AirbnbやUberの進出で話題になり、コロナ禍で一気に浸透した「シェアリングビジネス」。

「自由な働き方の実現」や「起業のハードル低下」といった期待が寄せられる一方、法規制対応や業界の適正化、既存のステークホルダーとの軋轢の解消など、成長のために避けられない議論がまだ残っています。

しかし、一度拓けた市場がなくなることはありません。では、今後はどのように社会に溶け込み、その中でデジタルの力はどう活用されていくのか? 2008年からシェアリングビジネスをスタートさせた軒先株式会社の西浦明子氏と、KPMG Ignition Tokyo 茶谷公之が空想・妄想を巡らせた対談の内容をお伝えします。

シェアリングビジネスのアイディアが生まれるまで

西浦氏、茶谷

(軒先株式会社 代表取締役 西浦明子氏(左)、株式会社KPMG Ignition Tokyo 代表取締役社長兼CEO、KPMGジャパンCDO茶谷公之(右))

茶谷             :シェアリングビジネスはコロナ禍によって新しいフェーズに入ったと思います。西浦さんのビジネスは、スモールスタートで起業できる可能性の芽が日常のどこにでも転がっている、というワクワクした気持ちを呼び起こさせてくれるものです。今回はそうしたお話を聞きたくてお呼びしました。まずは軒先株式会社が誕生するまでの経緯を聞かせてもらえますか?

西浦             :ありがとうございます。2021年4月で軒先株式会社が誕生してから丸12年になりますが、若い頃から私のキャリアパスに「起業」という文字はありませんでした。会社員として働く期間が長く、茶谷さんと同じソニーで働いていた頃は、南米チリのサンティアゴに駐在して、その後は外務省の外郭団体で働いたりもしていました。

38歳の頃、初めて子どもを授かったのですが、当時の職場で「子育てしながら働き続ける」というイメージが湧かず、これまでしっかり働いてきたので「一度、会社組織に所属するというスタイルから離れてみよう。そして、子育てしながら家でできることをしてみよう」とライフスタイルを変えることにしました。

「家でできること」と言っても、当初は明確なビジネスプランを持っていたわけではありませんでした。語学スキルを生かしてスペイン語やポルトガル語の翻訳の仕事をしたり、自分が駐在していた南米チリから個人輸入したモノを販売する、といったことを何となく考えていた程度です。

チリと言えば安くて美味しい輸入ワインを連想される方が多いでしょう。しかしそうしたコンペティターが多い領域より、日本でまだ馴染みが薄いものを、と考えて思いついたのが食器をはじめとする雑貨です。

チリは鉱山がたくさんあり、銅の産出国として有名です。しかし、実はスズの産出国でもあるんですよ。そのスズを原材料としたピューターという合金でできた食器は凝った細工が施されていて、お土産品としても人気です。海外のお宅のリビングやダイニングのテーブルの中央に置かれたフルーツやナッツを盛っているような金属の器をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。

このようなインテリアとしても楽しめるアイテムなら、個人輸入してネットショップで販売しても「同じようなことをしている企業はないだろう」と、2007年頃から準備を始めました。

ただ、その当時、ネットショップを開設するにはプラットフォーマーに毎月固定費を払うルールになっていて、それなりの初期投資が必要とされていました。売上が立つかどうかも分からないのにそうした条件では少しハードルが高いな、と感じたものです。

そこで、ネットショップが上手くいくかを確かめるために、そもそもそうしたアイテムが売れるのか、いくらくらいの値段なら手に取ってもらえるかを知るべく「どこかで試し販売をしてみよう!」と考えました。振り返ると、これが軒先株式会社の誕生のきっかけだと言えます。

きっかけは「試し販売」の場所探し

茶谷             :試し販売をすることは、いわゆる市場調査という意味合いがあったわけですね。ECサイトを立ち上げるよりも早く試せそうです。

西浦             :そうです。当然ながら、試し販売をするなら場所が必要ですよね。私も思いつく方法で色々と探し始めたのですが、ご存知の通り、不動産屋さんに行っても彼らが扱っている物件は長期借り上げや賃貸借り上げ2年契約が主流で、1ヵ月くらい貸してください、というイレギュラーなオーダーに応えてくれるところなど全くありませんでした。

手を尽くして調べると、自由が丘の駅前に1週間単位で借りられる物件はあるにはあったのですが、3坪もないくらいの狭いガレージみたいなところで、シャッターを上げると照明とエアコンしかない、というものでした。そんな状態ではあるものの、立地条件が良いこともあり、1週間21万円という値段が設定されていました!

1ヵ月ではなく1週間で21万円となると、坪単価で換算すれば銀座の一等地よりもはるかに高い金額です。

茶谷

しかも半年先までずっと予約が埋まっているとのことで、「一見さんが来ても貸してあげられない」と言われる始末でした。

私に残された選択肢としては、週末のフリーマーケットでゴザを敷いて売るか、もしくは、賃貸物件を長期で借りるか、という2つしかないことが分かったのです。

困ったな、と思う一方で、いくつもの気付きも得られました。まず、驚くほど高い賃料でも半年先まで予約で埋まるような「モノが売れる場所」があること。そして、月極で借りればもう少し検討しやすい不動産価格になるはずなのに、1週間単位となると急に付加価値が付き、凄く割高になるにも関わらず借り手がいてビジネスになっている、ということです。

そうして、「1週間21万円(1日3万円)を払ってチリから輸入した雑貨を試し販売するというのは勇気がいる。けれど、もしも1日3,000円くらいで借りられる場所があれば踏み切れる。そのくらい気軽に借りられる店舗があるとしたら、それはどういう場所だろうか?」と考えを深めていきました。

店舗を借り上げてサブリースするというのが一番に思い浮かびますが、初期投資や損失が出てしまうリスクもあります。それなら、「そもそも使われてない場所を貸してください」とお願いすれば、借りる側にもリスクは低く、貸す側も「そもそも使ってないのだから、1日数千円でも使いたいと言ってくれる人がいるなら貸してもいい」と思ってくれるのではないか? という仮説が出てきたのです。

そうして、市場調査をしたわけでもないのですが、「少なくとも私のように何か商売を始めたいけど大きなリスクは背負えない、という個人の潜在ニーズを満たすサービスを立ち上げよう!」と考えるようになりました。

つまり、究極の二択しかない中で、「もっと簡単に商売を始めるサポートをしてくれるインフラがあったらいいな」という考えをきっかけに、「こういうサービスがあったらいいな」というものを具体化したのが軒先ビジネスだったわけです。

活用されてこなかった「スキマ」がコロナ禍で使われ始めている

西浦氏

茶谷          :軒先ビジネスは今や2,000ヵ所超のスペースを扱っていると聞いています。貸し手のニーズはかなり高かった、と捉えられます。では、借り手のニーズはどうなのか? と思ってサイトを見ていると、「ポップアップストア文化」という言葉に引きつけられました。これはどういった文化なのでしょうか?

西浦             :今、流通小売の業界ではポップアップストアを展開するのが流行になっています。ポップアップストアとは要するに「短期催事」です。まさにコンピューターのポップアップと同じで、一時的に現れて消えるというイメージの期間限定のお店です。

最近ポップアップストアに注目が集まっていることにはいくつかの理由が挙げられます。例えば、これまでは資本力のある企業は試し販売や期間限定の店舗を構えるとなると、百貨店の中で展開するというのが主流だったものです。

しかし、コロナ禍以降は特に消費者の行動が激変し、「わざわざデパートに行ってモノを買う」という意味が薄れてきていると考えられます。顧客は、そこでしか買えないものや体験できないことに大きなバリューを感じているとの指摘もあるほどで、それゆえに固定の店舗を構えてお客様を待っているというよりは、お客様のいるところに行く、あるいは限定感を醸成して付加価値をつける、というリアル空間でのマーケティングに重きを置くようになったのだと思います。

もう1つは、ポップアップという表現がフィットするのかは考えどころですが、「固定費をかけずに起業してみたい」という私と同じような考えを持つ起業家が増えているのも見逃せない側面だと言えるでしょう。

店舗の家賃という、個人が起業する際には大きくのしかかる固定費を変動費に転換し、必要な時にお客様のいるところに売りに行くというスタイルが台頭してきており、おそらくこれからの主流になっていくのではないか、と見ています。

コロナ禍による人の流れの変化も、軒先ビジネスの追い風に

茶谷             :固定費を変動費へと転換するのはまさしくメーカーの発想ですね。そうやって軒先ビジネスを利用されるのはどういった業種が多いのでしょうか?

西浦             :ご商売される方全般が利用してくださっているのですが、大きくは3種類に分けられます。

まず、一番なじみがあるのはキッチンカーですね。以前は移動販売車、あるいはフードトラックと言われていた業態で、ここ数年でプレイヤーが非常に増えています。おしゃれなキッチンカーもたくさん出てきていて、個人の方はもちろん法人で展開されているケースも少なくありません。また、オフィス街でランチを販売されるだけでなく、郊外の公園近くやアミューズメント施設近辺でクレープや軽食を販売されるキッチンカーも増えています。

茶谷

もう一つの利用モデルとしては、物販催事をされる方々です。駅中でスイーツを販売されている様子を見かけることがあると思いますが、そのようなスタイルで駅中以外のスペースでも展開されています。最近ではネットショップを運営されている方が期間限定のポップアップショップという形で借りられるケースもあります。

最後は法人のプロモーションです。保険やクレジットカードの加入促進が主なのですが、以前は商業施設の一角にあるイベントスペースで行なっていたものを、もう一歩お客様に近いところで接点を持ちたい、ということから街中で展開されるケースが増えてきました。

意外かもしれませんが、住宅街のスペースを活用されていることも増えており、時代の流行り廃りを感じます。

茶谷             :以前対談した株式会社Agoop 柴山和久氏が話しておられたのですが、コロナ禍によって在宅ワークが増え、地元の商店街や住宅街の飲食店利用も増えている、という現象が起こっているそうですね。

西浦             :そうなんですよ! 初めはそのことに驚いていました。今までであれば駅前や商業施設でないとモノが売れないと言われてきましたが、それがどんどん住宅街にシフトしている、要は人がいるところにシフトしているようです。

例えばキッチンカーにしても、住宅街に出店しても「誰も買わないよ」と言われていたものですが、今ではそちらの方がいい売れ行きを記録する場合もあるそうです。

スキマハンターはどうスキマを確保しているのか?

西浦氏

茶谷             :ここまで話してきて気になったのが、扱うスペースをどう確保しているか? ということです。郊外のレンタルビデオショップや大きな書店の空きスペースも軒先ビジネスを介して貸し借りされているとのことですが、もともとそうしたスペースの有効活用を促したいと考えていたのでしょうか?

西浦             :スペースの確保については今でも試行錯誤しています。今でこそ「シェアリング」という言葉の認知度が上がって、スペースのオーナーや不動産会社の方々も「貸してもいいよ」と言ってくれるのですが、最初は仕組みを理解していただくのも難しい状態でした。そのため、“スキマハンター”としてドアノック営業で「すみません、このスペースを貸してください」とお願いして回っていたのです。

もちろん、それでは効率が悪いとすぐに気が付き、起業3年目くらいの頃に全国にチェーン展開している企業や全国にネットワークを持つ不動産会社などと提携して、「みなさんの不動産の収益化をお手伝いします」というような営業スタイルに変えていきました。そうして、全国展開していらっしゃる企業のロードサイド店舗の一角や駐車場を貸していただけるようになりました。

茶谷             :では、利用者側はどのようなカスタマージャーニーで軒先ビジネスにたどり着くのでしょうか?

西浦             :将来的には一般の方々にもスペースをお貸ししたいとは考えているのですが、現段階での主なターゲットは法人の方々です。彼らは日々、どこかしらでモノを売ったり販促活動を行なったりしており、恒常的に「次の出店場所」を探しておられます。出店されたい場所とスペースの条件といったキーワードでWeb検索をしているので、それに合わせてこちらもコンテンツを用意しているといった状態です。

社会の変化に合わせて生まれた「軒先パーキング」

茶谷          :軒先ビジネスは「ビジネスを始めてみたい」や「試しに売ってみたい」といったニーズをうまくアシストするサービスだと思います。一方、もう1つのサービスである軒先パーキングは少しターゲットやユーザーニーズも違うように思うのですが、いかがでしょうか?

西浦             :軒先パーキングもベースとなるコンセプトは軒先ビジネスと同じで、「物理的なスキマと時間的なスキマという通常の不動産では流通しないような種類の土地・建物を短期限定で仲介する」という考え方ではあります。そうした中でも、軒先パーキングはスペースを駐車場として使う、というシンプルな目的のサービスです。

軒先ビジネスを始めた時も1つのカテゴリとしてシェアリングできる駐車場というのはありましたが、おっしゃる通りユーザー属性や利用シーンが違うので切り分けました。

西浦氏、茶谷

サービスローンチは2012年なのですが、その前から英国で類似のサービスがあることは把握していました。今は「JustPark.com」とサービス名が変わっているのですが、その当時は「ParkatmyHouse」という名称で、「その名の通りのビジネスだな、すごくいいな」と感じていたものです。

いつか日本でもそういう市場が生まれるに違いない、と見ていました。ただ、自分たちでサービス化するにはリソースが不足していました。

しかし、2012年の年初に2つの出来事があり、一気に潮目が変わりました。まず、国税庁が「社会情勢の変化を鑑み、分譲マンションの敷地内の空いている駐車場区画を貸し出した場合はその区画のみを課税対象にする。ただし、あくまで利用契約は住民を優先とする*」といった内容の発表ををしたのです。

それまでは1ヵ所でも貸し出して収益事業にしたら全区画を収益化しているとみなされて課税対象になっていたので、この変化はかなり大きなインパクトになりました。

*国税庁「マンション駐車場の収益事業の判定について

この国税庁の解釈を受け、駐車場ビジネスを展開されている企業が分譲マンションの空いている駐車場を借り上げてサービスを拡大したのはまさにこうした背景がありました。もちろん私たちも「売り上げをシェアする形で空き駐車場を運用しませんか?」と、提案をしていきました。

もう一つの出来事は、欧州の自動車メーカーの子会社の社長から直接連絡をもらったことです。お話を聞いてみると、「自分たちはParkatmyHouseに出資しており、将来的には自社のハイエンド車種のダッシュボードから出先でも駐車場が予約できるサービスを展開したいと考えている」と言うのです。「それを実装するためアジアのマーケット調査をしているが、日本国内において最も近いサービスを展開しているのが『軒先ビジネス』だ。駐車場の領域でサービス展開はしないのか?」とのこと。それを聞いて、その場で「私たちもまもなく開始します」と返答しました。(笑)

茶谷             :それはいいタイミングでしたね! 実際にサービスを開始してみて、軒先パーキングの利用者は想像通りの方々だったのでしょうか? 車でコンサート会場やスポーツスタジアムに来られる方々が利用するのだろうな、と思うのですが、いかがでしょうか?

西浦             :そうしたケースも多いのですが、コロナ禍以降は車で通勤・通学される方のご利用が増えています。

「目的地周辺の駐車場を利用するのは週に2〜3回。そのために月極駐車場を借りるには負担が大きい。けれども、駐車場を利用する際には確実に駐車したい。毎度、駐車場探しに悩むのはいやだ」という方が利用されています。

都心部にはコインパーキング自体はあるのですが、いつも満車になっていることが多く、そうしたエリアは特に利用率が高くなります。

茶谷             :それもコロナ禍による影響ですね。駐車場の貸し借りでのトラブルはいかがでしょうか? 物損事故などのリスクは高いように想像します。

西浦             :約9年、軒先パーキングを運営しているので、トラブルのパターンも把握できています。これも意外に思われるかもしれませんが、物損事故が起こることはあまりないものです。むしろ、コインパーキングと違って看板がないため「場所が分かりません」といった問い合わせや、「予約したスペースに誰かが停めている」というケースの方が多いくらいです。

一方、地方のスペースでは問題の内容が変わってきます。よくあるのが、住民の方が「あそこは空き駐車場だから」と、以前から勝手に駐車していて、軒先パーキングの利用者の方が「車が停まっている」と問い合わせしてきたことがきっかけで不正利用が発覚するというものです。

サービス導入前の駐車場オーナーの懸念事項はやはり物損事故なのですが、それが起こることは年に数件ほど。駐車場内は減速して進むので、当然と言えば当然かもしれません。自動車走行中の事故に対してはプラットフォーマー側が保険をかけることはできないので、そこはオーナーと利用者の双方にご説明しています。

<後編に続く>

対談者プロフィール

西浦氏

西浦明子
軒先株式会社 代表取締役

上智大学外国語学部卒業後、ソニー(株)入社。海外営業部に所属。ソニーチリに駐在、オーディオ製品などのマーケティングを担当。同社を退社後帰国。創業時のAll About Japanで広告営業を経たのち、(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント商品企画部にてプレイステーション2やPSPのローカライズ、商品開発などを担当。妊娠・出産を機に起業を決意。2008年4月に日本初のスペースシェアリングサービス「軒先」代表としてサービスを開始、2009年に軒先株式会社を設立。ポップアップ向けスペースシェア“軒先ビジネス”、駐車場シェアの“軒先パーキング”、飲食店シェアの“magari”を運営。2017年総務省ICT地域活性化大賞・奨励賞受賞。現在、全国の遊休スペースの活用提案に奔走。