金融庁、「監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書」を公表

金融庁/企業会計審議会は、2021年11月19日、「監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書」を公表しました。

金融庁/企業会計審議会は、2021年11月19日、「監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書」を公表しました。

金融庁/企業会計審議会は、2021年11月19日、「監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書」(以下「本意見書」という。)を公表しました。本意見書では、監査事務所による監査の品質管理が経済社会の変化に対応できるよう見直しが求められていること等を踏まえ、国際的な品質管理に関する基準との整合性を確保しつつ、我が国の監査を巡る状況を踏まえた品質管理基準の改訂が行われています。なお、本意見書で示された改訂後の「監査に関する品質管理基準」(以下「改訂品質管理基準」という。)において、2021年6月30日に公表された公開草案の内容から大きな変更はありませんでした。

1.改訂の概要

2005年に、監査事務所による監査業務の質を合理的に確保するために監査に関する品質管理基準が設定されました。その後、経済社会を取り巻く環境変化の加速、監査業務に変化が生じている現在の状況において、監査事務所による監査の品質管理が経済社会の変化に対応できるよう同基準の見直しが求められています。

監査事務所による監査の品質管理においては、監査事務所の最高責任者による積極的な品質管理体制構築への関与及び監査リスクに見合った組織的監査実施体制構築が重要である一方、中小規模監査事務所による品質管理に関する基準の柔軟な適用といった課題がありました。これらに対処するため、国際的には監査事務所が監査品質に影響を及ぼす可能性のあるリスクを積極的に識別し、監査事務所として主体的に対応するリスク・アプローチが導入されています。

こうした背景を踏まえ、我が国においても、監査事務所が、より積極的に品質管理上のリスクを捉えて、当該リスクに対処し、品質管理体制を改善するサイクルを組織内に有効に展開する品質管理へ変えていく必要があるとされました。このため、国際的な品質管理に関する基準との整合性を確保しつつ、我が国の監査を巡る状況を踏まえた品質管理基準の改訂が行われました。

2.主な改訂点とその考え方

(1)リスク・アプローチに基づく品質管理システムの導入

改訂品質管理基準では、あらかじめ定められた一定の品質管理の方針及び手続の整備を行うのではなく、監査事務所自らが、品質管理システムの項目ごとに達成すべき品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうるリスクを識別して評価を行い、評価したリスクに対処するための方針又は手続を定め、これを実施するという、リスク・アプローチに基づく品質管理システムが導入されています。

これにより、監査事務所が、経済社会の変化に応じ、主体的にリスクを管理することで、質の高い品質管理を可能とすることとされています。リスク・アプローチに基づく品質管理システムは、当該監査事務所が実施する業務の内容や監査事務所の状況により変化し、上場会社等の監査を行う監査事務所に対しては、監査業務の公益性に鑑み、充実した品質管理システムの整備及び運用を求めています。

(2)品質管理システムの構成

本改訂で定められている品質管理システムの構成は、以下のとおりです。

(1) 監査事務所のリスク評価プロセス
(2) ガバナンス及びリーダーシップ
(3) 職業倫理及び独立性
(4) 監査契約の新規の締結及び更新
(5) 業務の実施
(6) 監査事務所の業務運営に関する資源
(7) 情報と伝達
(8) 品質管理システムのモニタリング及び改善プロセス
(9) 監査事務所間の引継

(3)監査事務所が所属するネットワークへの対応

改訂品質管理基準では、グローバルな規模で活動するネットワークに所属し、ネットワークの要求事項を適用するとともに、業務運営に関する資源等を利用した監査を行っている場合、品質管理システムにおいてネットワークの要求事項を適用し、又は業務運営に関する資源等を利用する場合には、監査事務所としての責任を理解した上で、適用又は利用することを求めています。

また、ネットワークが監査事務所の品質管理システムに関するモニタリングを行う場合には、当該モニタリングが監査事務所の品質管理システムのモニタリング及び改善プロセスに与える影響を考慮することを求めています。

(4)品質管理システムの評価

改訂品質管理基準では、監査事務所の品質管理システムに関する最高責任者に対し、少なくとも年に一度、基準日を定めて品質管理システムを評価し、当該システムの目的が達成されているという合理的な保証を監査事務所に提供しているかを結論付けることを求めています。

こうした評価の結論や当該結論に至った理由を含む品質管理システムの状況等については、監査報告の利用者が監査事務所の監査品質を適切に評価できるよう、各監査事務所において公表することが望ましいとされています。

3.その他

本意見書では、改訂品質管理基準は、中間監査、四半期レビュー及び内部統制監査について準用され、それ以外の監査事務所の業務については、参照されることが望ましいとされています。

また、改訂品質管理基準の実施に当たっては、監査事務所が実施する業務の内容や監査事務所の状況を考慮した、リスク・アプローチによる品質管理システムの整備及び運用が適切に行われるため、監査事務所における主体的なモニタリング及び改善プロセスに加え、協会の品質管理レビューや審査会による検査等の第三者によるチェックを通じた改善が実施されるべきとされています。

4.実施時期

改訂品質管理基準の実施時期は以下のとおりです。

  • 改訂品質管理基準は、2023年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間(公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間)に係る財務諸表の監査から実施する。
  • 改訂品質管理基準中、品質管理システムの評価については、改訂品質管理基準の実施以後に開始する監査事務所の会計年度の末日から実施することができる。
  • ただし、それ以前の事業年度又は会計期間に係る財務諸表の監査から実施することを妨げない。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
監査プラクティス部
シニアマネジャー 浦崎 尚

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