失敗とは「成功へのシミュレーション」。環境づくりのコツ

失敗を成功の対極と考えるか、失敗を成功の途中経過と考えるかで、プロジェクトの成功率は大きく変わるように思います。

Forbes Japan Onlineに記事が掲載されました。

発明家トーマス・エジソンの有名な言葉に「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまく行かない方法を見つけただけだ」というものがあります。これはエジソンが電球の開発を試みたときのものでした。

エジソンは、寿命の長い電球をつくるために、耐久性のあるフィラメントを探し、試作は約2000個にも上ったと言われています。フィラメントに適した素材を探求し続け、最後に日本の竹からつくられた竹炭を素材とするフィラメントに辿り着き、ようやく低価格で効率的に生産できる長寿命の電球を発明したのです。

その後フィラメントは素材改良が重ねられ、タングステンなどの金属の素材が使われるようになり、白熱電球は20世紀最大の発明の1つとも言われるようになりました。その後時を経て、発熱が小さく非常に長い寿命を持つLEDが発明されたことにより、白熱電球はその多くがLED電球に置き換わってきました。

失敗こそが成長に大きく影響する

このところ「エジソンズ・ゲーム」(2019年)や「テスラ エジソンが恐れた天才」(2020年)など、当時の様子を描いた映画が立て続けに製作されました。

前者はアメリカ初の電力送電システムを巡る発明王エジソンと実業家のウェスティングハウスの歴史的なビジネスバトルを、後者は電流戦争でエジソンに勝利して富と名声を手にした天才発明家ニコラ・テスラの栄光と没落を描いています。

どちらの作品も、単なる技術の競争だけでなく、政治や文化などの歴史的背景までも忠実に再現しています。開発に消えていく資金の流れ、広報戦略、有力者とのつながりや裏取引など、電気の未来を切り拓いた者たちの覇権争いがさまざまな面から語られています。

現代社会にも通ずるビジネスシミュレーションを見ているような感覚になるので、どちらも産業史の1つの大きなイベントとして観ると面白いのではないかと思います。

このエジソンやテスラの例で興味深いのは、2人とも成功したときのイメージが最初にあって、その成功状態にどうやって近づいていくかというアプローチを取っているという点です。

両者とも、街灯や家庭器具、そしてそれまで蒸気機関で稼働していた工場の機器を電気駆動に変えるための発電ネットワーク技術を開発しました。エジソンは直流方式、テスラは交流方式と、方式は違いましたが、達成しようとした世界観は極めて近いものでした。

このように、実現したいイメージを明確に持てるかどうかが、失敗を繰り返しても諦めずに努力を続けられる原動力となるのだと思います。

またその最初のイメージを実現するまでの過程で経験した数々の失敗こそが、その後の成長に大きく影響するという感覚は、失敗した本人だけが得ることのできる貴重なものなのです。

みなさんは、生まれてから1人で立ち上がれるようになるまで、何度転んだことでしょうか? 2桁の失敗ではすまないと思います。転んでも何度も立ち上がろうとして、また転び、最後に立ち上がれるまで失敗を繰り返したのだろうと思います。

馬やキリンのように生後すぐに立ち上がり自分の力で歩き出す動物もいますが、人間にとっては歩くということですら、生まれてから1年ほど時間を要し、何度も試行しないと叶わないことです。

とはいえ、この子どもの頃の原体験により、「繰り返し失敗することでいずれ成功に到達する」というイメージが、人間には知らず知らずのうちに基礎として根付くのかもしれません。

新しい事業やプロダクトを生み出すときに、1度や2度失敗したくらいであきらめていては、いつまで経っても成功しないのではないでしょうか。

もちろん、事業立ち上げには費用もかかるので、無限には失敗を繰り返せないのが現実ですが、そこは机上の仮想シミュレーションなどをうまく使うことで、何度も試してみると良いのではないでしょうか。

エジソンの言うように、失敗は「そのアプローチではうまくいかない」というケースを潰していくことに他なりません。失敗を観察することで共通点を見つけ、そこからこれまでにないパターンを導き出し、それを試すことが成功率をあげることに繋がるのです。

デジタルは失敗をたくさんできる環境

風に流れる雲が自分の気に入る形になるまで、撮影を開始しなかったと言われていた映画界の世界的巨匠、黒沢明監督。そのこだわりが、撮影後何十年経っても彼の作品が色褪せず、多くの映画人に強い影響を与えたと言われる所以でしょう。普通の人にはちょっと真似のできない素晴らしい「努力」だったと思います。

かつての映画製作では、劇中に登場する建築物を実際に建てたり、背景も立て看板に絵を描いたりと、実物に見せかけたセットをつくっていました。撮影終了後にはそういった製作物が保存されることは少なく、通常は廃棄していました。

昨今、映画などのコンテンツ制作においてはデジタル技術が多用されており、そうした建築物や背景などは、当然コンピューターグラフィックスにより自由自在につくり上げることが可能です。

また、デジタル技術にロボティックスを加えることで、危険なスタント撮影をロボットが代替するということもできるようになってきています。これにより、実写の動きに近いスタント映像で、かつ実際に人間が演じるよりも理想的な動きをつくり出すことができるようになりました。

このように、デジタル環境であれば、製作物を格段に減らすことができたり、生身の人間が演じるよりも、思い描いた理想の動きをつくり出すことが可能になるのです。

また一発勝負でなく、ライティングなどの条件を何度も変えたり、背景の雰囲気を自在に調整してみたり、製作上の自由度がとても大きくなります。俳優の拘束時間も短くなるので、製作費をよりコンテンツのクオリティ向上のために使えるというメリットもありそうです。

つまり、デジタル環境は失敗をたくさんできる環境と言ってもよく、これをビジネスに取り入れないという理由はありません。

日本では甚大な自然災害は少なくなく、災害対策に関わるシミュレーション技術や可視化技術も日々進歩しています。津波の高さなどメートルで教えられても感覚的につかみにくいものが、実際の水位を映像にしたもので見せられると、その深刻さや避難誘導の重要度を正しく理解できます。

こうしたシミュレーションは、ビジネスの場合にも大いに役立つと考えられます。特に多くの日本の企業の経営判断は、まだまだ経験や勘、時には度胸など人の感覚に頼る傾向が残っています。

しかし、自社の事業環境をデジタル空間に置き、新しい技術を活用することで、さまざまな予測やシミュレーションが可能になります。最終的な経営判断の前に、あらゆる可能性を可視化することで、より多角的に物事を検討することができ、より早く正解にたどり着くことができるようになると考えられます。

実際に失敗を繰り返すことなく、答えにたどり着けるのであれば、それらの技術開発が今後のビジネス環境を大きく変えていくことになるのは間違いありません。

※この記事は、「2021年10月11日掲載 Forbes JAPAN Online」に掲載されたものです。この記事の掲載については、Forbes Japanの許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

茶谷 公之

KPMG Ignition Tokyo代表取締役社長兼CEO/KPMG Japan CDO

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