テクノロジー企業のCEOは、COVID-19の発生、不確実性が高まる一方の経済情勢、そして世界中の社会不安といった未知の事象に直面しながら、ビジネスの舵取りを続けています。彼らはこの歴史的な瞬間を活かして、従業員、サプライヤー、そして社会全体との関係を強化しようとしています。
本稿では、KPMGが実施したグローバルCEO調査の結果をもとに、COVID-19の影響を受けて変化した、テクノロジー業界の課題について解説します。

ポイント

  • テクノロジー企業のCEOは、今後3年間の自社の成長に自信を持っている一方で、ビジネスを維持・成長させるための人材を採用・確保できるかどうかを最大のリスク要因と認識し、対応に注力している。同時にサプライチェーンや地政学上のリスクも強く意識されている。
  • デジタルトランスフォーメーションの取組みは、COVID-19の影響下、加速しており、その実現のために、新しいテクノロジーの導入およびデジタル化と、人材のスキル強化と能力開発が、テクノロジー企業の投資の優先事項となっている。
  • 企業は進歩的なESGイニシアティブへの着手が求められており、環境への配慮が依然重要であると共に、社会的影響に関する検討の必要性が大幅に増大している。
  • サプライチェーンのレジリエンス強化のためには、信頼できるパートナーとのネットワークの構築、サプライチェーンのデジタル化、そしてサプライチェーンリスクに対処するソリューションの構築が必要となっている。

デジタルトランスフォーメーション

テクノロジー企業のCEOは、よりレジリエンスが高く、機動的で、顧客志向な企業にするためにデジタルトランスフォーメーションを導入しており、その89%が、COVID-19の発生以降、関連するイニシアティブが加速したと報告しています。最大の進歩が業務プロセスに対するデジタルトランスフォーメーションであり、調査回答者の36%が、COVID-19以前の予想よりも何年も先の状態に進むことになったと述べています。また、32%は、ここ数年のデジタルトランスフォーメーションの取組みによって、新しいビジネスモデルと収益源の創出が加速したと述べています。
投資資金の配分に関して、テクノロジー企業のCEOの61%がテクノロジーの強化に、39%が人材に優先的に投資していると述べています。彼らは、人材が長期的な成長を推進し、COVID-19後のニューリアリティのなかで成功できる組織を構築するための鍵となることを強く認識しています。変化する顧客の行動やニーズに対応するには、新しいデジタルスキルが必要になります。

ESGの実践

テクノロジー企業のCEOは、パンデミックや昨今の社会的平等の潮流を受けて、自社のパーパス(存在意義)が利害関係者から期待される基準を満たしているかどうかについて強く意識しています。ESGはテクノロジー企業のCEOの検討課題の最上位に位置付けられています。
テクノロジー企業のCEOの64%は、COVID-19を契機に達成された持続可能性および気候変動対策の効果や利益を、固定化したいと考えています。さらに57%は、気候関連のリスクを管理することが、個人的な成功、すなわち今後5年間CEOの職務を継続できるかどうかの鍵であると認識しています。
テクノロジー企業のCEOの61%は、パンデミックの影響でESGの焦点を社会的イニシアティブに移行したと回答しています。また、65%は、ダイバーシティとインクルージョンの進展が遅すぎると考えており、61%は、組織のダイバーシティパフォーマンスの精査は今後3年間で増加し続けると考えています。多様でインクルーシブな組織であることの最大のメリットとして、37%のリーダーが、人材を惹き付けるのに役立つと確信しています。
KPMGグローバルCEO調査の当初調査および追跡調査の両方で、成長に対する最大のリスクとしてサイバーセキュリティが選ばれています。また企業は、顧客データから得られる洞察を頼りに、戦略を練り、カスタマーエクスペリエンスの向上を追求しますが、そのデータへのアクセスには、データを保護する義務が伴います。従って、ESGの第三の要素であるガバナンスの実践としては、サイバーセキュリティと企業や顧客のデータ保護への継続的な取組みが重要となります。

サプライチェーンのレジリエンス

サプライチェーンはCOVID-19の影響を受けて、前例がないほどの世界規模で突然の混乱に陥り、企業のサプライチェーン戦略が試される機会となりました。テクノロジー企業のCEOの57%が、COVID-19を巡るさまざまな出来事を受けて、グローバルなサプライチェーンのアプローチを再考していると答えています。KPMGインターナショナルのAlex Holtは、「レジリエンスの高いサプライチェーンを作り上げることは、組織が予期せぬ事態の予測、対応、そして計画立案までをうまく行えるようになることを意味します」と述べています。そのために企業は、混乱状態を管理し、事業継続をサポートするために、信頼できるパートナー(顧客、ベンダー、サプライヤー)とのネットワークの構築に集中する必要があります。
また、サプライチェーンのデジタル化は、製品の状況と場所をリアルタイムで把握するために、今こそ必要とされています。人工知能とデータ分析を組み合わせることで、予測だけでなく、サプライチェーンリスクに対処するソリューションも構築することができます。テクノロジー企業の経営幹部の77%が、サプライチェーンにおいては現在、リスクを予測できるテクノロジーソリューションを使用していないと回答しているため、この機会は非常に重要であると考えられます。

英語コンテンツ(原文)

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