サーキュラーエコノミー時代におけるリサイクルが素材産業へ及ぼす影響

環境対応への関心の高まりに伴う、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、素材産業におけるリサイクルシステムの現状と予測される変化への対応に際し、着目すべきポイントを考察、解説します。

サーキュラーエコノミーへの移行はリサイクルシステムの変化へ影響を及ぼします。リサイクルシステムの現状と、素材産業におけるその変化に対し対応するべきポイントを考察、解説します。

サーキュラーエコノミーへの移行に伴い、リサイクルシステムも今後変化していくことが想定されます。本稿では、リサイクルの現状やこれからのリサイクルシステムにおいて素材産業が着目すべきポイントなどを考察したうえで、素材産業が今起こりうるリサイクルシステムの変化に対し、素材産業がどのように対応していくべきかについて解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT1 サーキュラーエコノミーへの移行と素材産業の役割
サーキュラーエコノミーにおいては、廃棄物を発生させずに物質循環のループを閉じるリサイクルシステムの構築が求められる。素材産業はリサイクル原料を作り出し、再循環のスタートポイントを担っている。

POINT2 サーキュラーエコノミーに求められるリサイクルの目指す姿
すべての廃棄物が最終処分されることなくリサイクルされ、新たな原料の投入を最小限とするモノづくりを実現するために、製造業など製品を作り出す動脈産業と、その廃棄物の回収・分解・再利用などを行う静脈産業のあり方を考えなければいけない。

POINT3 目指すリサイクルシステムの実現に向けた課題
今後、目指すべきリサイクルシステムにおいては、情報共有がキーワードとなる。また、サーキュラーエコノミーにおいては、素材産業は既存製品の販売量の減少など、収益に及ぼす影響への対応が求められる。

POINT4 課題解決に向けた素材産業のアプローチ
資源循環プラットフォームの構築によるサプライチェーン間の情報共有が期待される。そのためには、このプラットフォームを社会実装するための検討事項を認識しておく必要がある。また、素材産業においても製品のサービス化に取組み、新たな事業機会の獲得を目指していかなければいけない。

I.サーキュラーエコノミーへの移行と素材産業の役割

近年、サステナブル社会の実現に向けた企業活動が加速度的に進行し、業界によらずESG経営の実現に向けた取組みが行われています。サーキュラーエコノミーは、ESG経営を実践するメソドロジー(方法論)と捉えることができます。図表1に示すとおり、従来型経済であるリニアエコノミーは「採る」「作る」「使う」「捨てる」の文字どおり一方向の経済システムです。

日本では、公害や環境問題が顕在化してきたなか、3R(Reduce、Reuse、Recycle)政策が1990年代から推進されてきました。ただし、3Rは資源を効率的に活用するものの、図表1のリサイクルエコノミーに示すように、最終的には廃棄が前提となっていることから、リニアエコノミーの延長線上での取組みといえます。

一方、サーキュラーエコノミーは廃棄物を発生させず、物質循環のループがクローズしています。このサーキュラーエコノミーにおいて、「加工・製造」については部品メーカーや最終製品メーカーが再利用しやすい製品設計を行うなどの取組みを目指しています。「消費・利用」ではリユース、シェアリングなどに関するサービスの拡大・進展が想定されます。そして、製品として使い倒されたのちに「リサイクル」されるわけですが、サーキュラーエコノミーにおけるリサイクルは廃棄をゼロとするものです。つまり、完全な循環型にするための重要な機能を担っているというわけです。素材産業は、リサイクル原料を作り出す、いわば再循環のスタートポイントを担っています。これは、素材メーカーがサーキュラーエコノミーでのリサイクルの構築において重要な役割を果たすということです。市場のなかでどのように素材を循環させるか。素材メーカーには、新しいリサイクルシステムの設計をリードすることが期待されています。

日本企業は先にも述べたとおり、3R政策を進めてきましたので、リサイクルに関する技術については、豊富かつ高度なノウハウ・知見を蓄積しており、他国に比べ優位性を有していると考えられます。

一方、ビジネスとしてはリサイクルが大きく企業に貢献している事例は多くありません。現状では、「環境は儲からない」「リサイクル事業はビジネスとして成立しない」というイメージが先行していると思われます。しかし、サーキュラーエコノミー時代においては、「環境は儲からない」から「環境に取組まないと事業を継続できない」という状況に移行しつつあります。

本稿ではサーキュラーエコノミーのなかでも特にリサイクルにフォーカスし、素材産業がとるべきアクションについて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

図表1 リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーの違い

図表1 リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーの違い

出典:KPMG作成

II.サーキュラーエコノミーに求められるリサイクルの目指す姿

1.アンバランスな動脈・静脈の産業構造

人間の血液循環に例え、製造業など製品を作り出す産業を「動脈産業」、その廃棄物の回収・分解・再利用などを行う産業を「静脈産業」と呼びます。戦後の高度経済成長期やバブル景気を経るなか、動脈産業は大きく発展を遂げました。素材メーカー、部品メーカー、最終製品メーカーそれぞれで日本を代表する動脈メジャーが生まれ、成長してきたのです。しかし、その華々しい経済成長の陰では、大量生産、大量消費、大量廃棄が繰り返され、地球温暖化、環境汚染をはじめとする問題を引き起こしたとされています。

一方、静脈産業は、国内では基本的に地場企業もしくは中小規模の回収業者、解体業者、リサイクル業者および地方自治体が担っています。

この動脈・静脈産業の企業規模、市場規模のアンバランスが一因となり、動脈産業において作り出される製品のリサイクルが静脈産業側で対処しきれない状況を引き起こしていると考えられます(図表2参照)。

図表2 現状のリサイクルシステム

図表2 現状のリサイクルシステム

出典:KPMG作成

2.サーキュラーエコノミー時代のリサイクル

リサイクルの種類は、国内では廃棄物を単に焼却処理せずに、焼却の際に発生する熱エネルギーを回収・利用する「サーマルリサイクル(熱資源化)」と、廃棄物を原材料として再利用する「マテリアルリサイクル」の2種類に区別されます(廃プラなどの化学製品に関しては、化学反応により組成変換した後にリサイクルを行うケミカルリサイクルを区別しているが、本稿では広義のマテリアルリサイクルとして扱う)。日本は、このサーマルリサイクルとマテリアルリサイクルを合算した再資源化率をリサイクル率と定義しています。たとえば、ASR(自動車シュレッダーダスト)の2020年度の再資源化率は、経済産業省の「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書」(令和3年7月)によれば96.1%(サーマルリサイクル:69.0%+マテリアルリサイクル:27.1%)です(図表3参照)。

図表3 ASR(自動車シュレッダーダスト)のリサイクル状況

図表3 ASR(自動車シュレッダーダスト)のリサイクル状況

出典:自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(経済産業省、令和3年7月)をもとにKPMG作成

一方、欧米のリサイクルの定義では、サーマルリサイクルはリサイクル率としてカウントされていません。これは、サーマルリサイクルは廃棄物(モノ)を焼却処分しているため、モノをモノとして再利用していない、つまり物質循環のループが閉じられていないからです。そのため欧州では、サーマルリサイクルはサーキュラーエコノミーの概念に当てはまらないとされています。

日本は、欧州をはじめとした他国に比べて、サーマルリサイクル率が高い傾向にあります。その要因としては、日本には最終処分場の逼迫という歴史背景があり、ごみを焼却してカサを減らしてから埋め立てをするべきという考え方が長年根付いていることが考えられます。しかし、近年では日本でも、マテリアルリサイクルの割合を高めることが求められるようになりました。2019年に循環型社会形成推進基本法に基づき「プラスチック資源循環戦略」が発表され、2030年までにプラスチックの再生利用を倍増することがマイルストーンとして設定されたからです。先ほどのASRの例でいえば、マテリアルリサイクル率は27.1%に過ぎません。したがって、今後はいかに廃棄物を発生しないマテリアルの循環システムを実現するかが重要となっています。

このマテリアルリサイクル率の向上にあたっては、技術革新のみならず物流システムの革新なども必要になります。しかしながら、静脈産業の実業を担っている地場企業や中小企業の技術力・資金力を鑑みると、静脈産業に身を置く企業の努力だけでマテリアルリサイクル率を向上するのは容易ではないと思われます。

3.素材産業のリーダーシップによる産官学連携

リニアエコノミーでは、動脈産業にて製造される製品が市場に送り出される物量と静脈側にて処理される廃棄物の量に差異があったとしても、バージン原材料を投入することで、新しい製品の製造を維持することが可能です。ただし、これは原材料が無限にあれば、ということが前提になります。しかし、現実には地球上の資源には限りがあります。

一方、サーキュラーエコノミーにおいては、バージン原材料の投入の最小化が求められるため、リサイクルされた原材料を利用して製品を作り出す必要があります。そのため、素材メーカーはじめ動脈産業が生産活動を維持していくには、静脈産業の生産性改善が必要となります。動脈産業と静脈産業、両者が一体となって経済活動を回していかなければならないのです。そのためには、動脈産業と静脈産業が一体となった動静脈一体型リサイクルシステムへのシフトが必要となります。

実際に近年、大手化学メーカーとリサイクル企業の業務提携に向けた検討が開始されるなど、動脈メジャーとリサイクル企業の連携に関する動きも出始めています。その1つとして、化学メーカーが培ってきた製品の製造技術と、リサイクル企業が有する廃棄物リサイクルのノウハウの融合により、回収された廃棄物を製品として再生させるマテリアルリサイクルの社会実装があります。また、静脈産業側の企業は先に述べたように中小企業が主であり、資金力の面で最新鋭の処理システムの導入が困難なケースも考えられます。そこで、動脈産業と静脈産業の業務提携からもう一歩踏み込み、動脈産業側メジャーが静脈側の事業を拡大してリサイクル事業を一括運営するというアプローチも考えられます。

素材産業は、動脈産業のなかでも最上流にあります。そして当然ながら、素材そのものに対する知見は、他産業の企業よりも多く有しています。新規リサイクル技術の開発も、大手素材メーカーを中心に大学や各研究機関との連携によって精力的に進められています。素材メーカーが自社が生産した材料をどのように回収し、再生するのか。素材メーカー自らリサイクルの全体像を描き、仕掛けていくことが望ましいと考えられます。

その際、現在の静脈側企業とはパートナーとしてネットワークを形成する、場合によっては素材メーカーのグループ企業として取り込む形での動静脈一体化も選択肢となるかもしれません。さらに、現在の規制や法律の改正なども必要になることが想定されます。その場合、政府や自治体を巻き込んだ動静脈一体型リサイクルシステムの構築なども働きかけていく必要があると思われます。

III.目指すリサイクルシステムの実現に向けた課題

動静脈一体型リサイクルシステムの実現に向けては、大きく以下の3つの課題があると考えられます。

1.サプライチェーン間の情報共有

前述のとおり、サーキュラーエコノミーにおいてはマテリアルリサイクル率の向上が重要ポイントになります。現在、廃棄された製品が静脈産業において滞留し、長期にわたり処理されずに放置されていたり、本来、正しく分別されていればリサイクル可能なものが、適切な静脈産業のフローに乗らず最終処分されているケースが少なからず発生しています。このような廃棄物が、マテリアルリサイクル率改善の阻害要因の1つになっていると考えられます。

繰り返しになりますが、サーキュラーエコノミーでは廃棄物を出さずに物質が再循環します。これは、素材メーカーが生産した材料が可能な限り素材産業に戻ってくることを前提としています。この前提を実現するには、素材メーカーは自社が生産した製品を回収しなければなりません。そのためには、サプライチェーンにおける自社製品の所在を把握できることが理想となりますが、現状そのような状況にはありません。

また、回収した廃棄物から取り出した再生原料をリサイクル原料として利用するためには、再生原料の高品質化も求められます。しかし、動脈産業側の要求品質に応えるためには、労力をかけて廃棄物の分類・処理を行わなければならず、コストが上がってしまいます。逆に、コストを下げるために処理を簡素化すると、動脈産業側で利用可能な品質のリサイクル原料を作ることができません。しかし、製品のどこにどのような素材が使われているか、自動車でいえばパワートレインに含まれる素材がどこで使われているかの情報が解体業者に共有されていれば、解体の労力・コストが大幅に下げられると考えられます。

ただ、このサプライチェーン間における情報共有は、現状ではなかなか実現できません。なぜならば、自社の競争力の源泉となる設計情報を廃棄物回収業者、解体業者、リサイクル業者などに積極的にオープンすることに対して、一般的に自動車OEMは消極的だからです。以上、サプライチェーン間における情報の共有の仕組みの構築が1つ目の課題となります。

2.廃棄物中の化学物質情報の把握

リサイクルされた原料は、厳密な成分管理が必要となることから、その原料となる廃棄物のなかの組成情報を把握する必要があります。さらに、リサイクルの段階で有害な化学物質を排除することも求められています。こうした理由から、製品に含まれる化学物質情報の重要性は従来よりも増加しています。

日本や欧州では、製品中の化学物質情報を材料、部品、製品メーカーの間で共有する仕組みが導入されています。たとえば、日本では製品含有化学物質の情報伝達共通スキーム「chemSHERPA」が経済産業省の主導で2015年に開発・リリースされました。一方、廃棄物処理業者やリサイクル業者には、このような情報は共有されていません。

一般的に、静脈産業の企業が扱う廃棄物は製造元、製品ともに多岐にわたり、個々の廃棄物ごとに含まれている部品・素材を判別するには大変な労力を要します。また、製品の製造・使用から廃棄までの間には時間差もあり、製品によっては製造後10年以上たってから廃棄されることもあります。そのため、廃棄時点で製造時の情報が十分に残っていないケースも考えられます。

このように、現状ではいったん市場に流通してしまった製品の化学物質情報の可視化・共有は十分になされていません。そのため、静脈産業にて効率的な資源の回収、分解、リサイクルができない状況にあります。

3.リサイクル原料活用が及ぼす収益への影響

一般的に、リサイクル原料を使用した製品は、バージン原材料を使用した場合に比べてコスト高になります。これは、今後リサイクル原料に切り替えていくことにより、収益性が悪化する可能性があるということです。リサイクル原料であることを付加価値として製品価格に上乗せすることができればよいのですが、それを受け入れる社会の醸成、もしくは法律・規制による強制力といった環境変化を待たなければ難しいかもしれません。そもそもサーキュラーエコノミーでは、よりエネルギーを消費せずに製品を使い続けることができるリユース、リファービッシュ(中古品を製造元が修理・整備して再販売すること)を優先して製品の再利用を行います。そのため、サーキュラーエコノミーにおいては、素材メーカーは自社の素材(製品)の販売機会が減少、すなわち売上が減少してしまう可能性があります。したがって、素材メーカーは動静脈一体型リサイクルシステムの導入と自社の成長の両立を実現するために、新たなビジネスモデルを検討する必要があります。

IV.課題解決に向けた素材産業のアプローチ

1.資源循環プラットフォームの構築

前章で述べた3つの課題のうちの「1.サプライチェーン間の情報共有」および「2.廃棄物中の化学物質情報の把握」の課題解決に向けたアプローチとして、図表4に示すような製品・成分に関する情報をサプライチェーン間で共有する資源循環プラットフォームの構築が考えられます。このプラットフォーム実現におけるポイントは以下の3点です。
(1)動脈産業だけでなく、静脈産業も含めた資源のトレーサビリティが担保されている
(2)リサイクル原料の成分情報、品質情報に加え、その製造プロセスや検査プロセスの情報等が可視化されている
(3)部品サプライヤーや最終製品メーカーが製造する製品の設計・仕様情報、加工情報などをセキュアかつ適切な範囲で開示が可能である

これらを実現するためには、ブロックチェーンや暗号化技術の活用が必須になると考えられます。

図表4 資源循環プラットフォームの概念図

図表4 資源循環プラットフォームの概念図

出典:KPMG作成

2.資源循環プラットフォームの社会実装に向けた検討事項

現在、このような資源循環プラットフォームの形成に取組む素材メーカーが化学業界を中心に現れ始めていますが、今後、このプラットフォームを本格的に社会実装するにあたって検討すべき項目が大きく2つあると考えられます。

1つ目は、この資源循環プラットフォームにいかに多くのステークホルダーを参加させるか、です。現時点では各企業が個々にプラットフォームを検討しています。しかし、部品メーカーや最終製品メーカーは当然、複数の素材メーカーの素材を利用して製品を製造し、種類もプラスチックから非鉄金属、ガラスまで多岐にわたります。もし、素材メーカーごとにプラットフォームが乱立していたら、プラットフォームごとにデータのフォーマットが異なる、など実運用が複雑になることが予想されます。

資源循環プラットフォームにおいては、各メーカーの機密情報はブロックチェーン、暗号化技術で守られている前提となっています。よって、部品メーカー、最終製品メーカーの競争は製品レベルで行い、資源循環プラットフォームは非競争領域として、せめて素材分類ごとに統一された資源循環プラットフォームを構築していくことが望ましいと考えられます。

プラスチックに関しては、「Alliance to End Plastic Waste (廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス)」というNGOが2019年1月に立ち上がりました。このアライアンスには、世界的な化学メーカー、日本を代表する化学メーカーなど多数の企業が参画しています。2020年の12月には、PRISM(Plastics Recovery Insight and Steering Model)と呼ばれるプラットフォームの構築を目指すことが発表されており、この枠組みによるリサイクルシステムの運用開始が待たれます。プラスチックは海洋プラスチックごみなどの社会課題がかなり深刻な形で顕在化したこともあり、上記のような企業間を超えた取組みが先行して進んでいます。非鉄金属など他素材分野においても、資源循環プラットフォームを非競争領域とした企業間を超えた連携の動きが活発になることが期待されます。

資源循環プラットフォームの社会実装に向けた検討事項の2つ目は、経済圏の捉え方です。現在のリサイクルの流れでは、日本の産業における重要な素材のいくつかが海外に流出せざるをえません。その一例が、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されている駆動モーターに使われている永久磁石に含まれているDy(デイスプロシウム)などの重希土類元素です。重希土類元素は、産出国がほぼ中国に限定されているため、供給リスクが高く、いわゆるレアアース問題を象徴する物質となっています。しかし、現在、モーターは国内で解体、リサイクルするシステムが構築されておらず、モーターユニットごと、中国をはじめとしたアジアに出回っています。つまり、これら重要な元素を国内で回収することが困難な状況にあるということです。自動車に限らず、今後もさまざまな製品の物質がユニット単位でアジア圏全体に移動し、循環する可能性があります。これは、日本国内で必ずしも回収、解体、リサイクルが完結しないということです。EUではProSUM(Prospecting Secondary raw materials in the Urban mine and Mining wastes)プロジェクトが、EUで初となる都市鉱山のデータベースを構築、リリースしました。同プロジェクトは物質フローの可視化を目的とし、参画する欧州企業17社が協力して、毎年EUにおいて廃棄される車、バッテリー、家電製品、携帯電話などのハイテク製品に使用される金属の量を明らかにしています。このプロジェクトはEU Horizon 2020(全欧州規模で実施される、最大規模の研究およびイノベーションを促進するためのフレームワークプログラム)のfundが支援しており、EU圏全体の成長に向けて政府が強力にバックアップしています。

日本においても、アジアを経済圏としたデータベース、プラットフォームの構築の必要性が高まると考えられます。サーキュラーエコノミーを実現する資源循環プラットフォームは、ASEANや環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の枠組みを利用するなどして構築していくことが望ましいと考えられますが、これは一企業が単独で対応できる問題ではありません。実現に向けては、政府・自治体の協力が欠かせないと考えます。

3.素材産業における製品のサービス化

先にも述べたとおり、サーキュラーエコノミーにおいて、素材メーカーは自社製品の販売(モノ売り)による利益や売上が減少する可能性があります。利益に関しては、リサイクル原料のコスト力を高める取組みが求められます。同時に、グローバルにおいて巨人が存在するような業界に関しては、国内メーカーは戦略的提携・統合などにより、国内メーカー間の価格競争からの脱却を検討しはじめなければいけないと考えます。

売上減少に対するアプローチとしては、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルの特徴の1つである製品のサービス化(コト売り)に着目するとよいでしょう。製品が持つ価値をサービスとして提供し、新たな収益を生み出すとともに、環境負荷の最小化と経済成長の両立を実現する。それがサーキュラーエコノミーでは目指されています。

製造業では、以前から製品のサービス化、いわゆる「モノ売りからコト売りへのシフト」がいわれていますが、サーキュラーエコノミーの浸透によって、その流れはさらに強くなっていくと考えられます。ただ、素材産業ではこのサービス化へのシフトは、他製造業に比べて比較的遅れているように見受けられます。これはサービス化が、IoTをはじめとしたデジタル技術によりモノから取得したデータを活用して新たな顧客価値を創出・提供しているからです。そのため、モノからの情報を集めやすい最終製品の領域が先行したのです。ただし、今後サプライチェーン全体がネットワークでつながり、データが共有される世界においては、素材産業もデータを活用した新たなビジネスモデルを展開する機会が増えていくことが考えられます。

素材メーカーにおけるサービス化の一例には、自社の素材が使われる部品メーカーや最終製品メーカーにおいて、自社製品を加工するプロセスの開発・提供が挙げられます。新素材の採用を検討する最終製品メーカー(顧客)に対し、その最終製品に求められる性能と新素材の加工プロセスを開発・提供するというわけです。そうすることによって、顧客の生産性やコスト改善に貢献することができます。

その他のサービス化の例としては、自社のアセットを活かした顧客の新規商品企画の開発支援などが考えられます。素材メーカーとアパレルメーカーによる協業で企画専門組織を立ち上げ、素材メーカーが保有する開発機能などの業務機能やファシリティなどのアセットと顧客のアセットとを融合させることでヒット商品を生み出したという事例も見られます。

4.製品のサービス化に必要な要素

素材メーカーが製品のサービス化を実施するためには、自社製品の顧客である部品メーカーや最終製品メーカーにおける自社製品の使われ方、設計・仕様情報、マーケティングに関するデータを共有・活用しなければなりません。しかし、顧客にとって機密性の高い情報が多く、そう簡単にデータを共有してもらえるとは限りません。顧客からデータを共有してもらい、サービス化を実現するには次の2点の要素が必要であると考えられます。
(1)顧客の業界知識の獲得
(2)差別化された自社製品

まず、そもそも顧客の業界知識がなければ、顧客に提案ができません。技術的な面だけでなく、マーケット情報、顧客にとっての競合動向などに精通することで、顧客から信頼される存在になることができるでしょう。顧客に、顧客のニーズ・課題を解決できるポテンシャルを感じてもらえれば、機密情報の共有が可能となり、サービス化への道が開かれます。顧客の業界について、顧客と同等もしくはそれ以上に精通することはハードルが高いと捉えられるかもしれませんが、外部リソースを活用して情報を収集・分析するなどのアプローチも有効と考えられます。

仮に顧客の懐に入り込み、ニーズが把握できたとしても、ニーズに対するソリューションが自社の差別化された製品で提供できない場合、最終的に顧客が他社製品を選択してしまう可能性もあります。しかし、自社の独自材料の仕様を前提に、顧客の製品設計を共同で行うことができれば、顧客を囲い込み、参入障壁の構築を図ることができます。

今後、大きな差別化ポイントの1つとして、いかに動静脈一体型リサイクルシステムと整合した素材になるかということが挙げられます。従来の差別化ポイントである機能軸、特性軸と同レベルで再資源化を意識した新素材のデザイン・開発力が求められることが想定されます。

以上から、顧客の業界知識と、動静脈一体化を意識した差別化された自社製品、この2点の要素の獲得が可能な製品からサービス化の検討を進めることを推奨します。

V.最後に

資源循環プラットフォームの構築、サービス化へのビジネスモデルへのシフト。サプライチェーン間の連携も必須であることを考えれば、一企業単独で実現することは困難でしょう。特に資源循環プラットフォームに関しては、最終的には政府・自治体との連携が必要になると考えられます。各企業においては、競争領域と非競争領域の見極めを行い、必要に応じて産学官を巻き込んだ積極的な連携を進め、サステナブルな経営が実現することを切に願います。

執筆者

KPMGジャパン IMセクター
パートナー 河野 雄貴

パートナー 堀内 陽介

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