昨今、世界中の製造業において、サプライチェーンへの信頼が揺らぎ、政策論争と関税が国際貿易の障害となって、顧客の需要と期待が変化しています。こういった新しい現実(ニューリアリティ)のなかで、多くの製造企業が、自社の現在の製造拠点が今もなお最適であるかどうかを検討しています。

製造拠点の決定は、製造企業にとって重要な戦略的決定です。特定の拠点(または国)を選択することは、労務費の評価だけでは不十分であり、製造施設の建造コスト、不動産コスト、エネルギーコスト、労働力およびインフラの質、規制環境、知的財産保護など複数の要素を考慮しなければなりません。実際、労務費のような「一次コスト」よりも、事業活動のしやすさに関連する「二次コスト」の方が、事業推進コスト全体を予測する上で有効です。今回、KPMGはManufacturing Instituteと共同で、製造企業の経営者がさまざまな市場を評価するのに役立つように、先進地域および新興地域の17の主要製造市場における事業推進コスト(CoDB)の定量的な指数を開発し、分析をしています。

本稿のポイントは以下のとおりです。

  • 事業推進コスト全体では、カナダが1位
  • アジア太平洋市場は、台湾、韓国およびマレーシアに牽引され好調
  • メキシコ、インド、中国およびブラジルなど従来の「低コスト」市場は、事業推進コストの平均よりも高い

事業推進コストとは

本調査では、製造拠点の決定に寄与するものとして23のコスト要素を、一次コスト要素と二次コスト要素の2つのグループに分類して評価しています。一次コストの指標は、コストの観点から測定可能なコストで、労務費、光熱費、不動産コスト、法人税率などを含みます。二次コストの指標は、間接費および施設の効率的な運用能力に影響を及ぼすものであり、労働力の質、事業活動のしやすさ、インフラ、リスクおよび保護を反映した幅広い指標となっています。具体的には、従業員1人当たりの実質付加価値、政府規制の負担、道路の整備状況に関する指数、政治的リスクなどを含みます。

私たちは、はじめに一次コストに対する指数と二次コストに対する指数を開発し、その後、両者を組み合わせて、各国・地域のパフォーマンスを評価する基準となる総合指数(CoDBインデックス)を開発しました。これにより、CoDBインデックスに基づく各国・地域のランキングには、さまざまな要因があることが明らかになりました。

調査結果

指数化を適用して算定した1~5(1=最高、5=最低)のスコアを用いて国・地域を総合的に順位付けした結果は以下の通りです。

国・地域のランキング-CoDBインデックス

国・地域のランキング-CoDBインデックス

カナダ、台湾および韓国は、CoDBインデックスの上位3つの国・地域に入りました。米国は17の国・地域のうち5位でした。最下位はブラジルで、日本、メキシコ、ベトナム、インドに次ぐランキングでした。

一次コスト

一次コスト指数および二次コスト指数に基づくCoDB全体のランキングを理解するために、一次コストおよび二次コストそれぞれを分析しました。

国・地域のランキング:一次コスト指数

国・地域のランキング:一次コスト指数

マレーシア、中国、ベトナムおよび台湾などアジア諸国・地域が一次コスト指数で上位に入り(すなわち、競争力がある)、米国は14位となっています。この調査結果の要因は、米国とこれらの国・地域の間の1時間当たりの報酬コストの大きな差異にあります。さらに、カナダや英国、日本などの一部の工業先進国と比較しても、米国の1時間当たりの報酬コストは高くなっています。米国は1時間当たり39ドルであるのに対して、カナダ、英国および日本は23米ドルから30米ドルです。また、この分析の一環として、私たちは米国の税制改革(法人税率を40%から27%に引き下げ)が相対的なランキングに重要な影響を及ぼすかどうかも検証しています。この結果、税制改革により、米国は一次コスト指数で17ヵ国中16位から14位に2ランク改善し、CoDBインデックスでは(税制改革前に想定される)11位から(税制改革後に)5位に上昇しています。

二次コスト

CoDBインデックスで2位の台湾は、二次コスト指数では7位、総合4位のマレーシアは、二次コスト指数では14位となっています。中国は一次コスト指数では同順位1位の4ヵ国に並んでいるにもかかわらず、CoDBインデックス指数で中間スコアの11位となったのは、二次コスト指数のパフォーマンスの低さ(13位)が要因です。

国・地域のランキング:二次コスト指数

国・地域のランキング:二次コスト指数

全体的に見ると、一次コスト要素のスコアが良好な国・地域は、二次コスト要素のスコアが悪く、その逆も同様であるようです。工業先進国が、二次コスト指数の上位半数の国・地域のほとんど占めています。二次コスト指数で順位が高い国は、投資環境が良いことを示しています。とりわけ米国は、労働力の質、交通インフラ、および事業活動のしやすさなど、二次コストのほとんどすべての指標で上位3つの国・地域に入っており、二次コスト要素全体のランキングで最上位となっています。

結論

今回の調査結果では、二次コスト指数で上位にある国・地域は、CoDBインデックスの総合ランキングでもおおむね上位にあることが示されました。本調査では、(国・地域レベルでの)製造拠点を決定する際に一般的に考慮される特定のCoDB要素に焦点を当てています。しかし、製造拠点の決定は各企業に固有のものであり、サプライチェーンと市場へのアクセスを考慮して決定されます。決定には、企業の現在の業種、製品のタイプ、顧客の存在する場所、企業の全体的なビジネス戦略によって影響を受ける可能性があります。したがって、個々の製造拠点の決定は、このような分析だけでは不十分かつ複雑であり、私たちが検討してきた要素をはるかに超えた固有の要素に基づいて行われています。また、私たちが検討した要素の中でも、特定の企業にとってのこれらの要素の相対的重要性が、私たちのウェイト付けとは異なる場合があります。さらに、今回は便宜上二次コスト要素に分類した要素が、実際には個々の企業または製造セクターの製造拠点の決定において一次コスト要素となる場合もあります。

最後に、本調査に基づくランキングは、2012年から2019年にわたり入手可能な実績データに基づいています。昨今の貿易紛争や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による市場の混乱は本調査結果に反映されていません。

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