来る統合報告の保証ニーズの高まりを見据え、IFACとIIRCが共同プロジェクトを開始

IFACとIIRCが統合報告の保証ニーズに対応すべく共同イニシアチブを開始。統合報告の保証とはどのようなものとなるのでしょうか。

IFACとIIRCが統合報告の保証ニーズに対応すべく共同イニシアチブを開始。統合報告の保証とはどのようなものとなるのでしょうか。

2021年2月26日、国際会計士連盟(IFAC)と国際統合報告評議会(IIRC)は、統合報告への保証に対するニーズが今後より高まることを見据えた共同イニシアチブ「Accelerating Integrated Reporting Assurance in the Public Interest」(以下、「本イニシアチブ」)の開始を発表し、その第一弾となる文書(以下、「本文書」)を公表しました。IFACとIIRCは本イニシアチブの目的を、保証業務の提供者や企業など主要なステークホルダー間の対話を促し、統合報告の保証に関する主な課題と必要なアクションを明確にして、保証にむけた取組を加速させることとしています。

統合報告の保証とは

本文書では、統合報告の保証に関し、次の3点を示しています。

  1. 保証の意義
    保証は、統合報告および将来志向の情報の信頼性の向上につながり、投資家に便益をもたらす。さらには、企業報告全体の信頼性も高まり、資本市場や社会に対してより強固な信頼ある基盤を提供する。

  2. 実現に必要なもの
    保証の実現には新たな思考が不可欠である。すでにいくつかの企業での実践事例がある限定的保証から、より広範な合理的保証への移行のためには、より多くの理解とガイダンスの必要性が明らかである。

  3. 保証の提供者
    財務諸表監査に従事する監査人は、保証のスキルや監査の経験、職業的懐疑心、判断力を備えている故に、統合報告に対する高品質な保証の提供にも適している。しかし、より広範な事業活動や情報を含む統合報告の保証業務をリードするためには、追加的な知識、スキル、経験が必須となる。

統合報告の限定的保証と合理的保証

本文書では、統合報告に適用しうる保証の種類として、限定的保証と合理的保証の2つがあるとしています。これらの主な違いは、特に統合報告やその他の重要な業務プロセスに関連して、報告された情報の重要な虚偽表示リスクに関する監査人の検討や手続きにおける性質や程度の相違にあるとしています。
限定的保証業務や合理的保証業務には、関連する管理文書の照会や観察、検査、分析手続き等が含まれ、統合報告書上の表示に関わる評価も対象となります。そして、合理的保証は財務諸表監査と同等の保証を意味し、主要なビジネスプロセス文書のウォークスルー、その運用の有効性の評価、関連するコントロールの運用状況の検証などを含んでいくと考えられます。
既に、SASBやGRI等の基準に基づくサステナビリティ指標を含む要素を対象とした保証など、限定保証の事例は出現し始めています。しかし、統合報告は未来志向であり、報告内容が事業のあらゆる要素に関連しうることから、本文書では統合報告の適用と合理的保証の拡大が最終目標であるとし、過去の財務情報の監査およびレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針である国際保証業務基準3000(ISAE3000)に基づいて、世界的に一貫したアプローチの開発が求められるとしています。

統合報告プロセス

出典:IIRC, IFAC ”Accelerating Integrated Reporting Assurance in the Public Interest”(出典元の許諾を得てKPMGが日本語訳作成)

このような合理的保証に向けた取組みを進展させ、より価値の高いものへと発展させるには、保証を受ける企業、そして保証による便益を享受しうるステークホルダーの備えもなされなければならないとしています。企業には、監査人による監査に対応するべく管理業務により多くの時間を割くことが求められ、ビジネスと価値創造プロセスについての文書化が必要となります。ステークホルダーは、合理的保証による信頼性の付加を統合報告書や主要なビジネスプロセスに求めるのかについて意思を示すべきであり、それにより、企業は合理的保証への追加投資を行うかどうかの判断が可能になるとしています。

想定される課題と機会

統合報告の特徴は、統合的思考に基づくものであること、ビジネスのストーリー立てた記述に焦点を当てていること、報告の主たる対象者が財務資本の提供者であると同時に他のステークホルダーの関心事でもあることから、その保証に関しても、特筆すべきチャレンジと機会があるとして、次の点を挙げています。

  • 保証にむけた前提条件の整備
    限定的保証と合理的保証のいずれを選択するにせよ、企業と監査人は、エビデンスを収集し、関連情報の信頼性を担保するためのプロセスとシステムの整備状況について確認する必要がある。

  • 保証手続きが適用される、統合報告や価値創造プロセスに関連する定性情報の記述充実への対応
    具体的には、統合報告書におけるビジネスに関する記述、当該企業にとってマテリアルな指標の決定とその理由、統合報告プロセスの設計と運用、主要なビジネスプロセスにおけるマネジメントコントロールの設計と運用などを整備しておく必要がある。

  • 統合報告フレームワーク4.41項の要求事項による補足
    統合報告フレームワーク「統合報告書の作成と表示の基礎(4H)」の4.41項では、統合報告の目的と対象者、マテリアリティの決定プロセス、使用した報告フレームワーク、メトリクスの測定、データの完全性等、統合報告書作成と表示の基礎に関わる説明が要求されている。この要求事項は、統合報告の保証業務で要求されるであろう適切な基準を満たすための補足情報となりうる点で非常に大切である。

今後の動き

IFACとIIRCによる本イニシアチブでは、統合報告の保証の実施状況、監査人や保証業務の提供者に有用な追加的ガイダンスを含め、統合報告の保証を支える更なる活動の必要性に関するフィードバックを求めています。寄せられたフィードバックに基づき、ガイダンス作成などを含む必要なアクションが検討されると考えられます。
2021 年 3 月には、国際監査・保証審議会(IAASB)からExtended External Reporting(EER) 保証に関するガイダンスの公表も予定されており、統合報告の保証業務の実務対応に向けた議論が、今後活発化することが想定されます。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE

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