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企業のみならず社会全体にデジタル変革が起きています。企業はデジタルトランスフォーメーションの実現に多くのリソースを割き、政府はデジタル庁を創設して行政手続きのデジタル化を推進し、「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現を目指しています。

では、テクノロジーの恩恵が広くあまねく人々に行き渡るには、どのような発想や観点が必要なのでしょうか?また、そのために企業はどのような意識を持って取り組みを推進していけばいいのでしょうか? 

この問題について、KPMG Ignition Tokyoの茶谷公之が、株式会社チェンジウェーブ/株式会社リクシス両社の代表取締役社長として活躍する佐々木裕子氏と対談した内容をお伝えします。

組織課題にも超高齢社会にも、「変革屋」として挑戦する

茶谷、佐々木氏

(株式会社KPMG Ignition Tokyo 代表取締役社長兼CEO、KPMGジャパンCDO茶谷公之(左)、株式会社チェンジウェーブ /  株式会社リクシス 代表取締役社長 佐々木 裕子氏 (右))

茶谷    :佐々木さんとは 10年ほど前、私が当時勤務していたソニー社内で「変革屋」として手腕を発揮されていた頃に知り合って以来の仲です。今日は、変革屋の立場から、「アクティブラーニング」「超高齢社会における社会課題」「無意識バイアス」「地方創生」「エイカレ(新世代エイジョカレッジ)」などについてお話しを伺いたいと思います。

まず、チェンジウェーブの取り組みについて話を進めていきましょう。サイトを見ていると、本質とリアルを捉えた変革を確実に起こす、という言葉に惹きつけられましたが、もともと変革をしたい、と考えたきっかけはどういったものだったのでしょうか?

佐々木 :前々職であるマッキンゼーを辞めた後、ソニーに参画するまでの半年の間は特に仕事はせず、自分のやりたいことが何なのか、自問自答していました。

いろいろと棚下ろした中でひとつ思い浮かんだのは、マッキンゼー時代に米国でたびたび「日本からは新しいものが出てこない」「変化のスピードが遅い」というふうに言われていたことでした。その当時から、「本当にそうなのだろうか、なぜそう思われるのだろう」と、疑問に感じていましたし、改めてそのテーマに向き合った時、やっぱり「何か違うはず。何とかできないか?」と考えるようになりました。それが「変革屋」を目指したきっかけのひとつです。

もうひとつはソニーに参画することになった時のことです。私にとってソニーは子どもの頃からの憧れの会社であり、新卒の頃には入社試験を受けたほどでした。そんなソニーに入社する機会を得たわけですが、その頃のソニーは外から見ていても、まさに変革が必要な時代でもあったのです。「ソニーという憧れの日本企業が輝けば、日本もきっと輝くはず!」と思い、そうなるために何かできないか、と考えるようになりました。

ちょうどその頃、オバマ元大統領が大統領選で「change!」を訴え、世の中が変わる、という気運が高まってもいました。そうしたこともあって、「物事は案外変えられるのかもしれない。私はそういう変革屋になりたい!」と強く思うようになりました。それに、最初に変革のお手伝いをする対象がソニーだったら、その後の自分の取り組みの自信に繋がる、とも考えました。うまく行ったかは分からないですけれどね(笑)。

茶谷    :最初に変革する場がソニーだった、というのはやはり…難問だったと思います(笑)。その中で忘れられない思い出などはありますか?

佐々木 :当初は、「変革をしたい!」と言っても、概念だけで具体的に何をしたらいいのか分からない状態でした。ソニーで「変革屋」とはどういう存在か? を模索していった、という感じです。つまり、具体的なアプローチをはじめ、現在に繋がるナレッジはソニーで実践的に学んだ、というわけです。

ソニーには嘱託職員という形で入らせて頂き、私は変革室所属となり、変革デザイナーとしてすぐに「今後のプランを提示する」という課題を得ました。入って間もないので、当然ながら具体的にどこから手をつけたらいいのか分からない状態です。そこで、「何を変革すればソニーは変わるのか?」ということを社内の様々な人に片っ端からヒアリングしていきました。

意外に思われるかもしれませんが、みなさん「大変だね」と言いながら色々と話を聞かせてくれたものです。そして、「ここを変革すればいい」という部分が明確になってきました。

しかし、明確化したことについて、「その変革はコーポレート部門の人がやるべきことではない」と釘を刺されてしまいました。この経験は、組織を変革するには「誰がやるか?」「誰が始めるか?」が非常に大切なのだと気付かせてくれる、意義があるものになりました。ある日、突然やってきた外様の立場の人間が「変革します!」と言っても響かないのです。

茶谷    :その経験が「人が変わるべき。人が変わらなければ、組織や社会は変わらない」という発想に繋がっていったということですね。

佐々木 :そうです。元々いた当事者が「やろう!」と思うことで変革は徐々に始まっていくものであり、当事者が変化しなければ変わらないのだ、ということを確信しました。

しかし一方で、外様でなければ火を着けられないこともあります。それだけが外様がやることかな、と思います。

茶谷    :では、外様として必要な能力はどういったものなのでしょうか?

佐々木 :先ほども少し触れましたが、外様の立場でいることは情報収集をしやすい、という利点があります。「何を変革したらいいか?」と聞くと、様々な事情をフラットに教えてもらえるので、組織の枠を超えながら情報の構造化ができ、情報を立体的に整理して全体像を把握することができます。

現状はどういう潮目にあって、誰がキーパーソンなのか? 組織は生き物なので、変革をする際にこれを見誤ってはいけません。状態を解像度高く知ることが不可欠ですし、それができるのが外様バリューのひとつだと言えます。俯瞰してレントゲン写真を撮る、というイメージです。

茶谷    :では、外様バリューを発揮する上で大事なことは何でしょうか?

佐々木 :実際に試行錯誤を経た体験を踏まえて言わせて頂くと、「相手に対するリスペクトを常に持ち続ける」ということが大事だと思います。

「この人は役に立ちそうだ。ちょっと一緒にやってみてもいいかな」と思ってもらえるとスムーズに進みますが、「こいつ、分かっていないし偉そうだ」と思われるとダメですね。

人は好き嫌いなど論理じゃないところで動くので、その方に対するリスペクトを示しながら、「一緒に仕事をしてもいいな」と思ってもらわないと、外様バリューは発揮できないと思います。

こちらがリスペクトして先方に接すると情報も入ってくるし、どこから着手するべきか見えてきたり、本音を言ってくれる人間関係が生まれたりして、トライアンドエラーができるようにもなります。そうしたプロセスが大事だと分かったことが、ソニーで得た経験です。

組織を変革する方法は「簡単に横展開できるわけではない」

茶谷    :変革屋として会社組織の変革をサポートするのがチェンジウェーブの仕事だと思っていたのですが、実際は非常にベクトルが広いのだとも感じています。特に地方創生については、「なぜ?」と思わずにはいられません。きっかけは何だったのでしょうか?

佐々木 :地方創生のプロジェクトに限らず、チェンジウェーブでは事業計画を策定せず、人との出会いでプロジェクトが進んできました。地方創生については、ある会合で偶然隣に座っていたのが、今は「日本一おかしな公務員(日本経済新聞出版)」という本も出版している塩尻市職員の山田崇さんだった、というのがきっかけでした。

私は地方創生はそれまでやったこともなく、その会合ではかなりのアウェイ感を感じたんですよね。それで、その違和感を口に出したのですが、それを聞いた山田さんが興味を持ってくれて、「地方創生にこれまでかかわってこなかった生粋のビジネスパーソンにこそ、これから力を貸してほしい」とおっしゃったのです。

茶谷

一方、私は私で、企業の人事や経営陣の方々が、経営幹部候補生たちに「VUCAの時代に修羅場を経験させたい。今まで会ったことがない人と一緒に社会課題を解決させたい」と考えていることを知っていました。

そこで、この2つを一緒にしてみたらおもしろいのではないかと考え、その場で30分くらい議論して取り組みを始めることにしました。その偶然がもう6年も続いているという感じです。

茶谷    :すごい偶然と、ものすごいスピード感の産物だということですね。この取り組みは今後、他の自治体へも広げようとしているのでしょうか?

佐々木 :当初は広げようとしていたのですが、今はチェンジウェーブとしては違ったサポートの仕方をしています。

「MICHIKARA地方創生協働リーダーシッププログラム」を始めた塩尻市は、トップも含め自治体職員の皆さんの柔軟性と挑戦心が本当に素晴らしく、さらに自治体の規模感もちょうど小回りが利く大きさでもあられたので、取り組みが非常にスムーズに進みました。双方のアジェンダが一致していたことも大きなポイントだったと言えるでしょう。しかし、自治体とひと口に言っても、組織構造や議会との関係、自治体が目指す方向性、規模など、どれひとつとして同じケースはありません。そのため、同じ形で横展開はできないと気付きました。

今は、山田さんがエバンジェリストとなってMICHIKARAのことをご自身の著書に書かれたり、CXO(Chief Executive Officer)を民間から期間限定で雇うなど、取り組みのノウハウを自治体職員の目線からまとめ、改革を広げようとしています。

茶谷    :確かに、地方自治体の首長は非常に個性豊かですからね。塩尻市と言えば地元のワインもおいしいし、ワイナリーもたくさんあると聞いています。今後もどんなふうに市の未来が拓けていくのか、とても楽しみです。

テクノロジーで「無意識バイアス」を見える化し、社会に実装する

佐々木氏

茶谷    :佐々木さん自身も塩尻市での経験を経て新たな刺激を得たのだと思います。ここで伺いたいのは、マネジメント層の方々向けのeラーニングツール「ANGLE(アングル)」についてです。人を変えるというコンセプトで開発したと聞きました。

佐々木 :そうなんです。変革屋として5年くらい多様性推進や女性活躍推進などに取り組んできた中で、進みが遅いと感じることがしばしばありました。ちょっとずつは進むけれど、根深い「何か」がある、と。

他方、あるベンチャー企業から「ダイバーシティ」をテーマにした講演依頼を受けたのですが、それがきっかけで、「ベンチャーでリベラルな考え方を持つ会社でも、ダイバーシティの実践で悩むのはなぜか?」と考えました。そこで、シリコンバレーのベンチャーたちはダイバーシティ実践のためにどんなことをしているのか調べたところ、出会ったのが「無意識バイアス」という言葉でした。

「無意識バイアス」自体は新しい言葉や考え方ではなく、社会心理学のテーマのひとつとして何十年も議論されていたものです。その度合いを数値化して見える化することも可能だと分かっています。そこで、これを社会に実装させたら何かが起こるのではないか? と思い始めました。

同時に、以前から「ITやテクノロジーを活用して変革することはできるか?」と考えていたので、「無意識バイアスの見える化」と「IT活用」の2つを掛け合わせてeラーニングツールの開発を始めたのです。

営業職の女性を支援する「エイカレ」が「人が変われば社会も変わる」の好例に

茶谷    :ダイバーシティと言えば、営業職の女性をサポートする、「エイカレ」という異業種で営業変革と女性営業職の育成を目指すプロジェクトも推進しておられますよね。

佐々木 :「エイカレ」も誕生までに七転八倒ありました(笑)。しかし、今では営業職の女性支援をきっかけに、「人が変われば社会も変わる」を実践できている例だと思っています。

「エイカレ」の始まりは、チェンジウェーブとしてとある大手企業リーダーシップ育成研修の講師をしていた時、当時ダイバーシティ推進室長だった参加者の女性が、「ダイバーシティを推進するなら、自社だけではなく、世の中に一石を投じたい。異業種で何か仕掛けられないか」という考えを伝えてくれたことです。

その後、彼女が素晴らしいリーダーシップを発揮され、大手企業7社が「営業」という領域で女性活躍が進まない背景課題を深彫りしよう、と「新世代エイジョカレッジ(エイカレ)」の誕生に至りました。私もファシリテーターとして参画することになりました。

茶谷、佐々木氏

この取り組みからは素晴らしい経営提言がいくつも生まれましたし、TVを中心としたメディアに取り上げられるなど、注目度も決して低くはありませんでした。ただ、異業種チームの経営提言という形だけでは、なかなか参加者規模を拡大できないという課題がありました。
 そこで、「参加各社がそれぞれ実証実験をし、その結果を発表して競い合うのはどうか」と思ったのです。論より証拠で、物事を動かすスピードも速くなるのではないか? と。

そのモデルを走らせてみたところ、参加する企業数・参加者数は格段に増え、破壊力のある数々の実証実験が生まれました。すでに現場で実行可能なこと、成果が出ることが実証されているため、各社経営陣の方々が本格展開如何を判断しやすい、というメリットもありました。

実証実験の評価基準は、(1)当たり前を壊しているか? (2)生産性が上がっているか? (3)顧客価値が上がっているか? (4)汎用性があるか? (5)巻き込み力があるか? の5つを設定しました。

実証実験は5人の営業女性がチームになって一生懸命やるのですが、(5)の「巻き込み力」を実践するには、役員に直談判したり、マネジメントも巻き込んだり…そして、ある意味会社の看板を背負って他社の実証実験と合わせて審査員に審査してもらうことになります。

興味深いことに、一次審査を通過するとだんだん社内の注目も集まり、社全体が盛り上がってみんなで応援する企業も増えてくるなど、熱量が増していきます。二次審査や最終審査までいくと、「やるなら大賞を!」と経営陣も一気に盛り上がり始めるそうです。

ファイナリストや大賞受賞チームにはメディア取材の依頼が来ることも多いので、結果的に経営陣にとっても実証実験内容をどう本格展開するかを判断する、良い意味のプレッシャーがかかります。このように変化が波打つように起きていく、という仕掛けが「エイカレ」には組み込まれています。

後編に続く

対談者プロフィール

佐々木 裕子
株式会社リクシス 代表取締役社長
株式会社チェンジウェーブ 代表取締役社長

1973年10月29日、愛知県生まれ。東京大学法学部卒。日本銀行を経て2001年マッキンゼー・アンド・インクジャパンに入社。8年強の間、金融、小売、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。

マッキンゼー退職後、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。2009年「人の変化の連鎖反応」を通じた組織・社会変革を設計・プロデュースするプロフェッショナル集団、株式会社チェンジウェーブを創設。ソニー株式会社、リクルートホールディングス株式会社等を始めとする大手企業の変革アドバイザリーや次世代経営人財・変革リーダー育成を通じた、組織変革・社会変革の実現に奔走。年間数百名の企業人財との接点を持つ。


経営と多様性推進、働き方改革推進を橋渡しする有識者として、2015年より三井住友銀行など大手企業のダイバーシティ委員会有識者委員を務めるほか、 大手企業20社200名の営業女性が参加する新世代エイジョカレッジを主催・企画運営。また、行政と民間企業の本質的な協働により新たな社会変革を生み出す「MICHIKARA地方創生協働リーダーシッププログラム」は2016年グッドデザイン賞を受賞。3期目の2017年度は塩尻市×リクルート×ソフトバンク×JT×日本郵便×オリエンタルランドで実施し大きな成果と反響を生んだ 。

2016年に酒井(現株式会社リクシス 代表取締役副社長 CSO)と出会い、企業の多様性推進を支援している中での課題感と「子としての介護とキャリア両立」と「親の介護の生活の質を上げる」ことに対する当事者としての強い問題意識が繋がり、株式会社リクシスを創業、現在に至る。

2015年TEDxTokyoに変革屋として登壇。著書に、「21世紀を生き抜く3+1の力」「実践型クリティカルシンキング」「数字で考える力」等。

佐々木氏

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