法的リスクを把握・管理するためのブロックチェーンの応用とは

企業を取り巻く環境が大きくかわりつつあるなかで、法的なリスクを把握・管理するためのブロックチェーンの応用について解説します。

企業を取り巻く環境が大きくかわりつつあるなかで、法的なリスクを把握・管理するためのブロックチェーンの応用について解説します。

「新常態時代の企業法務」第20回。コロナ禍やテクノロジーの活用など、企業を取り巻く環境が大きくかわりつつあるなかで、法的なリスクを把握・管理するためのブロックチェーンの応用について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により世界全体が大きく変化していくなか、相互にメリットを享受し合う形での事業創造に注目が集まっている。テクノロジーの活用も次のステージへと向かいつつある。法務・コンプライアンス(法令順守)領域においても、こうした潮流に沿った取組みへの芽が見られる。ブロックチェーン(分散型台帳)の活用はその最たる例といえる。
自社だけで法的なリスクを把握・管理できる範囲は限られる一方、調達先やその先の第三者の監督・管理責任を問われるケースも増えている。特に大企業に対する要求は厳しくなっている。そうした状況の中、責任を問われかねないサプライチェーン(供給網)全体にできる限り管理対象を拡大したいという企業のニーズが高まっており、それに応えられる技術として検討・導入が進められているのが、ブロックチェーンである。

既にいくつかの分野でブロックチェーンの応用が始まっている。主な取組みとして(1)医薬品・食品の保管・輸送時の温度管理(2)医薬品や半導体・電子部品などの偽装品排除(3)国際コンテナ輸送での書類紛失・不正防止-などが挙げられる。さらに原産地・原材料のトレーサビリティー(履歴管理)や輸出入に関係する法規制順守などを含めた網羅的なリスク管理が可能になることも想定される。

ブロックチェーンだけではない。不正の発見やリスク管理にデジタルの力を活用する動きは海外では着実に進んでいる。2020年9月30日、ニューヨーク証券取引所に上場した米パランティア・テクノロジーズは文書や画像、音声、動画などのデータと、数値データを分析することで、政府系機関のテロ対策や犯罪捜査、民間企業の不正発見などの支援をしている。
ところが、日本企業の法務部門はまだ紙ベースでの業務が多く、そもそも法的なリスクの監視対象となるデータの質・量の確保にすら苦慮。分析の実施にも着手できず、周回遅れになりつつある。

日本企業はこれまで地道な改善活動を得意としてきた。しかし、現在の世界環境の激変は、そうした連続的な変化にとどまることを許さず、非連続的な変化を求めている。周回遅れは今なら挽回できる。一貫性ある対応を基本方針としてきた企業法務も変化に適応し、しなやかに改革を進め、競争力・価値創出にいかに貢献できるか見つめなおす必要に迫られている。

ブロックチェーンのリスク管理への応用例
(1)医薬品・食品の保管・輸送時の温度管理  同管理での適性流通について海外では既に法制化している国も多い
(2)医薬品や半導体・電子部品などの偽装品排除 医薬品は流通量の1割が偽造薬といわれ、半導体・電子部品は国際分業が進み1社で全体像を把握することが困難
(3)国際コンテナ輸送での書類紛失・不正防止 複数の事業者が関わり、トラブルが目立つ

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 島津 佳奈

日経産業新聞 2020年10月14日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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