インテリジェントオートメーションによるビジネスプロセスの変革

ビジネスの意思決定に有効なインテリジェントオートメーションのコンセプトと、業務プロセスへのデジタル活用について解説します。

ビジネスの意思決定に有効なインテリジェントオートメーションのコンセプトと、業務プロセスへのデジタル活用について解説します。

世界情勢の変化や新型コロナウイルス感染症の影響により、ビジネス環境はかつてないほどのスピードで変化しており、これまで以上に「経営の敏捷性」の重要度が増しています。このような環境下においても、業務プロセスへのデジタル活用はデジタルトランスフォーメーション(以下「DX」という)をはじめとした業務改革の取組みにより大きく進みましたが、その先に待ち受けるビジネストランスフォーメーションの実行には「意思決定の迅速化」と「オペレーションの柔軟性」の獲得が不可欠です。
本項では、これらの獲得に活用されるインテリジェントオートメーション(IA)のコンセプトと、その中で重要視されるテクノロジーの活用について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • ビジネスにおける意思決定を加速するためには、ビジネスプロセスから得られるデータをリアルタイムで正確に把握することが必要である。これらの実現には、デジタルテクノロジーの活用が不可欠であり、持続的かつ敏捷な改善サイクル(OODAループ)を実施するための屋台骨となるのがIA である。
  • IAは、テクノロジーが自動化をアシストするが、その中でも人手での判断をサポートするマシンラーニングが要になる。

DXの“屋台骨”インテリジェント オートメーション

1.日本のDXを取り巻く環境はますます厳しい
ビジネス環境の変化は日々加速しています。日本では人口減という固有の背景もありますが、その厳しい状況に打ち勝ち、DXを成し遂げるための要点として、以下の2点が挙げられます。

(1)タイムリーかつ正確な状況把握に基づく意思決定
(2)柔軟かつ効率的なオペレーティングモデルの構築

たとえば、保険業界では規制緩和に加えてInsTechと呼ばれる断続的なイノベーションが生まれています。次々と生まれる保険商品を収益化するため、契約から保険金の支払に至るまでの膨大かつ複雑な事務オペレーションを速やかに構築する必要があります。需要と事務オペレーションのキャパシティのバランスを把握することと、変化に合わせて迅速にそのキャパシティを拡大・縮小すること、この両面を高いレベルで維持できなければ、「土俵にも上がれなくなる」世界が目前に迫っています。
一方で、熟練オペレーターが支えてきた事務オペレーションは、ヒトでは求められる品質への対応が困難になりつつあり、育成にかかる時間がビジネス拡大のボトルネックになるケースが多くなっています。日本においては、人口が減少の一途を辿り、コストを払っても人材が確保できないリスクも顕在化しています。人海戦術に頼るキャパシティの調整はスピードとコストの両面で限界を迎えているのです。
そこに立ち向かううえで必須のデジタル技術となるAI(人工知能)やRPA(Robotic Process Automation)などは、汎用的な技術が実用レベルに到達したことで、形も適用範囲も制限がなくなってきています。従来型の数年がかりのBPR(Business Process Reengineering)とシステム導入を散発的に実施するだけではスピードも範囲も不十分であり、考え方を根底から変えることが求められています。DXは瞬発的なタスクフォースではなく、恒常的に取り組むべきテーマなのです。

2.インテリジェントオートメーションで荒波に備える
AI、RPA、IoT(Internet of Things)、ブロックチェーン等、DXにかかわるキーワードは無数にありますが、単発・単領域のデジタル導入ではなく、持続的・網羅的なDXの実現には、ベースとなるコンセプトが必要不可欠です。「ありとあらゆるテクノロジー」を有機的に駆使して「持続的かつ敏捷な改善」を実現する。まさに「DXの屋台骨」となるのが、IAです(図表1参照)。
従来のシステム構築との最も大きな違いは、ビジネスプロセスから生まれるデータを即時かつダイレクトに経営層に供給することです。従来、経営層はビジネスの「結果」として生じる財務的なレポートを中心に意思決定を行ってきましたが、IAの世界では、「過程」を含めたすべてのデータから即時での判断材料の獲得を目指します。また、ビジネスプロセスの作業主体・構成要素はすべてデジタルプラットフォーム上に接続され、重厚長大なAs-Is分析をせずともEnd to Endで俯瞰することができます。RPAやAIによるヒトへの依存度の極小化と組み合わせ、プロセスを質・量ともに柔軟に変化させることを可能にします。

【図表1】インテリジェントオートメーションのコンセプト

インテリジェントオートメーションのコンセプト

インテリジェントオートメーションがもたらす”経営の敏捷性”

IAが経営にもたらすメカニズムは、一言でいえば「OODAループ」です。ビジネス環境の変化が著しい昨今における経営は、安定的な状況を前提としたPDCAサイクルだけでは対応しきれない面が多く、その弱点を克服するうえで有効な武器と言えるでしょう。
本章では、OODAループを構成する要素、すなわち、Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:行動、の4要素になぞらえて、いかにIAが「経営の敏捷性」を生み出すかを解説します。

1. Observe:観察
ビジネスプロセスの現状把握は、マネジメントから現場に指示を出し、人手をかけてデータ収集を行うのが一般的です。しかし、収集に時間を要するために鮮度が落ちる、体制や期間の制約により収集範囲の抜け漏れが発生する、定量的にデータを収集する仕組みがなく定性的で不確実なデータに頼らざるを得ない、といった問題が発生しがちです。
この問題を解決するため、BPM( Business Process Management)を適用してビジネスプロセスをEnd to Endでデジタルプラットフォームに統合し、すべてのデータをデジタル化して蓄積します。また、あらかじめ経営判断に必要なデータが収集できるようにプロセスを設計することで、結果として得られたデータを基に考えるボトムアップのアプローチから脱却し、トップダウンのアプローチを実現することができます。IAは、経営層に「すぐに」「より正確で」「より意味のある」データを提供します。

2. Orient:状況判断
IAが目指す姿は、データ収集だけでなく、可視化・分析までを一気通貫で最適化した状態です。ビジネスプロセスから得られたデータをシームレスにBI(Business Intelligence)機能に連携して、経営層が手間なく柔軟に分析できる高度なモニタリング機能を提供します。毎回手間をかけてグラフを作成するといった分析作業はなくなり、どのような分析軸を用いるかも経営層が自らカスタマイズすることが可能です。効率的かつ高度な分析機能により、タイムリーに良質な示唆を獲得できます。

3. Decide:意思決定
正確なデータと分析機能を即時かつダイレクトに提供されることにより、経営層は現場からの報告に頼らず迅速で的確な意思決定ができるようになります。現場との間で浪費していた情報共有の時間は圧縮され、より本質的な戦略の討議に時間を費やすことができます。「結果」のみならず「過程」からも得られる示唆により、経営層と現場、すなわち、ビジネスモデルとオペレーションモデルの齟齬が最小化され、意思決定の質が大幅に向上します。

4. Act:行動
従来の業務改革は、特定の業務範囲に限定して散発的にBPRとシステム導入をするのが主流です。基本的にはそれぞれが独立し、必要な部分だけを連携するため、依存関係は俯瞰的に把握されていない状態です。プロセスが複雑化し、導入システムの数が膨大になった昨今の企業環境においては、どこかに変更が生じると、次々に想定外の影響が露見し、改修規模が膨らむという非効率な側面があります。
IAは、依存関係を常に正確に把握しながら、ヒトと複数のテクノロジーを組み合わせたプロセスをモジュール化することで、柔軟にプロセス変更を設計することが可能です。テクノロジー間は標準化したAPIやコネクタで接続し、変更の影響を最小化します。また、データモデリングも重要なポイントです。ビジネスプロセス全体を可視化し、共通的に必要となるデータ構造を統合管理して機能間のデータの整合性を保つことで、効率的かつ正確な変更を容易にします。
こうして生まれるOODAループが、外部環境の変化に即時に対応する敏捷性をもたらすのです(図表2参照)。

【図表2】インテリジェントオートメーションがもたらす"敏捷性"

インテリジェントオートメーションがもたらす"敏捷性"

インテリジェントオートメーションに圧倒的な力強さを与えるマシンラーニング

1. マシンラーニングの価値は業務効率化だけではない
IAによってビジネスプロセスから得られるデータは、新たな価値を創出する可能性を秘めています。その鍵となるのがマシンラーニング(機械学習)であり、業務の効率化のみならず、トラブルの未然防止や顧客関係性の向上といった恩恵をもたらし、IAの敏捷性にさらなる力強さを与えます。以下に代表的な例を紹介します。

(1) 業務の効率化
人手不足、働き方改革などを背景に、RPAやOCRによる業務の自動化が急速に普及していますが、昨今はマシンラーニングを組み合わせた新たな取組みが実用化されています。
業務プロセスには、扱うデータが構造化されていない、仕分けの判断ロジックが複雑、表記揺れが多い、などの理由で、ルールベースで動作するRPAだけでは自動化できないプロセスが数多く存在します。これらのプロセスにマシンラーニングによる判断機能を追加することで、自動化範囲を大幅に拡大することができます。
また、営業や配送のルート最適化、在庫最適化、工事現場や医療現場での音声による入力など、これまで自動化が及んでいなかったフィールドワークにおいても、これを活用した業務の効率化が実現されています。

(2) トラブルの未然防止
画像や動画をコンピュータに認識させるには、膨大な色彩情報から全体像を捉える必要があり、従来型のプログラミングではコンピュータが人と同じ認識水準に達するのは困難でした。
マシンラーニングは、この画像・動画認識にブレイクスルーをもたらし、今や人の認識水準を超える精度に達しています。これらの技術は、品質検査や不良品の検品、異物混入の検知などでの活用が進んでいます。
さらに、ログやIoTセンサーデータの分析を組み合わせることで、機器の劣化予測やメンテナンス時期の最適化など、活用されることが少なかったトラブルの未然防止を目的とする利用についても加速しています。

(3) 顧客関係性の向上
ホームページや電話などで寄せられる顧客の音声データをマシンラーニングで分析し、顧客の潜在ニーズの把握および商品の需要予測、新商品開発など、顧客理解やマーケティング強化を図る事例が生まれています。また、SNSやニュースなどから、株主総会での質問を予想して回答に備えるなど、顧客との関係性向上におけるマシンラーニングの実用化が急速に進んでいます。

2. データサイエンティスト不足の特効薬「AutoML」
さまざまな業界で活用されているマシンラーニングですが、大きな課題もあります。マシンラーニングは文字どおり学習する仕組みであり、最初から高い精度を出すことはできず、データの品質や量、アウトプットの表現方法をトライ&エラーで繰り返して改善していく必要があります。
当初から全行程の計画を立てて進めるウォーターフォール型の開発よりも、サブ機能ごとに開発をして臨機応変に対応するアジャイル型開発が適していますが、業務担当者と協働して柔軟に開発を推進できるデータサイエンティストが不足しており、マシンラーニング活用のボトルネックとなっている企業が多くあります。
こういった背景から、ノンコーディングかつ短期間での開発を目指す「AutoML(自動機械学習)」という手法が注目され、これをサポートするさまざまなサービスが生まれています。
通常、マシンラーニングの開発は、(1)データ・プレパレーション、(2)AIモデル開発、(3)デプロイの3ステップからなりますが、AutoMLはすべてのステップを支援し、専門家でなくとも短期間で高精度なモデルの開発ができるようにすることで、マシンラーニングの内製化を大きく前進させます(図表3参照)。

【図表3】従来のAI開発とAutoMLによる開発の差異

従来のAI開発とAutoMLによる開発の差異

おわりに

ビジネステクノロジーの変化に対応し、DXへ挑み続ける土台となるIAですが、手法や仕組みの導入だけでなく、その使い手となる人や組織の変革も忘れてはならない要素です。従来のシステム導入における、良いモノを採り入れて作るという考え方から、テクノロジーの活用をキャッチアップして変化に挑み続ける考え方へとアップデートを果たす必要があると考えます。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 信田 人
シニアマネジャー 竹ノ内 勇太
マネジャー 慎 世宰
マネジャー 一戸 寿哉

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