新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が経済に影響を与えたにもかかわらず、2020年の医薬品業界におけるディール件数は過去最高を記録しました。その要因を考察し、競争が激化するなかで、バイオ医薬品企業が優位な立場に立つための戦略を提案します。

本稿のポイントは以下のとおりです。

  • 革新的なパイプラインを構築し、メッセンジャーRNA、細胞治療、遺伝子治療および二重特異性抗体などの斬新な技術の領域で新たな能力を獲得するための競争により、医薬品業界におけるディールが急増した。
  • 2021年もバイオ医薬品業界において、最も有望なテクノロジーを求める激しい競争と活発なディール市場が続くと考えられる。

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イノベーションの追求

2020年はバイオ医薬品業界におけるディールの急増、特に、独創的なディールストラクチャーを利用したディールの著しい増加が見られました。例えば、戦略的な共同研究開発は2019年の161件から2020年の367件に2倍以上増加し、資産のライセンス契約は360件から593件に急増しました。また、バイオ医薬品企業の経営幹部31人の80%超が、2020年にバリュエーションが上昇したと回答しており、4分の1近くの経営幹部が取引額について20%以上急上昇したと見積もっています。バリュエーションの上昇要因については、回答者の過半数(61%)が、主な牽引役として、高価値で革新的なアセットを巡る激しい競争を挙げました。バイオ医薬品業界では、企業はイノベーションを維持しなければならず、革新的なアセットを巡る競争の激化が今後もディール市場を主導すると考えられます。

世界の研究開発のトレンド

世界のディールのトレンドは、世界の研究開発のトレンドを反映しています。世界のパイプラインは、高分子および核酸医薬品の分野で急速に拡大しています。なかでも、収益を生み出す前の段階にある膨大な数の小規模なバイオテクノロジー企業が、細胞医療および遺伝子治療のパイプラインを牽引しています。2020年は、医薬品業界では核酸技術関連のディールに大きな注目が集まりました。細胞医療および遺伝子治療全体のディール件数は、2019年の83件から増加して141件になりました。これは主に、アセットのライセンス契約が大幅に増加したことによります。

2021年の見通し

2021年もバイオ医薬品企業の間で、特に腫瘍学、免疫学、神経学、感染症の分野において、最も有望なテクノロジーを求めて激しい競争が続くとKPMGは考えています。企業は開発初期段階のアセットへの投資リスクを軽減するため、2021年以降も開発初期段階のパイプラインアセットに関する独創的な契約に注目していくものと考えられます。

2021年におけるもう1つの共通のテーマとして、大手製薬会社が、資本基盤を改善する目的で非中核のパイプラインまたは収益性などのパフォーマンスが低い製品の事業を売却する動きが広がることが予想されます。

結論:優位な立場に立つために

イノベーションの競争が激化するなか、バイオ医薬品企業は革新的な新薬候補を手に入れるために、開発初期段階にあるパイプラインアセットの獲得に動いています。しかし、どのテクノロジーが成功するのか、あるいは新たなイノベーションのなかから抜け出すのかを予測することは極めて難しい状況です。また、マイルストーンに基づいて投資を行う独創的な仕組みを使った契約が増加することも予想されます。

このような背景を踏まえ、2021年のM&Aに関し、バイオ医薬品企業にとっての重要なポイントは次のとおりです。

  1. 幅広い種類のテクノロジーに焦点を当てた多様な戦略を採用する。
  2. 初期段階にある別のテクノロジーが優位に立つ可能性を検討する。
  3. 統合戦略と成長戦略を合致させる。
  4. 2021年のさらなる事業売却の動きを注視する。

英語コンテンツ(原文)