法務部門が目指すプロフィットセンターへの転換

コストセンターからプロフィットセンターへと法務部門の役割が変わりつつあるなかで、変革を実現するにあたり着目したい法務担当役員について解説します。

コストセンターからプロフィットセンターへと法務部門の役割が変わりつつあるなかで、変革を実現するにあたり着目したい法務担当役員について解説します。

「新常態時代の企業法務」第18回。コストセンターからプロフィットセンターへと、法務部門の在り方が変わろうとしています。実現するにあたり着目したい法務担当役員について解説します。本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

多くの企業の法務部門で、程度の差こそあれ、おおむね法的リスクに関する社内での助言が部門の役割とされてきた。つまり、リスクをいかに引き受けて収益を獲得していくかの検討・実行は、あくまでも事業部門が担うものであるとの立場に立ってきた。しかし、企業のグローバル競争が業種を問わず激しくなるなか、その役割が大きく変わりつつある。
実際、経済産業省は2019年までに2度にわたってまとめた「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」で、法務部門に対して、より一歩、前線に踏み出すことを求めている。具体的には、事業創出と法規制への適合性のバランスを取りながら、法律や契約を積極的に使いこなす「パートナー」としての法務機能が必要と提言している。
このことは、費用を使うコストセンターから利益を生み出すプロフィットセンターへ、企業の法務部門が転換を迫られているとも捉えられる。契約書の審査やコンプライアンス(法令順守)研修などを主務としてきた法務部門にとっては、ミッションの定義をはじめとして、構成する人材や業務設計など、根幹からの見直しが必要となる。

こうした変革を実現するにあたり、上記の報告書で着目したいのは「ジェネラルカウンセル(GC)」または「チーフリーガルオフィサー(CLO)」と呼ぶ法務担当役員の存在である。企業法務の先進国である米国では調査対象企業の100%が設置していたのに対し、日本ではごく一部の企業にとどまっている。報告書は、GCやCLOの効能として、経験を積んだ法律のプロを経営陣の一員とすることで法的な知見を直接経営に生かせる点を挙げ、その設置を提言している。
東京証券取引所と政府による「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」などの法規制が整えば、GCやCLOが日本でも急速に普及することも考えられる。しかし、当面は代替策を検討することが現実解となる。すでに多くの企業が設置しているリスクマネジメントやコンプライアンスに関する委員会などの会議体の活用はその1つの方法だ。
たとえば、グローバル企業にとって最近重要な法的リスクの1つとなっているサイバー攻撃について具体策を検討してみよう。その対策委員会を法務、事業、情報システム・セキュリティー、広報・IR(投資家向け広報)の各担当者に加えて、社外専門家を構成員とするなどして再設計。そこで多面的に検討し、経営の意思決定に活用することが考えられる。
こうした取組みを通じて、社内に提示する実績、部門内に蓄積する知見を積み重ねることが、新たなモデルへの変革に道筋をつけていくことにもつながっていく。

法務部門に事業部門の「パートナー」としての機能が求められる例

政府や規制当局などとの折衝

事業構想にかかわる規制対応・規制緩和措置の活用

進出対象地域における現地法への対応の準備

バリューチェーン(取引先網)上の第三者が引き起こすリスクの管理

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 酒井 太郎

日経産業新聞 2020年10月9日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

新常態時代の企業法務

お問合せ