人間による活動の影響により、過去2000年以上前例のないペースで気候の温暖化が進んでいます。いまや、戦略、リスク、長期的価値、企業のパーパス(存在意義)およびステークホルダーの期待を踏まえながら、ビジネス上の問題としてどのように気候変動に取り組むかは、すべての取締役会が議論すべき事項です。気候によって生じるビジネス環境の構造的転換に対応するために、取締役会は情報に基づいて意思疎通をはかり、大胆なリーダーシップを発揮することが求められます。取締役会は、現在の、そして長期にわたる気候環境を考慮することで、リスクへの適応およびリスクの軽減、そして価値創造の新たな機会の発見へと自社を導くことができます。

ポイント

  • 投資家が関心を寄せているのは、気候に関連した財務リスクに対する経営者の取組みを取締役会が監督しているか、取締役会が長期的な価値の管理者として十分な情報に基づき積極的な指針を示すための知識とプロセスを有しているかである。
  • 取締役会は、気候関連の脅威および機会を認識、理解することが求められる。気候変動を踏まえて戦略を再評価することは、企業の成長および変革の機会を生み出す。
  • 企業が気候変動関連の目標を達成するには、組織的な連携やプロセス、成功を可能にするインセンティブが不可欠である。取締役会は、目標達成に向けた明確な道筋を構築できるよう企業を支援する必要がある。

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リスク評価

取締役会はビジネスにおける気候リスクを包括的な視点で検討しなければなりません。取締役会は、頻度および破壊度を増している火災、干ばつおよび洪水が事業に与える潜在的リスクのほか、長期的に資本や人材、顧客を取り込みそして維持することが難しさを増している状況を考慮し、気候リスクおよび関連するシナリオプランニングを監督の対象に加える必要があります。気候関連リスクの包括的な検討の一環として、取締役会は以下を実施することが期待されます。

  • ステークホルダーの要求、移行リスクおよび気候関連の物理的リスクを理解し、それらを企業のERM(統合的リスクマネジメント)プログラムまたはその他の該当リスク評価に盛り込むよう経営者を促す。
  • 企業のシナリオプランニングが、一般的なERM評価よりも対象期間が長期にわたる気候関連事業の影響を識別するために十分堅牢かどうかを判断する。
  • 気候の影響を早期に察知し管理するために、企業全体で対応力を高める企業文化を推進する。

機会の評価

取締役会は、気候関連の動向、つまり物理的影響およびステークホルダーの期待の両方を検証しなければなりません。気候変動は、企業のビジネスモデルに有効に働く可能性もあれば、不利に働く可能性もあります。実際に、多くの企業において、気候問題が主力製品およびサービスに甚大な影響を及ぼしており、事業自体が存続の危機に陥っている事例も見られます。企業戦略の議論において、気候変動の影響に真正面から向き合うことは、取締役会が気候変動に起因するリスクを軽減するよう企業を導く上で有益なだけでなく、価値創造の新たな機会も生み出します。気候の現状に合わせて戦略を設定し直す際に、取締役会は以下を実施することが肝要です。

  • 企業のバリュー、ミッション、そして鍵となる資産を精査する。
  • 短期、中期および長期的に気候がどのような影響を及ぼす可能性があるかを精査するために、「気候による将来の影響」を分析する。
  • 気候に基づいて、製品、サービスおよび経営を再評価し、鍵となる資産および差別化のポイントを明確にする。
  • 将来の価値創造能力を損なうことなく、今日の企業価値の維持・向上に必要なバランスを検討する。

組織の一体化

気候関連の目標を達成するには、企業全体での取組みの促進が求められます。社内で連携していないサステナビリティグループが設定した目標を達成するのは非常に困難です。設定された目標の実現可能性を評価し、達成に向けて準備するために、取締役会は、全社的に目標達成に向けた明確な道筋を構築できるように、企業を支援しなければなりません。取締役会は、社内全体の気候対策の一体化を、以下のような方法で推進することができます。

  • 科学、企業の能力、および社内外のステークホルダーの関心に基づき、気候対策に関する会社の姿勢を確立するよう、経営者を導く。
  • 気候に関連する教育、一貫性のある発信、目標設定と実行における組織全体での連携を促進する。
  • 役員報酬および組織全体での報酬の考え方に関連して、適切な評価指標(メトリクス)およびインセンティブを検討する。
  • 温室効果ガスの削減推進に全体で取り組むために、消費者やビジネスコンソーシアム、官民のパートナーシップなど、経営者による社外への働きかけを検討する。

取締役会のガバナンス

気候課題に対応するためには、取締役会の構成、構造およびプロセスへ、気候変動に関連する事項の監督を確実に組み込むことが求められます。取締役会のメンバーは、方向性を示し、マテリアルな事項に集中的に取り組み、企業が長期目標と短期目標の適切なバランスを取れるよう支援するにあたり、以下について検討することが求められます。

  • 取締役会自体が、気候問題に対応できる体制を整えていることを確認する。取締役会の評価の一環として、取締役会が適切なスキルセットを有しているかどうか、気候問題について十分な情報に基づいた評価および議論を可能にするに足る継続教育を取締役が推進しているかどうかを評価する。
  • 気候関連のリスク・機会の監督および企業全体での取組みに関連する重要な問題に対処するために、取締役会の委員会の構造および議題を評価し、継続的に改善する。
  • 気候関連のコミットメントに関し、経営者がどのように取締役会に報告を行い、説明責任を負っているか検討する。

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