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調査の概要

KPMGジャパン コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)統合報告タスクフォースは、統合報告書の発行が企業と投資家の対話促進を通じた価値向上に貢献する取組みと捉え、2014年から統合報告書動向を調査してきました。
2018年の「ディスクロージャーワーキング・グループ報告 - 資本市場における好循環の実現に向けて - 」(金融庁)の提言、2019年の企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正、および「記述情報の開示に関する原則」(金融庁)の公表を受け、2019年からは統合報告書と有価証券報告書の記述情報についての調査・分析を行っています。これらに加え、2020年版では、2019年との比較も行っています。

8つの領域における調査結果の主なポイント

1. マテリアリティ
マテリアルな課題を特定する企業は年々増加していますが、未だ、多くは統合報告で求められる価値創造に関わる視点から検討された内容にはなっていません。それらを特定した根拠や、特定のプロセスに取締役会が適切に関与している旨についても説明されていないのが実態です。特定の根拠や、そのプロセスにおける取締役会の役割を説明することで、より企業価値との関わりや組織内での議論の深度が伝わりやすくなるでしょう。

2. リスクと機会
統合報告書でリスクや機会を説明する企業は70%と前年から増加し、有価証券報告書では、すべての企業がリスクを説明しています。しかし、列挙した個々のリスクや機会について、顕在化の可能性、影響、対応策などが必ずしも十分には説明されていません。リスクと機会が影響を及ぼす事象に関する具体的な対応を検討し、それに裏打ちされた実効的なリスクマネジメントの導入が前提ではありますが、取組みの実効性を伝えるためには、個々のリスクや機会に関するより踏み込んだ説明が必要でしょう。

3. 戦略と資源配分
長期戦略と中期経営計画を併記する企業が増えています。長期的な価値創造への過程として中期戦略を位置付け、さらには全体から各事業へと繋がる一貫性のある戦略の説明は有用です。これにより、説得力が増し、企業価値の適切な評価に繋がるものと考えます。また、戦略目標をブレイクダウンし、価値創造ドライバーと結び付けて説明している企業はまだ少数にとどまっています。戦略を達成する道筋をより伝わりやすくするためにも、より結合性のある説明が求められてくるでしょう。

4. 資本コストと財務戦略
急激な環境変化が予想される状況下では、安定的な収益構造や資金確保のための方針を示し、企業のリスク耐性を伝えることが肝要です。収益力や資本効率に関する目標値を、その設定根拠と共に説明している企業は統合報告書で23%、有価証券報告書で18%と少数でした。資本コストを踏まえて、収益力・資本効率等の目標設定を行い、それが全社レベルのみならず、事業ごとに設定されている旨の説明があれば、事業ポートフォリオを意識した経営が推進されていることと併せて、中長期的な企業価値向上の道筋も示すことができるでしょう。

5. 業績
中長期的な視点で経営計画や戦略を策定している企業であれば、財務・非財務の両面から施策や取組みの検討が必要になると考えます。しかし、財務指標と併せて、非財務指標を用いた戦略達成度を示す企業は、統合報告書で37%、有価証券報告書で12%と少数でした。統合的思考で企業価値実現への道筋を捉え、グループ全体の目標達成の進捗を把握するには、非財務指標も含めた目標を設定するとともに、測定の仕組みの導入や、管理・分析が可能な体制構築がカギとなるでしょう。

6. 見通し
企業報告では、戦略遂行の際に想定される課題や不確実性への見解に加えて、不確実性が短中長期的な価値創造能力に与える影響への対処と検討施策の説明が期待されています。見通しを説明している企業は、統合報告書、有価証券報告書のいずれにおいても過半数にのぼりました。しかし、マテリアリティや戦略と関連付けた説明は十分とはいえない現状です。コロナ禍で将来の不確実性が顕在化した今だからこそ、変化し続ける環境に関する見解を読み手と共有できれば、価値創造ストーリーの実現可能性や施策への理解も、同時に深まっていくでしょう。

7. ガバナンス
「企業内容等の開示に関する内閣府令」の一部改正により、記載の拡充が求められたことで、役員報酬の各構成要素の評価・算定方法への言及が、いずれの報告書でも増加しました。しかし、コーポレートガバナンス・コードで対応が求められている取締役会評価の実効性評価の説明については、統合報告書と有価証券報告書の記載には差異がみられました。ルールだから対応するのではなく、企業のパーパス(存在意義)や戦略の実現を導き支えるガバナンスに対する読み手の関心を踏まえた説明の拡充が望まれます。

8. TCFD提言に基づく開示
2020年末時点で、日経225構成企業のうち、TCFDに賛同する企業は64%(145社)までに増加しています。そのうち、統合報告書でTCFDの提言に関連した情報を示す企業は76%ありますが、有価証券報告書では8%でした。また、世界的なESG投資の拡大に伴い、投資家からのニーズが高いと考えられる「気候変動シナリオに基づく戦略のレジリエンス」に関する記載は最も低い状況に留まりました。

Key Recommendations - KPMGの提言

今回の調査から、有価証券報告書では、全般的に記述情報の量が増えたことが確認できました。統合報告書においても、2年、3年と発行を重ねながら、内容の充実に繋げている企業が増え、長期視点の戦略を説明する企業が増加するなど、新型コロナウイルス感染症の蔓延がさまざまな影響をもたらすなかでも、自社の将来像を伝えようとする姿勢が見られました。しかし、その試みを、有価証券報告書の記述情報にも反映している企業は、まだ一部にとどまり、有価証券報告書の記述情報拡充にむけた制度改正の趣旨達成には、なお課題があるといえます。また、統合報告書においても、あらためて任意の報告書を作成する意義を見つめ直す必要があると考え、以下の3点を提言として掲げています。

  1. 何のための有価証券報告書か – 法令順守を超えた目的意識を
    企業の価値は、いまや財務諸表に表されるものだけでは説明しきれなくなっており、法定開示資料における記述情報を拡充する動きは世界的な潮流となっています。企業により求められるのは、法令順守のための開示ではなく、自らの存在意義を踏まえてそれをどう実現するかを、わかりやすく伝えることです。そのような報告に基づくステークホルダーとの対話が、社会の信頼や共感の獲得、さらには企業の持続的な成長につながると考えます。

  2. 任意で統合報告書を発行する意義に立ち返り、企業価値に影響するマテリアリティの整理を
    今回の調査では、「統合報告書に比べて、同企業から発行された有価証券報告書のほうが情報を探しやすく、読みやすい」という状況が見受けられました。これは、有価証券報告書では、体系立てられた所定の項目に沿って、情報が簡潔に記載されているためであり、法定開示書類である有価証券報告書の利点の1つといえます。統合報告書を任意で作成するのですから、その利点を活かし、ひな型に沿った報告書では表現できない価値創造ストーリーを伝えることが大切です。

  3. 企業報告を、より適切な非財務報告を伴う企業独自のものへ
    今回の調査対象とした報告書には、財務情報と一部の非財務情報を除き、どの企業にもあてはまるような定性的な記載が多く見受けられました。今後の課題として、定量的な情報に裏付けされた非財務情報を子会社等を含む適切な領域にまで拡げて提示することや、企業報告をより企業固有のものへと洗練させていくことが必要だと考えます。

組織の根幹となる価値創造ストーリーとその実現に向けた取り組みの検討は、経営者に課せられた本質的な責務です。不確実性が増す環境下で、どのような課題が企業価値に影響するのかという視点に基づくマテリアリティを分析し、固有の価値創造ストーリーとして紡ぎ、トップダウンで組織に浸透させること、そして、それを組織内外に一貫して明確に伝えていくことの必要性がより一層高まっています。

統合報告に関する解説

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