グローバルで義務化が進む人権デューデリジェンスとは

人権侵害リスクに関する法整備に加え、グローバルで義務化への取組みが進む人権デューデリジェンスについて解説します。

人権侵害リスクに関する法整備に加え、グローバルで義務化への取組みが進む人権デューデリジェンスについて解説します。

「新常態時代の企業法務」第7回。サプライチェーンの人権侵害リスクに関する法整備に加え、グローバルで義務化への取組みが進む人権デューデリジェンスについて解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において従業員の健康といった安全衛生、労働環境に焦点が当たっている。労働を含む人権への配慮はESG(環境・社会・ガバナンス)のうち、「S」に該当するテーマである。ESG投資に関して国連責任投資原則(PRI)が、コロナ禍での投資では「S」を重視すべきだとの考えを公表しており、機関投資家が投資判断する際に企業の人権に関する取組みをより重視することが考えられる。

企業内だけでなく、取引先=サプライチェーン(供給網)上の人権侵害リスクについても、欧米を中心に法整備が進んでいる。その契機になったのが2011年の国連による「ビジネスと人権に関する指導原則」の採択で、人権・環境分野におけるサプライチェーン上の法的義務、開示義務などに関するルールの整備が加速した。サプライチェーン上の人権侵害リスクは投資引き上げや不買運動、ブランド毀損、政府調達への入札資格停止などにつながる企業にとって看過できないものとなっている。
EU、英国、オーストラリアなどでは、サプライチェーン上の人権に関する取組みの開示を義務付ける法制が採択されている。これらの法制は、開示義務を通じて、企業が積極的に取組みを推進することを狙っている。

近年、人権デューデリジェンス(DD、価値・リスク評価)の実施を義務付ける法制も登場している。たとえば、フランス人権DD法は、適用対象企業に対してリスク評価、子会社・サプライヤー(供給業者)などに対するDDなどを義務付けている。現在、EU全体で人権・環境DDの法的義務化が検討されており、その動向を注視する必要がある。
人権侵害リスク対応として、まずグループ全体で取組みを進めるために、グローバルポリシー(指針)を策定することが必要である。策定に際しては、取組みの情報開示を見据え、当局の実務ガイドなどを参照し、サプライチェーン上の人権DDや苦情処理制度、人権侵害発覚時の対応方針などを定めることが考えられる。
特に人権DDの実施は人権侵害の早期発見・改善措置の要であり、コロナ禍で変化した労働環境やビジネスモデルを踏まえて実施することがポイントである。実際、労働安全衛生面だけでなく、感染者への不当・差別的な扱い、社会的に弱い立場にある者への負担の転嫁(支払滞納など)などの問題が散見される。
企業はコロナ禍に伴う社内外の環境変化を踏まえ、改めて自社グループの人権侵害リスクの洗出しおよびその改善措置を検討すると共に、取組みの成果を積極的に開示することで、機関投資家を含む各ステークホルダー(利害関係者)へのアピールにつなげたい。

 

サプライチェーン管理に関する主な規制

採択時期 規制名
2010年 米国紛争鉱物規制
米国カリフォルニア州サプライチェーン透明化法
2014年 EU非財務情報開示指令
2015年 英国現代奴隷法
2016年 米国貿易円滑化及び権利行使に関する法律
2017年 フランス人権DD法
EU紛争鉱物規則
2018年 オーストラリア現代奴隷法
2019年 オランダ児童労働DD法

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 新堀 光城
 

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日経産業新聞 2020年9月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
 

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