コロナ禍以降、大企業を中心に「理念に基づいた経営」に注目が集まるようになりました。また、不確実性が高まる時代に、一念発起してスモールビジネスを始める人も増えています。一方、このところデジタルやテクノロジーが私たちの生活に一気に浸透しつつあるのはご承知の通りです。この2つの事柄は別々の世界線の出来事ではなく、結びついていることは間違いありません。では、その先に広がる社会とは、どのような姿なのでしょうか?

本稿では、楽天グループ株式会社 楽天大学学長 仲山進也氏とKPMG Ignition Tokyo 茶谷公之が、テクノロジーやそれを受け入れる意識がどのように私達の生活や働き方、価値の見出し方や組織のあり方などを刷新しているかを俯瞰し、さらにポストコロナ時代の社会とはどのようなものか? 空想・妄想を巡らせて語り合った対談の内容をお届けします。

DXとは、「たまごの黄身に爪楊枝を刺すこと」 〜中小企業のトランスフォーム事例〜

仲山氏、茶谷

(楽天グループ株式会社 楽天大学学長、仲山考材株式会社 代表取締役 仲山進也氏(左)、株式会社KPMG Ignition Tokyo 代表取締役社長兼CEO、KPMGジャパンCDO 茶谷公之(右))※記事中の所属・役職などは、記事公開当時のものです。

茶谷:          仲山さんの話を聞いていると、中小企業における「DXの正式名称は、デジタルトランスフォーメーションではない」のだと感じました。ここをもう少し深掘りしたいと思います。

仲山:          デジタルは手段です。価値というのは人が感じるものであり、ECであろうが実店舗であろうが、お客さんはアナログな人間であることに変わりはありません。

だから、ツールがデジタルなだけで、トランスフォームするのはアナログの価値のほうなんです。つまり、「デジタルによるアナログ価値のトランスフォーム」というのがDXの本質なのではないか、特に中小企業にとってのDXとはそういうことなのではないか、と考えています。

結局のところ、「自分の生活が楽しくなりました」とか「便利になりました」とか、アナログ価値としてアウトプットされないとお客さんには感じられないので、ツールが変わってもそこだけは変わらないのだと考えます。

茶谷:        仲山さんは以前、SNSに「DXとはたまごの黄身に爪楊枝を刺すこと」と書かれていたと思うのですが、それはどういう話でしょうか。

仲山:          楽天に出店しているたまご屋さんが、あるときテレビで「このたまごは鮮度がいいから黄身に爪楊枝を刺せる」というネタでみんなが驚いているのを見かけました。そんなの自分にとっては当たり前すぎて、発信しようと思ったこともなかった内容だったといいます。一方で、以前から問題意識として「うちのたまごは九州では流通しているけど、全国的に見ると食べたことある人なんてほとんどいない。どうしたらうちのたまごの品質を試食したことない人にも伝えられるだろうか?」と考えていたのと相まって、ある企画が閃きました。

パスワード付きの商品ページを作り、「テレビで黄身に爪楊枝が刺さると話題になっていたので、うちのたまごでもやってみました。黄身に、爪楊枝は何本刺せたでしょうか? 正解の本数がパスワードになっています。入れた人はプレゼント応募してください」という企画です。

この企画は多いに盛り上がり、プレゼント応募時の自由記入欄に書かれたコメントが「めちゃめちゃ面白い」「家族で盛り上がりました」といった熱量の高いものが多かったそうです。

この企画のよいところは、ただ面白いだけではなく、「たまごの品質のよさが伝わる」という本質的な価値伝達ができている点です。こういう発想力と機動力が中小企業のDXに繋がると考えます。実は、もう20年以上も前の話なのですが。(笑)

茶谷:          デジタル前提で自分たちの提供価値を再定義する、というわけですね。

仲山:          そうです。「商圏が大きくなるからニッチなビジネスでも成立する」とか「お客さんとのコミュニケーションコストが劇的に下がるので価値伝達の可能性が広がる」とかいうデジタルの強みをどう活かすか、という視点が大事になるのです。

「フロー理論」を実践すればマーケティングが不要になる!?

茶谷:          一方で、商圏が大きくなったとしても、「ここにお店がある」ということに気付いてもらうには、いわゆるマーケティング活動が必要だと考えますが、それは難しいことでもあると思います。そのあたりの解決法は何でしょうか?

仲山:          それこそ、先ほどお話しした「フロー理論」に繋がってくるのだと思います。「戦う眼鏡屋」さんなど、中小企業における「DX」が上手くいった会社は、働いているか遊んでいるか分からない感じで日々ワクワクしながら活動しています。自分が楽しいと思うことを発信し続けると、どんどん周りの人が喜んでくれて、繋がりが増えていく、という好スパイラルが続いていくのです。

実は、きちんと価値をデザインした上で、フローの状態でお客さんと「遊ぶ」ということを続けていけば、「集客」という概念は必要なくなると考えています。今はソーシャルメディアが普及した時代なので、オンラインの口コミで情報が広がることもあるし、自分のビジネスの周辺にコミュニティができる状態を作れてしまう、と。DXやITが上手くいっている中小企業は、そうした考え方を持ち、行動していると感じます。

フロー理論

フロー理論

茶谷:          確かに、遊びや趣味のネットワークとのコミュニケーションは早いものですよね。飲み会やゴルフコンペの日程調整は凄まじく早く終わるのに、どうして会議の日程調整はこんなに時間かかるのか、と思います。それは向き合う熱量の違いによるものですよね。(笑)

仲山:          そうですね。(笑)

話を戻すと、集客という概念ではなくコミュニティの輪を広げる、というのは自分でも重点的に実践してきています。私が楽天でやってきたことは、出店者さんと「遊び」ながら横の繋がりを作っていって、結果として出店者コミュニティが形成された、ということだと考えています。

あまり認識されていませんが、楽天市場は20年前からSaaSビジネスなんです。SaaSビジネスは、お客さんがいかにサービスを上手く使えるようになるかで価値が変わります。出店者さんが楽天のシステムを上手く使えば使うほど皆さんの商売が上手くいって儲かる、ということが重要なので、プラットフォーマーとしては上手く使える人を増やすのが非常に重要な活動になります。

教育や育成が上手くいけば自分達のビジネスにも還元されるモデルで、プラットフォーマーである楽天と出店店舗の皆さんが1対Nの関係しか作れないと、こちら側のリソースがすぐに不足してしまいます。

そこで、N対Nになるよう横の繋がりを耕していって、「この機能ってどうやって使ってる?」とか「そういう問題意識なら、このサービス使えばいいよ」といったことを教え合ったり、「うちは月商1000万円を超えたよ!」「おめでとう! 自分もがんばる」などと仲間同士で刺激をし合えるコミュニティになっていけばいくほど、ハッピーな「自走人」が増えていきます。

茶谷:          なるほど。まさにコミュニティがあるからビジネスが成長していく、というわけですね。

仲山:          そうです。ここ数年、プラットフォーム型のSaaSモデルを展開している人から「楽天大学のことについて聞きたい」という相談が増えてきました。

課題になっていることを聞いてみると、ほとんどのお悩みが、「そういう悩みありますよね。楽天でもありました。コミュニティが豊かになることで解消しました」というお返事になります。

私がやってきたことはシンプルで、横の繋がりを作って、皆さんが学び合える場にしていくことで、自然と売り上げも上がってくるし、新機能に積極的に取り組んでくれるし、出店者の皆さんは楽しそうに仕事をするようになって「楽天に出店して良かった。ありがとう」と言ってくれるし、退店する人も減るし、口コミで「友達が楽天に出店したいと言っているので紹介したい」と新規営業にも繋がっていくし、そうした声を聞くと私たちも仕事が楽しくなるし、という好循環が生まれます。顧客コミュニティをきちんと育むことができれば良いことしかない、と感じます。

そうやって学び合いが続くうちに、例えば、モノを仕入れて売る商売をしていた店舗さんにファンベースが生まれ、支持してくれるお客さんが一定数を超えるとプライベートブランドの商品の「ロットの壁」を越えることができるようになって、メーカーになっていくわけです。いわゆるD2C化することで、利益率も上がり、より自分達の世界観を出せるようになっていきます。

そのステージアップも、良質なコミュニティがあれば先人からノウハウを教えてもらうことができるわけです。だから、コミュニティが豊かになれば良いことしかないのです。

茶谷:          そういうコミュニティは、やはり自走できる人の集まりでなければ成り立たない、ということになりますね。

仲山:          そうです。誰かが指示してくれるわけではないですからね。

「組織のイヌ」に違和感がある人のための「組織のネコ」

組織の動物4タイプ

組織の動物4タイプ

茶谷:        次は仲山さんの最新の著書について話を進めていきましょう。『「組織のネコ」という働き方 「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント』(翔泳社)が2021年11月10日に発売されました。「組織のイヌに違和感がある人のための組織のネコ」というのは、非常にキャッチーだと感じます。少し内容についてお話しいただけますか?

仲山:          「組織のイヌ」という言葉は慣用表現だと思うのですが、「働くとは、組織のイヌとして活動すること」という認識の人が多い気がします。

このあいだ、大学生と働き方について語る授業に呼んでもらった時、「働くってどういうことだと思いますか?」と尋ねると、「食べるためにお金を稼ぐこと」「組織のイヌになること」といった答えが多かったんです。

「組織のイヌ」的な働き方は、野球型OSにも近くて、「指示命令されたことをちゃんとやる」ことで、組織に忠実であろうとする価値観です。

イヌの人は、企業が順調に成長しているときは「健やか」に働けるのですが、最近多発する企業の不祥事の背景には「上司から言われてやった」というのが多く、それを“忠実”にこなしたビジネスパーソンが心に大きな負担を抱え込み、最悪の場合は命を絶ってしまうケースが見受けられます。

そうしたことが起こるのは、おそらく事業や組織の賞味期限が切れてしまっているからではないかと思うのです。

高度経済成長期を経て大きくなった大企業も、創立当初は社内全体で“わちゃわちゃ”と賑やかにしながらフローな集団として夢中で働いていたと想像します。

しかし、規模が大きくなって分業化されたあとで、環境が変わったことで事業や組織の賞味期限が切れて色々なことが上手くいかなくなったにもかかわらず、変化を拒み続けたせいで取り繕うために不正を指示しなければならなくなったのではないか、というのが私の見立てです。

工業社会において会社が伸び盛りの時は、全員が「組織のイヌ」として動いた方が効率は上がりやすいので、頑張れば頑張るほど業績も伸びていって「仕事って大変だけど報われるね!」という状態だったと思うのですが、正解のない時代になると行き詰まります。

そこで、「組織のネコ」という選択肢があると知っていたら救われる人がいるはず、というのがあの本の提案です。

「組織のネコ」は、不正を指示されるなど自分のポリシーとは反するようなことを指示命令された時には、組織を優先するのではなく、自分の価値基準で「No」と言えるようなあり方です。

例えば、顧客をないがしろにしてでも売り上げを作れ、と言われた時に、「それはやりたくない!」と考えて、やらずに済むようにしたり、聞いていなかったかのようにスルーしたりといった振る舞いをするのが「組織のネコ」です。

そのスタイルを貫くためには、そうした場面に直面する前からお客さんにしっかりと価値を提供し、喜んでもらうことをやり抜いて、自分のことを支持してくれるお客さんに囲まれている状態を作る働き方をしなければなりません。

現状として、元々はネコなのに、「働くとは組織のイヌになること」と思い込んでいる「イヌの皮を被ったネコ」が少なくないと見ています。その人達は、所属する会社が賞味期限切れを起こして「組織のイヌ」として上手くいかなくなると、早々に「イヌとして働く意味がわからなすぎる」としんどさを感じるはずです。

加えて、「組織のネコ」は、お客さんに喜んでもらいたいので、新しいことを始めるのに抵抗がありません。昨今、世間では新規事業開発が大事だ、という流れがありますが、そのためには「組織のネコ」が活躍しやすい環境を整えていくとよいと思います。

茶谷:          確かに。新しい事業や過去に例がないプロダクトを起こす時は複数の事業間を飛び回って可能性を繋げる“受粉”のような働きかけができるミツバチ的な人達が必要で、それはまさにソニー時代の私を色々と助けてくれた「不良社員」の先輩達が担っていたのだと思います。

そういった本質を大事にする人達、「これとこれをくっつけた方が面白いのでは?」といったことを平気で言える人達を見つけるのは、凄く重要ですよね。今、「組織のイヌ」と「組織のネコ」の話が出ましたが、ほかに「組織のライオン」と「組織のトラ」がいますよね?

仲山:          ネコがレベルアップするとトラになります。組織にいながら自由に動いて、新しい価値を生み出していく、ネコにとっては憧れの存在です。ライオンは、組織の中央にいて群れを統率する、従来の「優れたリーダー」タイプです。

茶谷:          では、今後は優れたリーダーがトラになっていくのが理想的な転換と言えるのでしょうか?

仲山:          トラの人達は変革人材です。これはまさに前編で話題に出た『人材は「不良社員」からさがせ:奇跡を生む「燃える集団」の秘密(講談社)』の書籍で、「変革を起こすのは不良社員である」と書かれているのと重なります。

トラは、イヌの人から見ると「何なの、あの人達!!」とか、「こっちはちゃんと言われた通りやっているのに、あの人達はちっとも守ってないんですけど!」などと言われることが多いイメージです。

あるいは、「あの人、全然会社に来ないでどこかで何かやっているみたいなのですが、何なんですかあれは!? どうしてそれが許されるんですか!?」と、問題児扱いされるかもしれません。

そうしたことを言われようとも、トラは、「こことここをくっつけたら面白そう」と動いたり、誰かとおしゃべりしているうちに仲良くなってコラボで新しい何かを生み出してしまったりします。そういう人達が動きやすい環境を作れると、これからの経営としては良いですよね。

茶谷:          確かに、新規事業やイノベーションの生まれ方というのはそうした流れで出てくるのだと思います。

会社の枠にとらわれない価値創造 〜仕事ではなく「一緒に遊ぶ」〜

茶谷:          最近は「DXを推進せよ」が会社内の合言葉になっているようですが、AIが注目されるようになった頃には「AIで何かせよ」の大号令がかかっていたものです。ただ、それをしようとすると、どんなに社会的に認められた企業だったとしても「企業の“自分探しの旅”」が始まってしまうものなのだと思います。「そもそも自分たちの会社が何のために存在しているのか」という存在価値を見つけなければ始まらない、というわけです。

最近はESG経営の文脈でパーパスの重要性が語られることが多いですが、それを見つけなければならないし、本来なら普段から社員やそれを支える人達一人ひとりが考えなければならないはずです。

仲山:          そうですね。今後はさらに、会社の枠にとらわれない価値創造、Co-Creation(共創)関係が求められるのだと思います。

「遊ぶ人=自分」がいて、「遊び仲間=お客さん、異業種だけでなく同業も含めた他社、フリーランス、NPO、行政団体」がいて、「面白い遊び=プロジェクト」があって、「同じ価値観」で楽しめる、という価値創造のしかたです。Player、Partner、Project、Philosophyなので、「共創の4P」と呼んでいます。

茶谷:          そういったことができる人が増えていくのは大事ですが、その素地は経験に基づくのでしょうか? 教育してそうしたことができるような“何か”が身に付くものなのでしょうか?

仲山:          まず、「そういう人がいる」のを認知する機会が増えることが大事です。例えばサッカーで言うなら、今の子ども達は私達の時代とは比べ物にならないくらい一流プレイヤーのプレー動画を見る機会が多いので、とても上手になっていますよね。

それと同じで、「見てマネできる環境」があるかどうかが重要で、それがあれば「できる人」が勝手に増えていくと思います。

マネするうちに小さな成功体験を味わえると、「こういう働き方で食べていけるじゃないか!」と思える人が増えて、結果的に働き方が変わっていくと考えます。

茶谷:          なるほど。それはもう10年後や20年後に実現するかもしれませんね。

仲山:          そうですね。もうすでに起き始めていると思います。

「遊べるだけのスキル」を身につけるには?

茶谷:          「一緒に遊ぼう!」という感覚でCo-Creation(共創)する働き方に移行していくとなれば、「遊べるだけのスキル」を身に付けることも必要でしょう。そこについてはどのように考えられますか?

仲山:          仕事のスキルや能力を身につけるための考え方として、「加減乗除の法則」があります。最初のうちは、より好みせずに何でもやってできることを増やす「加」のステージです。できることが増えていくと、より多くの仕事を任せられるようになり、キャパオーバーの状態になります。そのはみ出た分を何とか工夫してやっているうちにいつの間にかこなせるようになると、それは「自分の強みが発揮されたことによって生産性が上がった」ということ。その時に初めて「自分の本当の強みが何なのか?」が浮かび上がったと言えます。

働き方の4ステージ「加減乗除の法則」

働き方の4ステージ「加減乗除の法則」

そうして自分の強みが把握できたら、次はその強みを磨くための仕事を選び取り、関係ないものは手放していく「減」のステージに進みます。他の人から見ても「あの人はこれが得意だよね」というレベルにまで強みが突き抜けると、「その強み、今やろうとしているプロジェクトで活かしてほしいから一緒にやらない?」と誘われるようになります。それが「乗」のステージです。

ネコの人がトラになるには、この「加」と「減」をやり切ることが重要です。総じて、「今、自分はどのステージにいて、自分にとって必要なことはなにか?」を頭の中で整理しながら、今やるべきことに集中して夢中でやる、というのが大事です。

茶谷:          よく理解できます。付け足すとするなら、大きな会社の方が人物像のサンプルが多いので、多様な人材に触れやすい、ということではないでしょうか。

最近は学生のうちにスタートアップ企業を立ち上げることが珍しくなくなってきましたが、そうするとメンバーはみんな同じ世代で同じような生い立ちの人になりやすいものです。外部には色んな人がいたとしても、社内に年齢や経験、キャリアのバックグラウンドなどの多様性が実現しづらいケースも少なくないと想像します。

仲山:          組織内の多様性という意味では、「組織のイヌ・ネコ・ライオン・トラ」の四象限の実際の分布は、イヌが多数派でネコは少数派です。ネコ・トラは新規事業の立ち上げが得意ですが、軌道に乗ると興味を失いがちです。運用はイヌが得意なので、しっかりバトンタッチできる仕組みになっていると、うまく役割分担ができた組織になります。

イヌ型の企業では、トラは生息できません。何か新しいことを始める時、事前に詳細な計画を要求したり、KPIの報告などを求め過ぎると、トラにとっては居心地が悪すぎて辞めてしまいます。

一方、トラが生存しやすい会社なら、ネコにとっても居心地がよいことになります。トラが生きていけない環境だと、ネコは仕方なくイヌの皮を被ることになります。

茶谷:          イヌ型の企業でトラの生息域を守ることは難しいでしょうね。少しは理解のある経営者だったとしても、生息域を守るまでは色々なしがらみもあれば難しいと想像します。

仲山:          だからこそ、トラやネコという存在を言語化することによって、「トラみたいな人、ネコみたいな人ってやはり必要だよね」というコンセンサスを社会に作りたいなと思っています。

ポストコロナは「縄文2.0」である!

仲山:          そろそろ最後かと思うので、私から、未来を妄想する話をひとついいですか? 組織やチーム作りのことを考えていくと、「分業型の仕事の仕方はいつから始まったのだろうか?」という疑問に行き着いて、「弥生時代にコメ作りが始まってからだ」という考えに至るのです。

コメ作りは村人全員で協力してやらなければいけません。この時期にはこういう作業が発生するから役割分担してこれだけの仕事をやろう、と一番上手に指示できる人がリーダーになるわけです。

それ以前の縄文時代の働き方は、各自が強みを活かした仕事をやることでムラの生産高を最大化していました。

例えば、イノシシを狩るのはとても苦手だけれども貝を拾わせたら他人の3倍は採ってくる、という人を「イノシシ事業部」に配属しちゃうと、ムラの生産高は上がりません。

だからこそ、全員が自分の強みを生かして生産高を最大化し、余ったものは隣の村と交換する、といったやり方でコミュニティを円滑に共同運営していたのが縄文時代です。

そう考えると、弥生時代以降の働き方である「分業スタイル」が行き詰まったあとは、螺旋が一周して「縄文2.0」になるのではないかと。

弥生の流れから縄文2.0へらせん的発展?

弥生の流れから縄文2.0へらせん的発展?

茶谷:          ある種、既に存在する様々な特異な機能を持ったマイクロサービスを繋いでいくということですよね。今日では、そういった集合体が形成されるコミュニケーションやデリバリーコストが下がった分、大きくある必要はなく、様々な機能をひとつの傘の下に集めて保有する必要はなくなる、とも考えられます。

仲山:          まさにそうです。そもそもIT系のスタートアップ企業を見ると分かる通り、大企業である必要がないからスタートアップとして立ち上がっているわけです。大企業でなくてもいいどころか、大企業でない方が上手くいきやすい、といったことまで考えると、「なぜ会社を大きくしなければならないのか?」という疑問に行き着きます。成長至上主義について、きちんと考え直さなければならないでしょう。

茶谷:          確かに、おっしゃる通りですね。

仲山:          「縄文2.0」については、「SINIC理論」が示唆に富みます。原始社会から始まって螺旋がぐるっと一周するモデルです。今は工業化・情報化社会が終わって行き過ぎた部分が最適化される社会(最適化社会)に突入する時代だと位置付けられています。SDGsの流れなどは、まさに最適化社会を象徴する事象です。

「SINIC理論」と「縄文2.0」

「SINIC理論」と「縄文2.0」

工業化社会が昭和の事業のあり方とするなら、その賞味期限が切れていることが社会的に共有され始めていると読み解けます。

特にコロナ禍によって「賞味期限切れしたものの見える化」が進み、オンラインの普及によって遠くの人とも価値を共創しやすくなり、また価値をシェアしやすくなっています。これが次の「自律社会」に移行するきっかけになり、その先の「自然社会」へ繋がります。それが新しいコミュニティ型の社会「縄文2.0」なのではないかと考えています。

茶谷:          次の数千年が始まるところに立っている、ということですね。今の「縄文2.0」の話を聞いていると、最近、企業やそこに集まる人が「リアルなオフィスが中心」という感覚を持たなくなったことや、それぞれの家からある仕事のためにみんなでオンラインに入って一緒に働くことが当たり前になったことが連想され、もう仲山さんが妄想している未来の働き方に向かうメンタリティの準備ができ始めているのだな、と感じました。

対談者プロフィール

仲山氏

仲山 進也
仲山考材株式会社 代表取締役
楽天グループ株式会社 楽天大学学長

創業期(社員約20 名)の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。
2004 年には「ヴィッセル神戸」公式ネットショップを立ち上げ、ファンとの交流を促進するスタイルでグッズ売上げを倍増。
2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立、考える材料(考材)をつくってファシリテーションつきで提供している。
2016〜2017年にかけて「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。 
20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を探求している。
「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。
著書『「組織のネコ」という働き方』『組織にいながら、自由に働く。』『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』『育成の本質』ほか多数。

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