新型コロナワクチン詐欺と金融機関
コロナ禍の感染拡大が続く一方、ワクチンへの期待や関心が高まっています。そうした中で、わが国でも「ワクチン接種には予約金が必要」などとして金銭をだまし取ろうとする詐欺が出始めています。海外でも、ICPO(インターポール)をはじめとする警察当局やFinCENによる注意喚起がみられます。
コロナ禍の感染拡大が続く一方、ワクチンへの期待や関心が高まっています。
はじめに
新型コロナワクチン接種への期待が高まるなか、内外でワクチン詐欺が警戒され始めています。また、犯罪者は技術を用いる手口(ランサムウエア攻撃等)も試みています。
目次
1.国内で増え始めた「ワクチン予約金振り込め詐欺」
新型コロナ用のワクチン接種開始への期待が特に高齢者・基礎疾患罹患者等の間で高まる中、「接種には予約金が必要」などと騙して金銭を詐取しようとする例が各地で確認され、警察庁等が注意喚起を積極化させています。
2.ICPOはグローバル・アラートを発信済
新型コロナ用ワクチン関係では、海外が日本よりも先行しています。
その中で、ICPO(インターポール=国際刑事警察機構)は、昨年12月2日、「オンライン・非オンラインの両方の手口による新型コロナワクチン関連犯罪の多発の惧れが高まっている」とのグローバル・アラートを発信しました。
- -ICPOは、同機構の194の加盟国の警察当局に対して「組織犯罪のネットワークが、ワクチンのサプライチェーンへの潜入と妨害を計画中だ」と警告。
その手口としては、「偽ワクチンの販売」、「盗取」、「広告を装う不正な活動」などを挙げ、「警察等法執行当局と医療保健担当政府機関の緊密な連携が必要」、「命の危険さえ伴っている」と指摘した。
また、ワクチンの普及等で国際的な人の移動が復活してくると、PCR検査等の検査キットについても偽物や不正な流通が増える恐れがあるとした。
さらに、ワクチンや機器等の調達に「オンラインを用いる場合」について、偽造品をつかまされることに加え、マルウェア等への警戒も必要と指摘。すなわち、「ICPOのサイバー犯罪部門が不正にに関わるとみられる3,000先の医療品関係ウェブサイトを調べたところ、半数強の約1,700先にサイバー上の脅威(フィッシングやスパムメールに使われるマルウェア)が含まれていた」とした。
3.英国の当局は「金融情報詐取目的のフィッシング」等について 注意喚起
英国のNCA(国家犯罪対策庁)は「犯罪者がワクチンを材料にして、高齢者・弱者等から銀行口座情報や金銭を詐取しようとしている」との注意喚起を実施しています。
- - NCAは、「ワクチン接種は無料であり、人々が代金支払を求められることは無い」と強調。また。NHS(英国で国民医療制度を担う機関)が、次の4点を行うことは決して無いことに留意するよう、国民に注意喚起した。
- 銀行口座情報やカード関連情報の提供の依頼
- 銀行取引用の暗証番号やパスワードの提供の依頼
- ワクチン管理の目的で一般人の住宅を事前の通知無く訪問すること
- 個人情報が含まれる書面※の写しを送るように求めること
※ 例えば、パスポート、運転免許証、公共料金その他の請求書等。
- - NHSも同旨をNHS自身のWebsiteで明記している。
4.米国のFinCENは金融機関に対する要請文を公表
米国でも新型コロナワクチンが注目を集める中で、財務省のFinCEN(Financial Crimes Enforcement Network、金融犯罪取締ネットワーク)が12月28日、次の諸点を内容とする金融機関向けの通知(notice)を発出しました。
- この通知の趣旨は、「新型コロナウイルスのワクチンやワクチン供給に関連して、詐欺、ランサムウェア攻撃等の犯罪が多発する可能性があり、FinCENが金融機関に対して注意喚起を行う」ということであること
- 「疑わしい取引の届出」について、この通知において、留意点を明示すること
- ワクチン詐欺で販売される可能性があるものとしては、以下が挙げられること
・ 未承認ワクチン
・ 不正に売買されたワクチン
・ 承認済ワクチンを装い偽造したもの
・ 合法なワクチンを非合法なかたちで変造したもの - 供給の時期に関連する不正として、正当なワクチンの供給プランにおける予定よりも早くワクチンを提供するとして、金銭を要求する手口があり、それらは既に始まっていること
- 新型コロナワクチンに関する正当な事業主体(開発者、供給関係者、管理者)のコンピュータシステムを乗っ取って停止させたうえで、その稼働再開のたに代償金を強請ろうとするランサムウェア攻撃が続くとみられること
- 金融機関およびその顧客(預金者等)は、新型コロナワクチンに関する詐欺的な情報提供に関する(口座情報等を詐取しようとする)フィッシングに警戒すべきこと
5.おわりに
1.で紹介したとおり、日本でも既に「ワクチン接種の予約金」などの名目で金銭を詐取しようとする振り込め詐欺的な犯罪が既に始まっています。2.~4.にみた海外の情報を踏まえると、今後の日本では、「ハイテク」を使った犯罪が、新型コロナワクチンはPCR検査キット等について増えてくる可能性があり、日本の金融機関においては、自身の顧客に対する注意喚起を含めて適切に対応していくことが求められると考えられます。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部
ディレクター 水口 毅