フランスにおける国外関連者間金銭消費貸借取引に関わる重要な判例と事例集の公表

フランス行政裁判所における国外関連者間金銭消費貸借取引に関わる重要な判例紹介およびフランス税務当局による国外関連者間金銭消費貸借取引に関わる事例集の公表

フランスにおける国外関連者間金銭消費貸借取引に関わる重要な判例と事例集の公表

フランスの国外関連者間金銭消費貸借取引に関して、OECDガイドラインに沿った判例および事例集が公表されました。一般的には納税者に有利な内容となっています。

フランス行政裁判所における国外関連者間金銭消費貸借取引に関わる重要な判例の紹介

2020年後半、フランスの国外関連者間金銭消費貸借取引に関して次の重要な判決が確定しました。

  1. Studialis社事件に関わる2020年10月パリ高等行政裁判所の判決
  2. WB Ambassador社事件に関わる2020年12月最高行政裁判所の判決
  3. BSA社事件に関わる2020年12月最高行政裁判所の判決

 

これらの判例に基づく要点は下記の通りです。

  1. 利率が独立企業間原則を満たしているかの挙証においては、いかなる手法も検討することができる。
  2. 利率の経済分析においては、第三者間の社債利率を現実的な比較対象取引として使用できる。
  3. 借入法人が信用格付けを取得していない場合、第三者信用格付け機関の格付けツールを使用することができる。
  4. 経済分析を行う上で、1次検証を補う形での2次検証も有用となり得る。

フランス税務当局による国外関連者間金銭消費貸借取引に関わる事例集の公表

先述の判例に続き、フランス税務当局は2021年1月、国外関連者間金銭消費貸借取引に関わる事例集を公表し、後述の8つの事例を紹介しました。ここでは各事例の前提条件については記載せず、納税者と税務当局にとって今後の指針となる要点のみを記載します。

事例1の概要 「セーフハーバー利率と挙証責任の所在」

  • 借入法人は、借入に関わる十分な書類をフランス税務当局に提出しなければならない。(例:金銭消費貸借契約書、元金受領の証憑、利子計算表等)
  • 税務当局は、借入法人の本来の事業目的に沿わない借入に関わる利子につき、その全額を否認する。(例:資金使途が不適切な借入に関わる利子等)
  • 税務当局は、セーフハーバー利率以下に関わる利子につき、基本的には否認しない。
  • 借入法人は、セーフハーバー利率を超過する利率に関わる利子につき、独立企業間価格であることの挙証責任を負う。
  • 借入法人が上記挙証責任を果たせない場合、税務当局が独立企業間価格でないことの挙証責任を果たしたうえで、当該超過利子につき、損金不算入とできる。

注釈
「セーフハーバー利率」とは、フランス一般租税法第39条第1項第3号に規定する法定利率を指す。

事例2の概要 「挙証の手法」

  • 借入法人は、挙証責任を果たす上でいかなる手法を用いることができる。(例:単一もしくは複数の比較対象取引の使用、内部または外部の比較対象取引の使用等)
  • 利率の構成は、一般的に、リスクフリーレート+スプレッド(信用リスクプレミアム)±差異調整 で表される。
  • 借入法人は、一般的に、第三者銀行からの利率見積りをもってして挙証責任を果たすとはみなされないが、2次検証に使用することができる。
  • 税務当局は、経済分析を利率設定に先立って行うことを推奨している。
  • 借入法人および税務当局は、経済分析において、借入条件および借入法人の状況を十分に分析・考慮すべきである。

事例3の概要 「借入法人の信用格付け」

  • 借入法人および税務当局は、経済分析において借入法人の状況を分析・考慮する際に、借入法人の信用格付けを検討する。
  • 信用格付けは、借入法人単体を対象とする。親会社、他子会社を含めたグループ全体を対象とした格付けとはならない。
  • 信用格付け機関の代表例は、Standard & Poor's、Moody's、Fitch Ratingである。
  • 信用格付け判定は、例えばStandard & Poor's のBBB+(中位格付の1つ)、または、Moody'sのBaa1(中位格付の1つ)のように、簡素な数字と記号で表されるため、これが借入法人が果たす機能、負担するリスク、使用する資産、属する産業等を包括的に考慮しているか否かを慎重に検討する必要がある。
  • 借入法人がグループにとって戦略上重要な子会社である場合、借入法人が借入期間に資金難に陥った際に、グループが借入法人を支援することが考えられる。そのような「暗示的支援」は信用格付け判定に影響を及ぼす可能性があり、適切な対応を行う必要がある。

事例4の概要 「差異調整の例(1)変動利率から固定利率へのスワップ」

  • 借入法人は、経済分析において、比較可能性を高めるために必要な差異調整を行うことができる。
  • 例(1)検証対象取引の利率が固定利率であり、比較対象取引の利率が変動利率である場合の、比較対象取引の変動利率の固定利率へのスワップ

事例5の概要 「差異調整の例(2)および(3)借入期間と返済順位」

  • 借入法人は、経済分析において、比較可能性を高めるために必要な差異調整を行うことができる。
  • 例(2)検証対象取引の借入期間が5年であり、比較対象取引の借入期間が4年である場合の、比較対象取引の借入期間の調整とそれに伴う利率調整。
  • 例(3)検証対象取引の返済順位が、比較対象取引の返済順位に劣後している場合の、比較対象取引の返済順位の調整とそれに伴う利率調整。
  • いずれの差異調整も信頼性が高く、正確でなければならない。

事例6の概要 「内部比較対象取引」

  • 借入法人が、第三者銀行と、国外関連者双方から借入を行っている場合、第三者銀行からの借入利率を内部比較対象取引として使用することを検討できる。
  • 第三者銀行からの借入について返済保証規定が設けられており、国外関連者からの借入について返済保証規定が設けられていない場合、当該差異につき、必要な考慮を行う。

事例7の概要 「back-to-backの借入・貸付取引」

  • back-to-backの借入・貸付取引においては、基本的に借入利率と貸付利率が同程度になる。

注釈
「back-to-back」とは、例えば第三者銀行がA社に貸付を行い、A社はそれを原資に関連者であるB社に貸付を行う連鎖取引のことを指す。

事例8の概要 「外部比較対象取引における第三者間の社債利率の使用」

  • 経済分析において、より信頼性の高い比較対象取引が存在しない場合、第三者間の社債利率を比較対象取引として使用する。
  • 独立企業間価格の幅には四分位を使用する。

 

先述の通り判例、事例集ともにOECDガイドラインに沿っており、一般的には納税者に有利な内容と解することができます。

在仏日系子会社・支店に貸付金を行う際には、利率の設定について先述の判例、事例集を参考に慎重な検討を行うことが推奨されます。

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