消費財・小売業界のリーダー達は、困難な状況の中でも成長について楽観的な見通しを継続

進化する消費者の期待、変化のスピードの加速、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響がビジネスに試練を与え続ける中、「KPMG 2021 CEO Outlook Survey」によれば、世界のビジネス・リーダー達は自らの成長とDXの追求について楽観的な見通しを継続していることが明らかになっています。

消費財・小売業界において、企業が今日の課題に取り組みつつ、新たな競争と事業機会に直面する全く新しい時代における成功に目を向けながら、CEOが最も重視している課題は何でしょうか。調査に参加した消費財・小売業界におけるCEOからの回答を、以下にまとめます。

消費財・小売業界のCEO達は将来の成長について楽観的です。回答者の86%が、今後3年間の自社の成長について 「自信がある」または「非常に自信がある」と答えています。では、今後3年間で成長目標を達成するために、どのような方法を思い描いているでしょうか。すべての成長戦略の中で、消費財・小売業界のCEOの36%が、第三者との戦略的提携に焦点を当てています。また、消費財・小売業界のCEOの34%は、次いでオーガニックな成長(イノベーション、研究開発、設備投資、新製品、採用を通じて)を重要な戦略として挙げています。

今後3年間の成長に向けて、消費財・小売業界のCEOは具体的にどのような活動を展開していくのでしょうか。プレイブックには、次の優先事項が含まれています。

  • 全体で74%の企業が、ディスラプション(創造的破壊)の検知と、イノベーションプロセスへの投資を増やすことを計画しています。
  • 64%が革新的技術の開発に焦点を当てた産業コンソーシアムへの参加を挙げています。
  • 半数以上(58%)が、ソーシャルメディアを含むオンラインプラットフォーム経由で自社の製品やサービスを提供することを検討しています。また、約3分の1(32%)が、外部のデータプロバイダとの提携を検討しています。

成長を追求するためには、成長に関するリスクにも対応する必要があります。以下では、サプライチェーンにおける課題について取り上げますが、消費財・小売業界のCEOの5人に1人は、風評リスクが成長の重大な脅威になると考えており、これは他セクターのリーダーのほぼ2倍の回答でした。今日の顧客中心主義の市場において、消費財・小売業界のリーダーたちは、健全な地球環境の維持、消費者の健康、デジタル化による新たな事業機会とディスラプションに焦点を当てています。

変革競争は継続している

競争が非常に激しく、動きの速い今日の市場において、消費財・小売業界ビジネスでは、DXと顧客中心主義への注力が引き続き強く求められています。多くの企業が変革の推進に懸命に取り組んでいる一方で、消費財・小売業界のCEOが、能力を高め、絶えず進化し続ける消費者の期待に応えるためには、より一層迅速に行動する必要があると認識していることを、本調査は明らかにしています。

  • アジリティ(敏捷性)を最優先事項とする:消費財・小売業界のCEOの81%は、投資をデジタル関連へシフトし、デジタル化に伴う陳腐化に直面しているビジネスを売却するために、より迅速に動く必要があると考えています。また、77%は、「積極的なデジタル投資戦略を採用しており、ファーストムーバーやファーストフォロワーの地位を確保することを目指している。」という意見に同意しています。
  • ディスラプションをチャンスと捉える:消費財・小売業界のリーダーたちは、一刻の猶予もないと語っています。彼らは、小売業が歴史的な変革を経験する中で切迫感を強めていると同時に、自らが進歩する能力に確信を持っているようです。また、大多数(79%)は、技術的ディスラプションは脅威ではなく、むしろ機会であると考えています。また、74%の企業が、競合他社に駆逐されるのを待つくらいならば、自らが積極的に業界に破壊を仕かけていくということに同意しています。
  • 投資の優先順位の変化:変化のスピードが加速した結果、他社との競争に乗り遅れないためには、迅速に対応し、革新し、進化することが求められています。成長と変革の目標を達成するために、消費財・小売業界ビジネスにおける投資の優先順位においては、スキルとテクノロジーへの投資の間で一層バランスを重視されるようになってきています。53%は新しいテクノロジーへの投資に重点を置き、47%は新しいデジタルを使いこなす能力への投資を重視しています。
  • 新たな協力関係(ビジネスパートナーシップ)の構築:ほとんどの企業は、自社単独で課題に取り組むことを計画していません。変革を推進するため、DXのペース維持に不可欠な革新的な新しいビジネスパートナーシップを構築しようとしているCEOは、全世界のCEOと比較して、消費財・小売業界CEOの方がわずかに多い割合でした。革新的なパートナーシップは、パンデミックを経て組織が安定する中で、今後3年間のうちに、有益であることが明らかになるでしょう。多くの人にとっての問題は、顧客中心主義のサービスとパーソナライズという、全く新しい時代で競うために必要なデジタル機能を迅速に実装するため、自社で構築するのか、購入するのか、あるいはパートナーを探すのかということです。大部分(64%)は、新しいパートナーシップが、パンデミック後のDXのペース維持に不可欠であると考えています。賢明な組織は、パートナーとの新たなエコシステムが、彼らの変革の成功を手助けするということをよく理解しています。
  • より優れた柔軟性の提供:パンデミックへの戦略的な対応を続ける中で、回答者の53%は、企業が従業員に柔軟性のある職場を提供するために、シェアオフィスを検討しています。同時に、回答者の半数は、主にリモートで働く人材を雇う意向を示しており、これは世界全体の調査結果とも一致しています。

今後3年間のあなたの組織の成長にとって、最大の脅威となるリスクは次のうちどれですか。

グラフ:今後3年間のあなたの組織の成長にとって、最大の脅威となるリスクは次のうちどれですか。

出典:KPMG 2021 CEO Outlook Survey

サプライチェーンにおける重大な課題

ビジネス・リーダーは楽観的である一方、戦略レベルでの対応を求められる重大なサプライチェーンに関する課題に直面しています。消費財・小売業界のCEOの約4分の3が、過去18ヵ月でサプライチェーン上の負荷が上昇していると回答しており、他業界のリーダーの回答よりも著しく高い割合となっています。

  • 成長への脅威:消費財・小売業界のリーダーの28%は、サプライチェーンのリスクが今後3年間の成長に対する最大の脅威と考えています。他方で、風評リスクも主要な成長の脅威として強調されています。今日の顧客中心主義的でソーシャルメディア主導の市場において、消費財・小売業界ビジネスにおいては消費者の認知を管理する必要があるため、このような調査結果は驚くべきことではないでしょう。また、市場のルールを変化させるようなデジタル技術が、次々と出現しているにも関わらず、サイバーセキュリティを重要な成長の脅威として回答しているのはわずか7%であり、他の業界と比較しても非常に低いように思われます。
  • サプライチェーンモニタリングの強化:消費財・小売業界のリーダーはサプライチェーンの課題を最優先に考える中、ビジネス上どのように対応するのでしょうか。回答者の33%が、今後3年間のサプライチェーンの問題を緩和するために、より深いレベルでサプライチェーンをモニタリングし、潜在的な問題をより的確に予測することが最大の戦略だと述べました。
  • オペレーション上の優先事項におけるレジリエンス(回復力)とスキル:サプライチェーンのレジリエンスも、今後3年間の成長目標を達成する上でのオペレーション上、優先度の高い事項です。回答者の約5分の1が、オペレーション上の優先事項の中で、サプライチェーンの再構成によるレジリエンスの強化を挙げており、これは他の全てのセクターよりも大幅に高い比率でした。また、5人に1人以上が、オペレーション上の優先事項として、人材や、新しい重要なデジタルスキルを獲得・維持するために、従業員提供価値(employee value propositions) を強化する計画を含む成長支援を挙げています。これは、消費財・小売業界が、最新のスキルを備えた新しいデジタルおよびデータ解析のケイパビリティに対して、投資をしていく必要があることを示しています。なお、サイバーセキュリティ上のレジリエンスをオペレーション上の優先事項と考えているリーダーは、全体では16%だったのに対し、わずか8%にとどまりました。

サプライチェーンは過去18ヵ月間、負荷が高まっていますか?
- はい

グラフ:サプライチェーンは過去18ヶ月間、負荷が高まっていますか?

出典:KPMG 2021 CEO Outlook Survey

ESGの透明性に対する要求

消費財・小売業界セクターのリーダーは、顧客、投資家、規制当局などの利害関係者からも、環境、社会、ガバナンス (ESG) の問題に関する報告と透明性の向上を求められており、全体の54%が当該分野を「重要」 または 「非常に重要」 な要求だと言及しています。

  • 報告ニーズの増加:4分の1以上が、様々な投資家やその他の利害関係者のESG報告ニーズを満たすのに苦労していると述べており、また同等数の回答者がESGのパフォーマンス・レポートには、現在の財務報告のような厳密さが欠けているとしています。ESGレポートを現行の評価・報告プロセスへ統合することを、オペレーション上の優先事項として挙げているのは、消費財・小売業界のCEOのわずか11%です。
  • 財務パフォーマンスへの影響:ESGプログラムが財務パフォーマンスに与える影響については、回答者の31%が、ESGイニシアティブはパフォーマンスを「向上」 または 「大幅に向上」 させたと回答しています。しかしながら、41%がその影響は「中立」または「軽微」と考えており、28%がESGプログラムによって財務パフォーマンスが 「悪化する」 または 「大幅に悪化する」 と考えています。
  • ESGに関する自社のストーリーを発信する:同時に、大多数(83%)は、パンデミックの結果もたらされたサステナビリティと気候変動に関する利益を「確保」したいと述べています。しかし、一部の企業にとって、ESGのパフォーマンスを、利害関係者に効果的に伝えることが課題となっており、消費財・小売業界のリーダーの37%は、説得力のあるESGに関するストーリーを明確化するのに苦労していると述べています。

重要なポイント

消費財・小売業界のCEOは、成長の見通しについて野心的かつ楽観的な態度で未来に向かう一方で、変化のスピードを加速させ、顧客中心主義に焦点を当てることを求められる市場の大きな変化の中で、変革に積極的な姿勢を維持しています。模範的な消費財・小売業界のCEOは、次のような存在になっていくでしょう。

  • 顧客中心主義に基づくパーソナライゼーションによる競争を可能にすると同時に、コスト効率の改善にも寄与する、強力かつ新たなデジタルケイパビリティへの投資をより迅速かつ効果的に実行する。
  • ディスラプションの影響に関係なく、サプライチェーンの課題を迅速に解決し、顧客の需要に対応出来るような、リーダーシップとプロセスを設定する。
  • オフラインとオンラインの間でシームレスな顧客体験を含む、オンラインプラットフォームを介して製品・サービスをより幅広く利用可能にするスマート戦略を追求する。
  • グローバルな人材を惹きつけ、維持・育成するような、新しい働き方の提供や強力なパーパス志向の役割提供を含む、従業員提供価値(EVP)を強化する。
  • スマートで即応性のあるデータ駆動型ビジネスへの転換を加速させるための優先事項である業界コンソーシアムとの協力を含め、戦略的提携とパートナーシップを確立する。
  • そして、投資上の意思決定と日常的な意思決定の両方において、環境と社会の目標を追求し、地球と消費者の双方の健全性にとって真に持続可能な成長を実現し、より環境に優しい未来への道を切り開く。


KPMG 2021のCEO Outlookは、11の主要市場における1,325人の最高経営責任者 (CEO) の視点で実施されたものです。


詳細については、消費財・小売業界の地域および国別担当リーダーにお問い合わせください。

The KPMG Consumer & Retail leaders - Robert Poole, KPMG Australia; Kostya Polyakov, KPMG in Canada; Anson Bailey, KPMG China; Jessie Qian, KPMG China; Eric Ropert, KPMG in France; Jean-Marc Liduena, KPMG in France; Stephan Fetsch, KPMG in Germany; Christian Schiessl, KPMG Germany; Enrique Porta, KPMG Spain; Rene Aalberts, KPMG Netherlands; Stephane Nusbaumer, KPMG Switzerland; Massimo Curcio, KPMG Italy; Jang-Hun Shin, KPMG Korea; Harsha Razdan, KPMG India; Linda Ellett, KPMG in the UK; Paul Martin, KPMG in the UK; Allan Colaco, KPMG in the US; Matt Kramer, KPMG in the US; Fernando Gamboa, KPMG Brazil.


「KPMG 2021 CEO Outlook」 は、企業と経済成長に関する主要組織の1,325人のグローバルな最高経営責任者による詳細な3年間の見通しを提供します。この最新の研究は、KPMG CEO Outlookシリーズの一部です。このシリーズは、COVID-19のパンデミックの継続期間や、パンデミック後の回復を楽しみにしているグローバルCEOの考え方の変化について、ユニークな視点を提供します。今回の調査は、7月から8月初めにかけて行われましたが、今年の1月から2月にかけて、CEO 500人を対象に、CEO Outlookのパルスサーベイを行いました。これにより、2021年の間にCEOの考え方がどのように進化したかを検証することができます。CEOは年間売上5億米ドル以上の企業から選ばれ、調査対象企業の3分の1は年間売上100億米ドル以上であり、5億米ドル未満の企業からの回答は含まれていません。2021年7・8月調査には、11の主要市場(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、スペイン、英国、米国)と11の主要産業部門(資産管理、自動車、銀行、消費財/小売、エネルギー、インフラ、保険、ライフサイエンス、製造、テクノロジー、通信)のリーダーが参加しました。

注釈:四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合があります。

伊藤 勇次

KPMG FAS 執行役員 パートナー 消費財・小売セクターリーダー/KPMGジャパン 消費財・小売セクター統轄パートナー

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