アルコール飲料の消費のあり方が世界的に変化し、アルコール飲料のメーカー、小売業者、バーテンダーの多くが「次は何がくるのか?」と考えています。新しい飲料の売上が急増する一方、従来のアルコール飲料が落ち込むのを目の当たりにしているためです。

米国では、2018年のアルコール飲料の消費量は1.6%減少しましたが1、小売市場での売上高は2023年までに7%増加すると予想されています。消費者はビールから離れ、高価格の蒸留酒や、選択肢が増えている健康的なアルコール飲料に向かっています。プレミアムミキサー、ハードセルツァー、モルトベース飲料などの低アルコール・ノンアルコール飲料は、急速に成長しているカテゴリーです。低アルコール・ノンアルコール飲料の市場規模は小さいですが、拡大しています。2018年から2023年にかけて、ゼロアルコールのカクテルは8.6%、ノンアルコールのビールは8.8%、ノンアルコールの非発泡性ワインは13.5%の成長が、それぞれ見込まれています。

1  CNBC Web site, Fewer Americans are drinking alcohol - so bars and brewers are adapting (June 1, 2019).

変化の背景にある動き

2010年以降、世界のアルコール飲料の消費量は、欧州の数多くの地域で横ばいまたは減少し2、オーストラリアとカナダでは10%以上減少しています。ミレニアル世代は、「ソーバーキュリアス」(あえてお酒を飲まない)運動の人気が高まるにつれて、お酒を飲まない健康的なライフスタイルを取り入れています。

アルコール飲料の売上減少は、飲料業界全体における消費者の好みの変化を反映しており、より健康的で高品質な製品が引き続き人気を得ています。消費者が求めるのは健康的な選択肢だけではありません。持続可能な形で調達ができ、無農薬の認証があり、社会的責任を果たすブランドも求めているのです。数多くの新規参入企業が、従来のブランドのあり方を打破し、こうした消費者の好みに合った飲料を生み出しています。

2  Forbes, Where Global Alcohol Consumption Is Rising & Falling [Infographic], Niall McCarthy (May 9, 2019).

プレミアム化が引き続き成長を牽引

プレミアム蒸留酒が成長を続ける一方で、プレミアムミキサーやカクテルも成長し続けています。2018年、蒸留酒業界全体の売上高シェアが数量シェアを上回りました3。これは、米国で消費者が量より質を優先する志向を反映するものです。蒸留酒に対する年間支出額は前年比で増え続けており、消費者が自分で飲む飲料に対する支払いを惜しまないことが明らかになっています。

米国では、蒸留酒は9年連続でワインやビールの売上を上回り続けています4。特に、ハイエンドプレミアムおよびスーパープレミアムの製品の数量は、2018年にそれぞれ8%と7.5%増えました。プレミアムプラスの蒸留酒は、世界的にも今後5年間にわたって成長すると予測されています3

飲料メーカーは、製品ポートフォリオをこの変化に合わせようとしています。Diageoが2018年に19の非プレミアムブランドのポートフォリオを売却したことは5、消費者のニーズに合わせる方針をいっそう推し進めたことを反映しています。同様に、Pernot Ricardは、低・中価格帯のワインの製品ポートフォリオの売却を検討しています6

AB InBevも、初めて蒸留酒メーカーのCutwater Spiritsを買収し、蒸留酒市場に参入しました。このメーカーは、7つのプレミアムミキサーを含むさまざまな蒸留酒を製造しています。この戦略的買収は、AB InBevの「ビールの先へ」の取組みの一環として行われました。

3 Distilled Spirits Council of the United States, Distilled Spirits Council Reports Ninth Straight Year of Record Spirits Sales, Market Share Gains (February 12, 2019).
4 The Spirits Business, Premium spirits to boost global consumption, Amy Hopkins (March 14, 2019).
5 Fooddive, Diageo sells 19 lower-end brands for $550M, Lillianna Byington (November 12, 2018).
6 Bloomberg, Pernod Weighs Sale of Jacob.s Creek, Campo Viejo Wines, Ruth David and Thomas Buckley (March 13, 2019).

プレミアムミキサーの人気が高まる

より健康的な飲料のニーズにより、プロバイオティクス、ハーブ、アダプトゲン成分を注入した水などの、機能性飲料の成長が促進されています。また、Q Mixers、Fevertree、Owls Brewといったブランドの登場によってプレミアムミキサーの人気上昇にも拍車がかかっており、それらは最高級のミクソロジー(カクテル作り技術)の必需品になっています。

Seedlip7は世界初のノンアルコールの蒸留酒ブランドで、果皮や樹皮、スパイス、ハーブなどの独自の天然素材を使ったカロリーフリーのカクテルミキサーを販売しています。23オンスのボトルで小売価格40ドルのプレミアムミキサーとして、世界20ヵ国で250店舗以上のミシュランの星付きレストランで提供されており、Diageoのベンチャーキャピタル部門であるDistill Venturesから資金提供を受けています。Seedlipは2019年前半に、ノンアルコールの食前酒であるAecorn Aperitifsを発売しました。類似したものとして、ノンアルコール・ジンのCeder.s8はクラシックなジンと南アフリカのボタニカルをブレンドしたプレミアム飲料で、Pernod Ricardが英国で販売しています。さらに、Duchess9は世界初のノンアルコール・ジントニック飲料として知られ、人気を集めています。

消費者はプレミアムミキサーを飲むことによって、アルコールを摂取せずにお酒を飲む体験ができます。また、ソーダのような飲み物に代わるプレミアムな飲み物の選択肢を、消費者が手にすることになります。このトレンドは、ミレニアル世代が自分の飲食の体験をインスタグラム、ウィーチャット、フェイスブックで共有することでさらに増幅され、これらの新製品がより急速に広まっています。

7 Seedlipdrinks.
8 Ceder.s, Ceder.s Distilled Non-Alcoholic.
9 The Duchess

アルコールのソフト飲料とモルトベース飲料は、急速に成長している分野

2018年、コカ・コーラのアルコール炭酸飲料である酎ハイが日本で発売されました。アルコール分野に進出することで製品ポートフォリオの多様化を図っているのです。この新製品は低アルコール度数とフルーティーなフレーバーが特徴で、コカ・コーラがハードセルツァーと直接対決する構図となります。大手のアルコール飲料のブランドは、ハードセルツァーをはじめとするモルトベース飲料が、低カロリー、低アルコール、低糖分の飲料を求める消費者の好みに、直接応えるものだと認識しています。

この1年で、米国ではハードセルツァーの売上が193%、モルトベースのカクテルが574%10、缶入りプレミックスカクテルが105%、それぞれ増加しました。ブランドがモルトベース飲料をポートフォリオに加えていることによって、製品ポートフォリオの多様化が起きています。大手アルコール飲料メーカーもこの分野に投資しています。AB InBevは、Bon & Viv Spiked Seltzerを買収し、Boston BeerとMark AnthonyはそれぞれTrulyとWhiteclawという独自のスパイク・セルツァーを開発しました。Polar BeveragesとHarpoon Brewery11は、Artic Summerというハードセルツァーの開発を共同で行っていますが、これは、アルコールとノンアルコールの分野の融合や、従来のビールブランドが生き残るためにはビールの先への進出が必要との認識など、飲料業界全体のダイナミズムの変化を反映しています。Braxton Brewing CoやOskar Bluesなどのクラフトビールメーカーも独自のハードセルツァーを開発し、ビールの先に目を向けて、製品ポートフォリオを拡大しています。

飲料業界は変化しています。低アルコール・ノンアルコール飲料を含む高品質でより健康的なアルコール飲料の選択肢が増えていることは、従来の飲み物からの嗜好の変化を反映しています。この市場に参入する飲料メーカーにとって、このカテゴリーは成長をめざす機会となります。

10 Fooddive, RTD alcoholic beverage sales heat up this summer, Cathy Siegner (May 29, 2019).
11 The Washington Post, The summer of hard seltzer is coming. Here.s how 4 of the top brands stack up, Maura Judkis (March 12, 2019).

低・ノンアルコール飲料の動きが活発化

既存のアルコール飲料メーカーは、M&Aや企業ベンチャーを積極的に行うことで、ノンアルコール飲料の製品ポートフォリオの不足を埋め、製品の構成を消費者のニーズの変化に合わせて調整することを狙っています。特に、AB InBevは、2025年末までに低アルコール・ノンアルコール飲料の製品ポートフォリオを、世界のビール生産量の20%にまで拡大することを計画しており12、Heineken13とMolson Coorsの両社も、低アルコール・ノンアルコール製品の提供を拡大しています14。消費者が新製品に関心を寄せ続けるなかで、さまざまな製品が生まれ、新しいベンチャーが作られ、統合が続くでしょう。

健康的な飲料カテゴリーのプレミアムブランドには、コールドブリューコーヒー、ハーブティー、コンブチャ、ボタニカルやその他の植物由来の製品などがあり、アルコール飲料分野全体で、より配慮された飲み方の選択肢を進化させるのに、すでに重要な役割を果たし始めています。今後、飲料業界の再構築にも重要な役割を担うことでしょう。

12 Beveragedaily, AB InBev: 8% of beer volumes now come from no and low alcohol, Rachel Arthur (March 4, 2019).
13 Marketing Week, Heineken launches first cross-brand zero-alcohol campaign to help .explode the category., Molly Fleming (May 10, 2019).
14 MolsonCoors, Growing the Low-Alcohol Category in Europe.

重要なポイント

  • 低アルコール飲料やノンアルコール飲料の人気が高まり、飲料業界に断絶(disruption)が生じている。
  • 消費者は、より高品質で健康的な飲料を求めており、そのような製品に対しては支払いを惜しまない。
  • 特にミレニアル世代には、より配慮してアルコールを購入、消費する習慣が急速に広まっており、従来のビール、ワイン、蒸留酒の各カテゴリーに長期的な影響が生じるだろう。
  • モルトベース飲料、低アルコールのプレミアム蒸留酒、プレミアムミキサーの売上は、今後も成長が見込まれる。既存企業と新規参入企業の両者が新商品の開発を進めるため、既存の飲料カテゴリーの境界線はいっそう曖昧になる。
  • アルコール飲料とノンアルコール飲料の融合のペースが加速するため、ブランドオーナーと流通業者は、M&A、ライセンス供与、新製品の開発を通して製品ポートフォリオの多様化を図るために、リソースや資本を投入する必要がある。

2018~2023年の消費動向

図

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