欧州中央銀行のTLTROIIIプログラム(IFRS第9号及びIAS第20号に関連)-IFRS-ICニュース

IFRS解釈指針委員会ニュース -「欧州中央銀行のTLTROIIIプログラム(IFRS第9号及びIAS第20号に関連)」については、2022年3月のIASB審議会において審議された内容を更新しています。

「欧州中央銀行のTLTROIIIプログラム(IFRS第9号及びIAS第20号に関連)」については、2022年3月のIASB審議会において審議された内容を更新しています。

関連基準

IFRS第9号「金融商品」、IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」

概要

IFRS-ICは、欧州中央銀行(ECB)による第3次貸出条件付長期資金供給オペレーション(TLTROIII)の借入人である銀行における会計処理についての質問を受け取りました。TLTROプログラムの下で銀行がECBから借入れることができる金額及びその借入に適用される変動金利の参照金利(COVID-19の影響を受け、現在、0.5%のスプレッドがここから控除される)は、当該銀行における企業や個人への融資実績の達成状況にリンクし、利払いは満期時等の一括払いとなっています。質問の内容は以下のとおりです。

a.TLTROIIIは、市場金利よりも低利の貸出であるか否か、及び、市場金利よりも低利の貸出である場合、借入人である銀行は当該便益にIFRS第9号とIAS第20号のいずれを適用するか

b.銀行が市場金利よりも低利での借入の便益にIAS第20号を適用する場合、

i.当該便益を認識する期間をどのように評価するか
ii.当該便益を、表示上、TLTROIII負債の帳簿価額に加算するか

c.銀行はどのように実効金利を計算するか

d.銀行は負債に付された条件(融資実績の達成状況)の評価が見直されたことにより生じた見積り将来キャッシュ・フローの変更について、IFRS第9号B5.4.6項を適用して当初金利による償却原価の再測定として会計処理するか

e.銀行の貸出行動またはECBが行うTLTROIIIプログラムへの変更に起因する、過去の期間におけるキャッシュ・フローの変更をどのように会計処理するか

ステータス

IFRS-ICの決定

IFRS-ICは、TLTROIIIへの参加により生じる金融負債はIFRS第9号の範囲に含まれるため、借入人である銀行がTLTROIIIの会計処理を決定するに際してはIFRS第9号が出発点になると指摘しました。銀行は、以下の手順で会計処理を検討することとなります。

a.組込デリバティブの分離要否を検討する。なお、本件についてはこの論点はありません。

b.当初認識日において金融負債を公正価値で測定する。当初認識時の公正価値と取引価格の差異を会計処理し、実効金利を計算する。

c.金融負債を事後測定する。これには見積キャッシュ・フローの変更の会計処理が含まれる。

金融負債の当初認識と測定

TLTROIII負債が「純損益を通じて公正価値で測定される金融負債」に該当する場合を除き、銀行は当初認識日にTLTROIII負債を公正価値に取引費用を加減した値で測定します。当初認識時の公正価値はIFRS第13号「公正価値測定」に基づき測定されますが、通常は取引価格と等しくなります。当初認識時の公正価値が取引価格と異なる場合、IFRS第9号B5.1.1項は、取引価格の中に金融負債以外の何かが含まれていないかを判断することを要求しています。

IFRS-ICは、金融負債の金利が市場金利よりも低利となっているか否かを決定するのは金融負債に関連する事実と状況に基づく判断を要するとしながらも、金融負債の当初認識時の公正価値と取引価格の差異は金融負債の金利が市場金利よりも低利であることを示している可能性があるとし、以下のとおり指摘しました。

  • 銀行が、TLTROIII負債の当初認識時の公正価値は取引価格と異なるが、取引価格には金融負債以外のものは含まれていないと判断する場合、銀行はIFRS第9号B5.1.2A項を適用して当該差異を会計処理する。すなわちその公正価値がレベル1のインプットによる場合、もしくは観察可能な市場からのデータのみを用いた評価技法に基づく場合は差異は発生時に損益処理し、それ以外の場合は繰り延べる。
  •  銀行が、TLTROIII負債の当初認識時の公正価値は取引価格と異なるが、取引価格には金融負債以外のものが含まれていると判断する場合、銀行は当該差異が市場金利より低利での政府からの借入金に係る便益(IAS第20号の政府補助金として取り扱われる)を表しているかを判断する。この評価を行うのはTLTROIII負債の当初認識時においてのみである。政府補助金を表している場合、IAS第20号の政府補助金の会計処理は当該差異についてのみ適用され、金融負債の当初認識及び事後測定にはIFRS第9号が適用される。

TLTROIII負債にはIAS第20号の政府補助金として取り扱われるべき部分が含まれているか

IAS第20号は、以下の通り定義しています(IAS20.3)。

a.政府とは、地方、国家又は国際機関のいずれかを問わず、政府、政府機関及びそれに類似する機関をいう。

b.政府補助金とは、政府による援助であって、企業の営業活動に関する一定の条件を過去において満たしたこと又は将来において満たすことの見返りとして、企業に資源を移転する形態によるものをいう。

c.返済免除条件付融資とは、規定された一定の条件を満たせば返済が免除されることを貸主が約している融資をいう。

IAS第20号第10項により、政府からの返済免除条件付融資は、企業が融資に関する返済免除条件を満たすという合理的な保証がある場合には、政府補助金として取り扱われます。

また、IAS第20号第10A項は、市場金利よりも低利の政府からの借入金の便益は、政府補助金として取り扱われるとしています。ここで、市場金利より低利であることの便益は、IFRS第9号に従って算定される当該借入金の当初の帳簿価額と受け取った収入金額との差額として測定されます。

IFRS-ICは、ECBがIAS第20号の政府の定義を満たし、かつ以下のいずれかであると、銀行が評価する場合に、TLTROIII負債にはIAS第20号の政府補助金として取り扱うべき部分が含まれていると指摘しました。

a.TLTROIII負債に適用される金利が、IAS第20号第10A項のいう「市場金利よりも低利」に該当する。

b.融資がIAS第20号で定義される返済免除条件付融資に該当し、IAS第20号第10項が適用される。

ただし、上記事項の決定には特定の事実及び状況に基づく判断が要求され、したがって、IFRS-ICはTLTROIII負債に市場金利よりも低利の政府からの融資(IAS20.10A)または返済免除条件付融資(IAS20.10)による便益が含まれているか否かについて結論付ける立場にないと指摘しました。また、TLTROIII負債に政府補助金として取り扱われる部分が含まれるとしても、当該補助金が補填することを意図している関連コストの特定にも判断を要すると指摘しました。一方で、IAS第20号は、政府補助金として取り扱われる部分がTLTROIII負債に含まれているか、また、含まれている場合に当該部分をどのように会計処理するかを銀行が評価するための十分な基礎を提供していると結論付けました。

当初認識時の金融負債の実効金利の計算

IFRS第9号において実効金利は「金融資産又は金融負債の予想存続期間を通じての将来の現金の支払又は受取りの見積りを、金融資産の総額での帳簿価額又は金融負債の償却原価まで正確に割り引く率」と定義されているため、実効金利の計算において企業は、当該金融商品に係るすべての契約条項を考慮し、金融負債の予想される満期日までの予想キャッシュ・フローを見積る必要があります。当初認識時点においてTLTROIII負債の実効金利を計算する際には、どのように将来キャッシュ・フローを見積るのか、特に、契約上の金利に関連する融資条件から生じる不確実性をどのように反映させるのかが問題となります。この点、実効金利法の適用にあたって将来キャッシュ・フローの見積りに何を考慮すべきかは、今回の質問以外にも関連する論点であるとIFRS-ICは指摘しました。したがってIFRS-ICは、実効金利法の計算にあたり契約上の利率に含まれる融資条件をどのように反映させるのかを検討することはより広範な問題であり、TLTROIII負債の文脈のみで議論すべきではないとし、この論点はIFRS第9号の分類と測定の適用後レビュー(PIR)の中でIASB審議会が扱うべきであるとしました。

償却原価法に基づく金融負債の事後測定

銀行は金融負債の当初認識時に将来キャッシュ・フローを見積り、当初の実効金利を算定します。その後実効金利を改定するか否かは金融負債の契約条件及びIFRS第9号の関連する規定に拠ります。

TLTROIII負債の利息は満期時(又は早期弁済時)の一括払いのため、金融商品のキャッシュ・アウトフローが生じるのは決済時の1回限りです。

契約上のキャッシュ・フローの見積りに変化が生じた場合はIFRS第9号B5.4.5項もしくはB5.4.6項が適用されます。

変動金利の金融負債について、IFRS第9号B5.4.5項は市場金利の変動を反映するように将来キャッシュ・フローの定期的な見積りが修正されることで実効金利が改定されるとしています。しかしながらIFRS第9号は変動金利が何を指すかについては定義していません。

一方、IFRS第9号B5.4.6項はIFRS第9号B5.4.5項が適用されない契約上のキャッシュ・フローの見積りの変更に適用されますが、契約条件の変更によって契約上のキャッシュ・フローの変更が起きる場合は、企業は当該変更が当初の金融負債の認識の中止をもたらすか否かをまず判断する必要があります。また、B5.4.6項は改定後のキャッシュ・フローを当初の割引率で割り引くことを要求しているため、B5.4.6項の適用は対象金融負債の当初認識時に銀行がどのように将来キャッシュ・フローを見積り実効金利を計算していたかにも依存することになります。

IFRS-ICは、実効金利法の適用にあたり契約上の金利に関する融資条件を将来キャッシュ・フローの見積りにどのように反映させるかは当初測定と事後測定の両方に影響する広範な問題であり、TLTROIII負債の文脈のみで議論すべきではないとしました。したがって、IFRS-ICは、IASB審議会がこの論点をIFRS第9号の分類と測定の適用後レビュー(PIR)の中で扱うべきであるとしました。

開示

ECBがIAS第20号の政府の定義を満たしており、ECBから政府援助を受けたと判断した場合、銀行はIAS第20号39項で要求される開示を行う必要があります。また、TLTROIIIに関して要求される判断およびリスクに鑑み、銀行はIAS第1号「財務諸表の表示」第117、122、125項で要求される開示、及び、IFRS第7号「金融商品:開示」第7項、21項、31項で要求される開示を行うことを検討する必要があります。これらの開示は、重要な会計方針と会計方針適用にあたって経営者が行った、財政状態計算書に認識されている金額に最も重要な影響を与えている仮定と判断についての情報を開示することを求めています。

結論
IFRS-ICは、政府補助金に該当する部分がTLTROIIIに含まれているか、また、含まれている場合に当該部分をどのように会計処理するかを銀行が評価するための十分な基礎をIAS第20号は提供していると結論付けました。

一方、当初認識及び事後測定において契約上の金利に関する融資条件を将来キャッシュ・フローの当初見積りないし見積りの見直しにどのように反映させるかは広範な問題であって単独で対処することは効率的ではなく、IASB審議会がこの論点をIFRS第9号の分類及び測定の適用後レビュー(PIR)の中で扱うべきであるとしました。

本アジェンダ決定の内容は、IASB審議会の2022年3月の会議で検討され、IASB審議会が反対しなかったためアジェンダ決定として確定し、IFRIC Update(2022年2月)の追補として公表されました。

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