地域統括会社の管理パターンと機能見直しの検討ポイント

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年8月10日特大号(No.1619)に地域統括会社に関するKPMGの解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年8月10日特大号(No.1619)に地域統括会社に関するKPMGの解説記事が掲載されました。

本記事は、「旬刊経理情報 2021年8月10日増大号」(通巻No.1619)に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 地域統括会社に配置すべき機能、役割については、事業の特性(事業の幅・広さ、製品特性)と地域への進出状況(配置機能、事業のライフサイクル、事業規模など)に応じて、一定の傾向がみて取れる。
  • 税制・規制、地政学リスク、および、昨今経営陣へ要請されているサプライチェーンの再編、COVID-19、DXなど、これまでとは桁違いに経営環境が複雑化している。かかる状況を踏まえ、地域統括会社の役割や責任を再定義する必要がある。

はじめに

日本企業の地域統括会社設立が本格化した2010年前後以降、地域統括会社が担うべき役割に関する議論が続いている。地域統括会社に絞った調査はほとんどないが、2016年に、KPMGが日本企業のシンガポールに所在するアジア地域統括会社に対して行った調査では、アジア地域の売上高は今後さらに増大すると回答した企業が8割に及ぶ。海外地域マーケットの拡大を踏まえ、地域統括会社が担うべき役割を適切に定義して、その実行のための体制を構築することは、日本企業の成長にとってますます重要となる。

地域統括会社が担う役割の検討にあたっては、複数の視点での考慮が必要である。具体的には、外部環境、域内各国への進出状況や進出計画、各現地法人の役割や体制、本社からのサポート体制などの視点が考えられるが、とりわけ重要なのは事業特性の考慮である。
本稿では、事業特性に基づき海外地域事業の管理パターンを整理したうえで、昨今のトレンドを踏まえ、今後の地域統括会社の取組み案を解説する。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

海外地域事業の管理の考え方

1.地域統括会社が担う機能

地域統括会社は、海外事業に係る本社機能の一部を委譲され、または海外現地子会社の機能を集約して、域内の子会社を統括する。地域統括会社が「統括」する機能は、海外事業に係る、戦略機能、事業機能、管理機能が考えられる。これらの3つの機能すべてを統括するとは限らないし、たとえば、管理機能の一部だけを統括(集約)するようなケースもある。また、単一の地域統括会社に複数の機能を配置するケースもあるし、統括する機能ごとに異なる地域統括会社を設けるケースもあり、事業特性や地域への事業展開状況などによりさまざまである(図表1)。

図表1 地域統括会社が保有する機能の類型化

Japanese alt text:地域統括会社の管理パターンと機能見直しの検討ポイント_図表1

2.事業特性と地域統括会社の機能

地域統括会社が担うべき機能は、事業特性によって整理することができる。1つの考え方として、事業特性を「事業の幅・広さ」と「製品特性」の2軸で類型化したうえで、事業特性の類型と地域統括会社に配置する機能との関係について説明する(図表2)。

図表2 地域統括会社の管理の型

Japanese alt text:地域統括会社の管理パターンと機能見直しの検討ポイント_図表2

(1)マーケットイン×単一事業:統一性の高い地域戦略の実現(図表2の領域A)
マーケットイン、すなわち現地ニーズを把握し製品に反映させることが重要な事業の場合、本社が海外各国の現地の実情を詳細に理解し、また、経営判断に資する現地情報をタイムリーに入手することは難しく、本社で適切な意思決定が行いにくい(図表3)。一方で、たとえば、製造機能は各国の現地法人に配置するのではなく、最大規模のある拠点に集約してスケールメリットを享受する、また、戦略に基づく一貫性確保や二重投資回避の視点から、開発やプロモーションなどの機能を地域統括会社へ集約して、一元化することが考えられる。その結果、「開発」、「製造」、「販売」など、バリューチェーンの主要機能を、よりマーケットに近い地域統括会社へ本社から委譲し、現地法人からは集約する傾向にある。

また、単一事業の場合、グローバルに事業展開していても、管理すべき各機能のKPI(重要業績評価指標。例:販売数量、単位あたりの製造単価、リードタイム、工場の歩留まりなど)は変わらない。そのため、海外現地事業のKPIやその基礎情報を把握可能なシステムを構築しておけば、本社や地域統括会社で一元的に管理することができる。共通の情報を持っていることから、本社は地域統括会社に域内の戦略機能を委譲しやすい。

図表3 領域Aの事業展開イメージ

Japanese alt text:地域統括会社の管理パターンと機能見直しの検討ポイント_図表3

(2)マーケットイン×多角化事業:地域の企画・戦略立案の実行と管理(図表2の領域B)
多角化しているなど、事業の幅が広い企業の場合、地域統括会社に域内事業に係る経営機能を配置して、全事業に及ぶ権限を本社から委譲することは難しい。

多角化企業の場合、一般に、各事業部門の責任者に事業に係る権限(戦略立案、投融資、人材の配置・登用など)を集中させるため、担当域内部分に限定するとはいえ、地域統括会社の責任者に事業部門の責任者を上回る権限を委譲することは難しい。また、複数の異なる事業を束ねて経営する機能を地域統括会社に担わせることにも困難さが伴う。そのため、地域統括会社には、各事業部門の責任者の権限が及ばないこと、たとえば、地域にフォーカスした複数事業横断の事業・プロジェクトや新規事業に係る機能を担わせて、責任を持たせることが一般的となる(図表4)。

多角化している企業でも、事業に係る権限を地域に委譲しているケースとしては、すべての事業についてではなく、特定事業に限って地域へ権限を委譲するケース、および、事業の主たるマーケットが日本ではない場合で、事業責任者を最も重要な海外地域に配置して経営意思決定を行うようなケースがある。

図表4 領域Bの地域統括会社の役割・体制

Japanese alt text:地域統括会社の管理パターンと機能見直しの検討ポイント_図表4

(3)プロダクトアウト×単一事業:一部機能集約による効率的管理・運営(図表2の領域C)
プロダクトアウト、すなわち地域マーケットによる顧客や消費者のニーズに差が出にくく、性能・品質が重要な事業である場合、地域マーケットに近いところに戦略機能や開発機能を配置して経営意思決定や製品開発を行う必要性が乏しいため、日本本社で一元的に経営判断や管理を行うことが可能となる。

ただし、昨今は、一部の事業については、日本本社から戦略機能を重要な事業拠点や最大市場の所在する国に移管するケースや、一部機能(開発、調達、財務、税務など)について、当該機能に関する経験、スキルを保有した人材を採用しやすく、専門家が豊富でコンタクトが取りやすい米州、欧州の都市に配置するケースも見受けられる。

(4)プロダクトアウト×多角化事業:管理機能の効率化・高度化の追求(図表2の領域D)
前記(2)と同様に、多角化企業や事業の幅が広い企業では、地域統括会社で域内の全事業を束ねて、各事業に係る意思決定や事業間の経営リソース配分などを行うことは非常に難しい。各事業の経営機能、事業間の経営リソース配分は日本本社で行われるのが通常である(図表5)。

事業特性の影響を受けにくい経理・財務などの機能については、地域統括会社で一元管理または集約することにより、業務の効率化・高度化、リスク低減にかかる取組みを行う場合がある。

他企業の買収にあたり、被買収企業の管理体制が確立されている場合には、既存の管理体制を置き換える形で、買収企業である自社の管理手法やルールなどを導入することは容易ではない。特に日本企業の場合は、経理・財務などの機能も含めて、被買収企業の既存の管理体制を温存するケースが多く、このことが地域内横断での子会社の管理を難しくさせている。

図表5 領域Dの事業展開イメージ

Japanese alt text:地域統括会社の管理パターンと機能見直しの検討ポイント_図表5

3.事業のライフサイクルと地域統括会社に配置する機能の関係

事業特性とは別の視点として、事業のライフサイクルの視点も重要である。域内で展開する各事業のライフサイクルに応じて、課題やリスクが異なってくるため、地域統括会社として注力する取組みを見直す必要がある(図表6)。

また、地域における課題にはグループ全体で共通している課題もある。問題が顕在化している現地法人単独では対処できないものも多いため、本社や地域統括会社が課題の識別、および課題への対処に関与・支援することが重要となる。

図表6 事業ライフサイクルと現地法人のリスク・支援業務内容

Japanese alt text:地域統括会社の管理パターンと機能見直しの検討ポイント_図表6

4.地域による管理の必要性が乏しいケース

本社から地域に対し、権限を委譲する必要性が乏しいケースがある。たとえば、B2Bビジネスでグローバルに事業展開しているが、顧客が特定の少数である場合、「顧客」に係る機能が重要であり、「地域」視点での機能は重要ではない。このような場合、営業とアフターサポートなど、顧客の近くに設置することが適した機能を除き、統括会社を設立して地域管理にリソースを割く必要がないケースもある。

地域統括会社が取り組むべき課題

ここでは、海外現地法人に典型的にみられる課題を挙げる。地域統括会社の機能として、現地法人が抱える課題の解決または解決の支援を考慮することは、成長する地域市場における事業運営の効率化・高度化を図るうえで望ましい。

1.業務のブラックボックス化・属人化

海外現地法人の業務は、属人化し、文書化が十分になされておらず、また、長期雇用の少数従業員に特定の業務が集中しているケースが多く、不正や離職に伴う業務中断リスクが内在している。当該状況は、デジタルテクノロジーを活用した業務の標準化、ペーパーレス化、複数拠点の業務の集約による効率化などの妨げになる。特にコロナ禍の状況下において、自宅からリモートで業務を遂行せざるを得ないケースでは、対面のコミュニケーションが限定され、さらに不正リスクが高まっているといえる。

2.グループ会社のシステムやデータが統一されていない

拠点ごとに異なる業務システムや会計システムが導入され、個々のシステムによりデータ粒度やマスターが異なることが多い。たとえば、品目コードが統一されていないため、域内の品目別売上の集計ができず、分析のために多大な時間を要するケースもある。RPA(Robotic Process Automation)の導入やペーパーレス化の取組みにより、ある程度の改善は可能であるが、域内の現地法人のシステムやデータの標準化を進め、事業に関連するデータを積極的に収集し、活用していく必要がある。

3.人事関連の取組みが不十分

海外に事業展開し、地域統括会社を設立するような日本企業の多くは、国内でのプレゼンスは高く、優秀な人材の採用ができているケースが一般的と推察する(入社後の育成、登用、雇用継続については、課題があるかもしれないが)。一方、海外においては日本企業のプレゼンスは低下傾向にあり、海外のローカル人材は、日本企業への就職、転職を積極的に希望していないのが実態である。今後、海外事業を成長させ、現地主導の経営へとシフトしていくためには、海外現地法人での優秀な人材の獲得は必須である。海外での採用活動に注力するとともに、優秀なローカル人材を惹きつけるような魅力的な人事制度に変更することを検討する必要がある。

欧米企業におけるグループ管理体制の特徴

ここでは、グローバル展開している欧米企業のグループ管理の特徴を説明する。これらは地域軸での取組みではないが、グループとしてのガバナンスや標準化が十分でないまま大きくなった日本のグローバル企業にとって、段階的に、まずは地域別にグループ管理強化を進めるうえでの参考になると考えられる。

1.シングルインスタンスのERPシステム構築

グローバル展開している欧米企業の多くは、全グループの業務プロセスが標準化され、同一のプラットフォーム(シングルインスタンス(単一サーバー)のERPシステム(Enterprise Resource Planning、「基幹系情報システム」のこと))上で実施するようにデザインされている。データも一元化されており、本社から常時グループ各社の状況を把握できるような体制が構築されている。

2.目標(KPI)とレポートラインの明確化

グローバル本社の各CxOが責任を持つ機能別の目標を頂点として、各地域、各現地法人にKPIがブレークダウンされており、各地域の機能別組織や各国の現地法人で目指すべき目標が定量化され、成果が定量的に測定される。また、レポートライン(指揮命令系統)も、所属しているグループ会社の上長のみならず、グループ全体で機能軸での評価者が定められている。当該KPIとレポートラインに則って評価がなされているため、グループ全体を機敏に動かして同じ方向に向かうことができ、曖昧な評価要素がなく、全体最適の視点からの評価が行われる。

3.役割・責任と人材の関係

常に人材が流動することを前提として、ヒトに役割をあてがうのではなく、ポジションにヒトを充てる考え方であり、いわゆるジョブ型雇用が一般的である。当然ながら各ポジションに求められるスキル、経験が細かく設定されており、当該要件を満たす人材が採用、登用される。

4.共通の価値観(シェアードバリュー)を醸成するためのしくみ

欧米のグローバル企業では、本社主導でグローバル共通のポリシー、ルールを整備し、拠点に展開することで、グループ共通の価値観を醸成している。このようにして、海外現地のマネジメントを拠点の経営者に依存することにより、現地で働くメンバーの価値観が独自のものとなることを避ける。各地の文化・商慣習などには配慮しつつも、重要な価値観やノウハウは文書化されて伝達・共有・伝承される。これらをヒトに依存することは前提としていない。

事業環境の変化

ここでは、地域統括会社の機能を検討するうえで、考慮するべき昨今の外部環境の変化とそれに伴う対応例を説明する。

1.サプライチェーン再編

従来はグローバル全体でサプライチェーンの最適化を追求していた企業も、米中摩擦や地政学リスクの増大、コロナ禍の影響などにより、サプライチェーンの効率性の反面としてのレジリエンシーの弱さを問われる状況となっている。全体最適から局地最適、グローバルからローカルへとパラダイムシフトが起こっている。たとえば、アジア地域について、中国国内で完結するサプライチェーンと、アセアン域内で完結するサプライチェーンに分けて再構築する動きなどもみられる。

また、サプライチェーンの見直しについては、サステナビリティに影響を与える要素も無視できず、とりわけ脱炭素の要請への対応は喫緊の課題といえる。製造時のみならず、物流時に発生する温室効果ガスの削減も求められる見込みであるため、脱炭素に向けた物流の視点でサプライチェーンを再構築する必要もある。この場合、需要地の近くで完結するサプライチェーンを持つことが効率的となるケースが多いだろう。加えて、サプライチェーンの再編にあたっては、事業面のみならず、間接税(関税やVAT、GST等)および移転価格税制の観点からの検討も必須である。

2.コロナ禍の影響

リモートワーク、非対面でのワークスタイルの浸透については、ウィズコロナの期間にとどまらず、近い将来社会的距離が緩和され平時に戻った後の世界(アフターコロナ)でも、「ニューノーマル(新常態)」として継続することが予想される。コロナ禍以前の業務・組織・IT・コミュニケーション方法等のままで適応できる可能性は低く、企業はニューノーマルに適したあり方を、現時点から模索し、アフターコロナに向けて構築・移行していく必要がある。次に、コロナ禍の影響下においての機能別の取組み例を紹介する。

(1)財務
事業の見通しが立てにくい状況において、返済や支払の遅延・遅滞(その不安)を避けることの重要性は増しており、万が一を想定して手元現金を厚く維持する必要がある。一定の余裕資金を確保し、その水準を適切に管理するためには、必要資金の把握が必要であり、従来以上に、営業キャッシュ・フローや返済計画の精緻化が必要である。また、投資計画や配当予定額、コミットメントラインの把握、資産売却・流動化の可否の確認など、いつまでにどの程度の資金を確保することができるのか、支払が発生するのかを把握する必要がある。日本企業に共通の課題と考えられるが、海外拠点の資金計画、投資計画の策定、およびそのモニタリングが十分ではない場合、改善を図る契機とすべきである。

(2)税務
コロナ禍において、各国が大規模な財政出動を強いられているなか、財源不足を補うために税収を確保する動きがある。たとえば、バイデン政権となった米国では法人税率を7%、英国で法人税率を6%引き上げることが計画されている。また、各国課税当局の動きが、今後、一層活発になることも考えられる。具体的には、各国税務当局が実施する税務調査が、従来以上に積極的となることも考えられるため、税務調査を受ける企業側は、可能な限り早い段階での準備が望ましいものと思料する。

(3)システム・ネットワーク
リモートワークでは、マルウェア感染や不正アクセス、端末の紛失・盗難など、機密情報に係るセキュリティ上の懸念が増大する。コロナ禍の影響でリモートワークが強いられているなか、グループの拠点ごとのシステムが異なっている場合、IT/システムのセキュリティレベルを一時的とはいえ緩和しすぎている等、その対応状況が統一されておらず、サイバーセキュリティリスクが許容水準を超えて大きくなっているケースもある。懸念がある場合には、現状のセキュリティレベルが妥当かについて、外部専門家の評価を得るなどして、セキュリティ管理態勢の見直し、対策へとつなげることが必要になる。

今後注力すべき取組み

これまでの内容を踏まえ、さらなる改善に向けての取組み案を説明する。

1.三位一体での見直し

地域統括会社の役割の見直しにあたっては、当然のことながら、地域統括会社だけに焦点を当てるのではなく、本社、現地法人の3者を含めた形で、それぞれの役割の再定義を行う必要がある。また、前述したような解決すべき課題や昨今のトレンドなども踏まえる必要がある。たとえば、リモートワーク体制を確立し、現地法人の各種データに直接アクセスできる環境を構築した場合には、従来地域統括会社から行っていた現地法人の管理・モニタリングにつき、精度を維持して本社から直接行えるようになり、地域統括会社に配置していたリソースを減らす(移す)ことができるであろう。

また、当面は海外出張などの移動が容易でない状況が続く見込みであることを鑑みると、本来フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが望まれる新規商談や技術支援などの取組みにつき、従来地域統括会社に集約していたリソースを、現地法人に分散配置するという考え方もある。

2.組織のバーチャル化/機能別の配置場所の検討(分散化)

リモートワークが確立・定着すれば、勤務地と所属を切り分けて考えることができる。すなわち、遠隔地勤務のまま、地域統括会社の部門責任者や地域の機能責任者の職に就くことができる。たとえば、地域統括会社はシンガポールにあり、アジア地域の販売や品質管理などの機能を統括するが、販売機能の責任者は販売拠点であるタイ現地法人の人材、品質管理の責任者は製造拠点であるインドネシア現地法人の人材をそれぞれ任用することもでき、組織機能と人材配置を柔軟に設計することが可能となる。ただし、PE課税リスク、移転価格、タックスヘイブン対策税制等に留意する必要がある。

3.人材リソースの強化

(1)外部リソースの活用
いわゆるウィズコロナ時代では、突発的な移動制限から適時にリソース再配置ができなくなる可能性があること、および昨今のデジタライゼーションの動向を鑑みると、これまで以上に外部リソースの活用を検討するタイミングであると考えられる。特に、事業のDXについては欧米企業のほうが進んでおり、海外のほうが最先端の知見を有した人材を発掘しやすい。必要となったときにすぐに信頼できる外部リソースがみつからない可能性も高いため、平時から、一定割合の業務や専門業務につき、外部リソースを利用しておくことも一案であろう。今後、さらに事業環境の変遷が早くなる可能性があるなかで、自社のリソースだけでは課題に対処しきれない場面に遭遇する可能性も高く、代替案を検討しておく必要がある。

(2) 人材採用・登用の取組み改善
海外で優秀な人材を採用しようとした場合、1.何を期待されているか、どのような知識・経験・スキルを要するのか、2.期待に応えた場合の成果や報酬はどのくらいか、3.他社と比べてこの会社で働くとキャリア上どのようなメリットがあるのか、という3つの問いに応える必要がある。今後は、必要なときに必要なリソースをタイムリーに調達(雇用または外部リソース活用)し、自社事業の改善、高度化をケースバイケースで進めていく必要がある。

その場合、メンバーシップ型の雇用スタイルではポジションと従業員のマッチングが難しく、ジョブ型雇用への移行を検討する必要がある。

4.事業の創出・学びの場として

(1)事業創出の場・リビングラボとしてのアジア
コロナ禍の影響はあるが、今後アジアはさらに重要な市場に成長していくことは明らかである。ただし、アジア諸国のビジネス環境は一様ではなく、それぞれ、経済成長率、人口動態、所得水準、政情、文化などもまだら模様であり、一律の取組みでは通用しないことは従前と変わらない。

アジア全体の印象として、技術やビジネスモデルが、まだまだ日本に追いつけていないと考えがちであるが、各国の状況を詳細にみると決してそんなことはなく、フィンテック(金融)に始まり、ヘルステック(医療)、インシュアテック(保険)、アグリテック(農業)と、テクノロジー活用を前提としたビジネスモデルが次々と生まれ、発展を遂げている。日本の状況と比べて、既存の成熟産業の「レガシー」が少ない分、新たな技術の採用と、その活用による成長も速いといえる。

日本企業では、マーケット起点で製品を開発する取組みは進められているが、従来から品質の高い製品を作って売ることを重視し、また、1つの事業・製品ライフサイクルが長く、イノベーションや新規事業開発に弱いことが特徴である。この状況を踏まえ、日本企業は、アジア地域を「リビングラボ」としてトライ&エラーを重ね、現地の最先端事例から学び、自社のイノベーションに活用するなどの取組みを強化するべきである。

肥大化した本社主導のままでは新規事業の立案、トライアル1つ取っても時間を要するため、地域統括会社に新規事業の権限を大胆に委譲し、またリソースを配置して、スピーディーに取組みを進めることも考えられる。

その際、現地で閉じた活動とせず、バーチャル組織またはプロジェクトとして本社メンバーも関与し、取組みを可視化して、広く経験やノウハウをリアルタイムで共有したり、周辺国の現地法人メンバーを関与させることで、事業への参画意識やモチベーションアップを図ることなどが考えられる。

(2)各国動向の把握
地政学リスクと一言で表現してしまうことが憚られるほど、アジア地域は、国により、政治、宗教、経済などの特徴が異なる点に留意が必要である。経済成長でプレゼンスを発揮し始めた国々がどのようにふるまい始めるのか、法律制度、政治、社会性(国民性)等の観点で把握し、自社の事業や業務にどのような影響がありそうなのかを理解しておくことは今後ますます重要になる。

また、各国は自国の状況、特性に応じて注力する産業が異なり、それに合わせて法制度を整備しているため、自社の事業や機能に対する各国の姿勢や取組みを把握しておくことは必須である。たとえば、シンガポールでは半導体、水素関連事業の取組みに注力しており、最先端の研究開発に取り組む法人に対する優遇税制が充実している。

おわりに

本稿で取り上げたとおり、経営環境の変化に応じて、目指すべき地域統括会社の役割が変わっていくことは明らかである。ニューノーマル時代における事業やグループ全体のあり方を模索している状況下において、グローバルに事業を展開している企業が、地域統括会社の役割や責任のあり方を再定義することは不可欠であると考える。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
門田 大介(もんでん だいすけ)

KPMG税理士法人
税理士
三浦 晃裕(みうら あきひろ)