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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、前例のない変化を遂げた米国の事業環境の分析、また、それらを踏まえたWith/Afterコロナ時代の米国市場における日本企業が取るべき針路、戦略的アプローチについて、長年にわたり米国において、戦略立案やクロスボーダーM&A、オペレーションモデルの変革等の領域で、日本企業に対する戦略コンサルティングを提供してきたKPMGの専門家が解説します。

今、明日のための戦略策定を

COVID-19が事業環境を根本的に変えたとの指摘は、控えめな表現と言わざるを得ません。現在進行中の混乱 (ディスラプション) は徐々に生じたものの、今では企業戦略と経営の両面において、新しい思考と新しいアプローチが求められるゲームチェンジャーであることが明確になりました。

COVID-19の感染拡大はイノベーションの妨げではなく、むしろカタリスト (誘因) として、ビジネスモデル、顧客体験 (カスタマーエクスペリエンス) と価値の提供 (バリュープロポジション)、オペレーティングモデル、組織とプロセス、テクノロジーとインフラ、セキュリティ、そして環境・社会・ガバナンス (ESG) においてイノベーションを加速させています。一方、明らかになったことは、必需品へのアクセス、高齢者や十分な行政サービスが受けられない層に対する配慮や移動など、数々の社会的課題への取り組みにおいて、COVID-19が引き続き難題を突き付けているという事実です。

過去の危機から得た教訓として、危機対応時には自己防衛的な思考ではなく、将来を見据えた考え方がより重要になる、ということが挙げられます。KPMGのレポート「CEO Mission: Lean into the unknown」にあるように、「我々は今、極めて不透明な状況に置かれています。COVID-19が米国や世界経済に与える影響について、明確に見通すことは不可能です。我々は従業員、家族、コミュニティの安全確保に努める一方で、CEOは即座に計画し、それを行動に移さなければなりません」。

世界中が前例のない不安定な状況下にあるなか、企業に求められているのは、顧客基盤を拡大し、事業効率を高め、持続可能な成長を実現することであり、またそのために創造的で新しい戦略やテクノロジーを大胆に取り入れることでもあり、多くの企業はこのことに同意しています。ただ、いかにして最適な形で持続可能な業務変革を進めて行くのかについては、いまだその解を見出せていない企業があることも事実です。

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大胆な行動、しかし戦略的に

場当たり的な対応をする企業や、まったく変わることのない企業であっても、組織として存続することがあるかもしれませんが、そのような企業は借入利息が収益を上回るようなゾンビ企業のような状態かもしれません。攻めと守りのバランスを取りながら経営する企業に比べると、いずれ不利な立場に置かれる可能性は高いはずです。

「ハーバードビジネスレビュー」によると、2008年から2009年の世界的な金融危機と景気後退の後、積極的な企業と慎重な企業では、EBITDAの平均伸び率がそれぞれ6%、4%でした。一方、よりバランスの取れたアプローチを取る企業では12%に達していました。

また、KPMGの調査においても同様の結果が出ています。2008年の景気後退の前後には、Fortune 500のランキング(株主総利回りをベース)が大きく入れ替わりました。500社のおよそ半数がランキングを下げ、現状維持出来たのが2割弱ということから、景気後退前に業績好調であった企業においても、競争力の維持が難しいことが分かります。**

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*ハーバードビジネスレビュー「Roaring out of Recession」2010年3月

**2006年のFortune 500企業における2006年と2010年の相対的パフォーマンス(株主総利回り)について公開情報を基にKPMGが分析
 

守りから攻めの姿勢に転換するタイミング

日本企業のバランスシートは過去数十年で大きく改善しました。バブル経済崩壊後の緩やかな景気回復期のいわゆる「失われた数十年」の間に、債務削減、費用効率改善、細部に配慮したコーポレートガバナンスを実現させました。時価総額上位100社に目を向けると、欧米企業と比較して多くの日本企業がネットキャッシュの状態です。COVID--19を契機に、キャッシュリッチな日本企業にとってはまさに攻めの姿勢でこの「手元資金」を活用し、市場での機会を見極め、それを掴む好機になっているのではないでしょうか。

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大胆な動きはすでに起きつつあります。今後行われる取引の前触れのような際立った事例として、日本でセブンイレブンを展開するセブン&アイ・ホールディングスが2020年8月初め、コンビニエンスストア併設型ガソリンスタンド「スピードウェイ」を買収すると発表しました。一時期は事業価値評価に関して交渉が難航した案件ですが、象徴的ともいえるコンビニエンスストアがビジネスモデルの転換を図ろうとするものでした。

日本と米国:揺るぎない経済パートナーシップ

世界的な金融危機以降、日本は常に対米投資国の上位3位に入っています。日本国内で高齢化と人口減少が進み、それに伴い自律的成長の機会が減少している中、日本企業では米国でのプレゼンス拡大を模索する動きが続いています。実際、2019年において日本は米国にとって最大の海外直接投資国でした。

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米国における日本企業の現在の事業環境は、COVID-19の影響を受けた経済、社会、医療システム関連の脆弱性により、VUCA(Votalitity=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)の特徴が見られます。

このような困難な状況にもかかわらず、米国が日本の、そして実際には世界の国々にとっての海外直接投資の第1位の受け入れ国であることに変わりはありません。以下に挙げる3つが主な理由になっています。

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これら3つの要素が、類を見ないテクノロジーイノベーションによるメリット、スキルの高い意欲的な労働者、最新の研究開発力と組み合わさり、国境を超えた成長機会を模索する日本企業が米国でプレゼンスを高めようとする明確な理由になっています。

米国での戦略的成功を再定義:ケーススタディ

かつてない極めて流動的な時代を迎える今、経営者にとって、すべてのシナリオにおいて適切な状況判断を行い、実行可能なインサイトを導き出すことは難しい課題と言えます。KPMGのアドバイザリーチームは、さまざまな業界において、大手企業をサポートしており、新興テクノロジーの活用、慣例に捉われない幅広いデータの利用、新しいビジネスモデルの探索、また新たに出現する業界エコシステムにおける役割拡大を支援しています。米国におけるひとつのケーススタディを通じて、私たちのクライアントが、極めて複雑な事業環境下において競争力を維持するために、いかにビジネスを革新し、変革を成し遂げたのかを紹介します。

ケーススタディ:新しいエコシステムにおけるオープンイノベーション

私たちのクライアントである大手自動車メーカーは、長年にわたり伝統的な自動車製造ビジネスのリーダーとして認知されていました。テクノロジーやスタートアップの領域からさまざまな非従来型の新規企業が参入してくるなど、大きなディスラプションが起きている自動車業界において、同社は設立100年目にしてモビリティカンパニーに転換し、長期的に「スマート」エコシステムの中で優位に立つ必要があるとの認識を強くしていました。このような環境下で同社は、KPMGのサポートを得ながらイノベーションとR&Dにおけるアプローチを変革する好機を見出しました。

破壊するか、破壊されるか:イノベータがいる場所へ

同社はイノベーションの源泉を多様化する必要がありました。同社は、新しい才能を持った人材や破壊的技術を探索する場所や方法に関して、AI、ディープラーニング、自動運転などのコンセプトを採用し始めている自動車業界の中ではやや遅れを取るものでした。私たちがどのようなアプローチをとるべきか検討を始めると、先行する企業はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)投資に「オープンイノベーション」アプローチをとっていることが直ちに明らかになりました。この動きは、時には同じ企業に投資していることもある競合企業とともに、新しいテクノロジーと人材の集まるコミュニティに広く関わることで、イノベーション全体のスピードと、彼ら自身のプロセスへの関与のバランスを取ることができる有効な取り組みと考えられます。

新しいCVCファンドは、アーリーステージのベンチャー投資を通じてモビリティカンパニーになるという目標のもと、さまざまな新しいテクノロジーとソリューションの開発を刺激して加速化するような構造に設計されました。戦略的CVCファンドには、モビリティに焦点を当てたスタートアップ企業を育て、導くという側面もあります。このようなスタートアップ企業は、親会社の技術的ノウハウや資源を利用する仕組みを使って、破壊的イノベーションに取り組みます。

オープンイノベーションの受容

ベンチャー投資に取り組む大企業にしばしば見られる初期の傾向として、自社の長期的なビジネス戦略に注力し、株主利益のためにイノベーションを実現させようとすることがあります。そのような姿勢は容易に予想され、理解できるものの、イノベーションへの探求を阻害することになりかねません。なぜなら、最も有望なベンチャーはより広範囲に野心的であり、さまざまな競合企業を含め幅広い業界を対象マーケットとすることを目指しているからです。私たちは、これまでの経験から、協働的なオープンイノベーションアプローチを通じて対象を広げたコーポレートベンチャーのアプローチのほうが、成功する可能性がより高くなることを確認しています。戦略的CVCファンドが自らのメリットのためだけに投資先を厳格にコントロールしようとすると、適切なイノベーションパートナーを呼び込むことと財務面でリターンを実現することのいずれも難しくなります。

新しい思考、新しいアプローチ

包括的な一連のインタビューと経営幹部向けワークショップを通じて私たちは、VCに関する数々の重要なベストプラクティスに関し、戦略的目標と指針の決め方、投資の段階と範囲、主な契約条件、組織構造、適切な人材、報酬体系等について議論しました。また私たちは、日本と米国に拠点を置く企業からCVCへの資金拠出に関連して、会計及び税務の枠組みの違いによる潜在的な影響についても検討しました。

このプロセスを通して、私たちは同社の米国拠点の経営者と協力し、成功につながるCVCファンドの設計を目指して、親会社がベンチャー投資に適用する従来型のアプローチを転換させました。データから導き出された洞察を活用し、私たちは、オープンイノベーションの精神においては、投資先のチームや企業が取り組むプロジェクトは親会社にとって戦術的に重要なものに制限されるべきではない、という主張を適切に伝えました。ベンチャーの自律性を尊重し、ベンチャー自身が最大限の市場価値と魅力があると考える革新的なトピックについて検討することが必要なのです。

成果:始動するとき

重要な成果は、ファンドの根本となるミッションを明確にすることでした。それは、新たなアイデアを前に進め、産業と文化双方の変化に機動的かつ柔軟に対応することです。素晴らしい自動車を設計するだけではもはや十分ではなく、自動車メーカーは、最新のソフトウェアとインテリジェンス、データ、車両間のコネクティビティを組み込む必要があります。
最終的にCVCファンドは支援を計画していたスタートアップ企業に対し、親会社が試験の場として、資源、テクノロジー、ネットワークを提供できるような構造になりました。そのようなコラボレーションは、親会社にとって生産的かつ効率的に価値を高める方法となります。

今、行動するとき:イノベーションの追求、ディスラプションの達成

今、企業が直面している前例のない変化と不確実性は、競争環境を評価し、重大なギャップを特定し、イノベーション、そして究極的には成長につながる戦略的ロードマップを策定するチャンスをもたらしているとも言えます。私たちは、企業のリーダーたちがこのニューリアリティを、変化を受入れ大胆に行動するためのきっかけと捉えて、ビジネスモデルやオペレーティングモデルの変革、新しいテクノロジーの活用、また、顧客との新しい持続的な関係の構築などを進めるべきであると考えています。KPMGアドバイザリーのプロフェッショナルは、この考え方を支点にクライアントにサービスを提供しています。

米国に拠点を置く日本企業にとって、これは一層重要な課題です。今、急激なペースで起きているイノベーションは、根本的かつ持続的なディスラプションになりえます。しかし、全てのケースに当てはまる単一のソリューションはありません。つまり特効薬はないということです。

企業それぞれの固有の状況、戦略に適したアプローチの構築が必要となりますが、そのようなカスタマイズされたアプローチは、以下の主要検討フェーズを経て構築されます。

  • 消費者の満たされていないニーズを特定する
  • 競争環境を評価する
  • 組織内の知見を棚卸しする
  • 取り得るアクションを評価する
  • 戦略的なロードマップとスケジュールを策定する
  • 専任となる人材を動員する
  • 適切な製品、サービス、エクスペリエンスを開発、テスト、市場投入する

日本企業の経営幹部にとって、現在の米国事業を取り巻く環境は、現状維持から脱却し、大胆な打ち手を繰り出すまたとない好機を提示していると言えます。私たちが今、ビジネスを行っているこのニューリアリティの事業環境を十分に理解し、ビジネスモデルとオペレーティングモデルの変革に創造的かつ反復的アプローチで試みることから、旅は始まります。