米国にて2020年1月に初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が確認されてから時間が経つにつれ、世界がこのパンデミックに対応する中で推し進めてきた構造変革から後戻りできないということが明白になってきた。石油ガス業界にとっては、混乱と変動に適応してきた業界の長い歴史が、現在のとてつもない課題に取り組む基盤となる。しかし、石油ガス企業がこの状況から回復するには、適応力を活かすだけでなく、全く新しいビジョンを描かなければならない。
本稿では、石油ガス業界が認識し、受け入れるべき5つの根本的な変革について解説する。

ポイント

現在の顧客の変わりつつある要求に応えるために、石油ガス企業が自身の組織を転換する際に指針となるテーマは以下の5つである。

  • 組織全般にわたり環境、社会およびコーポレートガバンス(ESG)原則を浸透させること
  • 変化する燃料需要の中での果たすべき役割を見つけ出すこと
  • リモートワークの抜本的な影響を予測すること
  • テクノロジー主導の実績に対する顧客の期待に応えること
  • 長期的な財務の安定のために短期的なリカバリーを図ること

オペレーティングモデルにおけるESG

経営者は、環境、社会およびコーポレートガバナンス(ESG)に関する原則を企業にどのように深く組み込むかという期待の高まりに直面している。環境への責任を果たす選択肢として、グリーンエネルギープロバイダーとの提携や買収、全く新しい事業や部門への方向転換、そして新しい技術やプロセスを通じた化石燃料ベースの製品の脱炭素化などが挙げられる。さらに、多くの石油ガス企業は、「サービスとしての脱炭素化」として、ESG原則を顧客に提供する成果物に織り込む手段を、他の業種が新しい技術とプロセスを実装する際にコンサルティングとして提供し、支援できる絶好の立場にある。企業および役員は、ESGの取組みに関する説明責任をますます問われるようになり、実効性と透明性のあるコミュニケーションが極めて重要になる。

モビリティの再考

COVID-19の影響により、通勤、出張およびレジャーでの移動、そして店舗における購買活動の水準が大きく減少したことで、伝統的な燃料および石油化学事業は混乱している。移動が減れば走行距離も減り、最終的に消費者の車両に対する需要も減り、ガソリン需要もさらに押し下げられる可能性がある。しかし他方では、自家用車の所有への関心の高まりが見受けられる。これらの新しい要因に加えて、電気自動車やハイブリッド車の使用が増加することによる潜在的な影響も残っている。石油ガス企業は、矛盾した結果を含む、すべての結果に備える必要がある。
あるシナリオでは、自家用車のガソリン需要は引き続き減少する可能性があるが、それでもなお配送に関しては増加する可能性があると予測されている。企業は効率性を高めながら、配送の増加と脱炭素化の要求に応えようとしており、商業的な利用を目的とした代替燃料への関心が高まる可能性がある。また、EV車の充電に関しては、ユーティリティ企業が支配的な地位にあるが、石油ガス企業も参入してきている。石油ガス企業は、変化する燃料需要の中での果たすべき役割を見つけ出すことが必要である。

ニューリアリティにおける労働力および物理的なスペースの再考

ロックダウン期間中に不可欠なものになったフレキシブルワークやリモートワークは、今後定着する可能性があり、企業がどこでどのように事業を行うかということに全面的に影響する。リモートワークはより広範囲な人材のリクルートを可能にするため、エネルギー企業の経営者はこれをオポチュニティととらえている。また、数万人の従業員が恒久的にリモートで働く可能性があり、企業は本社の目的を再検討し、サテライトオフィスおよび製油所が依然として必要かどうかを見直す必要がある。さらに、従業員給付および人事のサポートも、新しい従業員に対する要求を反映するように調整する必要があるだろう。

「デジタルファースト、デジタルナウ」:組織双面性のビジネスモデルを構築するアプローチ

石油ガス企業が今後正しい戦略を策定するためには、顧客が主導権を握っているということを認識することが重要となる。COVID-19によるロックダウン以降、世界はバーチャルでの仕事、学校、買い物、交流などにより快適さを感じるようになってきている。新しい考え方では、B2Cのような技術の活用がB2B企業の課題になる。
現在ほど高度なデータ分析が求められる時代は過去になく、石油ガス企業の多くが、IoT(モノのインターネット)機能で有利なスタートを切った。石油ガス企業はブロックチェーン、データ分析、自動化およびその他のイネーブリング技術を強化しており、従業員もそうした業界の専門性を補完するために新しいスキルを学ぶ必要がある。また、市場へのアクセスのスピードを上げることも課題であり、その1つの方法として外部の専門知識を活用することが挙げられる。

財務レジリエンス

債務の条件緩和、コストの削減および流動性の確保に向けた取組みによって短期的な財務の安定性を確保することは、コロナ禍への対処に必要な最初のステップである。そして、次のステップは、長期的な対応力と効率性を有する組織を構築することである。そのためには、債務の習慣からの脱却、柔軟な資本構造の構築、そして、より厳格な財務リスクの管理が必要となる。それにより、現在表面化しつつあるすべてのオポチュニティを実行に移すことが可能になるだろう。

まとめ:「もし〇〇だったらどうなるのか」に答える

石油ガス企業は、COVID-19の発生する以前から存在している課題をはじめ、COVID-19への対応による恒久的な影響やダイナミックな業界のまだ見ぬ展開から生じる課題まで、多くの課題に直面している。しかし、事業上の盲点や潜在的可能性を理解するための土台として、これら重要なテーマを用いたシナリオプランニングや建設的な課題演習を通じ、不確実性に備えることができる。石油ガス企業は、ニューリアリティにおいて指針となる独自の活用すべき長所と対応すべき弱点を理解することで、将来どのようなことが待ち受けていても、先を見据えた計画を策定することができる。

英語コンテンツ(原文)

お問合せ