2021年3月に閣議決定された「第6期科学技術・イノベーション基本計画」において、日本におけるスマートシティとは「都市や地域の抱える諸課題の解決を⾏い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先⾏的な実現の場」とされています。
本稿では、Society 5.0の実現に向けて技術開発が進められており、国内スマートシティプロジェクトや各自治体のスーパーシティ構想で目に触れる機会が多い「車両の自動運転」・「小型無人航空機(ドローン)利活用」等の政策動向を概説するとともに、社会実装に向けての鍵となるポイントを考察します。

1.「車両の自動運転」に関する政策動向

日本では、2014年に「官民ITS※1構想・ロードマップ」が策定されて以降、自家用車の自動運転、物流サービスにおける自動運転、移動サービスにおける自動運転に対して、2020~2025年、2025年以降といった形で市場化時期目標が設定され、その実現に向けてさまざまな取組みが進められています。

【車両の自動運転技術に対する市場化期待時期など】

・自家用

レベル 実現技術 市場化期待時期 状況

レベル2

(運転支援)

一般道路での運転支援 2020年まで ・主要幹線道路(国道、主な地方道)において、直進運転が可能な運転支援機能(ACC+LKA)を保有

レベル3

(自動運転)

高速道路での自動運転 2020年目途

・改正道路運送車両法の施行(2020年4月)

・改正道路交通法の施行(2020年4月)

・高速道路渋滞時における自動運転システム(レベル3)が市場化

レベル1、2

(運転支援)

運転支援システムの高度化 2020年代前半

・高速道においてドライバーは前方を注視しつつも、ハンズオフが可能な運転支援システム(レベル2)が市場化

・今後はより高性能なセンサー、カメラを搭載した車両が市場化予定

レベル4

(自動運転)

高速道路での自動運転 2025年目途

・民間において車両技術開発を推進、レベル4におけるビジネス価値が検討中

・高速道路上の合流部等における道路側から情報提供を行う仕組み等の検討が進行

 

・物流サービス

レベル 実現技術 市場化期待時期 状況
高速道路でのトラックの後続有人隊列走行 2021年まで ・2021年度中の「導入型」有人隊列走行システム(ACC+LKA)の商業化が発表、今後、発展型としてより高度な車線維持機能(割込車、登坂路、車線変更等への対応)を加えた有人隊列走行の開発・商業化を目指す
高速道路でのトラックの後続無人隊列走行 2022年度以降 ・新東名(浜松SA~遠州森町PA)にて後続車の運転席を実際に無人とした状態でのトラックの後続車無人隊列走行技術が実現(2021年2月)

レベル4

(自動運転)

高速道路でのトラックの自動運転 2025年以降 ・実現に向けた2020年度前半の具体的な工程表が作成、民間において車両技術開発を推進


 

・移動サービス

レベル 実現技術 市場化期待時期 状況

レベル4

(自動運転)

限定地域での無人自動運転移動サービス 2020年まで

・限定地域での無人自動運転移動サービス(自動運転車専用の走行空間においてレベル4(相当))が実現(2019年11月)

・限定地域での遠隔型(1:3)のレベル3での無人自動運転移動サービス(車内保安要員無)が運行開始(2021年3月~)

・従来の「運転者」の存在を前提としないレベル4の自動運転を想定した制度課題が検討中

レベル2以上

(運転支援・自動運転)

高速道路でのバスの運転支援・自動運転 2022年以降 ・宮城県気仙沼BRTの専用道区間(交差部なし)の一部約4.8kmにて2021年1月より実証を実施。今後レベル3での運行を目指す 等


出所:内閣官房「官民ITS構想・ロードマップ これまでの取組と今後のITS構想の基本的考え方(案)(2021年6月15日 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議)」よりKPMG作成

官民ITS構想・ロードマップは毎年更新されていますが、特に2021年6月の改訂では、これまでの取組みを総括するとともに、2030年のモビリティの社会像として、(1)「地方部」、(2)「自家用車による移動が中心の都市部」、(3)「公共交通が普及している都市部」が初めて示されたほか、デジタル庁による「デジタルモビリティプラットフォーム」の構築、「多様なモビリティの普及・活用」として車両のみならずドローンや物流ロボットを包含したリファレンス・アーキテクチャ像が示されるなど、大きな更新がなされていることが特徴です。

【2030年のモビリティの社会像】

・地方部

定義(人口/自家用車分担率/想定地域) 2030年に想定される課題 目指すべきモビリティ社会像 実装サービス例

5万人以下/

50%以上/

地方の郊外地域、小規模都市

・自家用車で移動する住民が多く、今後、高齢化が進むにつれて免許を持たない住民の移動の自由が制約される恐れ ・日常の生活に必要な移動を支える手段や、地域活性化に必要なヒトの移動を十分に確保するための、新しい技術やシステムを活用した移動手段を拡充・普及し、多様な住民が自由に移動できる社会を目指す

・陸路での移動手段が困難な山間地域にもドローン等により利便性の高い配送を実現

・自動運転移動サービスを使い公共施設や商業施設を移動/散在する住民宅では巡回するコミュニティバス、乗合タクシーを利用

・移動車両を活用した小売り、飲食、医療等のサービスの提供や、遠隔での医療受診等、移動しなくてもサービスを受けることを可能に 等

 

・自家用車による移動が中心の都市部

定義(人口/自家用車分担率/想定地域) 2030年に想定される課題 目指すべきモビリティ社会像 実装サービス例

5万~100 万人/

50%以上/

地方の県庁所在地、企業城下町や周辺のベッドタウン

・交通渋滞が深刻な地域が多く、今後、高齢化に伴い、自家用車で移動できない住民が増加し、移動の自由が制約される恐れ

・情報技術を駆使して交通渋滞の軽減に取り組み、安全に移動が行える社会を実現

・さまざまな交通手段のシームレスな連携と、目的地ごとに移動を束ねることで効率的な移動を実現/柔軟な価格設定やルート案内等により交通量を最適化

・目的地までの自動運転により、移動時間を他のことに使える

・自動配送ロボットやドローンにより人手をかけず配送が行える  等

 

・公共交通が普及している都市部

定義(人口/自家用車分担率/想定地域) 2030年に想定される課題 目指すべきモビリティ社会像 実装サービス例

5万~100 万人、100 万人以上/

50%未満/

三大都市圏近郊ベッドタウン、地方大規模都市、政令指定都市、特別区

・移動や物流の需要が集中し、渋滞や混雑が深刻なため、生活時間が制約される恐れ

・鉄道等の大量輸送手段とそれ以外の交通手段を組み合わせた移動手段や、自動運転等の新たな技術やシステムの活用により、個々のニーズにあった利便性の高い移動が行える社会を目指す

・公共交通機関の混雑状況をリアルタイムで把握し、デマンド交通等ニーズに応じたさまざまな交通手段とシームレスに連携/柔軟な価格設定等で移動需要を分散し、密にならず、効率的な移動を実現

・移動車両を活用した小売り、飲食等のニーズに応じたサービスの提供により、移動しなくてもサービスを受けることができる

・目的地までの自動運転により、渋滞がなく、移動時間を他のことに使える 等

出所:内閣官房「官民ITS構想・ロードマップ これまでの取組と今後のITS構想の基本的考え方(案)(2021年6月15日 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議)」よりKPMG作成

2.「ドローンの自動運転」に関する政策動向

一方で、ドローンにおいても、自動車の自動運転実現に向けた取組みと並行して、官民を挙げた取組みが進められています。
2015年に「小型無人機に関する関係府省庁連絡会議」・「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が設置され、2016年に「利活用と技術開発のロードマップと制度設計に関する論点整理」※2が策定されたことを皮切りに、有人地帯での目視外飛行(遠隔・自動運航による飛行)=「レベル4」達成を大きな目標の1つとして、所有者情報の把握(所有者登録制度)、機体の安全性確保(機体認証)、操縦者の技能確保(ライセンス制度)といった制度面での環境整備や、運行管理・遠隔からの機体識別(リモートID)に関する技術開発などが進行しています。また、ドローンを活用する領域として、物流、インフラ・プラント等の維持管理、警備、医療、測量、災害対応、農林水産業といった領域において、それぞれ技術実証が進められています。

こちらのロードマップも毎年更新されており、2021年6月に示された最新版では、2022年レベル4達成に加え、2023年以降の目標として、航空機、空飛ぶクルマとの調和に向けた運航管理技術の高度化が盛り込まれるなど、ドローンに留まらず、「空」に関連する多様なモビリティを包含した取組みへの進化が見込まれる内容となっています。

なお、空飛ぶクルマについては、2018年に「空の移動革命に向けた官民協議会」が設置され、当該協議会において、2023年ごろの事業開始を目指した意欲的なロードマップが掲げられたことを契機として、早期社会実装に向けて急ピッチで取組みが進められています。
具体的には、(1)旅客輸送、(2)荷物配送の2点での活用を念頭に、2023年、2025年時点でのユースケース例が以下のとおり整理されているほか、機体の安全基準、操縦者の技能証明、運行安全基準を検討するWGが組成され、検討が進められています。

  • 旅客輸送におけるユースケース例
    • 2023年頃:限定エリア内での拠点間旅客輸送(大阪港湾エリア)、海上遊覧飛行・地方部・離島の2地点間旅客輸送(瀬戸内エリア等)
    • 2025年頃:空港〜沿岸部の2地点間海上旅客輸送(伊勢湾エリア・大阪湾エリア)、都市エリアの2地点間旅客輸送(大阪都市エリア)
  • 荷物輸送におけるユースケース例
    • 2023年頃:離島の2地点間荷物輸送(九州エリア)
    • 2025年頃:山岳の2地点間荷物輸送(北アルプスエリア等)、都市部の多地点間荷物輸送(東京都心エリア等)

また、2021年5月に開催された第7回官民協議会において、2025年大阪・関西万博の場で空飛ぶクルマ活用に向けたポート整備・運航ルール策定等の議論を行う「大阪・関西万博×空飛ぶクルマ実装タスクフォース」の設置が明らかにされるなど、社会実装に向けた動きが加速しています。

3.社会実装に向けての鍵となるポイント

前述したように、車両の自動運転、ドローン利活用、空飛ぶクルマについては、官民が連携し、社会実装の目標時期を掲げながら、技術開発と制度設計検討が協調的に進められています。
一方で、新たなサービス・技術が社会に受け入れられ、普及していくために必ず避けて通れないのが、「市民理解」を得るためのアプローチです。
国土交通省・経済産業省による調査※3では、調査対象者の47.7%が自動運転の開発・普及による社会の変化に対して「不安あり」との回答がなされています。また、ドローンでは、航空法等での飛行許可を取得する等の必要な手続きを踏んだうえで空撮や測量等を行っている場合においても、市民からの通報により業務を一時中断するなど、業務に支障をきたすといった事例も生じています。
当然のことながら、サービスの持続可能性を担保するためには、一定程度の事業規模の確保、すなわち、サービスに対する理解を醸成し、普及・拡大させていく必要があります。
そのためには、市民の不安感情を払しょくし、例えば「プライバシーや安全を脅かすもの」から、「ないと不便」(must have)の状態にまで認知変容を目指すような、インセンティブ設計や体験・コミュニケーション戦略など、ネガティブな認知をポジティブな認知に塗り替えていく戦略的な取組みが今後重要になっていくと考えられます。
車両の自動運転やドローン利活用等が本格的な社会実装を迎えるために、市民の「安全」確保に資する技術開発・制度設計に加えて、市民の「理解」獲得に向けた、時代に即した鮮やかな一手が期待されます。

※1 ITS:Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)の略。道路交通の安全性、輸送効率、快適性の向上等を目的に、最先端の情報通信技術等を用いて、人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道路交通システムの総称。
※2 2017年度以降は「空の産業革命に向けたロードマップ」と呼称。
※3 経済産業省・国土交通省委託事業「第3回自動車・自動運転に関するアンケート調査」調査結果

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 平田 篤郎

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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