サプライチェーン見直しにおいて注意すべき3つの法規制

サプライチェーンの見直しにより、特に注意が必要とされる贈収賄規制、人権保護規制、輸出管理関連規制について解説します。

サプライチェーンの見直しにより、特に注意が必要とされる贈収賄規制、人権保護規制、輸出管理関連規制について解説します。

「新常態時代の企業法務」第17回。事業環境の変化により、サプライチェーンの見直しが進んでいるなかで、特に注意が必要とされる贈収賄規制、人権保護規制、輸出管理関連規制について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

事業環境の変化を踏まえ、サプライチェーン(供給網)の見直しが進んでいる。そのなかで懸念されるのは、新たな取引先が関わるコンプライアンス(法令順守)違反だ。コロナ禍の前から、委託先などの取引先が関与した法規制違反により、数百億円規模の制裁金が課される事案が多発している。特に注意が必要な法規制として、贈収賄規制、人権保護規制、輸出管理関連規制が挙げられる。

米国の海外腐敗防止法をはじめ贈収賄規制は各国に設けられており、世界的に強化される潮流となっている。日本企業も100億円以上の制裁を課された事案が複数存在する。多くの事案で、委託先を通じて公務員などの当局関係者に賄賂を支払う枠組みがあったものと認定されている。
これは日本企業に限ったことではない。経済協力開発機構(OECD)が427の外国公務員贈賄事案を分析した結果、委託先などの第三者経由で賄賂が支払われた事案が全体の75%を占めていた。

海外生産の拡大に伴い、サプライチェーンの中に強制労働や児童労働、人身取引といった人権侵害行為が入り込むリスクにも注意が必要だ。国連でも「ビジネスと人権に関する指導原則」をとりまとめて公表している。各国で現代奴隷に関する法規制が次々に制定されている。委託先のさらにその先の取引先での児童労働など、発見が難しい人権侵害にも気をつけたい。ひとたび公になれば、委託元の企業の責任として、NGOや報道機関などにより大々的に報じられ、レピュテーション(評判)の低下・株価の低下といった企業価値の毀損につながる事態に陥りかねない状況となっている。

また直近では、国際的緊張関係が高まる中、各国が輸出管理関連規制を強化している。特に積極的な対応を進めている米国では、直接米国に関係がない取引に対しても制裁を課す「域外適用」を活発化させている。すでに輸出管理体制を構築している企業でも、米財務省外国資産管理室(OFAC)の規制に対応していない、取引先チェックなどの現場の負担が過重なものになっているなど、実効性に欠ける状況となっている例も目立ち、見直しが求められる。

海外拠点はただでさえ把握しづらく管理も困難だ。その先にある委託先などを含むグローバルでのサプライチェーン全体を見渡したコンプライアンスへの対応は、難易度が高い。各種データベースサービスやテクノロジーを活用したコンプライアンスチェックの仕組みの導入が急務だ。
また、こうした取組みは管理リソース(資源)に制約があることが多い海外拠点のみで対応することは現実的ではなく、日本本社主導で進めていくべきだ。

主な輸出管理関連規制

安全保障輸出管理規制 国際平和の維持に懸念がある者に武器や軍事転用可能な物資・技術が渡らないよう、輸出などを管理
米国OFAC規制 米財務省外国資産管理室(OFAC)による、外交政策・安全保障上の観点から作成した制裁リストに基づき、取引禁止などを実施
米国輸出管理規則(EAR) 軍用・民生(デュアルユース)品目などの輸出・再輸出を規制

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 村上 未来

日経産業新聞 2020年10月8日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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