組織との関係性を見直すとき。これからの企業人に必要な「仕事の流儀」3つ

企業は環境への適応をするために変革を進めてきたようですが、働く私たちも、企業との関係性を見直していく必要があると考えます。

Forbes Japan Onlineに記事が掲載されました。

昨今、終身雇用が崩壊したという話をよく聞くようになりました。それは、戦後からの右肩上がりの経済成長が今後は見込めないという状況認識や、グローバル化、働き方改革、多様性重視など企業を取り巻く環境の変化が背景にあるのだと思います。

そして、環境の変化に呼応するように、成果主義、ジョブ型、ギグワークなどが新たな働き方のスタイルとして勃興し、日本にも定着しようとしています。

これらのコンセプトは、現在の変化の激しい経済環境に対応することを目的とした雇用制度の転換であり、企業が臨機応変に対応するためのレジリエンス(柔軟性)を獲得するためのものとも言えるのではないでしょうか。そうだとすれば、これは企業としては至極自然な施策の流れであるといえます。

このように、企業は環境への適応をするために変革を進めてきたようですが、働く私たちも、企業との関係性を見直していく必要があると考えます。

今回は、私のこれまでの経験から、今後企業とともに歩んでいく人々に必要であろうと思われる仕事の流儀について紹介したいと思います。

面白いものを追い求めて仕事をする

私はこれまで、ただただ「面白い」仕事を追い求めてやってきました。これまでキャリアパスというものを描いたことがなく、したがってキャリアのゴールもありませんでした。そして、常々、仕事との向き合い方には、「自らやる」と「誰かにやらされる」の2つがあり、仕事の結果には「成功する」と「失敗する」の2つがあると考えてきました。

この仕事に対する2種類の向き合い方と2種類の結果で、いちばん良い組み合わせは「自らやり、成功する」であり、最も避けたいのは「誰かにやらされ、失敗する」です。

また、キャリアについては自分でつくるものではなく、面白い仕事を追い求めた結果として、私の歩いた後にただ残るものという感覚でいます。なので、最初からキャリアについて考えるのではなく、むしろ、次の面白い仕事をするためにはどのような専門知識やスキルが必要なのかを、常に考え学んできました。

いまも私は当時と変わらず、自分のキャリアへの興味は希薄で、面白い仕事を追い求めています。たぶん今後も変わらないでしょう。それは単純に面白い仕事でなければ高い集中力は維持できませんし、スピード感を持って仕事を進めることが難しいからです。結果として会社への貢献もできないことになります。

このように私が面白い仕事を追い求めてきた他の側面としては、キャリアを自分でコントロールすることはできないという現実もあります。企業で働く私たちは、企業の決定に従い役割を与えられています。ですから、キャリアの希望は持っていても、企業側のさまざまな事情によって自身のキャリアは決まっていきます。

私の場合、キャリア形成のために仕事を選んだことはなく、自分の専門性や経験を誰かが評価してくれて次の仕事をいただくという繰り返しでした。それは企業内でもそうですし、他企業からいただいたお誘いもそうです。そして、幸運にもいつも面白い仕事をさせていただいてきました。

コントロールすることのできないキャリアという掴み所のないものを追い求めるよりも、目前の面白いものに最大の集中力で取り組み、自身を高めていくという歩み方もあると思います。そして何より、面白いものを追い求める時間は、人生を豊かにしてくれるものだと思います。

企業の将来の糧を創出する「変な人」になる

面白い仕事を追い求める人たちのなかには個性的で「変な人」も多く、私がこれまで勤めた会社でも多くの変人や奇人を見てきました。彼らは、自分が情熱を注ぎ込み創造した技術や商品を心から愛し、世界に新たな価値をもたらすものであると自信を持っています。創業期のソニーが「出る杭求む」という採用広告を出したのは有名な話ですが、常識を常識とせず、「突破」していくイノベーターを求めてきたということなのでしょう。

さまざまな困難を突破していく人の自信はあながち見当違いではなく、彼らが価値あるものを世の中に送り出す様を何度も見てきました。なぜ変な人が新たな価値を創出できるのかというと、それは彼らが普通の人とは全く違う観点で物事を見ているからだと思います。言い換えると、既存の常識そのものを疑い、その裏に潜む本質を常に追求しているということになります。

成果主義を導入した企業においては、短期的かつ個人的な目標が定義され、その目標達成に向けて社員は邁進します。このスキームは非常に明快である一方、運用によっては社員が自身の目標達成のために利己的になる恐れもあります。社員の目標を5年や10年というスパンで、会社のビジョンを念頭に目標設定している企業も少ないのではないでしょうか。

変な人は常に5年、10年先を見通すことに注力します。そして世界に新たな価値をもたらすことに情熱を持っています。そして、その見通した先の「ストーリー」を組み上げていて、「ストーリー」が実現されるように行動します。結果として、1年ごとの目標設定を基本とする成果主義的な箱からはハミ出してしまいますが、企業の将来の糧を創出することになります。

新たな価値創造ができず縮小均衡になった産業や企業においては、言われたことをやる能力よりも、言われなくても企画し実行できる能力が必要になっています。

デジタル技術やAI技術の加速的な進化や進歩によって、データを伴う論理的な作業はコンピュータのほうが人間による労働よりも遥かに早く、正確に実行できる分野を広げています。急速にデジタル労働力が実用化される現在の流れにおいては、人材の能力に対する評価軸が変化していくはずです。

機械のように正確さを必要とする仕事はコンピュータに任せて、企業戦略となる「ストーリー」を創造するなど、コンピュータには感知できない非言語情報的な問題に人材は特化していくことになります。

ですので、日本企業を経営する人たちには、日々の収益をもたらしてくれる社員のみならず、将来の収益の源泉を創出してくれる変な人も評価いただきたいと考えています。そして彼らが活躍できる環境を創って欲しいと思います。

企業で働く人たちには、信頼できる上司がいるなら、時には変な人になることをお勧めします。そうすることによって、日々の仕事を違う角度から見ることができ、社会的な活動としても深みが増していくと思います。また、成果主義が進めば進むほど、冷静な洞察力と新たな価値創造への情熱を持った変な人が重宝されることになると思います。そうでなければ企業の将来はありません。

転職によって多様な経験を積み上げる

日本の高度経済成長期には常識と思われていた、大企業を中心とした終身雇用の制度は事実上終焉を迎えていることには、皆さんも同意されると思います。価値観が多様化し、定年を過ぎても働こうという人たちが増えていくなかで、1社だけの職業経験よりも、複数社で多角的な経験を積んだ人材を評価する流れがでてきているようです。その証左として、転職者数は年率2〜3%で増加しているようです。

一方、労働政策研究・研修機構の2018年の「データブック国際労働比較」によると、日本の平均勤続年数は11.9年となっています。これはフランスやドイツと同程度ですが、北欧諸国やイギリスでは8〜9年ほどであり、アメリカに至っては4.2年となっています。

日本の特徴は、男女雇用機会均等法が施行されてすでに四半世紀以上が経過したにもかかわらず、男女で勤続年数に大きなギャップがある点です。欧米では男女間でほぼ差はないのですが、日本では男性が13.9年、女性が9.3年となっています。これは女性活躍推進が進まない状況を反映して言えるのかもしれません。

しかしながら、スタートアップ企業のなかには、多様な人材の活躍の場を設けている企業も多くあり、結果として経営状況も良いように見受けます。

さて、昨今の企業の置かれた状況や、日本におけるギグワークやジョブ型などの拡大に伴い、人々はより多様で柔軟な働き方を手に入れることになります。そして、転職は今後ますます増えていくことになるはずです。

コロナ禍でリモートワークを取り入れた企業は多く、これまでオンライン会議では業務が進まないと信じていた人々の「常識」が覆され、逆に会議密度が高くなることで業務生産性が高くなるという事例の報道も目にします。

これまでの電話回線を用いた電話会議から、インターネットによるオンライン会議で、資料を容易に共有できるばかりでなく、英語の会議の発話内容を文字化するような機能も導入されるなど、リアル空間での会議よりも便利になった点もあります。

こういった背景からワーケーションなどの言葉が生まれ、個々のライフスタイルや家庭状況などに応じて就業形態を選ぶことができるようになってきました。

これは単純な働き方の問題ではなく、どのように生きていくのかというライフスタイルに関わる問題であると考えたほうが正しいと思います。企業はそういった個人の多様なライフスタイルにも対応できる仕組みを創り、魅力的な組織となっていく必要があるのだと思います。

今後ますますジョブ型雇用が進み、スペシャリストが求められる時代になることを考慮すると、企業で働く人は複数の分野で多くの経験を積み上げることが重要になるはずです。大企業のなかで異動によって経験を積むのも良いのですが、社会全体に育ててもらうつもりで、転職によって経験を積み上げる方法もあると思います。

私も転職を経験しましたが、やはり会社ごとに大きな差異があり、多くの学びがありました。そして、この経験を通じて、自分に対応できることのベクトルが増えていきました。転職は勇気のいることですが、自分なりに真っ直ぐ歩んでいくことも非常にエキサイティングなことだと思います。

AIが進化した時代には、経営者以外は全てAIになっているかも知れません。個々人がマイクロカンパニーの経営者として、分散融合された企業ネットワークを通じて、社会に価値提供していくようになっていくときに、さまざまな企業で働いた経験は活きることはあっても、無駄にはなりません。

私は、これまでの経験から、面白い仕事を追い求める、変な人から学ぶ、自分なりに真っ直ぐに歩む、この3つがこれからの時代の仕事との向き合い方だと考えています。私自身もこれまでこの3つの仕事の流儀をベースに歩んできましたが、現代の企業の変容を考えますと、これからの世界ではさらにこれらの要素が重要視されるのではないかと考えています。

人生100年時代と言われますが、私は75歳ぐらいまでは仕事に携わりたいと考えています。これまで携わった経験で言えばプラットフォーム開発には7年、ビジネス立ち上げには5年ほどの時間が必要ですので、これからの人生で、あと「4〜5試合」することを目標としています。これからも面白い仕事を追い求め、変な人から学び、自分なりに真っ直ぐに歩むことを忘れずに進んでいきたいものです。

※この記事は、「2021年6月8日掲載 Forbes JAPAN Online」に掲載されたものです。この記事の掲載については、Forbes Japanの許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

茶谷 公之

KPMG Ignition Tokyo代表取締役社長兼CEO/KPMG Japan CDO

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