不正事例に学ぶ 子会社のリスク管理のポイント 第1回 最近の不正事例の動向

本記事は、「週刊 経営財務」No.3466号(2020.07.20号)に掲載されたものです。

本記事は、「週刊 経営財務」No.3466号(2020.07.20号)に掲載されたものです。

1. はじめに

企業における不正は後を絶たず、その多くは財務諸表に直結するため、公認会計士による監査では不正リスクへの対応が重要なテーマのひとつになっています。企業では不正が発生すると、不正による直接的な損害に加えて、調査の工数や費用が必要となり、さらにはレピュテーションやビジネスそのものに影響が及ぶこともあります。
これから12回にわたり、不正事例の実態を分析しながら、海外子会社を中心とした子会社の不正リスク管理について、KPMGジャパンの各分野の専門家が解説いたします。なお、文中の意見に関する部分は各執筆者の私見であることを申し添えます。

2. 新型コロナウイルス感染症の影響と不正リスク

2020年に入り、瞬く間に広がった新型コロナウイルス感染症の影響により、世界的に経済環境が悪化し、先行きが不透明な状況が続いています。今後、企業の業績や資金繰りの悪化により、倒産リスクだけではなく、業績の悪化を隠したいという動機を要因とした不正のリスクは高まると考えざるを得ません。
このような環境下では、子会社の不正リスク管理はさらに重要になります。子会社の経営陣が業績を実態よりも良く見せたいと考え、例えば実体のない多額の売上を計上し、または滞留し売れる見込みのない棚卸資産の評価減を回避しようとするかもしれません。また、子会社の経営陣が実現困難な目標を従業員に課すことで、従業員が循環取引により実体を伴わない売上を計上し、または原価を棚卸資産に付け替えることで、売上・利益目標を達成したように見せかけようとするかもしれません。

3. 上場企業の3社に1社で不正発覚

2020年1月に公表された株式会社東京商工リサーチの調査によれば、2019年1月~12月で不適切会計を開示した上場企業は70社(前年比29.6%増)あり、集計を開始した2008年以降で最多となっています。不正が発覚しても訂正や開示をしないケースがありますが、実際に起きている不正はどのくらいあるのでしょうか。
株式会社 KPMG FASでは、2018年6月末時点の全上場企業3、699社に対して直近3年間を対象期間として調査を実施し、429社から回答を入手しました。「過去3年間に企業グループで不正が発生した」と回答した企業は135社(32%)、2016年の前回調査でも29%であり、3社に1社の割合で不正が発生しています。
なお、ここでは「不正が発生した」という回答を企業から得ていますが、実際には「不正が発覚した」ということであり、未だ発覚していない不正はあると考えられます。

4. 子会社で発覚した不正は45%

不正が発生したと回答した135社のうち、「国内子会社または海外子会社で不正が発生した」と回答した企業は61社(45%)にのぼりました。海外子会社で不正が発生したと回答した企業45社の発生地域はアジア地域54%、北米20%、欧州17%となっていました。
また、子会社における不正は金額が多額になる傾向があり、国内子会社または海外子会社で発生した不正の2割以上で損害金額が1億円以上となっており、10億円以上の大規模な不正の多くは海外子会社で発生しています。
事業規模の大小にかかわらず、親会社からのモニタリングが届かないこと等により不正が発見されるまでの期間が長くなると損害金額が累積するリスクが高まると考えられます。

5. 最も多い不正は横領、次に粉飾

不正の内容として多かった回答は、親会社、国内子会社、海外子会社のいずれにおいても、「金銭・物品の着服または横流し」「粉飾決算等の会計不正」「水増し発注等によるキックバックの受領」が順に上位を占めました。これらは、KPMG FASによる前回調査とほぼ同様の結果でした。
損害金額について見ますと、「金銭・物品の着服又は横流し」の場合は比較的少額である一方、「粉飾決算等の会計不正」の場合は多額となる傾向がありました。
少額な不正のすべてを防止・発見できるように厳格な内部統制を構築することは必ずしもコスト面で見合うかどうかはわからないため、粉飾を防止・発見する仕組み、横領であれば金額が大きくなる前に発見できるような仕組み等、リスクに応じた内部統制の構築が重要であると考えられます。

6. 発見経路は内部通報

不正の発見経路として最も多かった回答は、親会社及び国内子会社の不正では「内部からの通報」、海外子会社の不正では「会計記録等の確認・承認・モニタリング手続」でした。「内部監査」や「外部からの通報」も2割程度あります。
「水増し発注等によるキックバックの受領」の不正は「税務調査・当局検査」により発覚する割合が高くなっています。キックバックについては、取引先と結託して実在する取引を利用することから内部監査等で発見することが難しく、外部通報や税務調査等で発覚することが多いという特徴があります。
企業自らの統制が機能することにより不正が発覚するケースは増えており、また通報により発覚するケースも多いことから、通報制度が機能するように周知すること、通報に対して適切に対応することは、非常に重要であると考えられます。

7. 原因は属人的な業務運営

不正発生の根本原因として最も多かった回答は、親会社及び国内子会社では「属人的な業務運営」、海外子会社では「行動規範等の倫理基準の未整備または不徹底」でした。国内子会社及び海外子会社に対する「親会社のコントロール不足」、海外子会社では「当該国独自の特殊事情」を原因に挙げる企業も3割程度あります。
不正リスクの一番の原因は、「ひとりで何でもできる」環境が作られていることにあり、例えば、長期間ローテーションがない特定の担当者に業務と権限が集中し、上位者もその担当者に任せっきりにしている状況が不正を行う機会になり得ます。潜在的な不正行為者に「自分は見られている」と思わせることが、最も機能しやすい施策であると考えられます。

不正発生の根本原因
不正発生の根本原因

出典:「Fraud Survey日本企業の不正に関する実態調査」(株式会社 KPMG FAS)

8. 懸念される不正リスク

このように、不正事例の内容、発見経路や原因を知ることにより、不正リスクを想定し、不正を発見・防止するための取組みを考えることができます。では、企業はどのような不正リスクに懸念を持っているのでしょうか。
懸念される不正リスクとして最も多かった回答は「情報の漏洩または破壊(サイバー攻撃含む)」であり、半数以上の企業が懸念を感じています。「金銭・物品の着服または横流し」「水増し発注等によるキックバックの受領」「粉飾決算等の会計不正」を挙げる企業も多く、海外子会社では「贈収賄」を挙げる企業も36%ありました。
新型コロナウイルス感染症による経済環境の悪化は、リーマンショックを上回ると言われています。リーマンショック後には企業の倒産や粉飾が数多く発生し、数年を経てから発覚した粉飾も見られました。当面の間、不正リスクが高まることを念頭に置いたリスク管理が重要になると考えられます。

9. 海外子会社の不正リスク

海外子会社では「水増し発注等によるキックバックの受領」の発生割合は低いですが、今後懸念される不正リスクとしては高い割合で認識されています。海外子会社の不正の発見経路では「外部からの通報」「税務調査・当局検査」の割合が少ないことから、キックバックは存在していても発見されていないおそれは十分に考えられます。
また、海外子会社では現地の商慣習や法令等も様々である中、「贈収賄」「カルテル」といった不正リスクの懸念も相対的に高い割合で示されています。日本国内の水準と比較すると取引先への対応や管理体制が追いついていないケースもあると考えられます。

10. 海外子会社管理の課題

海外子会社管理の課題として多かった回答は、「現地国の制度等に精通した人材や教育の不足」「内部管理の人材が海外子会社にいない」であり、人材不足に対する問題意識が高くなっています。現地における不正や実態の把握が容易でないといった「モニタリングの不十分性」を課題として挙げる企業も多くありました。
海外における事業活動の拡大に対して、人材や管理が追い付いていないことから、管理体制やモニタリング体制の脆弱性が不正を行う機会となり得るリスクが懸念されます。また、海外M&A実施後の3年以内に不正が発見されたと回答した企業は5%である一方、被買収企業のガバナンスや管理体制に課題を認識していることから、不正が未発見のまま潜んでいる可能性も考えられます。

11. 不正リスクへの対応策

このような不正リスクや課題に対する取組みを考えるためには、不正が発生した企業の再発防止策が参考になります。
不正が発生した企業が、最も多く回答した有効な再発防止策は、「業務プロセスや内部統制の見直し・強化」で、66%に上ります。内部統制に不備があり、不正ができてしまう機会があったことから、それを是正したものと考えられます。
また、約半数の企業では、「不正行為者の懲戒処分」を挙げており、マネジメントの不正に対する厳格な姿勢を示すことが再発防止に寄与するものと考えられています。「不正予防やコンプライアンス推進等に係る研修の実施」「内部監査や自己点検の強化」を挙げる企業もそれぞれ4割以上ありました。

12. AI活用の期待

不正の防止・発見のためにAIの活用が「有効」と回答した企業は約半数を占めましたが、「有効性は不明」と回答した企業も約4割ありました。不正対策としてAIを活用している企業は2%であり、具体的な活用事例が少ないため、有効性を評価できないものと考えられます。
不正の防止・発見のためにAIを導入済または導入したい業務としては「顧客との取引データ」「財務データ」「経費精算データ」の分析が上位に挙がっています。既存のモニタリング活動や調査手続の高度化・効率化のために、取引データ等を一定の規則に基づきデータ化する構造化データの分析にAI導入の効果が高いという期待が見られます。
不正調査に欠かせない「電子メール」の分析や「契約書等のドキュメントデータ」「画像データ」の分析への期待も見られます。画像判定や音声認識におけるAI技術の発展も目覚ましいことから、今後は画像や音声データを利用したモニタリング活動や調査手法も増加していくと考えられます。

 

本記事は、「週刊 経営財務」No.3466号(2020.07.20号)に掲載されたものです。本記事の掲載については、税務研究会の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
リスクマネジメント部  パートナー 細井 友美子
 

お問合せ

不正事例に学ぶ子会社のリスク管理のポイント