KPMGは世界の主要企業のCEOを対象とした年次の調査を継続して実施しています。
第7回目となる「KPMGグローバルCEO調査2021」は、2021年7月から8月に、11ヵ国11業界のCEO1,325名(うち日本企業100名)に対して実施し、パンデミックを経た世界のCEOの将来見通しや戦略、意識等の変化に関する分析をまとめています。
本調査では、世界のグローバル企業のCEOにインタビューを行っており、日本からは株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ社長兼グループCEOの亀澤宏規氏にご参加いただきました。
また、本レポートでは、日本企業のCEO100名の回答について、グローバル全体の傾向との差異や、過年度からの推移に関する分析結果をあわせて報告しています。

ポストコロナに向けたCEOのターゲット

日本企業のCEOの成長に対する自信は回復済み。
パーパスに基づく積極的な成長戦略を志向している。

成長への自信を回復

  • 62%のCEOは世界経済の成長見通しに自信を示しており、コロナ拡大前と同水準まで回復
  • 自社の成長見通しには92%が自信を持ち、主要11ヵ国中トップ
  • 成長の阻害となる脅威は、サプライチェーンリスク(18%)、サイバーセキュリティリスク(14%)、環境/気候変動リスク(13%)が上位3位

パーパスを基軸とした組織づくりに着手

  • ステークホルダーのニーズへの対応を推進するためにパーパス(存在意義)を活用しているCEOは約8割(78%)
  • あらゆる活動にパーパスを組み込み、すべてのステークホルダーに長期的な価値を創造することが企業の目的であると考えるCEOは72%で、コロナ拡大前の45%から急増

積極的な成長戦略を敢行

  • 成長目標の達成に向けた最重要戦略は、「第三者との戦略的提携」がトップで、35%のCEOが選択
  • 89%のCEOは今後3年間にM&Aを予定、特に大型案件を予定するCEOは55%

今後3年間で優先する成長戦略の変化 (グローバル全体、日本)

図1

信頼されるパーパスの実現を目指す

サステナブルな経営を求めるステークホルダーからのプレッシャーの高まりに応えるため、関連投資は増加傾向。
一方、ESG施策による業績向上への自信不足もみられる。

社会課題の解決に向けたCEOの決意は他国より遅れ気味

  • 社会課題の解決に関わるCEOの個人的責任が増加していると考えるCEOは66%で、グローバル全体平均(71%)と比較して少ない
  • 政府ではなく、企業に対してジェンダー平等や気候変動などの社会課題の解決が期待されていると認識しているCEOは58%で、グローバル全体平均より10%少ない

ESG関連施策への投資と協働

  • サステナブルな組織に向けた施策に収益の10%超の投資を予定するCEOは43%で、フランスに次いで高い
  • CEOの約8割(77%)は、経済界が実施する気候変動への投資を加速させるために政府が刺激策を講じる必要があると考え、政府への期待は高い

ESG戦略を業績向上につなげる自信の程度は大きく分かれる

  • 自社のESG施策により、財務パフォーマンスが向上すると考えるCEOは36%。影響しない(31%)、低下する(33%)と、ほぼ均等に分かれている

自社のESG施策による財務パフォーマンスへの影響

図2

デジタルアジリティ

これまで保守的だったCEOも、ディスラプターになる決意を固めている。
デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのパートナーシップや、デジタルエコシステム内のサイバーセキュリティの重要性を認識済みで、新たな動きが加速すると想定される。

ディスラプターへの決意

  • 競合に破壊される前に自らが破壊者になると回答するCEOは72%で、増加傾向(2019年は59%、2020年は61%)
  • ディスラプションの見極めとイノベーションへの投資の増加を予定するCEOは65%で、投資が継続中

変革のためののパートナーシップとセキュリティ

  • DXのスピードの維持には新しいパートナーシップが必須と考えるCEOが7割を占める
  • 78%のCEOが、提携企業先のエコシステムとサプライチェーンを守ることは、サイバー攻撃に対する自社の防御と同等に重要と考えている

テクノロジーを利用した「人」優先の新しい働き方

  • 週2日以上のリモートワークを中心とする働き方を予定するCEOは36%で、半年前の調査結果の53%から激減。
    一方、共有オフィススペースへの投資を予定するCEOは38%で、前回調査(20%)より増加
  • より良いワークライフバランスを促進する文化と方針形成に注力するCEOは56%

  

ディスラプションの見極めとイノベーションへの投資の増加を予定するCEOの割合

図3

KPMGのプロフェッショナルによる見解

サプライチェーン

サプライチェーン再編は CEOアジェンダへの昇華を

2020年末からのサプライチェーン断絶により、サプライチェーン再編の機運が高まっている。本調査から、日本企業はサプライヤーからの供給断絶の回避を念頭に、調達先の分散化を検討していることがわかる。しかし、それは、海外工場や調達部門が主体で行われるケースが多いのではないか。それでもESG視点でのサプライヤー方針とガバナンス体制があれば、供給断絶回避には短期的に機能すると思われる。しかしながら、COVID-19 後の事業環境変化には、自社のサプライチェーンを維持したうえでの調達先の分散化だけでは対応できない。これまでのグローバルの潤沢な資源をいかに活用するかが勝負というビジネスは成り立たず、自社サプライチェーンのカーボンフリー・人権といったESG制約、米中対立にみられる地政学(税・技術)へのリスク対応、COVID-19後の課税強化とFTP(RCEP等)対応といった、制約が変化するなかでサプライチェーン(拠点とルート)を臨機応変に舵取りする能力が、企業に求められる。

  

税務

「 良き企業市民」としての 納税とコンプライアンス

コロナ禍による経済活動停滞への対策として、日本を含む各国政府は、補助金支出等によって経済的なダメージを受けた一般家計や産業への支援を行うなど、積極的な財政出動を実施してきた。このため、各国財政はおおむね歳出超過の状況にあり、財政再建のための徴税強化、つまり税務調査の厳格化による課税リスクが高まっている。これに加え、2021年10月8日、経済協力開発機構(OECD)が公表した、「経済のデジタル化から生じる税務上の課題に対処するための二つの柱の解決策に関する声明」と、続く同13日のG20閣僚合意を受け、関係各国においても今後、関連税制の創設や改正が見込まれていることから、税負担の増加や事務手続きの複雑化を懸念する声も少なくない。

事業戦略

日本企業は成長戦略を スピーディに進められるか?

パンデミックの影響でインオーガニックによる成長が制限された2020年は、事業の立て直しや事業ポートフォリオの見直しに奔走していた期間であったと考えられるが、2021年は、事業の完全売却、事業パートナーの招聘、既存事業への追加投資、新規事業の買収等、生き残りをかけ次の一手を講じる実行フェーズに入る企業が増えたとの見方ができる。実際、過去2年間で30%未満であったM&A意欲の高い日本企業は、2021年には55% まで増加している。

  

社会課題の解決に向けたCEOの責任

ESG推進には新しい「革袋」を

今、企業に求められているのは、「新しい革袋」である。新約聖書の「新しい葡萄酒は新しい革袋に盛れ」という言葉が示すように、ニューノーマルという新しいルールによる社会の到来とともに、経営者は「これまではこうだった」という論理を捨て去り、新しい革袋を用意するという決断をし、そのための戦略を実行しなければならない。言い換えれば、「古い革袋」のまま、あるいは、「つぎはぎだらけの革袋」では、新たな時代を受け入れられず、せっかくのESG投資やデジタル投資によっても、芳醇な成果をもたらすことは難しくなる。

ESG・DXの一体的な投資戦略

ESG・DX投資によってトランジション・リスクを乗り越える

企業が持続的な成長を遂げるためには投資を加速する必要があることに、異論を差し挟むCEOはいないだろう。しかしながら、漫然と今までの事業の延長線上で投資を継続しているだけでは、持続性を確保することはおろか、企業価値も高められない。この不確実な時代において、企業は多かれ少なかれトランジション・リスクを抱えている。事業の組み合わせとその構造を変え、自社の強みを発揮できるビジネスフィールドに経営資源を集中し、トランジション・リスクに立ち向かう。そのような投資姿勢が企業に求められている。

サイバーセキュリティ

サイバー攻撃に対する備えは明日にも無効化されるかもしれない

クラウドストライク社の調査結果(2020年度版Crowd Strikeグローバルセキュリティ意識調査)によれば、日本企業の52%がランサムウェアの被害に遭い、そのうち32%が身代金の支払いに応じていたとのことだ。支払った身代金の平均は1.2億円にものぼるとされている。

DX

デジタルアジリティへの備えを

企業経営・事業経営においてESG視点を取り込んだ成長を志向するにあたり、DXの推進が必須となることは論をまたないであろう。海外事例ではDXを前提とした事業ポートフォリオ組成の足かせになるレガシーシステムを抱えた事業体の売却を決断し、成長投資に資源を振り分ける事例も散見されるようになってきている。

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