ハイライト

  1. はじめに
  2. 石油・ガス企業が牽引すべき5つのグリーンイノベーション
  3. 動き出した石油・ガスメジャーたち
  4. 次のステップ

ポイント

  • 再生可能エネルギーのうち、風力発電と太陽光発電は競争力が高く、発電量が急増している。特に、洋上風力発電は実行可能な代替案として勢いを増してきている。
  • 最もクリーンなエネルギー資源の1つである水素は、電力、暖房、輸送および工業プロセスにおける脱炭素化の選択肢として魅力的な資源であり、石油・ガス業界は水素の適用を加速させる重要な役割を担うことができる。
  • バイオ燃料は、生産自体の経済的な魅力、顧客と政府機関の双方から環境に配慮した従来の化石燃料の代替としてみなされるようになっており、石油・ガス企業は、経験の少ない生産業者よりも効果的かつ効率的に事業を運営できる。
  • 商用輸送の電気化は低炭素エネルギーの大規模な受入れの最も大きなオポチュニティを有しており、石油・ガス企業は倉庫や製造施設におけるチャージステーションの建設を検討することが可能である。
  • 工業原料および大気から炭素を取り除くことは、「ネットゼロ・エネルギーシステム」への移行における重要な要素であり、石油・ガス業界は、業界自体のためだけでなく、大規模かつ技術力を持たないガス排出者のパートナーとなることができる。

はじめに

COVID-19により世界の動きが急停止したあと、石油・ガスの需要は再び上昇し始めました。発展途上国における石油・ガスの需要は、2035年まで、そして恐らくそれ以降も増加することが見込まれています※1。他方、世界中の先進国は脱炭素化を大幅に進めています。また、政府の規制がないなかで、世界中の企業(特に米国企業)も、二酸化炭素削減および再生可能エネルギー目標の達成に向けて自主的に取り組んでいます。さらに、投資家の多くは、エネルギー消費がよりグリーン電力にシフトしているため、インパクト投資や環境・社会・ガバナンス(ESG)への投資にますます注力しています。このように、積極的にESGの視点を取り入れることによって、石油・ガス企業は将来のビジネスに関する新しいオポチュニティを得ることができる可能性があるのです。

石油・ガス企業が牽引すべき5つのグリーンイノベーション

次の5つのグリーンイノベーションは、石油・ガス企業の今までの強み、能力、隣接分野および投資を継続的に活用しつつ成長を促すことを可能にします。

(1)再生可能エネルギー:太陽光発電・風力発電が世界的な勢いを増す

再生可能エネルギー(特に風力と太陽光)の生産量が急増しています。進化したデータアナリティクスや新たなテクノロジーツールによる正確な発電量の予測、グリッドレベルの蓄電による負荷条件に合った発電などにより、再生可能エネルギーを採用する際の障壁が低くなり始めています。

洋上風力発電がようやく勢いを増してきています。技術の進歩によって、浮体式洋上風力発電は予想よりもずっと早く実行可能な代替案となりました。風力エネルギーは、新しいエネルギーサービス市場を発展させ、現在は稼働していない陸上および洋上のインフラや設備、そして人材をも活用する素晴らしいオポチュニティをもたらしています。また、近年の分析では、太陽光および陸上の風力は、少なくとも世界人口の3分の2にとって新世代の最も安価な資源であり、2050年までに世界の電力生産のおおむね50%まで担うことが示唆されています※2

(2)水素:最もユビキタスな電力源がついに注目を浴びる

宇宙で最も豊富に存在する原子である水素は、単位質量あたりの密度が最も高い燃料で(ガソリンの2.5倍)※3、燃焼の際に水蒸気のみが発生する最もクリーンなエネルギー資源の1つです。水素は、特に電力、暖房、輸送および工業プロセスにおける脱炭素化の選択肢として魅力的なものとなっています。各企業が太陽光、風力およびその他のコスト効率の良いプロセスに投資しているため、あらゆるエネルギー消費様式において高まる需要を満たすための水素生産量が拡大し始める可能性があります。水素協議会は近年の研究で、水素経済の幅広い発展と適用により、2050年までに世界で必要な総エネルギー量の18%を満たすことができると述べています※4

石油・ガス企業は、石油化学に関する何十年もの経験、水素関連のイノベーション開発を支援するための社内の専門知識、大規模なエネルギー生産施設を建設するノウハウを有しています。この実務上の経験によって業界に対する資本市場と規制当局の信用が高まることで、新たな投資機会が生まれ、革新的な技術の実証および許可のプロセスが簡略化するほか、研究開発に関して有利な税制を獲得するオポチュニティが生まれます。また石油・ガス業界は、既存の輸送・供給パイプラインのインフラネットワークの活用により、付随する燃料費および炭素排出量を削減しながら、工業、商業、および小売業の幅広い領域で水素の適用を加速させる重要な役割を担うことができるのです。

(3)バイオ燃料:政府支援の拡大

次世代あるいは進化したバイオ燃料は、化石燃料および旧世代のバイオ燃料が有していた限界を克服しています。工業用の原材料としての非食用作物の利用を含め、責任ある土地の利用を促す一方、排出ガスの処理および精製を削減することも可能です。これらの燃料は、低炭素燃料認証と合わせて、生産することに経済的な魅力があるほか、顧客と政府機関の双方から環境に配慮した従来の化石燃料の代替としてみなされるようになっています。

石油・ガス企業は、適切な市場がある地域またはその近くに低炭素燃料を製造する施設を新設するか、既存の施設をそのような製造施設に移行させ、経験の少ない生産業者よりもさらに効果的かつ効率的に事業を運営することができます。

(4)商用輸送:EVへの大規模な移行の第1フェーズ

低炭素エネルギーの大規模な受入れの第一歩として、輸送分野が最も大きなオポチュニティを有しています。輸送分野を電気化する展開方法について計画するうえで、中国を参考にすることができます。中国政府は、都市部で従来のディーゼルバスの導入を禁止することで、電気バスの世界市場を牽引しています。また、バッテリー価格の低下により、バッテリーを動力とするトラックの輸送がより有益と考えられるようになりました。

COVID-19のロックダウンの間に、消費者はオンラインでの購買を増やし、今後も同様の行動を続ける可能性があります。それにより、製造業者から倉庫、配送センターから個人宅への配送数が増加する見込みです。電気商用トラック輸送は、企業が効率化を実現し、二酸化炭素排出目標を達成する方法の1つです。ユーティリティ業界が石油・ガス業界よりも多くのチャージステーション設置に参入している一方、幹線道路を活用する下流拠点を有している企業は、倉庫や製造施設におけるチャージステーションの建設を検討することが可能でしょう。

(5)二酸化炭素の回収・有効利用そして貯留:業界全体で脱炭素化を実現

工業原料および大気から炭素を取り除くことは、「ネットゼロ・エネルギーシステム」への移行における重要な要素です。二酸化炭素の回収・有効利用・貯留(CCUS)ソリューションには前途有望な幅広い技術が含まれ、二酸化炭素の回収には2種類のアプローチがあります。大気中の炭素を直接回収する「直接空気捕捉」と、自然の作用(森林再生、生息環境の復元など)、自然に発生する炭素回収プロセス(土地管理技術)、およびテクノロジーに基づくプロセス(CCUS要素を導入しているバイオ燃料など)を含む「間接空気捕捉」です。

石油・ガス企業は、直接空気捕捉を含め、CCUS設備の建設・運用を目指す航空会社や商用不動産オーナーなど、大規模かつ技術力を持たないガス排出者にとって、知識と経験が豊富なパートナーとなることができます。また、森林をベースにしたソリューションに関しては、ヨーロッパのIOCなど一部の石油・ガス企業が多国籍REDD+の取組みなどに多くの投資をしています。また、本業界は、回収した炭素を使用して小売や市販製品に関連する排出量をオフセットする、または新たに炭素を基にした製品を開発することができます。これらの燃料が再生可能エネルギーを使用して生産される場合、その使用はカーボンニュートラルであるとみなされます※5

動き出した石油・ガスメジャーたち

世界で石油・ガスメジャーの再生可能エネルギーおよび関連施設の開発や導入の促進に関する取組みが拡大しています。

BP社:2050年までにネットゼロを目指すと宣言しています。そのなかで、Equinor社との洋上風力発電プロジェクトに10億ドルを投資することを発表しており、すでに大規模な洋上風力事業を保有しています※6

Chevron社:約65メガワットの中程度の再生可能エネルギーポートフォリオがあり、中核事業である石油・ガス生産拠点への供給に対応しています※7。また、CCUSプロジェクトへの10億ドルの投資、革新的なテクノロジー投資を目的とした1億ドル規模のFuture Energy Fund設立などを行っています。

ExxonMobil社:2025年までに1日当たり10、000バレルのバイオ燃料を生産する目標を掲げ、二酸化炭素排出削減関連の研究開発への年間10億ドル以上の投資や、二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)への多額の投資などを行っています。

Royal Dutch Shell社:低炭素事業計画として、風力および太陽光発電への年間20憶ドルから30億ドルの投資、EV充電、水素およびバイオ燃料などのクリーンエネルギーイノベーションに特化した投資などを行っています。

Total社:現在、世界中で総計約9ギガワットの低炭素電力発電容量を保有し、2025年までに25ギガワットの再生可能エネルギーを発電する目標を掲げています※8。また、オランダにおけるヨーロッパ最大級のEV充電ポイントに係る契約を獲得し、Groupe PSA社と提携してEV充電施設をパイロット運用したほか、スペインにおいて2ギガワット分の太陽光発電を確保しました※9

次のステップ

石油・ガス企業のリーダーは、正しい戦略を整備することで、業界にとって歴史的なこの瞬間においても将来成長に資する資産への投資を行うことができます。そのためにはまず、本稿で提示した5つのグリーンイノベーションの牽引をそれぞれ探求し、どのアイデアが自社の資産および経験に見合うかを判断します。そして、組織ができる限り効率的で、適切に財務リスクを管理し、チャンスが訪れた時にそれをつかむためのリソースと低資本コストへのアクセスを有するようにします。さらに、もともと有する蓄積した知識、技術および業界での専門性を活用します。

石油・ガス企業は、よりクリーンな電力とエネルギーソリューションに対する顧客、企業および業界からの要求に応えることができる新しいチャンスをつかむことで、世界的なエネルギー移行期において競争力を保ち、指導的な役割を担うことができます。

脚注

※1 The Atlantic Council. “The role of Oil and Gas Companies in the Energy Transition.” January 2020.

※2 Bloomberg NEF. “New Energy Outlook.”

※3 US Dept. of Energy. Office of Energy Efficiency and Renewable Energy. Hydrogen Storage.

※4 The Hydrogen Council. Path to hydrogen competitiveness: A cost perspective.

January 2020.

※5 Technology Review. How falling solar costs have renewed clean hydrogen hopes.

August 2020.

※6 CNBC.“BP enters offshore wind with $1.1 billion Equinor deal.” September 10、 2020.

※7 Chevron.com. “We’re taking steps to manage greenhouse gases.”

※8 Total.com. “Our presence across the entire low-carbon electricity value chain.”

※9 Platt Insight. “Cross currents: Big oil and the energy transition.” April 2020.

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