「eスポーツ市場拡大の利点」第1回。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で多くの経済活動がダメージを受けるなか、追い風を受ける形となったのがゲーム産業です。多方面で進化を遂げるゲームビジネスの1つであるeスポーツについて、発展した背景をもとに解説します。
本連載は、日刊工業新聞(2021年4月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

コンピューターゲーム対戦競技「eスポーツ」関連市場が広がりを見せている。プロリーグ設立や大会運営などに参入する企業や、eスポーツを地方創生につなげる自治体も出てきた。この動きを拡大するにはどうすべきか。本連載ではeスポーツを取り巻く世界の動向、ビジネスの事例や周辺産業を紹介しながら、日本市場の現状や抱える課題を分析し、eスポーツになじみのない企業・自治体でも取り入れることの利点を説明する(10回連載)。

2020年は新型コロナウイルスの影響で世界の経済活動が大きなダメージを受けるなか、追い風を受ける形になったのがゲーム産業だ。米ニューヨーク・ポストによると、2020年の世界のゲーム産業の売り上げは前年比20%増で19兆5000億円を超え、コロナ禍の影響がなかった前年の映画・スポーツ産業の売り上げの合算を上回った。
しかし、この要因を単純に「コロナ禍による余暇の時間が増加したから」「最近のゲームコンテンツが昔より面白いから」と説明するのはやや短絡的と言える。ゲームビジネスは以前と比べ、いろいろな面で進化を遂げている。ゲーム産業に関わるビジネスステークホルダーが増えた結果、より大きなエコシステムとなっている。その進化の1つであるeスポーツについて、発展した背景をもとに説明したい。

従来のゲーム産業はゲームをするプレーヤー側に焦点が当たり、ゲームコンテンツを作るゲーム会社とプレーヤーの間の1次ビジネスにとどまっていた。だがゲームから派生したeスポーツは「ゲームを競技として見て楽しむ」、つまり試合中の戦略・戦術・操作テクニック、チームや選手のストーリーなどを一般のスポーツと同等に観戦するようになった。
この変化を受け、ゲームをまったくプレーしない層も(ゲーム内のルールを理解すれば)ゲーム観戦で時間を過ごし、オンラインやオフライン上に観戦のために集まり、関連サービスにお金を使うことにつながり、新たな2次・3次ビジネスが生まれ始めた。

こうした「ゲームのスポーツ性とビジネス」にいち早く着目した海外では、およそ20年以上前からリーグ大会の開催、企業のスポンサー参入、コンテンツとしての試合放送、プロチーム・プロ選手の登場などスポーツ産業と同じようなエコシステムをeスポーツでも形成している。国によって人気ゲームタイトルや発展の仕方、方向性は異なるが、eスポーツ市場は全世界で1つの巨大なコミュニティとなっている。

世界のゲーム産業3位の日本はさまざまなゲーム会社やスタジオ、ゲーム関連ビジネスが多く存在するゲームインフラの豊富な強国である。このような世の中の動きはゲーム産業とは直接関係のなかった事業者にとって大きなチャンスである一方、日本のeスポーツ産業は比較的歴史が浅いことから、課題も複数存在している。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター Hyun Baro

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日刊工業新聞 2021年4月23日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

eスポーツ市場拡大の利点

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