タイ:税務アップデート

本稿では、移転価格税制の強化、物品・サービス購入に対する個人所得税の減免、国際調達事務所の再導入について解説いたします。

本稿では、移転価格税制の強化、物品・サービス購入に対する個人所得税の減免、国際調達事務所の再導入について解説いたします。

1.移転価格税制の強化

2020年11月6日付でタイ財務省から省令第369号 (Ministerial Regulation No. 369) が公布されました。
関連者取引のうち、独立企業間原則に準拠していない取引(特に関連会社間での利益移転)に係る収益や費用について、タイ歳入法第71条の2に従い、タイ歳入局が更正や所得調整を行う権限があることを省令にて定めたものになります。なお、この省令は、現行の歳入法第71条の2の規定を具体化したもので、特段目新しいものではありません。

この省令では、関連会社間の利益移転が起こり得る状況として、以下の3つのケースを掲げています。

  1. グループ内の商業取引又は財務取引条件の設定
  2. 非関連者取引と異なるグループ内の商業取引又は財務取引条件の設定
  3. 同一環境における (l) 非関連者取引と異なる製品やサービスの価格・取引条件・支払条件の設定、(ll) 非関連者取引と異なる金利や手数料の設定、(lll) 非関連者取引と異なるその他の収益・費用の設定

タイ歳入局が独立企業間原則に準拠していない取引について更正や所得調整を行う場合、以下の方法で独立企業間価格を算定することとしています。

  • 歳入局の内部データによる比較アプローチ(Internal comparable approach)
  • 外部データによる比較アプローチ(External comparable approach)

2.物品・サービス購入に対する個人所得税の減免

2020年10月23日から2020年12月31日までの期間中に、タイ国内のVAT登録事業者から物品やサービスを購入した場合、30、000バーツを上限として、E8その支払った金額を2020年度の個人所得税の課税所得から差し引くことができます(Ministerial Regulation No. 368)。ただし、以下の物品やサービスは対象外となります。

  • お酒(アルコール)
  • タバコ
  • 車両のガソリン
  • 四輪車・二輪車・船舶
  • 新聞・雑誌(電子書籍を含む)
  • 旅行ツアー代
  • ホテル代

この所得控除を適用する場合、タイ歳入法第86/4に基づき、VAT登録事業者が納税者本人に対して発行したタックス・インボイス(オリジナル)が必要となります。タックス・インボイスには、納税者の氏名、納税者番号および登録住所が記載される必要があります。

3.国際調達事務所の再導入

タイ投資奨励委員会(BOI)は、ASEAN域内での競争力強化を目的として、国際調達事務所(International Procurement Office:通称IPO)の投資奨励の再導入を承認しました。IPOの投資奨励は、2015年のInternational Trading Center(通称ITC)の導入に伴って無くなりましたが、2018年にITCが廃止されてからIPOやITCに代わる(外資規制の対象とされる)卸売が可能なBOIの投資奨励が待ち望まれていました。なお、IPOの具体的な条件や再導入時期は未定です。

KPMGのコメント

2019年度から移転価格税制が施行され、徐々に規制強化に乗り出す動きが見られます。現在、中央税務局(通称LTO)は、2019年度分の法人税確定申告書と一緒に提出されたTransfer Pricing Disclosure Form(関連者取引の明細書)の内容を確認しながら、移転価格調査を実施する対象会社を選定しています。2019年度の売上が2億バーツ以上の会社は、税務調査等でタイ歳入局から移転価格文書(ローカルファイル)の提出を要求された場合、原則60日以内(初めての提出要求の場合は180日以内)に提出する必要があります。

個人所得税の減免については、給与が手取り保証になっている駐在員の皆様の場合は、直接個人のベネフィットにはなりませんが、とくに駐在員を多く抱える会社の場合には人件費コストの削減(最大で一人あたり: 3万バーツ x 最高税率35% ÷ 手取り保証による税金のグロスアップ (1-(1-35%)) = 約1万6千バーツ)が見込まれます。所得控除にはタックス・インボイス(オリジナル)の入手が要件となっていますので、代金支払いの際、その場ですぐに発行してもらえるように、ご自身の納税者番号・登録住所の情報を携帯することをお勧めします。プライベートでのゴルフも対象になります。なお、個人所得税の確定申告にて還付を申請する場合は、還付されるまでに時間がかかりますので、人事部等にお願いし、12月分の給与の源泉徴収で調整(年末調整)することをお勧めします。

IPOの再導入については、旧IPOでは倉庫の保有又は賃借、在庫管理、品質検査、梱包作業や10%以上のタイ国内の調達先といった条件がありましたが、再導入されるIPOではこれらの要件が緩和されるか否かについての情報はまだ得られていません。今後新たな情報が得られ次第、アップデートいたします。

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