会社計算規則の改正ポイント 第2回

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年1月1日特大号に、株式交付、取締役への株式報酬等の取扱いは「会社計算規則の改正ポイント」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。第2回は、「取締役等への報酬等としての株式交付に関する改正」について、解説します。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年1月1日特大号に、株式交付、取締役への株式報酬等の取扱いは「会社計算規則の改正ポイント」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「旬刊経理情報 2021年1月1日特大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

取締役等への報酬等としての株式交付に関する改正

(1)株式報酬実務対応報告案による会計処理および開示

改正会社法においては、取締役または執行役の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行することができることとされた(会社法202の2、205(3)~(5)、209(4)、445(6)等)。これは、取締役等の報酬等として株式を交付しようとする株式会社においては、実務上、いわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付することがされているが、このような方法は技巧的であり、かつ、このように株式を交付した場合の資本金等の取扱いが明確でないと指摘されていたためである4

改正会社法に基づく取締役の報酬等として株式を無償交付する取引については、その会計処理と開示を明らかにするため、2020年9月に、企業会計基準委員会より、実務対応報告公開草案60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等(以下、「株式報酬実務対応報告案」という)が公表されている。なお、前述の現物出資構成により株式を交付する取引には適用されない。株式報酬実務対応報告案では、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を事前交付型と事後交付型に区分して基本的な会計処理および開示を提案している(図表4)。

(図表4)取締役の報酬等として株式を無償交付する取引の類型と会社計算規則の規定類型 内容 会社計算規則

類型 内容 会社計算規則
事前交付型
  • 対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行う。
  • 権利確定条件が達成された場合、譲渡制限が解除される。
  • 権利確定条件が達成されない場合、企業が無償で株式を取得する(没収)。
取締役等が株式会社に対し割当日後にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合における株主資本の変動額(42の2)
事後交付型
  • 契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されている。
  • 権利確定条件が達成された場合、株式の発行等が行われる。
取締役等が株式会社に対し割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合における株主資本の変動額(42の3)

(出典)株式報酬実務対応報告案及び会社計算規則に基づき筆者作成。

そして、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じ、事前交付型の場合には株主資本、事後交付型の場合には株式引受権と対応させて費用計上するとしている。株式引受権は、新株予約権と同様の位置づけとして、純資産の部の株主資本以外の項目に新設されたものである。また、各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とする。株式の公正な評価額は、公正な評価単価に株式数を乗じて算定する。公正な評価単価は、付与日において算定し、原則として、その後は見直さない。また、失効等の見込みについては株式数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない

(2)会社計算規則の規定

1.株主資本の変動額
会社計算規則では、取締役等が株式会社に対し、割当日後と割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合に分け、それぞれ株主資本の変動額を定めている(会計規42の2、42の3)。

ア.割当日後にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合
割当日後にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合には、当該募集に係る株式の発行により各事業年度の末日(株主資本変動日)において増加する資本金の額(資本金等増加限度額)は、取締役等がその職務の執行として当該株式会社に提供した役務の公正な評価額について当該株主資本変動日までの分と当該株主資本変動日の直前の株主資本変動日までの分との差額(会計規42の2(1)一)から資本控除される株式交付費用(同項二)を減じて得た額に株式発行割合(新株発行割合)を乗じて得た額とされる。ただし、資本控除される株式交付費用は、当分の間、零とするとされている(会計規附則11五)。「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(平成18年法務省令87号)により、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行では株式交付費用の資本控除を認めるわが国の会計基準等が不見当であることにより設けられた附則11条5の対象が拡大されていることによるものである。
こうして算定される資本金等増加限度額の2分の1を超えない額は、資本金ではなく、資本準備金として計上することができる(会計規42の2(2)(3))。これは株式報酬実務対応報告案の取扱いと整合的である。
また、自己株式処分による場合には、割当日に処分する自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金の額から減じる(会計規42の2(4))。株主資本変動日においては、新株発行と同様に自己株式処分割合について算定した金額につきその他資本剰余金を増減させるが、当該金額が零未満であってもその他資本剰余金を減少させる。これに加え、取締役等がその職務の執行として当該株式会社に提供した役務の公正な評価額について当該株主資本変動日までの分と当該株主資本変動日の直前の株主資本変動日までの分との差額が零未満の場合には、それに株式発行割合を生じて得た額を利益剰余金から控除する(会計規42の2(5))。
さらに、当該取締役等が当該株式の割当てを受けた際の契約に従って当該株式を当該株式会社に無償で譲り渡し、当該株式会社がこれを取得するときは、当該自己株式の処分に際して減少した自己株式の額を、増加すべき自己株式の額とする(会計規42の5(7))。

イ.割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合
割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合には、当該役務の公正な評価額を、増加すべき株式引受権の額とする(会計規54の2(1))。その後、株式会社が取締役等に対して当該株式を割り当てた日において、株式引受権の帳簿価額を減額し(同54の2(2))、新株発行の場合と同様に、同額の資本金または資本準備金を増加し、自己株式を処分した場合は、処分する自己株式の帳簿価額との差額をその他資本剰余金とする(同42の3(1)~(4))。
なお、新株引受権の定義が新設され、取締役または執行役がその職務の執行として株式会社に対して提供した役務の対価として当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利(新株予約権を除く)と定められている(会計規2(3)三十四)。

2.貸借対照表等における表示および注記
貸借対照表および連結貸借対照表における純資産の部の区分ならびに株主資本等変動計算書および連結株主資本等変動計算書の区分については、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額と新株予約権の間に新株引受金を表示することとされている(会計規76(1)一ハ・二ハ、96(2)一ハ・二ハ)。

また、株主資本等変動計算書および連結株主資本等変動計算書に関する注記として、当該事業年度または連結会計年度の末日における株式引受権に係る当該株式会社の株式数を開示することとされている(会計規105(4)、106三)。

金融庁関係政府令等の改正案においても、株式引受権を計上する場合の貸借対照表等における表示および株主資本等変動計算書等の区分表示に関する規定等が新設されるとともに、所要の改正が提案されている(財務諸表等規則59、67の2、100、104の2等)。ただし、注記については、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は「ストック・オプション等に関する注記」の対象とされるも(財務諸表等規則8の14、財規ガイドライン8-14)、株式報酬実務対応報告案と同様、株主資本等変動計算書に関する注記の新設は提案されていない。

【注】

4) 企業会計基準委員会実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」第24項。

5) 細川充=小松岳志=和久友子「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令の解説―平成一八年法務省令第八七号―」(2007年1月)『旬刊商事法務』1788号、97頁。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
和久 友子(わく ともこ)

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