少子化による労働者不足、高齢化による医療費増大、社会インフラの老朽化による維持管理費増加など日本における地域課題は山積しています。
これらの社会課題や多様化する住民ニーズに対して、AIやIoTなどテクノロジーを活用したスマートシティ関連サービスの社会実装が期待されており、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(内閣府:2021年6月)において、2025年までに国内でスマートシティ100地域の構築を目指すとしています。

KPMGコンサルティングでは、業界専門チーム、ソリューション特化チームを横断したスマートシティ専門チームを昨年立ち上げ、活動を進めています。そのスマートシティチームのメンバーを中心に「スマートシティによって実現される持続可能な社会」というテーマで本稿を皮切りに連載を進めます。
初回は、スマートシティ・地域活性化には公共・民間含めた多様なプレイヤーの参画が重要となっていることから、官民連携に注力した事例や論点について考察します。

1.スマートシティの概況

世界のスマートシティ市場は、2020年から2030年の間に年率27.72%で成長し、2030年には1兆4,105億8,000万米ドルに達すると予測されています※1
「経済財政運営と改革の基本方針2021」において政府は、2025年までに国内でスマートシティ100地域の構築を目指しており、それに向けて4省庁(内閣府、国土交通省、経済産業省、総務省)を中心にスマートシティの支援事業を進めています。令和3年度は、全国での計画的な実装に向けた取組みの一環として、62地域、74事業が支援を受けることになっており、また、内閣府では、スマートシティに規制緩和も含めた形でのスーパーシティの公募も進めており、31団体(2021年9月現在)が応募しています※2,3
KPMGコンサルティングでもいくつかの地域について支援を行っていますが、国内外の実証実験をみると実証から社会実装へは大きなギャップがあり、そのギャップを超えるために多面的な視点を考慮して事業化を検討していく必要があると感じています。
スマートシティの実装に向けては、(1)地域性を考慮したコンテンツの活用、(2)多様な資金調達、(3)ガバナンスの利いた官民連携が鍵になると想定されます。

2.実装に向けたスマートシティの課題

スマートシティに関する実証は多数の自治体で進んでおり、各地域では多くの課題を抱えています。
市民参画の欠如、ソリューションありきの実証、特にニーズ・マーケットを考慮していない事業内容、ファイナンスモデル・官民連携手法の検討不足が課題として大きいと感じています。また既存の事業に加えて、デジタルを活用した先端サービスを都市に埋め込む必要性があり、次から次に出てくる最新技術に対応できる運営体制を官民連携して準備しておくことが重要です。

3.官民連携による検討の方向性

都市を存続させるためにも、自治体による都市運営の効率化だけでなく、市民のQoL向上、サービス提供者である事業者・団体の売上向上、社会・環境の改善など、スマートシティ化を通じてすべてのステークホルダーがメリットを享受できる好循環を生み出す必要があります。また、スマートシティ構築に関するプレイヤーもプロセスごとに多様なステークホルダーとなります。
資金調達方法に関しては、公共主導の場合、PPP(Public Private Partnership)・PFI(Private Finance Initiative)に加えて、成果連動型(PFS(Pay For Success)やSIB(Social Impact Bond)等)、企業版ふるさと納税、クラウドファンディング、ESG投資、STO(Security Token Offering)などが想定され、民間主導の場合もプロジェクトファイナンスやコーポレートファイナンスに加えて、上記手法との掛け合わせが想定されます。また企業版ふるさと納税では、青森県東通村で10億円以上の寄付を受領しています※4。また、NFT(Non-Fungible Token)では、大手オークションハウスのデジタルアートが約75億円で落札された事例※5があり、このような取組みは今後スマートシティ関連でも増えていくと期待されます。

スマートシティ_官民連携

4.官民連携によるスマートシティモデルの構築に向けて

官民連携の潮流
現状のPPP・PFIでは、主な対象として公共施設や高速道路、空港、上下水道、発電施設などが対象となっています。成果連動型では、医療、健康事業が主な対象となっており、今後データ連携基盤や通信機器、IoTデバイスなどの整備・運営にこれらのスキームを適用することが期待されます。また、未利用空間の活用、道路上や河川空間の活用などが必要だと考えられます。
対象領域に関して、既存のモビリティやヘルスケアといった分野に加えて、収益性の向上や住民の参画を高めるためには、コンテンツやエンターテインメント領域に関連するサービスが重要になると期待しています。
これまで、美術館やホール、公園、スタジアム・アリーナなどのコンテンツビジネスに関しても官民連携が行われてきました。運営重視型のPFI(BTO(Build Transfer Operate))やコンセッション事業が事業化され、地域の核となる施設とコンテンツの一体整備・運営が行われてきています。

コンテンツビジネス・施設に関する官民連携事例
大阪城公園や愛知県新体育館など新しい事業スキームで地域活性化の核を生み出そうという取組みも出始めています。大阪城公園パークマネジメント事業は、大阪市から民間企業コンソーシアムが指定管理+P-PFI(Park-PFI)方式で商業施設運営や子育て施設、大規模イベントを運営している事業で、指定管理料0円に加えて、基本納付料2億6,000万円、変動納付金が全事業収益の7%という契約で大阪市は公共施設を所有しながら歳入を増やす事業になっています※6。愛知県新体育館は一般利用に加えて、大相撲やBリーグ、コンサートなどの施設としてこれから整備する段階ですが、事業者選定の結果、通常愛知県の負担となる施設整備費300億円+維持管理費に対して200億円の債務負担行為で事業を進めています(施設整備・30年間運営・維持管理に関する県負担の最大が200億円)※7

大阪城公園、愛知県体育館等に共通する成功要因として、(1)異業種の民間企業がコンソーシアムを組成(広告代理店、ゼネコン、通信会社、リース会社、イベントプロモーター等)している点、(2)民間のノウハウを最大限生かせるように公共側がスキーム(長期間指定管理やコンセッション)を設定している点、(3)公共側にも経済的メリット(プロフィットシェアや運営権対価)がある点、が挙げられます。
また、群馬県で建設中の太田アリーナ(仮称)では、総工費78.5億円のうち企業版ふるさと納税で公的負担のかなりの部分が賄われる可能性があるとされています。金額によっては、今後の公共事業、官民連携事業の在り方そのものを変える官民連携事業になりそうです※8
前述した、データ連携基盤構築・運営や通信設備・デバイスの整備・運営、道路上空間や河川空間の利活用の際にも上記の3つの成功要因が重要になると考えられます。

デジタルコンテンツの可能性
データ連携基盤や通信設備などを活用したデジタル化によるコスト削減を進めつつ、トップラインをあげていく事業と併せて検討する必要があります。またコンテンツと一言にいっても地域の文化に合致し価値を生み出す必要があり、ローカライズを超えたカルチャライズドスマートシティが求められていくと考えられます。
コンテンツの活用においてもデジタルを組み込み、オンラインとオフラインを行き来する取組みが増えていくと想定されます。オンライン・オフラインをまたがる取組みとして、メタバース(仮想空間)が注目を浴びており、コンセプト、プロダクトともに発展途上ですが、(1)永続的である、(2)同時性およびライブ性、(3)同時参加人数無制限、(4)参加者によるモノの制作・保有・投資・売買などが可能、(5)デジタルと物理、両方の世界にまたがる体験などが条件と言われています。
そのようなコンテンツを重視した地域のスマートシティ構築にあたっては、複製不可のデジタルコンテンツ運用や官民連携においてこれまで以上のガバナンスが事業主体に求められます。
今後のスマートシティには、(1)地域コンテンツの活用、(2)異業種企業のコンソーシアムの組成、(3)民間企業がノウハウを生かせるスキーム、(4)公共側にもメリットがあること、(5)多様な資金調達を意識しながらガバナンスの利いたPPPプロジェクトを組成することが実現の鍵となるでしょう。

5.終わりに

KPMGコンサルティングでは、上述のコンテンツビジネス等の施設整備・運営に関する官民連携アドバイザリーや、スマートシティに関する事業構想策定や事業性検討、実証支援等アドバイザリーを公的機関および民間企業に提供しています。
本シリーズでは、今後、スマートシティに関する市場の動向やビジネスの成功の要諦について、データ連携基盤やフィンテック、モビリティなどさまざまな専門家の視点から国内外の事例やトレンドを交えて解説していきます。

※1:REPORT OCEAN(2021年4月20日)
※2:内閣府 令和3年度のスマートシティ関連事業の選定結果(2021年8月24日)
※3:内閣府 スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募の応募状況について
※4:内閣府 地方創生 地域再生 企業版ふるさと納税ポータルサイト
※5:AFPBB News (2021年3月12日)
※6:大阪城公園パークマネジメント事業 令和元年度 事業報告書
※7:愛知県新体育館整備・運営等事業 実施方針
※8:群馬クレインサンダーズ プレスリリース (2021年5月13日)

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング 
シニアマネジャー 大島 良隆

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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