これまで、欧州の大手銀行の一部及びカナダの銀行5行※1の開示から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が予想信用損失(ECL)に与える影響について解説してきました。
今回は、同じ欧州の銀行の2020年12月31日付け(第4四半期)の年次報告書における開示を検討します。これまでと同様に、銀行の開示の詳細さのレベルにはかなりのばらつきがあります。このため、以下の比率それぞれに含まれる銀行の数は異なっています。

ECL費用及び税引前利益

最初に、銀行11行について、2020年9月30日まで9ヶ月のECL費用の総額※2及び税引前利益を、2019年の同期と比較します。下のグラフは、各行のECL費用及び税引前利益の変動率を示しています。

ECL費用及び税引前利益の変動率(2020年12月31日に終了した事業年度vs 2019年12月31日に終了した事業年度)
ECL費用及び税引前利益の変動率(2020年12月31日に終了した事業年度vs 2019年12月31日に終了した事業年度)

ECL費用の増加率は、32%から790%までかなりのばらつきがありますが、増加率が最も大きかった銀行では、2019年12月31日までの年度のECL費用がきわめて少額であったことによります。
興味深いことに、ECL費用の増加率が最も大きかった銀行では、税引前利益も増加しています。ECL費用の増加率が最も小幅だった銀行2行は税引前利益の減少が最大規模となっており、これは2020年の半期報告書及び第3四半期報告書に関する記事で解説した内容と同様です。
対象とした銀行について、2020年第1四半期、第2四半期、第3四半期及び第4四半期のECL費用の、前年同期比の増加率の平均※3を算出すると、第1四半期から第3四半期には大きく減速する傾向にありましたが、第4四半期には再び増加していることが示されました。

ECL費用の2019年同期比の増加率の平均

  Q1 2020 Q2 2020 Q3 2020 Q4 2020
Average increase in ECL charge vs 2019 comparative quarter 600% 400% 40% 133%

損失引当率

下のグラフは、欧州の銀行11行のうち8行の、償却原価で測定される貸出金に対する損失引当金の比率4を、2019年12月31日(2019年期末)、2020年3月31日(第1四半期)、2020年6月30日(第2四半期)、2020年9月30日(第3四半期)及び2020年12月31日(第4四半期)について示しています。

欧州の銀行8行の損失引当率
欧州の銀行8行の損失引当率

損失引当率の平均は、2019年期末から2020年第2四半期まで緩やかに増加しましたが、2020年下半期には若干減速する傾向を示しています。しかし、欧州の主要国の多くが2020年末から2021年初めにかけて2回目のロックダウンを行ったことから、2021年第1四半期もこの状態が続くとは限りません。各四半期末の償却原価で測定される貸出金に対する損失引当率の平均※5は、以下のとおりとなっています。

償却原価で測定される貸出金に対する損失引当率の平均

  Q4 2019 Q1 2020 Q2 2020 Q3 2020 Q4 2020
Average loss allowance ratio for loans carried at amortised cost
1.28% 1.43% 1.55% 1.53% 1.43%

英国の銀行2行は、リテール貸出金とホールセール貸出金それぞれの損失引当率についても開示しています。当該2行の各セクターの損失引当率は、以下のとおりとなっています。

リテール及びホールセールの損失引当率
リテール及びホールセールの損失引当率

この2行は、それぞれの比率において異なる傾向を示しています。A銀行はホールセール貸出金の損失引当率がリテール貸出金よりも高く、B銀行はその逆となっています。A銀行は第3四半期と第4四半期にいずれの比率も増加していますが、B銀行では減少しています。

借手に対する支払猶予及びその他のCOVID-19関連の借手救済策

対象とした銀行のうち7行が、2020年12月31日付けで、借手に対する支払猶予及びその他のCOVID-19関連の借手救済策の対象となる貸出金の金額に関連する情報を開示しています。このうち6行のこれら貸出金の総額での帳簿価額は、償却原価で測定される貸出金の総額での帳簿価額の0.2%から8%を占めています。他の1行は、比較可能な形で開示していません。
これら7行の銀行はすべて、借手に対する支払猶予及びその他のCOVID-19関連の借手救済策の対象となる貸出金の数及び金額が、2020年のそれまでの四半期末よりも大幅に減少している旨を開示しています。

貸出金のステージ分類

以前の記事では、貸出金の分析をステージ別に開示している欧州の銀行7行について考察しました。下のグラフは、貸出金全体における各四半期末のステージ2及びステージ3の金額の割合を示しています。

貸出金全体における各四半期末のステージ2及びステージ3の金額の割合
貸出金全体における各四半期末のステージ2及びステージ3の金額の割合

対象とした銀行のほとんどについて、第4四半期末におけるステージ2の貸出金の割合は、第3四半期末に比べ減少しています。7行におけるステージ2の貸出金の割合の平均は、2019年12月31日の6.77%から、2020年3月31日では8.28%へ、2020年6月30日では11.31%へと増加しましたが、2020年9月30日では10.34%へ減少し、2020年12月31日では8.99%へと再度減少しました※6。ステージ3の貸出金の割合は、2020年第4四半期にはほとんどの銀行でわずかに増加しています。

将来予測的な情報

過去の記事では、ECLの測定に際して将来の経済シナリオにCOVID-19 が与える影響を評価するという課題に銀行がどのように取り組んでいるかについて考察してきました。では、2020年12月31日時点ではどうでしょうか。
欧州の銀行11行のすべてが、第4四半期にCOVID-19の影響について経済シナリオをアップデートしたと明記しています。
2020年12月31日時点で、2行が、2019年12月31日時点の3つのシナリオに4番目の経済シナリオを追加したと報告しています。その一方で、1行は、2020年を通じてアップサイド・シナリオの確率を0%とし、実質的にシナリオの数を2つに減らしています。
2020年の各四半期において、ほとんどの銀行は、COVID-19の感染拡大が経済に与える影響に対応して経済シナリオの確率を変更してきました。第4四半期においては5行が、ベースライン・シナリオ及びダウンサイド・シナリオの確率を第3四半期より高くしたことを明示しています。2行は、アップサイド・シナリオの確率を高くしたことを開示しています。他の4行は、これについての言及はありません。
3行は、第3四半期及び第4四半期のマクロ経済シナリオの確率を開示しています。詳細は以下のとおりとなっています。

経済シナリオの確率(2020年第3四半期vs 2020年第4四半期)
経済シナリオの確率(2020年第3四半期vs 2020年第4四半期)

ほとんどの銀行は、貸出業務を行っているマーケットに関連するマクロ経済シナリオへの主要なインプットを開示しています。ただし、銀行は多種多様なマーケットで業務を行っているため、これらの銀行のインプットを比較することはできません。
対象とした銀行のうち8行は、COVID-19の感染拡大が経済に与える影響及び政府の支援策に関連する不確実性に対応するため、ECLモデルで算定した金額に加えて追加引当(management overlay)を適用していると報告しています。このうち6行は、より数値的な分析を提示する調整金額(例:各銀行側の調整または地理的な調整)を明記しています。開示の詳細及び内容は多様であるため、有意義な比較を行うことは困難です。

次のステップ

この解説は、前例のない状況において、銀行がどのようなアプローチでECLの見積りを行っているのかに関する新しい情報を共有することを目的としています。引き続き情報を入手し注視していきます。

※1これまでの記事では、欧州の大手銀行 ( 2020年3月31日付けの第1四半期報告書2020年6月30日付けの半期報告書2020年9月30日付けの第3四半期報告書) 及びカナダの銀行5行 (2020年4月30日付けの半期報告書) について考察しました。
※2これは銀行が保有する貸出金のECL費用ではなく、損益計算書におけるECL費用の総額です。
※3第1四半期(及び第2四半期、第3四半期それぞれ)の増加率の平均は、対象とした銀行の増加率を合計し、それを対象とした銀行数で割ることによって計算しています。
※4損失引当率とは、償却原価で測定した貸出金の総額での帳簿価額の期末残高に対する、損失引当金の期末残高の比率をいいます。
※5損失引当率の平均は、対象とした銀行すべての損失引当率を合計し、それを銀行数で割ることによって計算しています。これは、銀行の貸出金ポートフォリオ及び損失引当金の規模がそれぞれ異なることを考慮していない(すなわち、すべての銀行が均等に加重平均されている)ことを意味します。
※6ステージ2に分類された貸出金の割合の平均は、ステージ2の割合を合計し、それを対象とした銀行数で割ることによって計算しています。これは、銀行の貸出金ポートフォリオの規模がそれぞれ異なることを考慮していない(すなわち、すべての銀行が均等に加重平均されている)ことを意味します。
 

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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