3. COVID-19が倒産リスクに与える影響

COVID-19と不正リスク第3回 - 資金繰りと倒産リスクの観点から、企業倒産の状況や、全上場会社の現預金、借入金・社債が総資産に占める割合について業種別に分析を行います。

資金繰りと倒産リスクの観点から、企業倒産の状況や、全上場会社の現預金、借入金・社債が総資産に占める割合について業種別に分析を行います。

COVID-19感染拡大により企業の業績が急激に悪化すると、売上による資金流入が減少することから資金の手許流動性が低下し、資金繰りが悪化していきます。
また、金融機関からの借入により資金調達を賄っている場合には、返済期限の到来により、あるいは経常損失などの財務制限条項に抵触することにより、借入を継続できなくなるなどの事態に陥ります。現在は、元本据え置き措置や金融当局の要請もあり手厚い金融支援が続いていますが、時間の経過とともに、企業の倒産リスクが高まることになります。

資金繰りと倒産リスクの観点から、次の分析を行います。

本分析は、東京商工リサーチの協力を得て、有限責任あずさ監査法人 リスクマネジメント部、Digital Innovation部、株式会社KPMG FASで作成したものです。

中小企業を含めた、倒産・破産の状況

  • 株式会社東京商工リサーチの調査によれば、COVID-19関連の破たんは2020年12月31日現在で843件発生しています(負債総額1,000万円以上の倒産のほか、弁護士一任・準備中を含む)。
  • 月次推移をみると、緊急事態宣言後の6月に103件に達し、その後やや沈静化したものの9月以降は月間100件前後での推移が続いています(図表1)。長引く移動自粛や行動様式の変化により、国や自治体、金融機関の資金繰り支援だけでは支えきれない企業の倒産が今後も予想されます。
  • 843件の業種の内訳は、来店客の減少、休業要請などで打撃を受けた飲食業が141件と突出し、次いで百貨店や小売店の休業が影響したアパレル関連(製造、販売)が82件、工事計画の見直しなどの影響を受けた建設業が67件、インバウンドの需要消失や旅行・出張の自粛が影響した宿泊業が60件と続きます(図表2)。
  • 東京商工リサーチが2021年1月に実施したアンケート調査では、COVID-19関連の資金繰り支援の利用率は56.7%(図表3)、コロナ禍で廃業を検討する可能性がある企業は6.9%となっています(図表4)。資金繰り支援を受け、資金の枯渇を免れている一方、将来を悲観して廃業を検討している企業が多いことがわかります。

(図表1) 月別 破たん判明件数(2020)

(図表1) 月別 破たん判明件数(2020)

(図表2) 主な業種別 経営破たん状況

(図表2) 主な業種別 経営破たん状況

(図表3 )全企業 12,176社 COVID-19に関連した、国や自治体、金融機関の各種支援策は利用しましたか?

(図表3 )全企業 12,176社

(図表4) 全企業 10,957社 コロナ禍の収束が長引いた場合、「廃業」(すべての事業を閉鎖)を検討する可能性はありますか?

(図表4) 全企業 10,957社

COVID-19が業種ごとの手許現金の保有や資金調達に与えている影響

  • 現預金や借入・社債が総資産に占める割合を分析すると、業績の悪化の度合いにより、手元流動性の水準や資金調達の状況に相違はありますが、いずれの業種においても借入などによる資金調達を行っている傾向がみられます。
  • COVID-19によるビジネスへの影響は様々であることから、業績の悪化による喫緊の資金調達もあれば、事業の見直しに要する将来投資のための資金調達もあると考えられます。企業の業績と手元流動性を合わせて分析することにより、業績が悪化している一方で資金調達ができていない状況にあれば、企業の倒産リスクが高まっている可能性に留意する必要があります。
     

1. 外食産業や航空会社など

外食産業や航空会社など

3. 製薬会社やIT企業など

3. 製薬会社やIT企業など

2.自動車メーカーや建設会社など

2.自動車メーカーや建設会社など

4. アパレルや食品メーカーなど

4. アパレルや食品メーカーなど
  1. 外食産業や航空会社など
    2020年3月期から2021年3月期(FY2020)第1四半期(Q1)にかけて急激な業績悪化がみられましたが、2020年3月期から資金調達が増え、2021年3月期(FY2020)第1四半期(Q1)には急激に現預金と借入金などが上昇していることから、緊急的に借入金などによって手元資金性を確保している状況がみられます。

  2. 自動車メーカーや建設会社など
    2021年3月期(FY2020)第1四半期(Q1)に大きな業績の悪化がみられましたが、同じタイミングで資金調達を図り、手元資金を確保している状況がみられます。

  3. 製薬会社やIT企業など
    2020年3月期にも大きな業績の変動はみられず、2021年3月期(FY2020)第1四半期(Q1)の業績は好転していましたが、これと整合し、現預金、借入金などいずれも大きな変動がみられない状況です。

  4. アパレルや食品メーカーなど
    2020年3月期以降、緩やかに業績は下降していましたが、これと整合し、現預金、借入金などいずれも微増にとどまっています。

執筆者

有限責任あずさ監査法人
リスクマネジメント部
パートナー 細井 友美子
マネジャー 池羽 芳郎

Digital Innovation部
テクニカル・ディレクター 宇宿 哲平
アシスタントマネジャー 近藤 聡

株式会社KPMG FAS
フォレンジック部門
ディレクター 佐野 智康

関連リンク(外部サイト)

東京商工リサーチ