AIによる人の能力の拡張~非構造化データを活かした経営課題解決と意思決定の高度化

企業の経営課題や意思決定へのAI活用について、KPMGコンサルティングのAIT部門を統括する山本直人がQ&A形式で解説します。

企業の経営課題や意思決定へのAI活用について、KPMGコンサルティングのAIT部門を統括する山本直人がQ&A形式で解説します。

企業が抱える経営上の課題解決や意思決定の高度化を、AIを活用してどのように実現するか? KPMGコンサルティングの開発したAIソリューションのアプローチを、AIT(Advanced Innovative Technology)部門を統括する山本直人がQ&A形式で解説します。

KPMGが持つ課題感とAIソリューション

-AIソリューション「Kc-KNIGHT」とは?

山本(以下略):KPMGコンサルティングの持つAIソリューションの代表的なものに、「Kc-KNIGHT」がありますが、「Kc-KNIGHT」は企業内部に存在する報告書などの文書と、社外にある特許や公開論文等の膨大な文書を自然言語処理により読み取り、書かれたトピック同士のつながりを「グラフ理論」※1に基づいて分析し、ビジュアライズすることによって、人の能力を超えた知見活用を可能にするソリューションです。

※1 グラフ理論:ある複数のもの同士の関係を結節点とそれらを結ぶ辺から成る「グラフ」として捉え、その性質を探求する数学理論。路線図や電気回路図などへ応用される。

【自然言語活用の観点】
自然言語活用の観点

-「Kc-KNIGHT」を開発する際、クライアント企業にはどのような課題が存在していたか?

これまでさまざまなクライアントをコンサルタントとして支援していく中で、企業内外の過去の知見が有効に活用されていない、あるいは一部の人の中に経験則として留まっている事例が数多く見受けられました。意思決定を進めていくためには、目の前の課題感に対して、考慮すべき影響を網羅的に整理して考えなければならないのですが、必ずと言っていいほど何らかの抜け漏れは発生してしまいます。製造業の事例を例に取ると、過去知見に適切にアクセスすることができておらず、何世代もの製品にわたって同じ設計ミスや不具合が発生し、その度に同じ手戻りのプロセスを繰り返していたという、膨大な工数と予算・時間が非効率的に消費されていたケースがありました。
その原因としては、そもそも多くの伝統的な日本企業では、企画や設計などにおけるデザインレビュー作業を、「熟練者」「有識者」と称される人たちが大部屋で顔を突き合わせて議論を行って進めていたことに問題があるのではないかと仮説を立てました。たとえ熟練者であっても、過去の業務経験がすべて頭の中に入っているわけではないですし、彼ら/彼女らでさえ未経験の課題というものもあるでしょう。あるいはそういった要因を抜きにしても、ある業務にかかわる考慮すべき要素を多面的かつ網羅的に捉えるのは非常に困難なことだと思います。

-従来のプロセスが問題として顕在化してきた背景には、どのような外部環境の変化があると思うか?

1つはテクノロジーの発達により、あらゆる業界・領域で、従来の枠組みの外にあったベンチャー企業や他業種を本業とするプレイヤーの参入が活発化したことでしょう。結果として、企業にはこれまでの高品質を保ちつつ、さらなるスピード感をもって事業を進めていくことが強く求められるようになってきており、企業の競争力を向上させていくためには、今までにない改革を行う必要があります。
日本企業は、非常に詳細な事項に至るまで緻密に文書化しています。品質の向上に向けて、細かい業務プロセスや品質チェックを数多く遂行しており、そうした過程の一つひとつが報告書に正確に残されてきたことこそが、高品質・高価格な日本の産業を支えてきたのではないかと考えております。AI研究においては、これまでは英語文書中心だった自然言語処理の世界に風穴を開けて、日本語で緻密に書かれた大量の文書を読み取ることで、将来にも活かせる日本の産業独自の強みの源泉を発見できるのではないかと考えています。

-外部環境の変化と日本企業が抱える課題に対して、「Kc-KNIGHT」をどう活用できるか?

「Kc-KNIGHT」は埋もれていた膨大な量の報告書や、社内外の情報を分析・可視化することで、人の能力の限界を超えて、過去知見を活用する網羅的・俯瞰的・多角的な視点を提供します。それによって網羅的な視点を手に入れ、手戻りや不具合などの「ムダ」を省き業務の効率化を実現できるだけではなく、これまでは思いつかなかった新規事業の提案や、グローバルレベルでの網羅的なリスクの把握など、人の頭では成し得なかったより高度なプロセス推進、意思決定、経営革新が達成できます。付随的な価値としては、熟練者の経験に依存しない「知見の整流化」を実現することによって、新規入社者への体系的な知識の継承などにも有効だと思われます。

KPMGコンサルティングとしてのアプローチ

-KPMGコンサルティング独自のアプローチとは?

私たちはパッケージ製品を販売しているわけではありませんし、研究機関のような基礎研究を行っているわけでもありません。コンサルティングファームとしての我々の目標は、クライアント個別の経営の深いところへ切り込んでいき、そこで浮かび上がってきた課題を解決し、ビジネス成長へ貢献することです。そのためAIの導入に関しても、それぞれ異なる経営状況・課題ありきで、ソリューションをクライアントに特化した形にカスタマイズした設計・プロセスを応用していくという方針をとっています。
企業の中長期の方針を「登るべき大きな山」に例えるなら、私たちは山を指し示すのみならず、「山の頂までどのように登っていくのか」、そして「その山の頂を目指してともに登っていく」こと、つまり1つ1つのステップでその実行性と向き合い、ビジネスを動かしていくところに注力しています。
一般的には、AI活用と言えば、窓口業務の自動化や簡単な研修教師役を代替するような表層的な利用方法が多いように見受けられます。もちろん自動化や効率化はビジネスにとって非常に重要ですが、我々KPMGコンサルティングはそうした人の能力の代替にとどまらず、“Intelligent Amplification”として人の能力を超えた意思決定の高度化を狙い、本質的なインパクトを経営に与えることを第一に考えています。

-実際のAI導入・運用に際して留意すべきこととは何か?

私たちにとって、ゴールはクライアントの業務課題が解決されて、圧倒的なパフォーマンスが実現されることです。そのため、AIを入れて終わりではなく、むしろAIを入れたところから始まると考えていて、そういう意味でも私たちは総じて長い目線でクライアントに伴走していくことを大切にしています。例えば効果的なAIを導入すると、情報の取り扱いから業務プロセスまで一変することもあり、そのことも考慮に入れ、既存の業務の在り方も見直していかなければなりません。また、AI活用そのものにしても、それぞれの企業によってカスタマイズされたAIを育てていかなければなりませんし、長期的には時流の変化に応じて、AIにインプットすべきデータの性質や分析の軸なども継続的に適切なものへと変更していく必要があるでしょう。

-AIソリューションは特定業種のみに有効なのか?

特定の業種・業界に限るといったことは全くありません。報告書等の大量の自然言語をAIで解析し、可視化することで、意思決定の高度化を図るというデータ活用モデルなので、業種・業界を問わず利用可能です。実際に、製造業以外でも、金融・保険業界や、インフラ・エネルギー系の企業において導入やカスタム運用の実績があります。

with/afterコロナでのAI活用

-コロナ禍におけるAI活用の変化をどう考えるか?

私の視点からは、大きな変化があったと思っています。社会全体として働き方がかなり変化しているのは明らかな一方で、面白いのは、現在はトレンドの「加速」と「逆回転」が同時に起こっている状況と捉えられるそうです。大都市への一極集中が終わり、人口の分散の傾向が強まった結果、人と人との物理的な距離は個人と個人という小さなスケールでも、都市と地方という大きなスケールでも遠くなりました。ビジネスでも、今までであれば頭の中の知識をもとに顔を突き合わせて物事を決めていたのができなくなり、非対面でますます知見の共有は難しくなっていると予想されるでしょう。
しかし、そういった困難な状況であるにも関わらず、テレワーク等の働き方の変化、すなわちトレンドは「加速」し、必要な情報の量は指数関数的に膨大になっていく傾向があります。そうした状況下では、現在主流の検索エンジンのような「キーワードを入れて、返ってきた結果をもとに情報を探索する」というやり方では、いずれ追い付けなくなってしまうでしょう。私たちは、非対面が主流になる中でも生産性を向上させていくために、そこからさらに一歩進んだ形として「それぞれの人が置かれた立場や個々人が持つ課題に対して、レコメンド機能のように、適切な情報が向こうからやってくる」型の情報プラットフォームが有効だと考えています。そして開発したのが、KPMGコンサルティングの新しい情報連携高度化AIソリューションです。

-情報連携高度化AIソリューションとは?

情報連携高度化AIソリューションは、ニュース記事のまとめのような形で、各種報告書や文書、さらにはメールやチャット、SNS等もデータとして扱い、社員の携わっている業務や彼らの関心事と結び付け、高度にパーソナライズして表示させるものです。1つの報告書を例に挙げると、それを書いた人やその業務に携わったチームなどのメタデータも一緒に分析されるため、単に情報プラットフォームとして利便性が高いというだけではなく、物理的な距離が離れていても報告書を媒介として人と人とをつなげるという役割を果たします。
報告書作成等のアクティビティを発端に社員同士が自動的につながるネットワークを構築することによって、異なる部署で同じ業務を重複して進めてしまうといった状況を回避することができたり、不足している知見を全く異なる部署から容易に得られるようになるなど、当ソリューションの活用によって達成されるメリットはさまざまです。

【AIを介した情報の流通】
AIを介した情報の流通

-AIソリューションの活用は、ゼロからの革新的なアイデアの創出を阻むことはないか?

世の中で言われるところの「イノベーティブ」なアイデアというものも、厳密に言えば既存の技術同士を今までにない掛け合わせ方をして生まれたものと言えます。極端な例としては、携帯電話から全く新しいものが登場したように見えたスマートフォンでさえ、中を開けてみると、タッチスクリーン、センサー技術、マイクロバッテリー、コンピュータ、と、一つひとつは以前から存在していた技術が組み合わさったものに過ぎません。ユーザーニーズを満たす技術を集約し、直感的に操作しやすいユニバーサルデザインを実現したことが革命的でした。
私たちが成そうとしているのは、そうした組み合わせの発見や革新的なUI/UXのデザインを、一部の限られた「情報アンテナの感度が高い個人」の特殊能力のままにしておくのではなく、社内外のデータを効果的に学習したAIを活用することで、あらゆる人の意思決定能力を向上させることです。繰り返しになりますが、これが”Intelligent Amplification”の基本思想です。

KPMGのこれからの取組み

-今後のビジョンは?

私たちKPMGコンサルティングは、クライアントの課題解決のために、従来の世の中になかったデータプラットフォームを創り上げ、社会実証していくことにも積極的に取り組んでいきます。
センサーから収集するデータやエッジAIの新しい可能性、ひいては、社会インフラをささえるIoTのありかたを追求し、スマートシティをはじめとする社会全体の価値向上に、志を同じくする自治体や企業と共に歩みを進めて参ります。

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