会計方針開示等会計基準の対応上の留意点

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年3月20日増大号の「コロナ禍関連と改正事項・実務論点を網羅 3月決算総特集」に、未適用の会計基準等の注記に注意 会計方針開示等会計基準の対応上の留意点に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年3月20日増大号の「コロナ禍関連と改正事項・実務論点を網羅 3月決算総特集」に、あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「旬刊経理情報 2021年3月20日号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合であっても、採用した会計処理の原則及び手続の概要を開示することが要求される。
  • 未適用の会計基準等に関する注記の定めが、専ら表示および注記事項を定めた会計基準も含めた会計基準全般に適用されることが明確化された。


本章では、2021年3月期から本適用となる改正企業会計基準24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「本基準」という)について、実際の開示例を交えて解説する。なお、文中意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

改正の経緯

2020年3月に、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が本基準に改正された。
改正に至った経緯は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、企業が実際に採用した会計処理の原則および手続が重要な会計方針として開示されているか否かについて実態はさまざまであることが見出されたためである。この実態を受けて、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則および手続に係る注記情報の充実が図られた。
 

改正の内容

(1)開示目的

本基準では、開示目的について次のとおり定めている。

  • 重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則および手続の概要を示すことにある。
  • この開示目的は、会計処理の対象となる会計事象や取引に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同じである。

(2)関連する会計基準等の定めが明らかでない場合

本基準における「会計基準等」とは、図表1に掲げるものおよびその他の一般に公正妥当と認められる会計処理の原則および手続を明文化して定めたものをいう(企業会計基準適用指針24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(以下、「本適用指針という」5項)。また、法令等により会計処理の原則および手続が定められているときは、当該法令等も一般に公正妥当と認められる会計基準等に含まれる場合がある(本適用指針16項)。

(図表1)本基準における会計基準等(1) 企業会計基準委員会が公表した企業会計基準


(1) 企業会計基準委員会が公表した企業会計基準
(2) 企業会計審議会が公表した会計基準(企業会計原則等を含む。)
(3) 企業会計基準委員会が公表した企業会計基準適用指針
(4) 企業会計基準委員会が公表した実務対応報告
(5) 日本公認会計士協会が公表した会計制度委員会報告(実務指針)、監査・保証実務委員会報告及び業種別監査委員会報告のうち会計処理の原則及び手続を定めたもの



本基準が適用されることにより、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則および手続の開示上の取り扱いを明らかにし、財務諸表利用者が財務諸表を理解するうえでの不可欠な情報を提供することが要求される。
「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、「特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合」と定められている。
また、本基準では、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に採用した会計処理の原則および手続の具体例として、図表2が想定されている。

(図表2)「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に採用した会計処理の原則および具体例

  • 関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則および手続で重要性があるもの(参考となる既存の会計基準等がある場合に当該既存の会計基準等が定める会計処理の原則及び手続を採用する場合も含む)
  • 業界の実務慣行とされている会計処理の原則および手続のみが存在する場合で当該会計処理の原則および手続に重要性があるもの(企業が所属する業界団体が当該団体に所属する各企業に対して通知する会計処理の原則および手続を含む)

(3)重要な会計方針に関する注記

本基準は、重要な会計方針に関する注記について、企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぎ、図表3のように定めている。

(図表3)重要な会計方針に関する注記

  • 財務諸表には、重要な会計方針を注記する。
  • 会計方針の例として以下のものが示されている。ただし、重要性の乏しいものについては注記を省略することができる。
    (1) 有価証券の評価基準及び評価方法
    (2) 棚卸資産の評価基準及び評価方法
    (3) 固定資産の減価償却の方法
    (4) 繰延資産の処理方法
    (5) 外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準
    (6) 引当金の計上基準
    (7) 収益及び費用の計上基準

 

(4)代替的な会計基準が認められていない場合

企業会計原則注解(注1-2)では、「代替的な会計基準が認められていない場合には、会計方針の注記を省略することができる」と定めている。これは、会計方針の開示は、関連する会計基準等の定めが明らかである場合には、会計基準等の定めを繰り返して記載するだけのものとなる可能性があると考えられるためである。本基準においても、企業会計原則注解(注1-2)の当該定めが引き継がれている。

(5)未適用の会計基準等に関する注記

本基準では、未適用の会計基準等に関する注記の定めの記載箇所を変更している。未適用の会計基準等に関する注記に関する定めは、これまで会計方針の変更の取扱いの一部として定められていたため、専ら表示および注記事項を定めた会計基準等に対しては適用されていないと解されていた。本基準では、未適用の会計基準等に関する注記の定めが、専ら表示および注記事項を定めた会計基準等も含めた会計基準等全般に適用されることを明確化する目的で、当該注記に関する定めを独立した項目とされた。

関連する法改正

財務諸表等規則および財務諸表等規則ガイドラインは、本基準を受けて改正が行われており、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合の重要な会計方針に関する注記の取扱いおよび未適用の会計基準等に関する注記について、本基準と同様の取り扱いを求めている (財規8の2、8の3の3、財規ガイドライン8の2、連結財規14の4)。
一方、会社計算規則は本基準を受けての改正は行われていない。しかし、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」も、関連する会計基準等の定めが明らかな場合と同じく、採用した会計処理の原則および手続の概要を重要な会計方針として注記することとされているところ、当該採用した会計処理の原則および手続が計算書類を理解するために重要であると考えられる場合には、会社計算規則101条1項5号の「その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項」に該当し、その概要を注記する必要がある(「『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方 10)。

具体的な開示内容

(1)重要な会計方針として記載する項目および開示内容の判断

本基準の結論の背景では、注記の内容は企業によって異なるものであり、各企業が開示目的に照らして判断すべきと考えられると記載されている。しかし、ある会計事象が関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、当該会計事象に係る会計方針を重要な会計方針として開示する場合の開示の具体的な内容や注記例は示されていない。
本基準では、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則および手続の概要を示すことを「重要な会計方針に関する注記の開示目的」とし、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合でも同様としている。したがって、開示すべき項目および具体的な開示内容を検討するにあたり、当該開示目的を踏まえた検討が行われる必要があると考えられる。

(2)関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則および手続で重要性があるもの

近年、多くの企業が役員や従業員に対するさまざまなインセンティブ報酬を導入している。金銭報酬や株式報酬によるインセンティブ報酬は、シンプルなものから新たなスキームを用いた業績連動報酬などさまざまな形態のものがあり、会計上の取扱いが必ずしも会計基準等で明らかではないケースもみられる。そのため、インセンティブ報酬によっては、企業が「関連性がある」と判断した別の関連する会計基準の定め等に準じた会計処理が行われている場合もあり、表題に該当するものとして注記対象となる可能性があると考えられる。
これは一例であるが、このように新たな取引や経済事象が出現した場合は、注記対象となるかどうかについて検討が必要となる点に留意が必要である。参考情報として、原稿実務においてすでに開示が行われている事例を紹介する(開示例)。

(開示例)キーコーヒー㈱(2020年3月期)

(追加情報)
(取締役等に対する株式給付信託(BBT)の導入)
当社は、取締役等の報酬と当社の株式価値との連動性をより明確にし、取締役等が株価上昇のメリットのみならず、株価下落リスクまでも株主の皆様と共有することで、取締役(監査等委員である取締役を除きます。)及び取締役を兼務しない執行役員に関しては、中長期的な業績の向上と企業価値の増大に貢献する意識を高めることを目的とし、また、監査等委員である取締役に関しては、当社の経営の健全性と社会的信頼の確保を通じた当社に対する社会的評価の向上を動機付けることを目的として、取締役等に対する株式報酬制度「株式給付信託(BBT(=Board Benefit Trust))」(以下「本制度といいます。」)を導入しております。
当該信託契約に係る会計処理については、「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第30号 2015年3月26日)に準じております。

(3)業界の実務慣行とされている会計処理の原則および手続で重要性があるもの

業種・業界によっては、業種・業界特有の経済事象の会計処理について特有の実務慣行が形成されていたり、業界団体が団体に所属する各企業に対して会計処理の原則および手続を通知している場合がある。このような場合に、業界の実務慣行とされている会計処理方法で重要性があるものについては、本基準の開示対象になると考えられる。

(4)未適用の会計基準等に関する注記

2021年3月期においては、多くの企業が、2021年4月から本適用となる企業会計基準29号「収益認識に関する会計基準」を未適用の会計基準として開示することが想定される。すなわち、本基準にしたがい、1.新しい会計基準等の名称および概要、2.適用予定日、3.新しい会計基準等の適用による影響に関する記載を行うこととなる。
3.新しい会計基準等の適用による影響は、定量的に把握されている場合はその定量情報を記載する必要がある。適用の影響につき定量的に把握していない場合には、定性的な情報を注記する。なお、財務諸表の作成の時点において企業がいまだその影響について評価中であるときには、その事実を記載することが求められている(本適用指針12-2項)。
なお、適用の影響につき定量的に把握していない場合であっても、適用にあたり重要な影響が見込まれる場合は、単に影響額を評価中である旨の記載を行うのみならず、財務諸表利用者がその影響の内容を理解することができるよう定性的な情報を注記する必要があると考えられる。
また、専ら表示および注記事項を定めた会計基準等については、3.新しい会計基準等の適用による影響の記載は不要である。

以上

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニア 公認会計士
渡部 瑞穂(わたなべ みずほ)

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