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コロナ禍の経験をもとに考えるリモート監査の課題とデジタル監査の将来像

旬刊経理情報(中央経済社発行)2020年11月10日増大号にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2020年11月10日増大号にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事のエッセンス

  • 2020年3月期決算においては、コロナ禍の影響により多くの企業でリモートワークが導入され、監査法人においてもリモート環境における監査手続の実施が余儀なくされた。
  • コロナ禍においては、企業のリモートワークによる決算発表の遅れや、監査法人のリモート監査(リモートで企業の帳簿や契約書をチェックする監査)による作業効率低下などがみられ、さらにはデジタル監査(デジタル技術を活用した監査)の課題もあらためて浮彫りとなった。リモートワークが定着し、デジタル化が急速に加速する時代に向けて、対応すべき課題が明確になったことは好機であるといえる。
  • 上記の課題を企業および監査法人の両面から考察し、あずさ監査法人での取組みも 踏まえると、これからの時代に期待されるデジタル監査には監査法人と企業の経理業務双方のデジタル化と連携が重要である。

この記事は、「旬刊経理情報2021年11月10日増大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

はじめに

日本においては、2020年の初めから新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」という)の大流行が始まり、その後の政府による緊急事態宣言発令という前代未聞の環境下において、世界に先立って期末の企業決算および監査の繁忙期を迎えるという困難に直面した。
あずさ監査法人においてもコロナ拡大防止策として、企業への訪問が難しくなり、在宅勤務によるリモートワークを余儀なくされた。しかしながら、コロナ禍以前より、働き方改革による在宅勤務やデジタル技術を活用した監査(以下、「デジタル監査」という)を積極的に推進・展開していたこともあり、早期に的確な対応策を取ることができたため、大きな混乱もなく監査繁忙期を乗り越えることができた。
一方で、リモートワークで企業の帳簿や契約書をチェックする監査(以下、「リモート監査」という)の作業効率低下やリモートワークによる企業決算発表の遅れなどもみられ(図表1)、さらにはデジタル監査の課題もあらためて浮彫りとなった。
コロナ禍の影響はしばらく続くと考えられ、今後はウイルスと共存していく「ニューノーマル時代」に突入することが予想される。在宅勤務によるリモートワークが当たり前となり、ソーシャルディスタンスを確保した生活習慣が根づいている。この新しい生活習慣に加えて、デジタル
技術を最大限に活用するといった社会環境の変化は急速に加速し、二度と戻ることはないであろう。
ここでは「ニューノーマル時代」におけるリモート監査の課題と対応、デジタル監査の展望について考察する。

図表1

あずさ監査法人におけるリモート監査の取組み

あずさ監査法人ではコロナ禍以前より、デジタル監査プラットフォームや在宅勤務制度の導入等リモート監査に関わる取組みを推進してきた。そのため、コロナ禍におけるリモート監査・テレワークへの移行も比較的スムーズに対応することができた。

(1)仮想デスクトップ

企業の機密情報を扱う監査業務の性質上、セキュリティ対策として、仮想デスクトップ(VDI)を全面導入している。VDI環境下では、すべての情報をパソコンのローカルデスク上ではなく、法人が管理するデータセンターのサーバー上に保存するため、情報セキュリティが強化されるうえに、インターネットにつながる環境があれば、仮想プライベートネットワーク(VPN)を通じてどこからでも安全に最新情報にアクセスすることが可能である。

(2)情報共有アプリケ—ション

企業との情報共有を円滑に進めるための情報共有アプリケーション(KPMG Central、KPMG Clara Client Collaboration) をMicrosoft SharePointをベースに開発し、導入している。アクセス権を付与された限られたメンバーが、Transport Layer Security (TLS)によって暗号化されたインターネットを介してアプリケーションに安全にアクセスすることができ、資料・データの受渡しおよびタスク・監査の進捗管理の共有等をタイムリーに実施することが可能である(図表2)。

図表2

(3)リモート会議ツ—ル

企業への訪問や出張が多い監査業務の性質や企業のグローバル化に対応したコミュニケーション体制を構築するために、複数拠点間や3者以上の会議接続が可能な電話会議サービス(プレミアコンファレンシング)、テレビ会議サービス(Virtual Meeting Room)およびウェブサービス(Microsoft Teams・Webex等)を導入している。

(4)監査の効率化ツール

業務の正確性および効率性向上を目指してさまざまな監査ツールを開発し、導入している。たとえば、従来は紙ベースで実施することが多かった有価証券報告書の本表と注記の計算チェックを自動で実施する「自動計算チェックツール」を導入している。

(5)業務の集中化・効率化・定型業務の自動化

監査および監査関連業務において、業務を標準化し効率性を高めるためRPA等を活用し、業務のシステム化を積極的に進めている。具体的には、監査調書の査閲状況に関するメール配信や電子ファイルの異常発見等の業務を自動化し、適時かつ効率的な業務遂行をサポートする体制を整備している。

(6)在宅勤務制度

働き方の多様性の確保、業務生産性の向上、ワークライフバランス向上、そして事業継続性の確保(BCP)の取組みとして、全職員を対象に在宅勤務制度を導入している。

コロナ禍のリモート監査で浮彫りとなった課題と対応

2020年3月期決算においては、コロナ禍の影響により、多くの企業でリモートワークが導入され、監査法人においてもリモート環境における監査手続の実施が余儀なくされた。これにより、日本の商慣習や制度について、さまざまな課題が浮彫りとなった。代表的な例としては、印鑑承認の必要性が社会的に疑問視され、多くの企業で電子承認が検討されていることが挙げられる。
企業のリモートワークが定着し、デジタル化が急速に加速するであろう「ニューノーマル時代」に向けて、対応すべき課題が明確になったことは好機であるといえる。そこで、コロナ禍のリモート監査で浮彫りとなった課題とその対応を企業および監査法人の両面から考察する。

(1) 企業

1. 経理業務のデジタル化の遅れ
日本では多くの企業が書類と手作業で経理業務をこなしているため、コロナ禍においても多くの経理担当者が書類の処理や押印のために出社するケースが散見され、経理業務のデジタル化の遅れが鮮明となった。リモート監査においても経理業務のデジタル化は不可欠となるが、多くの企業が決算に関連する書類をPDFに変換するといった緊急避難的な対応にとどまっている。
リモート監査の確立に向けては、経理業務の真のデジタル化が必要となる。経理業務の真のデジタル化とは、決算に関連する情報をデータ化し、データの記録から決算処理までをクラウドシステムで一元管理するための、業務プロセスおよび内部統制を構築することである。そのためには、商慣行や業務の見直し(電子契約サービスの導入・書類のペーパーレス化・電子帳簿保存法に準拠したデータ管理・電子承認の導入等)、経理業務の可視化および標準化、セキュリティを含むデジタル環境の整備およびデジタル人材の確保等の対応が必要不可欠となる。
なお、コロナ禍以前より、日本は欧米と比較した場合、企業の経理業務で利用しているシステムやデータ形式の共通性が低いという課題がある。経理業務のデジタル化の遅れを取り戻すためには、デジタル環境の整備において、システムの集約やデータ形式の標準化も視野に入れることが重要であり、企業だけではなく官公庁による制度改革等も含めた取組みが必要であると考えられる。

2. デジタル化に対する姿勢
日本企業において経理業務のデジタル化が遅れてきた要因として、経営陣が経理業務のデジタル化に対する投資や人材の育成に積極的に予算を割いてこなかったことや、経理部門が業務の変化に保守的であることが背景にあると考えられる。
経理業務の真のデジタル化によって、企業経営のあらゆる情報が可視化されることになれば、経営陣にさまざまな気づきを与え、データに基づく判断と施策が可能となる。あらゆる情報を可視化し経理業務に変革が生じることについて、担当者は抵抗を覚えるかもしれないが、企業価値向上につながると思考を転換し、関係者が一体となって経理業務の真のデジタル化に取り組むことが求められる。つまり、経理業務の真のデジタル化を実現するためにはインフラの整備以上に関係者のマインドセットが重要となる。

(2) 監査法人

1. データ証憑
今まで監査証拠の多くは対面で質問等を交えながら直接入手していたが、リモート監査においては経理担当者が書類をPDFに変換し、情報共有アプリケーションにアップロードしたものを、監査人がリモートでチェックしたうえで、必要に応じてメールや電話で質問するといったプロセスが中心となった。
企業からリモートで入手したデータ証憑は、対面で入手した書面証憑と比較して、改ざん等のリスクが高いため、証拠力が弱いといった問題が顕在化し、結果として、リモートで入手したデータ証憑について、最終的には書面証憑を確認するといった作業効率の低下が生じることもあった。
リモート監査の確立に向けては、データ証憑の証拠力を担保するための取組みが必要となる。たとえば、電子証憑の改ざんを検知する監査ツールの導入や、経理担当者が撮影した書類の画像データをリアルタイムで直接的に入手する等の対応が考えられる。

2. 実査・立会・確認等
監査手続のなかにはリモートでは完結しない現金実査や棚卸立会といった手続、原則として書面での入手が必要となる金融機関や得意先等に対する残高確認手続がある。また、監査法人の監査報告書も署名・押印のうえ書面による提出が公認会計士法で求められている。リモート監査の確立に向けては、ライブストリーミング(リアルタイムでの動画、画像データ)を利用した監査手続、残高確認手続や監査報告書の電子化等、社会のデジタルニーズへの柔軟な対応が求められている。(図表3)

3. コミュニケーション
コロナ禍のリモート監査では、これまで対面で実施していた企業とのコミュニケーションの多くがオンライン会議にて代替されることとなった。オンライン会議では、監査の大前提である企業との信頼関係を構築し維持することを難しく感じる側面も垣間見られた。また、不正の予兆や検知において対面でのコミュニケーションが重要となる場合もある。
コロナ禍のオンライン会議によるコミュニケーションはあくまでも応急的な対処ではあったが、今後は企業とのコミュニケーションの意義について再検討し、対面とリモートを使い分けながら、コミュニケーションの機会を最大限に活用する必要があると考えられる。

4. デジタル人材
コロナ禍のリモート監査では、監査人に多くの局面でさまざまなデジタル対応が求められることとなったが、適時かつ適切な対応ができなかったことにより、作業効率の低下が生じるケースも散見された。
リモート監査の確立および社会のデジタルニーズに応えるためには、監査人のデジタルリテラシーを向上し、デジタル人材として育成することが必要不可欠であると考えられる。

図表3

デジタル監査の展望

コロナ禍のリモート監査においては、さまざまな課題が浮彫りとなった。また、企業活動のデジタル化が加速度的に進む「ニューノーマル時代」においては、データとテクノロジーを駆使した効果的かつ効率的なデジタル監査に対する社会からの期待は急速に高まることが予測される。
効果的かつ効率的なデジタル監査の実現は監査法人のみで実現できるものではなく、企業との連携が何よりも重要となる。既述のとおり、リモート監査の確立に向けては、経理業務の真のデジタル化が必要となるが、効果的かつ効率的なデジタル監査の実現においても経理業務の真のデジタル化は不可欠となる。
したがって、今後の企業活動のデジタル化においては、経理部門や内部監査部門が関与し、経理業務の真のデジタル化およびガバナンスの強化を見据えた提案をすることが重要であると考えられる。たとえば、電子承認の導入1つにしても、単に印鑑を電子に置き換えるのではなく、業務プロセスや内部統制を見直し、業務の円滑化・効率化・有効化や内部統制の強化に資するデジタル化が求められる。
そして、監査法人は企業によって有効にデジタル化されたデータを共有プラットフォームを通じて直接アクセスすることができ、リアルタイムに全データを最大限に活用したデータ分析を実施する。データ分析では、高度な統計的手法やAIの技術を活用してさまざまな視点で異常値をタイムリーに発見し、経営上のリスクや改善点を分析したうえで、企業にとって付加価値の高い情報共有をすることが可能である。これがわれわれが目指すべきデジタル監査の将来像である。

あずさ監査法人におけるデジタル監査の取組み

(1)デジタル戦略

あずさ監査法人は、監査のデジタルトランスフォーメーションを強力に推進するために、デジタル監査プラットフォーム「KPMG Clara」を活用し、改善し続けることで、企業とともにデジタル戦略である「3C×Insights & Impacts (3C×I)」を実現し、社会・企業からの期待・役割に応え続けていくことを目指している(図表4)。

図表4

1. 3C監査
社会・企業のデジタル化が進んでいくなかで、監査において「3つのC」であるComprehensive Audit(網羅的監査)、Centralized Audit(一元的監査)、Continuous Audit(リアルタイム監査)を実現していく。特に、「ニューノーマル時代」においては、企業のデジタル化が一段と早く進むことにより、監査も一元的、リアルタイムの観点でより早く進化させていく必要がある。

2. ImpactsとInsightsの提供
「KPMG Clara」上で「3C監査」を実施することで、監査関与先に対して監査の「高度化」、「効率化」、「見える化」というImpactsを具現化し、長年の知見に基づき付加価値のあるInsightsを提供していく。

3. デジタル監査プラットフォーム「KPMG Clara」
「KPMG Clara」は、デジタル監査を実現するプラットフォームであり、オンライン上での資料授受から分析、監査手続までを一貫となって実施することができる3つのサブプラットフォームから構成される(図表5)

図表5

(2) 組織体制

デジタル技術を活用し、社会の期待に応える監査を実現していくために、2019年7月1日より新たに理事長直轄の組織として「Digital Innovation部」を立ち上げるとともに、子会社として、AI・ブロックチェーンといった先端技術の専門家・開発者集団を組織する「KPMG Ignition Tokyo」を設立した。「Digital Innovation部」と「KPMG Ignition Tokyo」は監査業務プロセスの変革や新たな監査プラットフォーム・ソリューション開発につき、一体となって取り組んでいる。

(3)デジタル人材育成プログラム

急速に進化するテクノロジーとデータを活用し、監査現場で3C×Iを実現するために、デジタル人材育成プログラム「Azsa Digital Academy」を策定した。「Azsa Digital Academy」では、育成の目的となる「将来の監査チーム像」と、「デジタル人材の階層と担う役割」を定義し、また必要となるスキルを整理したうえで、それに対応する研修および0JTを組織的に実施する環境を構築している。デジタル人材の認定には、専用の研修プログラムの受講や実務経験等の要件を設けている。
2021年6月期中には、監査業務に従事するプロフェッショナルが「デジタルアシスタント」の要件をクリアすることを予定している。また今後3年間で、「デジタルマイスター」以上のデジタル推進の中核となる人材を、2,500人超に育成することを目指す(図表6)。

図表6

(4)データ分析の高度化・アドバイザリー展開

あずさ監査法人では、監査業務のDX化に注力してきたが、監査で得た知見をもとにデータ分析サービスのアドバイザリー業務への展開を拡大している。その第1段階として、2020年7月よりSaaS(Software as a Service)型の財務データ分析サービス「Financial Data Analytics (FDA)」の提供を開始している。引き続き、利用先企業から寄せられる多様なニーズに応えて機能拡充するとともに、さまざまな知見を蓄積し、相互に連携を図ることで、監査業務のさらなる高度化につなげていく。

おわりに

コロナ禍をきっかけとしてデジタル技術を最大限に活用するといった社会環境の変化は急速に加速している。この社会環境変化に正面から取り組み、目指すべき方向に進むことで、「ニューノーマル時代」をリードすることが監査法人に課せられた使命であると考えられる。企業の皆様とともにデジタル化といった変化を受け入れて「ニューノーマル時代」を築いていく所存である。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
Digital Innovation部長
公認会計士
丸田 健太郎(まるた けんたろう)

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