【開催報告】VRF設立記念オンラインセミナー「企業報告のエコシステム構築に向けて」

KPMGジャパンと価値報告財団(VRF)は、日本取引所グループ後援のもと、IIRCとSASBの統合によるVRFの設立を記念し、2021年6月16日オンラインセミナーを開催しました。日本の企業報告の状況をふまえ、VRF設立の背景と目的、今後の取組みと課題について議論したセミナーのサマリをご紹介します。

日本の企業報告の状況をふまえ、VRF設立の背景と目的、今後の取組みと課題について議論したセミナーのサマリをご紹介します。

2021年6月16日、国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が合併して発足した価値報告財団Value Reporting Foundation(VRF)が、その名の下に開催する世界で最初のセミナーを、KPMGジャパンと共催しました。VRFの代表者2名と、日本の機関投資家を交え、日本の企業報告の状況をふまえた議論がなされました。本セミナーはライブ配信され、約300名が参加しました。

開会の挨拶として、KPMGジャパン チェアマンの森俊哉は、VRF設立の目的や意義について、世界に先がけて的確に理解し、よりよい報告を目指す活動に役立てていただきたいと述べました。また、本セミナーを後援した日本取引所グループ サステナビリティ推進部の三木誠氏は、VRFの設立は情報開示を行う側にとっても、その読み手にとっても、大きなメリットがあると確信していると伝えました。

基調講演

ANAホールディングス株式会社、オムロン株式会社、株式会社みずほフィナンシャルグループ、三井物産株式会社 取締役/ VRF Board Member 小林いずみ 氏
 

企業の社外取締役を歴任し、VRFのBoard Memberも務める小林いずみ氏より、日本企業のレポーティングに関する動向と課題について、基調講演をいただきました。

2020年は、東証一部上場企業の4社に1社が統合報告書を発行する状況となった一方、質の面ではまだ課題があるとの指摘がなされました。その本質的な要因として、取締役会における戦略と企業報告の議論が一体化されていないという実態があるほか、非財務資本に関する取組みや活用が将来の財務状況に与える影響の数値化の難しさ、そして、世界中で報告基準やフレームワークが乱立している状況が挙げられました。

そうした状況の打開に向け、統一された基準が設定されるのをただ待つのではなく、より積極的にグローバルの動きをとらえ、企業報告に関するグローバルなイニシアチブであるVRFのネットワークに参加するなどして、日本企業の先進性を伝えられる関係を築き、日本の企業報告の向上につなげてほしいとのメッセージをいただきました。

パネルディスカッション

<登壇者>
IIRC CEO/ VRF Special Advisor Charles Tilley 氏
SASB CEO/ VRF CEO Janine Guillot 氏
三菱UFJ信託銀行株式会社 アセットマネジメント事業部 責任投資推進室 責任投資ヘッド 加藤 正裕 氏

<モデレーター>
KPMGジャパン パートナー/ VRF Ambassador 芝坂 佳子


パネルディスカッションでは、まず、Guillot氏から、VRF設立の背景と目的が説明されました。VRFは、企業・投資家による企業報告の合理化を望む声、国際的なサステナビリティ報告の基準設定主体としてIFRS財団がInternational Sustainability Standards Board (ISSB)を設置する動きなどを背景に設立され、企業報告の簡素化を目指し、ISSBの設置に向けたサポートを提供している旨が述べられました。

Tilley氏からは、VRFが有する3つのリソース(統合的思考の原則、統合報告フレームワーク、SASB基準)が紹介され、これらの活用が効果的なコミュニケーションと質の高い意思決定に繋がること、そして統合報告フレームワークとSASB基準は補完的な関係にあり(図1)、併用することでより効果が発揮されることが説明されました。

図1 統合報告フレームワークとSASB基準の相互補完性

統合報告フレームワーク SASB基準
業界に依存しない 業界特有
原則ベース メトリクスベース
ハイレベルな内容要素 トピックとメトリクスの開示
情報の結合性を促す 情報の比較可能性を実現する

(出所)VRFセミナー資料(KPMGが日本語訳作成)

また、Guillot氏は、VRFの今後の取組みとして、統合報告フレームワークとSASB基準を同時に活用するためのガイダンスや、同時活用が企業と投資家の意思決定に及ぼす影響についてのインサイトの提供を行い、比較可能な企業報告システムの構築に向けグローバルな取組みを支援していくと述べました。

VRFはその言葉どおり、「価値を報告」するためのスキームとして、企業報告の質の向上のために有効なツールを提供しますが、主たる情報の利用者である投資家が、VRF設立をどうみているのか、責任投資を担う立場として、加藤氏に見解を伺いました。加藤氏からは、VRF設立は世の中の求めに合致した歓迎すべき動きであり、企業の活動を財務・ESG両方の視点から理解し、企業価値を評価することが重要であるとの見解が示されました。また、企業報告をどう活用して企業価値の評価に繋げるかという視点が大切であり、投資家もレベルアップが必要だという認識のもと、アナリストと責任投資部門で、投資先企業のマテリアルなESG課題が何なのかについて、定期的に議論を行うなどの取組みが紹介されました。

参加者アンケート

パネルディスカッションにおいては、参加者へのリアルタイムのアンケートも実施しました。

今後、グローバルで共通して用いられる企業報告の対象とすべきマテリアリティの範囲を尋ねたところ、「財務的価値に影響を及ぼすと判断した内容を中心にすべき」という回答が60%を占めました(図2)。財務的価値に影響を及ぼす内容というのは、統合報告フレームワークが求める報告範囲と同様であることから、統合報告の考え方が浸透し、企業報告媒体として統合報告書がより重要視されていることが伺えます。一方、「ダイナミックマテリアリティ」の考え方に基づくと、想定する時間軸によってマテリアリティは変化するものであるとともに、報告の目的によってその範囲も変化します(図3)。ステークホルダーの意思決定に資する企業報告を行うためには、報告媒体ごとの目的を明確にし、その目的に適合したマテリアリティの範囲を設定することが重要だと考えます。


図2 Q1:報告の範囲について、現在、「ダブルマテリアリティ」の議論が盛んになっています。今後グローバルで共通して用いられる企業報告において、どのマテリアリティの範囲までを重視すべきだと思いますか?

図2


図3 企業開示の領域におけるVRFの役割

図3

(出所)VRFセミナー資料(KPMGが日本語訳作成)


次に、よりよい企業報告を実現するために、VRFに最も期待することを尋ねたところ、「統合報告の認証制度等の品質向上の仕組みの構築」への期待が最も多く、33%を占めました(図4)。情報の信頼性を高めるためには、保証の実現に向けた議論も必要となりますが、その前提として、一定の合意形成がなされた報告の基準が必要不可欠だと考えます。また当セミナーでも、日本の企業報告の質に対する課題認識について触れましたが、このアンケート結果からも、企業報告の品質向上に対する課題認識や、関心の高さが伺える結果となりました。


図4 Q2:VRFに最も期待することは何でしょうか?

図4

最後に、閉会の挨拶として、SASB基準設定Board MemberとVRF Ambassadorを務めるSusanne Stormer氏より、日本企業における価値報告の質向上にVRFは貢献できると自負しており、Better Business Reportingが、Better Business、Better Societyにつながるものだと確信しているとのメッセージが述べられました。

オンデマンド配信のご案内

※VRF Tilley氏、Guillot氏のご発言は、オリジナル音声版では英語、日本語版では同時通訳による日本語となっています。
※配信は動画共有サービス「Vimeo」を使用しています。
※推奨ブラウザはGoogle Chrome最新バージョンです。
※視聴環境についての詳細はVimeo公式サイトにてご確認ください。

執筆者

KPMG サステナブルバリュー・ジャパン
有限責任 あずさ監査法人
アシスタントマネジャー
伊藤 友希

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