新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)と、それに続く世界経済の悪化は、世界の半導体業界に予想もしない多くの課題をもたらしました。しかし、半導体企業はおおむね、これらの混乱の短期的影響を迅速に把握し、対応しました。コロナ禍は、社会のテクノロジーへの依存を強め、デジタル化を加速させました。半導体を用いた製品とソリューションの需要が急増し、半導体企業にとっては最終的に成長の誘因となりました。

本レポートのポイントは以下のとおりです。

  • 半導体業界がコロナ禍から急速に回復しているため楽観論が台頭しており、半導体企業のリーダーは業界全体の収益、収益性、設備投資、研究開発投資を増やす意向にある。
  • 成長製品/用途は、前回調査でもトップにランクインしたIoTと無線通信(5G含む)は引き続き来年も半導体企業の収益を牽引する最も重要な用途として挙げられた。また自動車の用途がコロナ禍による経済悪化と在宅勤務への移行にもかかわらず、前回調査同様にランキング3位に選ばれた。
  • 半導体業界にとって領土主義およびサプライチェーンの混乱は最大の課題であり、戦略上の優先事項は、成長に向けた取組みの執行、人材開発/管理、サプライチェーンの柔軟性と順応性の向上が挙げられた。
  • 半導体業界は、デジタルトランスフォーメーション、ポートフォリオと資本配分、サプライチェーンのレジリエンス、関税の緩和、への対処を考察すること。

COVID-19のインパクト

半導体業界は、コロナ禍前の水準並みの成長で2020年を終え、他の大方の業界よりパンデミックをうまく乗り切りました。半導体企業のうち、コロナ禍が自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させたと回答したのは50%にとどまり、パンデミックを機に変化を加速させた他の業界より遅いペースとなっています。コロナ禍による事業改革のトップは、クラウドとオートメーション技術のいずれか、またはその両方の採用を拡大するというもので、これらは「場所に縛られない働き方(work-from-anywhere)」モデルの定着を支援するために使われています。

財務の見通し

半導体企業のリーダーは、来年度の会社の収益、業界の収益性、設備投資、研究開発投資が増えるとみています。回答者の63%が来年度に自社の従業員数を増やす予定ですが、この割合は前回調査(74%)を下回っています。半導体企業は、市場機会に合わせて研究開発費をより効率的に調整するようになっていますが、それでも市場の相当部分に改善の余地があります。

成長製品/用途

無線通信(5Gを含む)とIoTはともに同率で、来年度の半導体企業の収益を牽引する最も重要な用途に選ばれました。自動車向けはコロナ禍による落ち込みが想定されていたにもかかわらず、クラウドコンピューティング、データセンター、人工知能、家電製品などの用途を抑え、来年度の半導体企業の収益にとって3番目に重要な牽引役にランクインしています。製品区分別では、センサー/MEMSは来年度に最も成長機会が大きいと評価されており、用途別ランキングとの整合性があります。

業界の課題と戦略上の優先事項

領土主義、サプライチェーンリスク、人材リスクは半導体業界の課題のトップスリーであり、これはテクノロジーセクター全体のリーダーが示した成長に対する脅威のトップスリーと見事に重なります。戦略上の優先事項は、長期的な経営姿勢を反映し、成長、人材管理、サプライチェーンのレジリエンスとなりました。インクルージョンとダイバーシティの拡大、二酸化炭素排出量の削減、ESG報告の義務化は経営陣の間で大きな議論を呼んではいますが、戦略上の優先事項のトップスリーに挙げた回答者はごくわずかでした。各社はまだ世界的なパンデミックのなかで、重要な事業運営上の最も緊急の課題に集中しているということです。

次のステップ

本報告書で取り上げたテーマについて、以下にその対処法の参考例を挙げます。

DX

DXの推進には、デジタル投資に優先順位をつけること、広い視点を持ってデジタル技術を組み合わせたプラットフォームを迅速に導入すること、複数のエマージングテクノロジーを融合させる変革において組織を適応させることが重要となります。

ポートフォリオと資本配分

半導体企業は、アクティブポートフォリオマネジメントの技術を使うことで、製品ラインが株主に必要なリターンを生み出しているか、研究開発投資が資本の効率的利用につながっているかを判断することができます。そのためには、投資、組織体系、製品ロードマップの評価、最大の成果を生み出すようなリソースの配置、戦略的買収やパートナーシップの模索、ポートフォリオと資本配分の継続的なモニタリングを行う必要があります。

サプライチェーンのレジリエンス

未来のサプライチェーンモデルは、変化する顧客と市場のニーズを満たすための多次元的な枠組みが焦点となります。企業がサプライチェーンの新たな運営モデルを構築するために必要な特性として、データ主導の意思決定、税の最適化が組み込まれたフットプリント分析、セグメント化に基づく垂直統合、「ジャストインタイム」の在庫戦略などが挙げられます。

関税の緩和

関税関連のコスト増を抑制することは引き続き半導体業界の課題ですが、その対策として、オンショア調達の選択肢の模索、新たな関税コストの軽減または回収のために利用可能な手法の再点検、シナリオプランニングと全社的リスク評価の日常業務への組込みが挙げられます。

英語コンテンツ(原文)

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