KPMGサステナビリティ報告調査は1993年に第1版を刊行し、2020年版が第11版となります。本報告書では、52の国と地域を対象に実施した2020年版調査をもとに、「サステナビリティ報告のトレンド」、「気候変動リスクに関する報告」、「CO2排出量削減に関する報告とネットゼロに向けた取組み」、「国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関する報告」の4分野について、テクノロジー企業と、他業種や世界のトップ企業との比較評価した結果を公表しています。テクノロジー業界は、サステナビリティ報告のほとんどの項目において他の業界よりも堅調に取り組み、成果を出していますが、世界のトップ企業250社の水準には達していないことが明らかになりました。
本報告書では、テクノロジー業界に特化したデータの他に、「N100」と「G250」という2つの指標も提示しています。N100は、調査対象5,200社のうち売上高上位100社で構成され、G250は、2019年のFortune Global 500の上位250社を指します。

ポイント

  • 83%のテクノロジー企業がサステナビリティ報告を実施している。
  • 気候変動のリスクを年次報告書で言及しているテクノロジー企業は50%に達したが、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿って気候変動リスクを報告しているのは24%のみ。
  • 70%のテクノロジー企業がCO2排出量削減目標を定めているが、外部の気候変動目標と関連付けているのは44%。
  • 66%のテクノロジー企業が、事業活動をSDGsに関連付けているとするが、生物多様性の喪失をリスクと認識しているのは9%のみ。

サステナビリティ報告のトレンド

本年の調査では、N100に含まれるテクノロジー業界のサステナビリティ報告実施率は83%に達しました。これは、他の業界よりも高い数字となっており、林業、製紙、建設など、サステナビリティや環境の取組みと関連付けられることが多い業種よりも高い実施率を記録しました。N100構成企業全体では80%、G250では96%がサステナビリティ報告を実施しています。
また、年次報告書において、サステイナビリティ情報に対する正式な第三者保証を取得している企業の割合は、N100全体で51%であるのに対し、N100を構成するテクノロジー企業では65%となっています。G250では2020年時点での取得率は71%でした(基調トレンドベース:2017年調査にて対象とした国・地域における集計値)。

CO2排出量削減に関する報告とネットゼロに向けた取組み

CO2排出量削減目標を開示している企業は、N100では65%(テクノロジー企業の場合は70%)、G250では76%にのぼります。CO2排出量削減目標を開示しているN100のうち、自社のCO2排出量削減目標と、政府などが設定した外部の気候変動目標と関連付けを行なっていたのは55%でした。テクノロジー業界はCO2削減目標の開示には積極的である一方、世界、地域、各国で掲げられている外部目標との関連付けに関しては後れをとっています。このような関連付けを行なっているテクノロジー企業は44%にとどまっています。
また、グローバルな大手企業で、年次報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書に内部カーボンプライスを導入している旨を記載している企業は、ごくわずかです。最近は、多くの政府が、2050年頃かそれ以前までにネットゼロ目標を達成する取組みを進めています。内部カーボンプライスの導入を企業の各種報告書に明記することは、ネットゼロへの移行に向けて準備が整っていることを投資家や銀行などに示す1つの方法になり得ます。

持続可能な開発目標 (SDGs)に関する報告

自社のサステナビリティプログラムの指針として、企業は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の採用を進めています。企業報告で自社の事業活動をSDGsに関連付けていた企業は、N100では69%(テクノロジー業界は66%)となっており、G250では72%でした。しかし、SDGsに対する自社のポジティブな貢献のみに焦点を当てて報告する企業は、N100 とテクノロジー企業ともに、かなりの多数派を占めています(N100の86%、テクノロジー 企業の94%)。SDGsに関するバランスの良い報告は、企業が世界的な問題にどのように関係し、またその問題解決に向けてどのような役割を果たせるかを認識していることを示すために重要です。自社が及ぼしているネガティブな影響に目をつぶり、貢献している側面だけを報告している企業は、信用と社会的信頼を失うおそれがあります。また、SDGsと関連付けた業績目標を報告する企業は、N100、テクノロジー業界ともに56%で、これは改善の余地が大いにあることを示しています。

テクノロジー企業が取り得る次のステップ

企業のサステナビリティ報告は一般的なものになってきましたが、報告は確固たるサステナビリティ戦略とリスク管理プロセスに裏付けられたものでなければなりません。テクノロジー企業の皆様への提言は次の通りです。

  1. 気候変動リスクに関する情報開示とネットゼロ目標達成に向けた計画策定をまだ開始していないテクノロジー企業は、ただちに着手すべきでしょう。
  2. サステナビリティ報告は、事業の発展と足並みを備えて進めるべきでしょう。
  3. TCFDの提言を簡単に実施できるとは思わないよう注意してください。気候変動がビジネスにもたらす影響を十分理解せずに行動した場合、リスク管理に関する大きな問題を引き起こすおそれがあります。
  4. 児童労働、強制労働、労働環境、包括性、多様性と平等、公平な報酬、従業員の健康維持や再研修などの社会問題についても、企業の業績に与える影響を報告する準備を始めるべきでしょう。
  5. 生物多様性の喪失に関する情報開示も求められるようになると思われ、自らが生物多様性の喪失にどのような関わりがあるか、それに伴いどのようなリスクに直面するかを理解しなければなりません。
    (提言の詳細は、本報告書をご覧ください。)

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