点に留意が必要である。

4.グループ通算制度への移行時における繰延税金資産に与える影響

(1)概要

グループ通算制度への移行時における税効果会計への影響は、グループ通算制度の導入に伴う移行パターンごとに、適用する税制の改正による影響と適用する会計基準の変更による影響に分けて考えることができる。

グループ通算制度の導入に伴う移行パターンとしては、以下が考えられる。

  1. 連結納税制度からグループ通算制度に移行
    (グループ通算制度へ移行する前に、単体納税制度から連結納税制度に移行する場合を含む。)
  2. 単体納税制度からグループ通算制度に移行
  3. 連結納税制度から単体納税制度に移行


これらのパターンごとに、制度の移行時における繰延税金資産の回収可能性に与える影響を、適用する税制の改正による影響と適用する会計基準の変更による影響に区分すると以下のようになる。

図表2 制度移行時の影響

移行パターン 適用する税制の改正による影響 適用する会計基準の変更による影響
1.連結納税
⇒ グループ通算
 
税務上の経過措置により、影響は軽減されているが、例えば、特定欠損金の控除の計算段階の違いからの影響がある場合等がありうる。 基本的な方針として、連結納税の実務対応報告を踏襲しているため、連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性に重要な影響は想定されない。
2.単体納税
⇒ グループ通算
 

上記の(図表1)税効果会計に影響を与えるグループ通算制度の主な税務上の取扱いのとおり、例えば以下の影響が想定される。

  • 一定の資産への時価評価
  • 繰越欠損金の切捨て/利用制限
  • 特定資産譲渡等損失額の損金不算入/損益通算の制限
損益通算・欠損金の通算が可能となるため、繰延税金資産の回収可能性を判断するための企業分類の変更や将来所得の見積りへの影響により繰延税金資産の計上額が増加する可能性がある。
3.連結納税
⇒ 単体納税
重要な影響が生じないよう配慮されている。 損益通算・欠損金の通算が出来なくなるため、繰延税金資産の回収可能性を判断するための企業分類の変更や、将来所得の見積りへの影響により、繰延税金資産の取崩しが生じる可能性がある。

(2)連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合

連結納税制度を適用している連結法人がグループ通算制度に移行する場合、税務上の経過措置により、連結納税制度における特定連結欠損金個別帰属額はグループ通算制度における特定欠損金とみなされ、連結納税制度における非特定連結欠損金個別帰属額はグループ通算制度における非特定欠損金とみなされる。また、グループ通算制度の開始に伴う一定の資産への時価評価や税務上の繰越欠損金の切捨て/利用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入等の規定も適用されない。そのため、連結納税制度からグループ通算制度に移行することで、法人税法上の繰越欠損金から生じる繰延税金資産の回収可能性に重要な影響は生じないと想定される。(前述の通り、影響がある場合としては、例えば、特定欠損金の控除の計算段階の違いからの影響がありうる。)

また、会計上も、前述したように実務対応報告第42号では連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号及び実務対応報告第7号の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲することを基本的な方針としているため(実務対応報告第42号第40項)、会計処理の適用にあたっても、大きな混乱は生じないと想定される。

連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合、実務対応報告第42号の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するが、会計方針の変更による影響はないものとみなすこととされており、また、会計方針の変更に関する注記も要しないこととされている(実務対応報告第42号第32項(1))。当該みなしの定めについては、選択適用を認めるのではなく、一律に適用を求めることとしている(実務対応報告第42号第67項)。
なお、実務対応報告第39号の特例的な取扱いを採用して、グループ通算制度の創設前の税法の規定に基づいて税効果会計を適用している企業については、実務対応報告第42号の適用前においては税制の改正による影響が考慮されておらず、実務対応報告第42号の適用によってその影響を考慮することになる。

(3)単体納税制度からグループ通算制度に移行する場合

単体納税制度を適用する法人がグループ通算制度に移行する場合、単体納税制度からグループ通算制度へ適用する納税制度を変更することに伴う影響と、適用する会計基準の変更による影響がそれぞれ考えられる。単体納税制度からグループ通算制度に適用する納税制度を変更することに伴う影響としては、単体納税制度からグループ通算制度に移行する法人では、連結納税制度からグループ通算制度に移行する法人のような税務上の経過措置がないため、主にグループ通算制度開始に伴う一定の資産への時価評価と開始前の繰越欠損金や特定資産譲渡等損失額の取扱い等が考えられる。また、グループ通算制度の開始時に切り捨てられずに持ち込まれた欠損金(特定欠損金)が通算グループでの損益通算後の所得から控除されることになることからの影響もありうる。

適用する会計基準の変更による影響としては、損益通算や欠損金の通算ができるようになることから、繰延税金資産の回収可能性を判断するための企業分類が変更される場合や将来所得の見積りへの影響などの理由により、繰延税金資産の回収可能性に影響する可能性がある。

なお、単体納税制度を適用している企業が2022年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首からグループ通算制度に移行する場合の税効果への影響の認識については、実務対応報告第42号において経過措置が定められている。すなわち、グループ通算制度の適用の承認があった日又は承認があったものとみなされた日の前日を含む連結会計年度及び事業年度(四半期会計期間を含む。)の連結財務諸表及び個別財務諸表から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計を適用するのではなく、実務対応報告第42号を適用する時期(原則適用の場合は2022年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首、早期適用の場合は2022年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の期末)から税効果会計を適用することになる(実務対応報告第42号第32項(2)及び第68項)。

(4)連結納税制度から単体納税制度に移行する場合

連結納税制度を適用している法人は、連結親法人が2022年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日(例:3月決算であれば、2022年3月31日)までに税務署長に届出書を提出することにより、グループ通算制度を適用しない単体納税制度を適用する法人に戻ることができる。この場合、10年以内に発生した連結欠損金のうち、各法人に帰属する金額については、それぞれの法人単体の繰越欠損金として引き継がれるが、単体納税制度に戻ることにより、損益通算や欠損金の通算ができなくなることから、繰延税金資産の回収可能性を判断するための企業分類に変更が生じるケース(例えば連結納税主体の分類が(分類2)、法人単独の分類が(分類4)の場合を前提とし、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性について、連結納税制度の適用時は上位の(分類2)に応じた判断をしていたが、単体納税制度への移行に伴い企業の分類は(分類4)となるようなケース)や将来所得の見積りへの影響などの理由により、繰延税金資産の回収可能性に影響する可能性がある。

なお、連結納税制度を適用している法人が単体納税制度に移行する場合の税効果への影響の認識については、実務対応報告第42号において経過措置が定められている。実務対応報告第42号は、2022年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するのが原則であるが、連結納税制度を適用している法人が単体納税制度に移行する場合は、グループ通算制度を適用しない旨の届出書を提出した日の属する会計期間(四半期会計期間を含む。)から、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用することになる(実務対応報告第42号第33項及び第69項)。

5.おわりに

グループ通算制度は、2022年4月1日以後開始する事業年度から適用されるが、その適用にあたっては実務対応報告第42号策定時には想定されていなかった論点が発生する可能性もある。また、「令和4年度税制改正の大綱」においても2022年度税制改正案におけるグループ通算制度への改正の詳細は公表されていない。そのため、今後検討すべき論点の有無については引き続き留意する必要があると考えられる。

※1 以下の会計基準等を合わせて「税効果会計基準等」という。
・企業会計審議会が1998 年10 月に公表した「税効果会計に係る会計基準」及び同注解
・企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」
・企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」
・企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、「税効果適用指針」という。)

※2 一定の資産とは、固定資産、棚卸資産たる土地等、有価証券(売買目的有価証券等を除く)、金銭債権及び繰延資産をいう。ただし、帳簿価額が1,000万円に満たないもの及び資本金等の額の2分の1に相当する金額又は1,000万円のいずれか少ない金額に満たないもの等を除く。

※3 特定欠損金とは、その通算法人の所得の金額を限度として控除ができる欠損金をいう。

※4 グループ通算制度の承認の効力が生じた日と新たな事業を開始した日の属する事業年度開始日とのうちいずれか遅い日から、その承認の効力が生じた日以後3年を経過する日と支配関係発生日以後5年を経過する日とのうちいずれか早い日までの期間

※5 グループ通算制度の承認の効力が生じた日から、同日以後3年を経過する日と支配関係発生日以後5年を経過する日とのうちいずれか早い日までの期間

※6 資産調整勘定等対応金額とは、通算子法人の通算開始・加入前に通算グループ内の法人が時価取得した子法人株式の取得価額のうち、その取得価額を合併対価としてその取得時にその通算子法人を被合併法人とする非適格合併を行うものとした場合に資産調整勘定又は負債調整勘定として計算される金額に相当する金額をいう。

※7 「2022年度税制改正大綱」の概要はKPMG税理士法人のリンク先を参照

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
テクニカルディレクター 公認会計士 三宮 朋広
KPMG税理士法人 小出 一成

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