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水素モビリティの視点から ~Hydrogen mobility viewpoints~

輸送分野における水素を特集する本シリーズでは、ネット・ゼロ輸送の実現に向けて、グリーン水素の課題を進展させ、何が事実で何をより明確化する必要があるかについてのインサイトをお届けします。全6回シリーズの第1回目となる本稿では、「水素エネルギーの成長軌道」と題し、さまざまな原料から生産される水素の昨今のトレンドを考察します。

水素市場は存在しているものの、現状はほぼ化石燃料由来で製造されている

局地的に水素市場は存在しており、有効なバリューチェーンが構築されています。しかし、持続可能性という目標の観点から見ると、このバリューチェーンの各機能を再設計し、水素利用による真の脱炭素化の可能性を実現する必要があります。
コモディティとしての水素は、ごく限られた特定分野において使用されており、アンモニアなどの最終製品を合成するための中間生成物としてこれまで利用されてきました。現在では水素の汎用性および特性により、重量輸送など電化による脱炭素化が難しい分野でのエネルギー源として、機運が高まってきています。

水素需要の増加

過去40年にわたり、純水素の需要は、石油精製およびアンモニアの需要に連動して着実に増加してきました。
水素製造量は2018年に7,000万トンに達し、1975年比で約300%増加しました。
しかし、グリーンモビリティへの意識の高まりが水素需要のさらなる増加をもたらしているとはいえず、輸送関連用途の影響は最小限にとどまっています。

水素需要の増加

水素は世界中において、すでに工業規模で身近なものになっています。しかし、その製造過程における年間CO₂排出量は、インドネシアと英国の合計排出量に相当します。

- 国際エネルギー機関(IEA)「World Energy Outlook 2018」

水素を燃料として使用する場合、以下の図表によれば、水素製造過程における炭素強度(carbon intensity)が高い状況にあることが分かります。

再エネ由来で製造される水素はいまだ少ない

他のガス(合成ガス)と併用して消費される水素量は4.500万トンであり、これを加えると水素の合計製造量は約1億1,500万トンになります。ほぼすべてが化石燃料から製造されており、そのうち天然ガスから生産される水素が76%、石炭が23%を占めています。再生可能エネルギーを原料とする水素の世界製造量は、2%以下です。その結果、水素の製造過程で排出される二酸化炭素は、年間で約8億3,000万トンになります。

再エネ由来で製造される水素はいまだ少ない

持続可能な原料への転換が必要なのは明らかですが、水素による脱炭素化の効果は、以下に述べるとおり、その製造過程に大きく左右されます。

水素に関する予測および製造過程

水素は、その製造方法および最終製品について、さまざまな目的に利用できるエネルギー担体です。製造方法と最終製品の微妙な違いを理解することが重要です。
 

水素の分類

水素は、製造されるH2分子は同じですが、原料および製造方法により分類されています。製造過程の上流の特性(CO2排出量)の違いも、分類のうえで重視されています。

水素の分類

水素の製造過程は、最終用途に影響を及ぼしませんが、各製造過程の炭素圧縮度(carbon intensity)は、各用途・セクターの脱炭素化の可能性に影響します。そのため、バイオマス発電燃料の探求も持続可能性の観点からの検討が必要となりますが、輸送分野の脱炭素化は、(電気自動車や燃料電池電気自動車向けの)グリーン燃料を製造するための低炭素電力を実現するエネルギーセクターにかかっています。以下に概説した製造過程の上流の違いによって、水素製造にはさまざまな可能性があることが示されています。

水素製造経路とその誘導体

グリーン水素に関する予測

グリーン水素の活用範囲や度合は、低炭素エネルギー源(風力、太陽光および水力発電)を利用できる度合と関連しています。現在では、グレー水素からグリーン水素へのバリューチェーンの再構築は、2030年代まで発生しないと予測されています。

グリーン水素に関する予測

水素活用の可能性に関するグローバル予測を提供している情報源はごくわずかであり、大抵の場合、前述の水素の分類に基づいた予測は提供されていません。長期的に見ると、グリーン水素の価格が下落するにつれて、グリーン水素はグレー水素に取って代わると予想されるため、このような分類は重要ではありません。
これらの予測では、水素の利用可能性は急激に増加するという分析結果が示されており、水素が将来的に世界のエネルギー構成において中心的な役割を担うことが期待されます。
グリーン水素への転換は技術的には実現可能ですが、そのコスト競争力が商業化への前提条件となります。

水素製造コスト:グレー、ブルー、グリーン

化石燃料からの水素製造は現在、再生可能エネルギーからの水素製造よりもコスト競争力がありますが、長期的には、再生可能エネルギー由来のグリーン水素のコスト競争力が上回らなければなりません。

グレー水素およびブルー水素のコスト

安価な石炭および天然ガスは直ぐに入手可能であることから、グレー水素の製造コストは、中東やロシア、北米など天然ガスや石炭価格が低い地域では水素1キロ当たり約1米ドル、ヨーロッパなどその他の地域でも水素1キロ当たり2米ドルをはるかに下回っています。

化石燃料由来で製造される水素のコスト面の優位性は、多くの地域において少なくとも2030年まで維持される可能性が高く、グリーン水素の発展を促すためには、カーボンプライシング規制がおそらく必要となります。実際に、KPMGが協力した2020年の調査によると、ブルー水素は、2030年までは最もコスト効率の高い低炭素水素技術であり、2040年までには、主に炭素価格にけん引され、CO2の回収・地中貯蔵(CCS)を行わない化石燃料由来の水素に対してコスト競争力を有するようになります。本質的に、天然ガスから水素への転換には効率損失が生じるため、ブルー水素は炭素価格を除くと、天然ガスに対してコスト競争力を有することはできません。

水電解によるグリーン水素のコスト

グリーン水素のコストは、短期的に見ると水素1キロ当たり2.5~6米ドルと報告されています。大抵の場合、グリーン水素は、グレー水素およびブルー水素双方よりも高額になりますが、その価格範囲の下限であれば、ブルー水素に対してコスト競争力があります。2050年までの長期的な視点では、規模の拡大およびイノベーションにより、化石燃料由来で製造される水素と同程度のコストを確保できると考えられています。その点において注目すべき指標は新しい電解槽の平均規模であり、2000~2009年の0.1MWeから2015~2019年には10倍増強され、1.0MWeとなり、試験および実証プロジェクトから商業用途への転換を示しています。

水電解によるグリーン水素のコスト

グリーン水素の製造コストにおけるコストドライバーおよび地域格差

設備投資は総支出額の1つの要素に過ぎませんが、燃料は、水電解によるグリーン水素の場合、その製造原価の内訳において最大の要素であることは間違いなく、製造原価の約45~75%を占めています。技術革新およびサプライチェーンの最適化により、全体的なCAPEXは引き下げられますが、燃料原価(OPEX)は低炭素電源の利用可能性の影響を受けるため、現在はグリーン水素の製造原価を引き下げる上で制約となっています。P2X(電力を他のエネルギー媒体に変換すること)ビジネスの便宜的かつ付属的な問題は、専用のグリーン電力と供給過剰のグリーン電力を、変動しやすい再生可能エネルギーの運用から切り離すことです。つまり、風力発電および太陽光発電への投資が劇的に増加し、水電解に十分な再生可能エネルギーが確保できれば、グリーン水素製造に関する低コスト電力の長期供給の可能性も高まります。

太陽光発電および風力発電のコストが下がれば、再生可能エネルギー源の傍に電解槽を設置することは、遠隔地からエンドユーザーへの転送や輸送コストを考慮しても、低コストの水素供給を実現するための選択肢の1つになる可能性があります。パタゴニア、ニュージーランド、北アフリカ、中東、モンゴル、オーストラリア、ならびに中国および米国の一部は、このモデルに適した可能性を秘めている地域(Viewpoint #2の対象)です。最後に、グレー水素とブルー水素の役割も無視するべきではありません。これらの水素の製造過程は、重要な役割を担う可能性があります。効率的に機能するグローバル規模のサプライチェーンを確立することで、水素の製造過程においてグリーン水素が一般的になれば、持続可能な水素社会が徐々に実現されていきます。
 

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